第45話 勇者が二人ってどういう事?
思ったよりも少し手間が掛かりましたが、考えていたところまで何とか書けました。
タイトルが光一君のこの話の最後の心情を表しています。あれ、これってこの話のネタバレ?
「何ですかこれ?」
「強制依頼書だ。」
フォン=リンメイの出した強制依頼書を見て、思わず尋ねる春歌
それにしれっとと答えるフォン=リンメイ。
それに絶句してしまう春歌に変わって光一が強制依頼書に目を通すと、今、南西の大平原で行われている魔王軍との戦争に王国軍の助っ人として参戦するという依頼内容だった。
これを見て、上級冒険者全員に出されている強制依頼だと光一は察したので確認の意味で尋ねてみた。
「これって上級冒険者全員に出されている強制依頼ですよね?」
光一の言葉に、ギルド内がざわめく中、フォン=リンメイはそれを気にせず、
「ほう、ドロシーから聞いたか?そうだ。」
「僕達ランクEで上級ではなく最下級ですよ。出す相手間違えてるんじゃないですか?」
「いいや、間違ってはいない。確かに君達のランクはEだが、強さだけならばS級以上だ。そしてこの依頼、強いては今、行われている王国軍と魔王軍との戦いで王国軍が勝つのに必要なのは強者だ。故に君達には否応でもこの依頼を受けてもらう。」
「・・・拒否権はないんですよね。」
「・・・まぁ、強制依頼だからな。悪いが君達に選択権は無いな。」
「・・・そうですか。でも僕達はランクEなんで、大活躍するなんて展開は期待はしないでくださいよ。」
フォン=リンメイの説明に光一は肩を大きく落としながらそう言って了承すると、フォン=リンメイはそんな光一の言葉に苦笑しながら「まぁ、王国軍の司令部は全く君達に期待などしないだろうな。でも参戦しているシルビアーナ姫殿下やミリーナ姫殿下は期待するだろうよ。無論私もだが。」と答えると周りがさらにざわめき始めたがフォン=リンメイも光一達も気にする事はなく「あんまり過度の期待をされても困るんですけどねぇ・・・。」と光一はやれやれと言った様子で答えた。
「・・・お兄様、こうなった以上、支払われる報酬に期待しましょうよ・・・。」
「そうだね春歌。」
そこで光一はふと思い出したように尋ねた。
「・・・そういえば僕達がここに来た本来の目的である以前、受けた強制依頼の報酬はどうなったんですか?」
「・・・あ~、先程、しばし待って欲しいと言っただろう。」
「ええ。」
「王国は今、魔王軍との戦いでそれどころではなく、故に前回の強制依頼の報酬は今回の強制依頼の報酬とまとめて支払う事になったよ。」
「・・・そうですか、まぁ、それならば仕方がないですね。」
光一はもう一度やれやれと言った様子で答えたのだった。
ここで光一はエリスとアニエスの存在を思い出したのか、彼女達の見て尋ねた。
「そんな訳で僕と春歌はギルドの依頼で今行われている魔王軍との戦いに補欠で参戦する事になったけど君達はどうする?ここで待ってる?大きな戦いだから無理維持はしないよ。」
まさか光一からそう言われるとは思ってなかったのか、エリスとアニエスは一瞬不思議そうな表情をした後、エリスは「お心づかいは無用です!私も御使い様と共にどこまでも戦います!!」と力強く宣言した。
アニエスも「私もエリスさんと同じです。王国に住む人々のためにも、正義のためにも魔王軍と戦います!!」と迷いなく断言した。
しかしアニエスは内心、光一と春歌がこうもあっさり強制依頼しかも今回だけとはいえ魔王軍のと戦いに応じると思っておらず、少なからず驚いていた。意外に思ったと言ってもいい。無論、それを表に出す事は無かったが。
故にそんな二人の様子に寧ろ光一と春歌が少し気圧された様で「そ、そうか」「そ、そうなんだ。」とどもりながら頷いたのだった。
「で、では僕達のパーティーは4人とも参戦しますね。」
「そ、そうかでは出立は明日の9時だ。それまでにギルドに来てくれ。」
フォン=リンメイもエリスとアニエスの意気込みにいささか気圧された様子で出立の予定時刻を伝えたのだった。
『おはようございます。』
「ああ、おはよう諸君。」
翌朝、9時前にギルドにやって来た光一達をフォン=リンメイは出迎えると近くに待機してある馬車に乗ってそのまま南西の大平原の王国軍まで行く事を光一達に説明した。
「緋村春歌は「テレポート」を使えるが今、平原に駐屯している王国軍は見たことが無いのだろう?」
フォン=リンメイの言葉に春歌は内心でゲームの画面ならば見たことがありますけどと呟きつつ「はい」と答えると、
「「テレポート」は使用する本人が行った事ない場所には行く事が出来ないからな。」
苦笑しながらそう説明するとフォン=リンメイは馬車の待機している場所に向かって歩き始め、光一達もその後ろについていった。
