第90話 秘宝の眠るダンジョンを探索するために、まずはその地に向かうための依頼を受ける。
久々に書いたこの作品が、我が今年初めての投稿となります。
今年もいくつかの作品を書いて投稿するので、よろしくお願いします。
ルーシアを助け、光一達と行動を共にする理由のなくなったユリカは「フルト」村で分かれ、村でする事が無くなった光一達。
すぐさま中央大陸に戻ってもよかったのだが、慌てて戻っても別に目的がある訳ではなかったので観光もかねて「スラント帝国」の帝都「リンベル」に滞在して五日が経過した。
しかし、光一達はさすがに五日間、観光ばかりしているのも飽きたのか、最初に春歌が声を上げた。
「お兄様、この「リンベル」付近の観光地はあらかた見回ったので、そろそろ違う事をしませんか?」
「違う事ってどんな事?」
光一に逆に問われて、春歌はしばらく考えると、
「この「リンベル」の冒険者ギルドにでも行ってみます?案外、他の大陸にはない面白そうな依頼があるかもしれませんよ。」
「冒険者ギルドか・・・まぁ、ちょっとした軽い気持ちで言ってみるのもいいかもね。」
この「リンベル」の冒険者ギルドを訪れてみる気になっている光一と春歌だったが、他のメンバー、特にアニエスとミヤビは渋い顔をしている。
「観光気分で冒険者ギルドに行って依頼を受けてみるだなんて、真面目に依頼をこなしている他の冒険者様に対する侮辱にしか思えないのですが・・・。」
「アニエス殿の言う通りですね。仕事を嘗めているとしか思えない。そもそも、あの”カブキモノ”兄妹はこれまでの言動を見ていると、どこか遊び感覚でしているようなところがある。仕事どころか何もかもを嘗めているとしか私には映らない。まぁ、”カブキモノ”というのはみんな大なり小なりそういうところがあるが・・・。」
どうやら真面目なアニエスやミヤビは、遊び感覚で冒険者ギルドで依頼を受けようとするスタンスが不快の様である。
「・・・分かったよ。じゃあ「リンベル」の冒険者ギルドに行くのは止めるよ。」
「えっ、お兄様、止めるのですか?」
「だって、アニエスやミヤビも僕達が、遊び感覚で冒険者ギルドに行くのが不愉快の様だから。」
「まぁ、確かに二人の言う事も間違ってはいないしな。事実、僕達も逆の立場でそういうのを見たら良い気持ちはしないし・・・。」と続ける光一に春歌も「あ~、確かにそうですね。私達もちょっとやりたい放題出来るため、浮かれ過ぎていたかもしれませんね。」と同意した。
そんな光一と春香のやり取りにエリスはとにかくとしてアニエスとミヤビだけでなくミリナも軽く驚いた。
まさか、こう素直に自分達の苦言を聞き入れるとはいなかったのである。付き合いは短いがアニエスもミリナ・ミヤビ主従も緋村兄弟の今までの浮世絵離れした傾いたと言うかふざけた言動から、第三者の言う事など意にも介さないし、また聞く耳も簡単には持たないだろうと思ったからである。
「い、いえ、分かってくれたら良いのです。それに観光ばかりしていたので、メリハリをつけるためにここのギルドで仕事をするのも良いかもしれません。ミヤビさんはどう思います?」
「え?あ、そうですね。アニエス殿の言う通り、ここしばらく遊んでばかりだったので、ギルドで仕事をするのも良いかもしれませんね。」
「では、まずはこの「リンベル」のギルドに行ってみましょう。他大陸のギルドに行くのは初めてなので、ちょっとワクワクしますね♪面白い依頼があったら良いのだけれども・・・。」
「ミリーナ様!?」
主人のとぼけた発言に思わず声を上げる従者だった。
「スラント帝国」の王族が済む帝都のギルドだけあり、その規模はパッと見た限り、中央大陸のマーハード王国首都「グームリー」の冒険者ギルドと同じぐらいである。
まぁ、ゲームの設定でも「リンベル」の冒険者ギルドは「グームリー」の冒険者ギルドと同じく、ギルドの中でもトップクラスの規模だったけど・・・。
ゲームの設定を思い浮かべながら「リンベル」の冒険者ギルドに入っていく光一達。
とは言え、パッと見た限り、「グームリー」の冒険者ギルドのロビーと似ている。
そういえば、エリスに会うための道中で訪れた中央大陸北部にある自由都市アーベルの冒険者ギルドのロビーも規模こそ違えど、似たような感じだった。
