第38話 海賊団船長ラーエラと魔王軍部隊長ヒュール
何とか1週間ほどで書き上げる事が出来ました。
ようやく3章の主な敵の設定を考える事が出来ましたwww
魔王軍をあっさりと全滅させて帰りの徒にある光一達。
上空にいた天使は既に姿を消しており「シスコ」の者達はアニエスを除く全員が、複雑な表情をしていた。
今まで散々、自分達の街を襲撃し、街を破壊し多くの犠牲者を出した憎い敵であると同時に、恐ろしい恐怖の存在の1つでもあった。
事実、ダン達、この街の冒険者達は文字通り命懸けで魔王軍と戦う覚悟をしていたのに、蓋を開けてみれば直接剣を交えるどころか、姿を見る前に全滅してしまったのである。
脅威の1つが無くなった事への安堵や喜びもあるが、覚悟を決めていたのにそれが空回りした気持ちと今までの苦労は何だったんだろうと言う虚しさもあった。
しかもEランクという自分達と同じ最下級冒険者で、見た目場違いな服装をしている正直言って戦いをなめているとしか思えない光一と春歌がサイクロンスラッシュと言う風系統最上級魔法を難なく使いこなして魔王軍をあっさりと全滅させたのを見せられたので、光一・春歌と自分達の余りの差に自己嫌悪の念にもさいなまれ落ち込んでしまった。
魔法使いのジニーなどは自分よりもどう見ても年下の春歌が無詠唱であれだけ離れた距離の魔王軍相手に風系統最上級魔法を発動させたのを見て、自分の中の魔法の知識が根幹から崩れたのか、ずっとぶつぶつと呟いている。
そんな中、アニエスだけが強張った表情で睨むと言うほどではないが鋭い視線で光一と春歌を見ていた。
「?どうかしたのかしらシスターアニエス、先程からあの二人を怖い表情で見て・・・。」
アニエスの表情と視線に気づいたネイムが尋ねると、
「いえ、魔王軍を退けたとは言えあれほどの魔法を重ねて放たれたら、一歩間違えれば「シスコ」にも被害が出ていたらと思ったら、あの二人にはもう少し考えて魔法を使ってほしかったと・・・。」
「ああ、それは確かに一理あるわね。」
アニエスの説明に頷けるのも事実だったので、ネイムは納得した。
しかしアニエスはそれも嘘ではなかったが、それだけが理由でもなかった。
光一と春歌の魔法使いの技量があれほどとは思っておらず、そうなるとそれ以外の能力、特に光一は神刀「破邪」を使うのだから、少なくとも剣の技量も相応に高いと考えるのが妥当だろう。
間違いなくその強さはアニエスが知っている過去そして今の勇者達よりも上だろう。
だが、光一と春歌の冒険の目的は素敵な”出会い”を求めるものと言う完全に個人の欲望に沿ったものなので、悪でもないが決して善でもない。
どちらでもないが故にどちらにでもなる以上、その欲望を満たすために魔王側に着く可能性も多いにあり得る。
そう考えた時、アニエスは思わず震えた。そうなった場合、女神にとっても勇者にとっても強敵となるのは間違いなく、下手をしたら魔王軍が勝利する事態も大いにあり得るだろう。
何とか女神側につかせたいが、”カブキモノ”故にこちらの言う事などまず聞かないだろう。
―彼らはより注意深く見ていた方がいいですね。少なくとも魔王側につく可能性がなるかどうかは見極めなければ・・・―
アニエスはネイム達と途中で解散し、光一達と教会に帰宅するまで鋭い視線で光一と春歌を見ていた。
同時刻、「シスコ」からいくらか離れた沖の無人の小島の1つの海岸に船舶している巨大海賊船にて・・・
「全く!少し前に起きたあの巨大な竜巻は何だったんだい?!おかげで久方ぶりに「シスコ」から物資を頂戴して、ついでに天使様もおちょくってあげようかと思ったのに全部、おじゃんになったじゃないか!!」
金切り声をあげて憤慨しているのは赤紫のセミショートの髪をした20代中頃ぐらいの女性で左目に眼帯をしているのが特徴で、いかにも海賊の船長が来ている帽子とコートをあおり、その下はネイムと同じ露出が高い扇情的な服装をしている。