その後、停めてある馬車のところまで辿り着くと、以前、アデス山脈の調査に行く時に乗った馬車と同じタイプの停まっており、光一達はこれと言ってトラブルもなくすんなりと馬車に乗り込み、そのまま平原に駐屯している王国軍に向かって走り出した。
この世界に来て数か月経ち、ここに来るまでにいくつかの場所で色々なモノを見たり、召喚モンスターにも乗ったりして移動した事も多々あって適応してきたのか、光一と春歌は移動している間、以前の様にはしゃぐ事もなく、ぼんやりと窓から外の景色を見ていた。
光一と春歌のこの様子をフォン=リンメイはいささか意外そうな表情で見ていたが・・・まぁ、彼女からすればまた光一と春歌がとぼけたことを言ってはしゃぐと思っていたのだろう・・・。
馬車が駐屯している王国軍に到着し、光一達が降りると王国の兵士達があちこち忙しく走り回っている。
ただ何処となく空気は暗い感じがする。
「・・・何となく暗い感じですねお兄様。」
「そうだね。それに何処となく雰囲気がピリピリしている感じがする。状況がよろしくないのかな?」
春歌と光一の疑問に答えたのはフォン=リンメイだった。
「・・・ああ、正直言って王国軍の方がやや劣勢だ。」
「そうなんですか?」
光一と春歌はフォン=リンメイの少しだけ驚いた。ゲームでは詳しくの描写は無かったがほぼ互角の印象があったし、実際、シルビアーナやミリーナと言った強者や上級冒険者そして勇者も参戦しているのだから、まさか劣勢だとは思ってもいなかったのである。そんな光一と春歌の心情など分かるはずもないフォン=リンメイは続けた。
「ああ、まぁ、だからこそ実力は別として目に見えるランクでは最低ランクのEの君達を強制依頼で連れて来ると言う端から見たらおかしな行動を取った訳だが、まずは司令部に言って君達の紹介となるべく重要なところに配置してもらえる様、相手方を説得しなければならない。」
「説得?何ですか相手方を説得って?」
「・・・今しがた言った様に君達の実力を知っている私を含めた一部の者には期待のできる大きな戦力を連れて来たと認識できるが、そうでない者達には目に見えるランクEのレベルが君達をただの最下級冒険者としか認識しないだろう。おまけに」
そこでフォン=リンメイは光一と春歌を見て内心思った。
このような場でもタキシードにマント、フリフリのついた上質ドレスと言う空気が全く読めていない服装をしているような者達を真っ当な冒険者とは認識できないだろう・・・。
フォン=リンメイの内心を分かるはずもない光一と春歌は不思議そうな表情をして「どうかしたんですか?それに言葉を止めた様ですが?」と尋ねてくるので、内心ため息を吐きながら、
「いや何でも、とにかく君達はランクではEの最下級冒険者な上、見た目も全く有能そうな冒険者に見えない上に、軍の司令部は君達の事を知らないので、まずはそこから君達の認識を改めさせなければならないのだよ。」
フォン=リンメイはチクッと皮肉も込めて説明したが、光一と春歌は気づく事なく「そーなんですかー」と春歌が呑気に返してきた。
そんな春歌の言動にフォン=リンメイは内心で大きくため息をついた。そんな様子を黙ってみていたアニエスはフォン=リンメイの内心が理解でき、気の毒な目で彼女を見たのだった。
それからフォン=リンメイに連れられて司令部へと向かったのだが、その途中、光一と春歌の姿を見た者達は皆、訝しげな表情で光一と春歌を見ていた。
「フォン=リンメイ、戻りましたので報告に来ました。それとギルドマスターとして見て、戦力になる冒険者達も連れて来たので、ご紹介します。」
フォン=リンメイはそう言って司令部に入り、光一達もその後に続いたのだが、司令部を守っていた兵士達も光一と春歌を怪訝な表情をしながら通した。
「おお、戻られたかギルドマスター殿」
司令部にいた司令と思われる40代中頃と思われる如何にもエリート軍人と思われる男がフォン=リンメイに労いの言葉を掛けた。
その言葉にフォン=リンメイは軽く頭を下げて会釈する。
司令はその後、フォン=リンメイの数歩、後ろにいた光一達に目をやり怪訝な表情となった。
「・・・ギルドマスター殿、その者達が戦力になると言う冒険者なのか?」
「ええ、そうです。」
フォン=リンメイはそう答えるが、司令と呼ばれた男の顔には疑いの色がありありと出ている。フォン=リンメイもそれを見て当然だろうなと内心思った。
何も知らない自分が光一や春歌を戦力として連れて来たと言われても疑心しか湧かないだろう。と言うか連れて来た者の正気を疑うぐらいである。案の定、