どうやら、ここら辺は冒険者ギルド共通となっているのかもしれない。
光一自身もそこら辺のゲーム設定は知らないし、興味もない。別に知らなくても問題はないので、そんなもんだろうと受け入れた。
春歌を始め、メンバーの誰一人、その事について何か言う事もないので、そのままギルド内を見回すと、ギルドにいる人間の大半が光一達を見て怪訝な表情をしている。
まぁ、原因は光一と春歌の恰好である事は「グームリー」の冒険者ギルドを始め、過去、初めて訪れた冒険者ギルドで証明されているので、光一と春歌はまたかとしか思わない。
もっとも、それ以外の女性陣達はギルド内の者達の大半が自分達を見て怪訝な表情をしているのか困惑したが、皆の視線が緋村兄妹に向かっている事で、理由は察した。
かといって、それで服装を変えたらどうかなどと光一と春歌にいう気はなかった。言うだけ無駄だと悟っているからである。
聡明な彼女達は余計な事は言わないのである。(エリスだけは自分が御使い様に何か言うのはおこがましいと思っているので何も言わないのだが・・・。)
怪訝な視線を向けられながらも、ここの冒険者に絡まれると言う事もなく、エリス達パーティーメンバーを待機させて、Dランクの依頼版に来た光一と春歌。
「何かお兄様が受ける気になるような依頼はありましたか?」
「・・・いや、まぁ、仕事と割り切れば魔物退治などは無難なんだけど・・・。」
そう言いつつもどうも受ける気が起こらない依頼ばかりなので、Eランクの依頼版に行ってみようとしたところで、1つの依頼に目が留まった。
「スハイルへ運ぶ物資輸送の護衛?」
手に取って依頼内容を詳しく読んでみると、「リンベル」から北東に位置する辺境の町スハイルへと運ぶ物資輸送を護衛する依頼である。
「スハイルってゲーム通りならばダンジョンがあるところですよね。」
「ああ、「リンベル」から北東に位置すると言う場所と言うのも『フリーダムファンタジープレイ』の設定通りだ。」
緋村兄妹の『フリーダムファンタジープレイ』の設定情報とプレイ知識通りならば、スハイルには嘗て七千年前に魔法と科学を融合させた魔導技術でこの地を支配した魔導王国が残したと言う『古の魔導王国の遺産』と言う秘宝が眠っていると言う大きなダンジョンが存在しており、スハイルはその秘宝を狙って多くの冒険者や人が集まって繫栄している町なのである。
故に『フリーダムファンタジープレイ』においては当然、そのダンジョンを探索して最下層にある『古の魔導王国の遺産』を手に入れる事も出来れば、その探索の過程で出てくるライバルや明確な敵も登場するので、それらを倒すなんて事も当然出来、またこのダンジョン探索過程で仲間に出来るヒロインも当然存在している。
ダンジョンだけでなくスハイルを探索する過程でもいくつかイベントがあるので、ゲームにおいてはスハイルは中々に遊べる要素がある街だった。
光一と春歌もゲームでこのスハイルのイベントを何度もこなしているのに、そのスハイルの存在を忘れているとは、うっかりどころではないだろう。
いや、ひょっとしたら、それだけ光一と春歌も現実となったこの世界で、この兄妹なりに適応して充実して生きており、ゲームの知識にまで意識が向かないと言う事なのかもしれない。
どちらにせよ、ゲームで何度もプレイしたダンジョンのある街の名を見、更にそこに向かうための依頼がある以上、光一としては受ける満々となった。
「ねぇ、春歌、僕はこの依頼を受けてみようと思うのだけれど、そしてスハイルに行きたい。」
「・・・まぁ、他にお兄様の気を惹く依頼がない以上、それで良いのではありませんか・・。」
春歌本人としてはあまり気が進まなさそうな様子で肯定はする。
春歌としては、そこでまた兄がヒロインと出会うであろうと言うのが面白くないのだろう。
そんな春歌を宥めながら、スハイルへと運ぶ物資輸送を護衛の趣旨を記した依頼書を手に取る光一。
パーティーメンバーの同意もとれ、秘宝が眠るダンジョンを探索するために、スハイルへと運ぶ物資輸送の護衛依頼を受けるのだった。
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