第8話 緋村兄妹、冒険者ギルドに登録し、最初の依頼を受ける。
思ったよりも時間が掛かりました。
もっと早く書き上げれたらなぁ~。
光一と春歌は再びギルド内に戻ってきた。
あの後、光一がシェードを斬り捨てた事については、非は完全にシェードにあるので、光一が咎められる事はなかった。
そして「グームリー」の冒険者ギルドのギルドマスターであるフォン=リンメイの指示で、光一とシェードパーティーの対決を見ていた野次馬達は解散して散っていた。
光一達は今度こそギルドカードを作ってもらうと受付に向かったが、先程と違い、今度は誰も舐めた目で見るものはいなかった。
そして光一達はそのままドロシーと呼ばれた先程の受付のギルド嬢のところに来た。
「先程も言ったのですけど、僕達のギルドの登録をして欲しいのですが。」
「あっはい、承りました。」
ドロシーは登録用紙を2枚出して「この用紙の記入欄に記入をお願いします」と言って光一と春歌に渡した。
受け取って見てみると名前や性別、年齢、職業と言った質問が記入欄にある。
「職業って僕は剣士、妹は魔法使いみたいな感じでいいのですか?」
「はい、仲間募集や限定的な依頼があった時の参考になりますから。」
ファンタジーなのに、何だか派遣登録みたいだなと内心、苦笑しながら日本語で記入していく光一。春歌も同じ様に記入欄に記入して、書き終えると二人ともドロシーに渡した。
ちなみに職業欄には光一は魔法剣士兼格闘家と記入し、春歌は魔法戦士と記入し、これをみたドロシーは嘘くさそうな表情で二人を見たが、さっさと終わらせたいのか何も言わずに手続きを続けた。
「では登録にしばらく時間が掛かりますので、その間にギルドの説明を行わせていただきますね。」
「あ、はい、お願いします。」
「まず今、登録証明書であるギルドカードにお二人の情報が書き込まれています。内容としましては冒険者ランク、受けた依頼の数。依頼の内容、成功数、失敗数。そして現在受けている依頼が登録されます。この情報はどこのギルドでも見ることができます。ここまではよろしいでしょうか?」
「「はい」」
「では、次にギルドランクの説明をしますね。ランクはEから始まり、D、C、B、A、Sと上がっていきます。ランクをあげるには同ランクの依頼を一定数こなして成功させるか、上のランクを何度かこなして成功させてください。逆に失敗が多い場合はランクが下がり、最悪除名される事もあります。ランクを上げるも下げるもギルドが判断します。ですから依頼を受ける時は自分の力量に合った依頼を受けてください。それとランクが上の方と協力して依頼を達成した場合、その中で一番の高ランクの方のこれまでの実績を基準に合格ラインを決めさせていただきます。故にSやAのランクの方と協力して依頼を達成した場合、ランクが上がる成績に含まれない事もあります。ここまではよろしいでしょうか?」
「「はい」」
そこでギルドカードが発行された様で受付のカウンターに2枚置かれた。
「それでは最後に、このカードは登録しているご本人様しか使うことはできません。紛失すると再発行に10000フープを手数料として頂きます。」
受け取ったギルドカードはプラスチックで出来ている様で、見たところスーパーなどのポイントカードの様にしか見えない。
そこにそれぞれの名前や職業、今のギルドランクであるEの文字が記されていた。
「依頼はあちらのボードにランクに分けて張り出されております。受けたい依頼がありましたら依頼書を取って受付まで持ってきてください。」
そう言われてドロシーが差した方を見るとボードの前には人だかりが出来ている。
「他に何かご質問はありますか?」
「いえないです。」
「ではこれからは冒険者ギルドの冒険者としてのご活躍をご期待しております。」
ギルドカードを手にいれた光一達はさっそく依頼を受けるボードのところに来た。するとボードの前に大勢いた冒険者達は光一の姿を見ると、半分ぐらいが潮が引く様にボードから離れていった。
どうやら光一がシェードパーティをあっさり叩きのめし、挙句にシェードを達人を思わせる剣捌きで斬り捨てた事により、警戒心や強者に対する苦手意識などがあるようである。
残った冒険者達も光一と春歌がボードの前に立っても、光一達の方を見ようともしなかった。
ボードに張られたランクEの依頼書を見てみると依頼内容の大半が雑用ばかりで、畑の害獣退治や開墾手伝い、引越しの荷物運び、瓦礫の運搬、交通路や水路の清掃と言った単純労働作業ばかりである。
中に家事手伝いや子守、ペットの散歩なんてものもある。報酬額もどれもかなり少ない。
ここまで来るともはや冒険者への依頼というよりはバイトや派遣募集の内容である。
まるでファンタジーから現実に戻ったみたいだ。そう思って光一が内心苦笑していると春歌が声を掛けてきた。
「お兄様、この依頼を受けてみませんか?」
春歌が指差したのはチラシ配りの依頼だった。
説明を読んで見ると、「グームリー」の通りに新しく店を開いたオーナーが、新装開店を知らせるためのチラシを人通りが多い大広間で配って欲しいというものだった。チラシを配るだけなので、報酬額はやはりかなり少ない。
