第6話 首都「グームリー」に来て、僕らは何もしなかった。
まぁ、タイトルどおり緩やかに過ごします。
それとちょっとずつでも評価が上がってきてうれしいです。
皆様、ありがとうございます!
「ここが王都グームリーかぁ~」
光一達がイネアの街付近で野盗や襲われていた馬車の護衛相手に色々とスキルや魔法の実験をして30分ぐらい経過した後、光一達はまずは目指していた王都グームリーに到着し、街の中に入った。
乗ってきたモンスター達はグームリーの付近で召喚を解除しており、ここにはもういない。
「でもてっきり門のところで通行所なり、身分証明書なり提示しなければならないと思っていたのですが。」
春歌がゲームそっくりの王都グームリーに入る時に通った城壁の大きな門で、国境の砦でしたような通行に必要な手続きがなくて拍子抜けした様だった。
「あ~、春歌の気持ちも分かるけど、ゲームでも街に入る時にそういうイベントがあるところとないところがあって、グームリーはなかったんだよね。案外それが影響しているのかな?」
「どうなんでしょうね?」
こういうところはゲーム通りという事かと思案しながら街中を歩く二人。
二人の姿はパッと見たらどこぞの貴族やお姫様にしか見えないので、通り過ぎる人間が怪訝そうな表情で見ていくが二人は気にせずに通りを歩いていく。
ゲームでもみた街の大広場に来て、光一は春歌に声を掛けた。
「春歌はどこか行きたい場所とかある?」
「いえ、強いていうならば宿屋かホテルに行って一息したいかなと気持ちも若干あるのですが・・・。」
「・・・ああ、そう言えばこのような状態になってまだ一息も入れてなかったんだよね。じゃあ、まずは宿屋かホテルを探してみようか。」
「・・・あ、いえ、そう、とても宿屋かホテルで一休みしたいと言うわけでもないので、お兄様が行きたいところあるのでしたら、優先していただいて構いませんよ。」
「う~ん、冒険者ギルドには行ってみたいという気持ちはあるんだけれど、春歌の様に物凄く行きたいと言う訳でもないんだよね・・・。」
「はぁ、そうなんですか。ではどうなされます?」
二人揃って「う~ん」と思案していると春歌が思いついたように言い出した。
「お兄様、私、だんだん喉が乾いてきたので、まずはどこかのお店で何か飲みません?」
春歌の提案に光一も拒否する理由などなかったので、まずはどこかのお店でティータイムと洒落込む事にした。
店は探す事もなく、大広場から周りをぐるりと見渡しても四方から目に入るので、後は光一達が良いと思ったところを選ぶだけだった。
光一達は店の外にもイスとテーブルをいくつか置いているカフェを思わせる店を選んで、外に設置されているイスとテーブルの中で日陰に入っているところを選んでイスに座った。
設置されているメニューを見てみると、どれも英語と日本語で描かれており、これには二人ともびったくりして声を上げそうになった。
もっとも二人の中では、てっきり見た事もない言語が出てくるのかと思っていたのだが、自分達が知っている文字で記させていたので、助かったと言えば助かったのだが・・・。
ここら辺もこの世界がゲームの世界と言う事が影響しているのかなとぼんやりと思う光一だった。
メニューも珈琲だの、紅茶だのと光一達の元の世界にあったものばかりで、軽食の方もサンドイッチやスパゲティと言った感じで、正直、別世界のカフェに入ったという感じがしなかった。
釈然としない気持ちで、光一はウーロン茶を春歌はアップルティを注文した。
もっとも注文を聞きにきたウェイレスは二人の格好を見て「と、当店はご貴族様にご満足していただける様な高価な材料は扱っていないのですが」と不安げに聞いてきたので、自分達は貴族じゃないと説明するハメになった時は、ちょっとだけこういうところは元の世界と違うなと感じたが・・・。
来た飲料を飲みながら、通り過ぎる人通りを見ながら、雑談をして一時間ぐらい過ごした光一は、そろそろ出ようと思い、それを春歌に伝えると「これからどうするんですか?」と訊ねられたので「取り合えず今日は宿を探して泊ろう」と答えた。