「い、いや、ギルドマスター殿、ギルドマスター殿の目を疑う訳ではないが、そのな、どうもその様には見えんのでな・・・。」
「いえ、司令殿の疑念はもっともなので・・・。」
「ちなみに戦力というなら冒険者のランクは高ランクの上級冒険者なのだろう?」
「いえ、ランク自体は最下級のEランクです。」
「・・・何だと?」
「彼らのランクは自体はEです。」
「・・・ふざけておられるのかギルドマスター殿?」
「私は至って大真面目です。彼らはランク自体はまだ冒険者になって日が浅いのでEランクですが、強さだけで見ればBランク以上です。」
本当はSランク以上と言いたかったが、事実を言っても司令の様子では信じるどころか確実にふざけていると取られかねないので、2つランクを下げて現実的なランク値を言う事にした。それにBランク以上なのも確かなので嘘は言っていない。
現実的なランク値を言ったためか司令は「う~む」と腕を組んで半信半疑と言った様子でフォン=リンメイと光一と春歌を見ている。
そこに第三者の声が掛かって来た。
「司令官、ギルドマスターが戻って来たと聞いたが・・・おや、お前達はっ!」
「ギルドマスター殿、お戻りになられたようですねっとあなた方は?!」
シルビアーナとミリーナの王女姉妹が戻って来たフォン=リンメイへ一言、声を掛けようとして司令部へ入って来たところで、光一と春歌の姿を見て驚いた表情になった。
「お前達、戻って来てたのか。目的は達してはいるようだな・・・。」
「え、ええ、まぁ」
まずシルビアーナが光一達に声を掛け、チラッとエリスとアニエスを見てそう続けると光一は曖昧に頷いた。
「緋村さん達はどうしてここに?」
「私がギルドマスターとしての権限を使って強制依頼で参戦させたのですよ。」
ミリーナの問いにフォン=リンメイが答えると「なるほど」と納得するミリーナ。
そこにシルビアーナとミリーナの後ろから「あの」と男の声が掛けられてきた。その声にシルビアーナは「ああ、すまないな。」と一言詫びてミリーナと左右に分かれるとそこに一組の男女が立っていた。
右の男は赤銅色の髪をした20前後の男で身体の要所要所を青を主体としたところどころ金のラインが入っている鎧を身に纏っており、左腰に剣の入った鞘を吊り下げている。
左の女性はミリーナぐらいの年齢で、ベージュ色の長い髪をした美少女で、中々に引き締まってはいるが、出るところはそれなりに出ている身体を動きやすそうな鎧を纏っており、男と同じく左腰に剣の入った鞘を吊り下げている。
この二人、特に男を見て光一と春歌は気持ちが少し高揚した。しかし司令官と彼らのやり取りを聞いて驚愕する事となる。
「おおっ、勇者殿達も来られたか。」
「ええ、ギルドマスターが戻って来たと聞いたので。」
「私も一言、挨拶しておこうと思いまして。」
「いやいや、姫様方だけでなく勇者のお二人も一声かけるために来るとは、ギルドマスター殿も多くの方から人望があられますな。」
司令官と男女のやり取りが耳に入ってはいるが、光一と春歌はそれどころではなかった。
勇者のお二人・・・勇者のお二人ってどういう事?とゲーム「フリーダムファンタジープレイ」の知識に沿えばあり得ない言葉を聞いて、光一は疑問がぐるぐると頭の中で回るしかなかった。
それは春歌も同じで信じられない表情で男女を見ている。
そんな光一と春歌の様子に気付いたのかフォン=リンメイが「おい、どうした二人とも?」と声を掛けてくるが、二人の耳には入ってこない。
フォン=リンメイの声掛けに勇者のお二人と言われた男女も光一達を見て、一瞬、その場違いな格好に目を丸くしたが、すぐに平然を装って「えっと、彼らは誰ですか?」と尋ねて来た。
その質問に司令官は何とも言えない表情に戻って「・・・ギルドマスターが連れて来られた戦力になると見越して連れて来られた者達だ。」と返したが、その声色には疑念の色がありありと出ていた。
「は、はぁ、そうですか。でも自己紹介はしておきますね。俺の名はライナー・ヴォールで、一応、勇者と呼ばれています。それで彼女は」
「私はリゼット・アマラール、私も勇者の一人です。」
そう彼、ライナー・ヴォールこそゲーム「フリーダムファンタジープレイ」においての正式な勇者なのだが、ゲームにおいて勇者は彼一人だけであり、リゼット・アマラールは勇者を目指すキャラであり、勇者ではなかったはずなのである。
勇者が二人いるという展開に光一と春歌はライナーとリゼットから自己紹介を受けたのにも返さず、予想もしていなかった展開に驚き、ただ茫然とライナーとリゼットを見るしかなかった・・・。
今の季節は花粉による鼻水とくしゃみが出まくるので、厄介な季節ですね。
季節自体は春だから好きなのですが・・・。