しかし金に困っているわけでもない光一にとっては、これはこれでギルドで受ける最初の依頼としてはいいかもしれないと思って春歌の提案に賛成してチラシ配りの依頼書を手に取って受付に持っていった。
「あの、こんな事を言ってはいけないのですが、本当にこの依頼でよろしいのですか?」
ドロシーは光一達の持ってきた依頼書を見て驚きと不思議が混ざった表情をして確認してきた。
光一が「はい、お願いします。」と答えると何ともいえない表情で依頼書にサインとハンコを押してから説明をした。
「場所は大広間から北の西の通りを進んだところにある魅惑の女神亭というお店です。依頼人であるそこのオーナーにこの依頼書を渡してください。依頼が完了しましたら、依頼人からサインをいただき、また受付に提出してください。」
依頼の仕方と手続きをした依頼書をもらい、礼を言って光一達はギルドを出て魅惑の女神亭へと向かった。
光一達が向かった魅惑の女神亭という店は可愛い女の子達が料理や酒などを提供してくれるという飲食店だが、別にいかがわしい店というわけでもなかった。
店の外見もお洒落なレストランと言う感じで、準備中と言う表札を掲げた扉を開けると可愛らしい制服を着たウェイトレスと思われる少女達がおり、用件を伝えると「オーナーを呼んできます」とウェイトレスの一人が奥へと入っていった。
待っている間、何気に店を見渡したが、店内も中々にお洒落である。そこにこの店に場違いな野太い声が掛かってきた。
「あらん~、あなた達がチラシ配りの依頼を引き受けてくれた冒険者さん達かしら~ん?」
その野太い声に似つかない女性言葉に、光一も春歌も驚いた表情で声をした方をみた。
そこにははちきれんばかりの筋肉質の肉体をした色黒の巨漢がいた。しかも服装はウェイトレス達が着ている制服と同じ服を着ており、制服はピッチピチとなっている。
光一も春歌も予想外のモノが出てきた事により呆然としそうになったが、何とか「えっ、あっ、はい、そうです。」と返した。
「あら~ん、これはまたどちらも可愛らしい冒険者さん達ね~ん。私はここのオーナーのチョータンよ。お店の娘達はオーナーかミス・チョータンと呼ぶから好きに呼んでね~ん。」
その筋肉質の肉体をくねらしながら説明するミス・チョータン。
その動きに少し引きながらも自己紹介する光一も春歌。
兄妹と聞いた時、少しいかぶしげに二人の顔を見たが、すぐに納得した様に頷いた。
「でも正直、私の依頼を引き受けてくれる冒険者さんがいるとは思わなかったわ。」
「そうなのですか?」
「ええ、ほら私の依頼って完全なバイトや人足なんかがする仕事でしょう。冒険者の皆さんはこういうのは冒険者のする仕事じゃないって思っている人が多いから。それに内容もそうだど報酬も安いからギルドで紹介される仕事でも一番低いランクのところで紹介されるから、引き受けてくれる冒険者さんって滅多にいないのよ。」
ミス・チョータンの説明に光一達はなるほどと納得した。
「で、光一君と春歌ちゃんにお願いしたいのはこのチラシを100枚ずつ計200枚を大広間で配って欲しいのよ。」
「「はい、分かりました。」」
光一と春歌は肯定して100枚ずつチラシを受け取り、「それじゃ~お願いね~」とミス・チョータンの言葉に礼をして、店を出て大広間に向かい、「新装開店した魅惑の女神亭をよろしくお願いします。」と言いながら通行人にチラシを配って回った。
2時間ほどで全て配り終え、依頼終了のサインをもらうために魅惑の女神亭に戻った。
「お疲れ様~」と笑顔を浮かべて出迎えるミス・チョータン。
でも光一達からすると身体が硬直する笑みだった。
「おかげで助かったわ~。光一君と春歌ちゃんの様な冒険者さんがいてくれて感謝しているわ~。」
「ど、どうも」
「はい、依頼終了のサインをしておいたわ~。」
「「ありがとうございます」」
礼を言って依頼書を受け取る光一と春歌をじ~と見つめるミス・チョータン。
それに対して「あの何か?」と尋ねる光一。
「ああ、ううん、光一君と春歌ちゃんって一般的な冒険者さんと比べて礼儀正しいというか全然がつがつしていないなと思って・・・」
「は、はぁ」
「ああ、気にしないでふとそう思っただけだから。また何か依頼を出した時は、よかったら引き受けてちょうだいね。客としてきてくれても大歓迎よ。サービスしちゃうわ♪」
そういってウインクするミス・チョータン。
別の意味で心にきたが、何とか「ど、どうもありがとうございます」と返して魅惑の女神亭を出た。
そのまま冒険者ギルドに行き、依頼完遂のサインがされた依頼書を受付に出した。
「依頼を完遂させたので、確認をお願いします。」
「・・・本当にこの依頼を受けたんだ。」と小声でドロシーは呟いた後、「はい、確認します。」と言って依頼書を確認し、依頼書に記されていた金額を出してきた。
「はい、確認致しました。こちらが今回の依頼の報酬額です。」
「「どうもありがとうございます」」
それを受け取って今日のところは冒険者ギルドから出た。
こうして緋村兄妹のこの世界での冒険者としての最初の依頼は終了したのだった。
ここ最近、とても暑いので皆様もお気をつけください。