光一自身、春歌と駄弁っている間に冒険者ギルドに行こうと言う気持ちが無くなった様である。もっとも光一自身、是が非でも行きたいという強い気持ちや目的がなかった事も大きいが・・・。
「ふ~ん、ここが「旅人の安らぎの場亭」か」
光一達がカフェで精算している時に、ウェイレスにグームリーにある宿屋やホテルの事を尋ねたら、いくつか教えてくれたので、その中で4つ星ぐらいのそれなりに質の良い宿屋である旅人の安らぎの場亭という宿屋を選んだ。
街の大広場から右に5分ぐらい歩くと大きな趣味の良さそうな建物が見えた。教えてもらった特徴と一致していると正面の出入り口に来て、看板を見ると「旅人の安らぎの場亭」と書かれている。
それを見て光一が何気に呟いたのだった。
「見た目からして良さそうなところですね。」
「まぁ、僕達の世界で言うところの4つ星の宿屋だからね。」
春歌の感想にそう返して「さてさて今日泊る部屋は空いているかな。」と言いながら中に入り、フロントの受付に尋ねた。
「いらっしゃいませ。」
「今日2名で、一泊泊りたいのですが、部屋は空いてます?」
「はい、大丈夫でございます。部屋はシングルとツインどちらがよろしいでしょうか?」
受付に尋ねられて、光一は春歌の方を見た。
「春歌、部屋は別々のシングルでいい?」
「・・・今日はツインでいいです。」
春歌の返答に光一は驚いて、春歌の顔をまじまじと見ながら「本当にツインでいいの?」と「ツインでいいです。」と返ってきた。
釈然としないものの受付に「ツインで良いです。」と返した。
「はい、かしこまりました。当宿屋では朝、夜の食事付きで2名様ツインという事んおで、20000フープとなります。」
光一が20000フープを出そうとしたら、春歌が自分の分である10000フープは出すと言って10000フープをさっさとフロントに出したので、光一も10000フープだけを払った。
「お食事の時間は、夜は午後18時から22時の間になります。朝は午前6時から10時の間になります。奥の食堂にお越しくださいませ。」
「あ、はい」
「お風呂は午後18時から23時の間になります。男女に分かれていますので、ご入浴の時は性別を確認してお入りくださいませ。」
「あ、はい」
光一は受付から説明を受けると部屋の鍵を受け取とった。
光一達の部屋は3階にあり、鍵を開けて部屋に入るとそこそこに広い部屋にベッドが二つあり、小さな机とイスも二つ設置されていた。
部屋を見渡していると壁に鏡があるのに気づいた。
窓から見える景色も悪くなく、光一としてはそれなりに当たりだったかなと思った。
そして光一は鞘に収まった「破邪」を腰から引き抜いて壁に掛け、春歌にも「三精霊王の杖」を掛けたらよいのではないかと提案し、春歌も杖を「破邪」の隣に掛けた。
そして光一は着けているマントも取ろうとして、ふと自分の今の姿を見てみようと鏡に映してみた。
そこには上質なタキシードと外が黒で内が赤のマントを見につけた黒髪の16~18才ぐらいの中世的なイケメンが映ってた。
かつての自分とは全く違うに違和感も不自然も感じないからおかしな話である。
「それにして僕が身に着けているこの「加護を受けた上質な貴族のタキシード」も「夜の王のマント」も防具の中では上質の部類になるんだよな・・・。」
光一は何気に呟きながら「加護を受けた上質な貴族のタキシード」と「夜の王のマント」を見回す。
「夜の王のマント」は光一が「フリーダムファンタジープレイ」をプレイしてた時にストーリーとは関係ないイベントで、吸血鬼の王である神祖ヴードを倒した時に手に入れたアイテムで防御力+40に加え、魔法防御力も+30その上、マントで攻撃する事もできたので便利な付属品といえば付属品だった。
「加護を受けた上質な貴族のタキシード」自体は、本来は防具としては中級の上のであるが、これを装着させた時のキャラの姿が、光一としてはお気に入りだったので、強化させ防御力+70、魔法防御力+40という上級の下ぐらいの防具にはなっていた。
そういう意味では光一の防具は防御第一ではなく、光一の観点での見た目第一を第一にしているとも言える。
もっともそれは春歌も同じであり、「光のふりふりドレス」と言う名前の女性専用の防具なのだが、これを装着させるとキャラが動きやすそうなふりふりドレスを身に着けた姿となり、春歌はこれが可愛らしく感じた様だった。
防具としての元々の性能は光一の「加護を受けた上質な貴族のタキシード」と同じで中級の上だが、少しだけ「光のふりふりドレス」の方が上で、それを強化させて防御力+90、魔法防御力+50、回避率+10%と上級の中ぐらいの防具になっていた。
光一が「夜の王のマント」を外して畳み、ベッドの上に置くと、ふと気になった事があったので、それを春歌に尋ねた。
「そういえば春歌、ツインで良いって言ったけど、どうかしたの?」
「えっ?別にたいした事ではないです。ただ・・・」
「ただ?」
「こんな状況なので、一人で部屋にいたら、いつの間にかお兄様だけこの世界からいなくなって私だけ取り残されるのではないかと不安になってくると思ったので・・・。」
「・・・なるほど。」
春歌の言葉に光一は納得して頷いた。
何だかんだ言ってまだこのような事態になって一日はおろか半日も経っていないのだ。諦めはあってもこの斜め予想の事態に不安がなくなっていないのも当然と言えば当然である。
春歌が不安になるのも光一はよく理解でき、それ以上は何も言わなかった。
時間的には昼を過ぎた頃だったが、光一は出て行って何かをしようという気が完全に失せたので、今、所有しているアイテムの確認や街を景色を見ながら、春歌と話をしていたりしたら、意外と時間が早く進み、いつの間にか夕食とお風呂が使える時間となっていたので、まずは夕食をとり、それから風呂に入りにいった。
もっとも風呂場では蛇口の上に宝石のようなものが設置されたして、初めて使用するのに聞く相手もいなかったんで二人ともそれぞれのお風呂場で四苦八苦したが・・・。
風呂から上がり、お風呂場の入り口で光一達は合流すると、そのまま部屋に戻り、お風呂場で四苦八苦し事をネタに雑談した後、する事もなかったので寝る事にした。
その時、春歌がこんな事を言い出した。
「・・・ねぇ、お兄様」
「何?」
「・・・今日は一緒に寝てもいいですか?」
これにはまた光一は驚いて春歌の顔をまじまじと見たら、春歌の顔は不安気な表情をしていた。
昼間も似たようなやり取りをしたばかりだったので、光一もあっさりと納得できてしまった。
春歌の気持ちもあるので、光一は一緒に寝る事を承諾した。
最初のうちは外見の変わった義妹に内心、ドギマギした光一だったが一緒に横になっていると、そういえば昔もこうやって一緒に寝たなとぼんやりと思い始め、いつしか気持ちが落ち着き始めてきた。
そこに春歌が唐突に声を掛けてきた。
「お兄様、もう寝ましたか?」
「いや、眠くはなってきたけど・・・。」
「お兄様」
「うん、何、春歌?」
「・・・眠って次に目を覚ましたら全て元通りに戻っていると思います?」
「・・・分からない。でも期待はしない方がいいと思うよ。」
春歌の質問に光一は何とも言えなかったから、思った事を正直に話した。
それを聞いて春歌は「・・・そうですよね。」と力なくつぶやいた。
光一は、春歌のそんな様子に、せめてもの励ましかそれとも慰めと思って春歌を優しく抱きしめると、一瞬、春歌の身体が強張ったが、すぐに力が抜けた。
そしてすぐに泣き出す春歌。どうやら思った以上に春歌の精神状態は酷かった様である。
やがて泣き疲れたのか眠りだす春歌。
そんな春歌を抱きしめながら、これからどうすべきかと考えているうちに光一もいつの間にか眠りについていた。
こうして全くの予想外で「フリーダムファンタジープレイ」と言うゲームの世界に来てしまった緋村兄妹の最初の夜は過ぎていった。
今回の話でようやく光一達の身に着けている防具に触れました。