彼女こそこの巨大海賊船船長で凶悪な海賊「紫炎の毒花海賊団」を率いる「ラーエラ=ファー」だった。
「紫炎の毒花海賊団」自体も悪辣で凶暴な人間や凶悪なモンスター達で構成されており、その強さは魔王軍の歴戦の正規部隊と比べても遜色ないほどであり、そんな海賊達を率いている「ラーエラ=ファー」自体も強力な力を持った魔族で、様々な魔法を使用できる上に、本人自身の戦闘能力も優れており、魔王軍の上層部にもその名は知られているほどである。
ただ海賊をしているだけあり、個性が強い魔王軍の中でも適応できないほどの個が強い人物で、自分が楽しむだけに行動する快楽主義者で、粗野な部下の態度も面白ければ無問題という感性を持っているが、人並み以上に美意識も高く、気に入らない言動する者には有能な部下であっても容赦のない処罰を実行する二面性を持つ女性である。
ちなみにこのラーエラ=ファー、ゲーム「フリーダムファンタジープレイ」において魔王側に着くもしくは魔王を倒し自分が魔王になって勇者を倒す魔王ルートをプレイした場合に限り、ヒロインとなる人物の1人でもある。
実はラーエラ率いる紫炎の毒花海賊団と「シスコ」を定期的に襲撃した魔王軍の1部隊は利害の一致でつながっており、今回も魔王軍が「シスコ」を襲撃し、天使とぶつかったところで、紫炎の毒花海賊団も「シスコ」を襲撃しようと計画していたのだが、魔王軍とは別の「シスコ」からほどほどに遠い距離の沖で待機していたところに、遠方で巨大な竜巻が発生し、その影響で紫炎の毒花海賊団は撤退せざるを得ない状況になってしまったのだった。
「全く、あの竜巻のせいであたしの美しい海賊船が傷だらけになってしまったじゃないか。」
光一と春歌のサイクロンスラッシュの影響で、紫炎の毒花海賊団の巨大海賊船は沈没をする程の被害は受けなかったが、船体のあちこちが損壊し、現在、大急ぎで修理している最中で、ラーエラはぼやきながらため息をついたそこに部下の1人であるオークが慌てて入って来た。
「船長!大変ですぜ!」
「ああん?何が大変だってのさ?」
「先程、船の周りの見回りをしている奴らが海に漂っているのを拾ったんですが、これを!」
「?!」
そういってオークは持っていたものをラーエラに見せると、目を見開いて驚いた後、鋭い目つきでオークに問いただした。
「拾ったのはそれだけかい?」
「いいえ、他にもいくつか漂ってきてます。」
「・・・他にもいくつかあると言う事は、魔王軍の方に何かあったねぇ・・・しかしこうも鮮やかに斬り刻まれているとは、しかも見た限り空を飛んでいる状態でこれとは・・・風魔法でも受けた感じ・・・!?まさか先程の竜巻は?!」
先程の竜巻が風系統魔法によって起きたモノだと思い至ったラーエラは血相を抱えた表情で勢いよく立ち上がり、
「野郎ども!今から先程起きた竜巻のところに行くよ。船を出す用意をしな!!」
「へ、へい!ですが船はまだ修理出来ていないところもいくつかあり、船での戦闘は無理ですぜ!」
「今は竜巻が起きたところに行ければ構わないよ!さっさと準備しな!!」
「う、うす!それと船長、これはどういたしやしょう。」
「あん?そんなもん、何時までも船の中に置いてるんじゃないよ!汚らわしい!さっさと海に捨てちまいな!!」
「へ、へい!了解致しやした!」
ラーエラの命を受けたオークはそれを持って慌ててその場から離れ、間もなく船の出航を準備する騒音がラーエラにも聞こえてきた。
それを聞きながらラーエラは先程部下が持ってきたモノを思い出しながら、
「全く、これはこれで面白くなってきたじゃないか。」
堪らないと言わんばかりに思わず笑みを浮かべるのだった。
部下のオークが持ってきたモノ、それは最近見慣れた手を結んだ魔王軍の部隊に属している鳥獣人の口から上と胸から下そして両腕と背中の羽が広げた状態で左は翼の先が、右は翼の中頃から綺麗に斬り刻まれて切断された遺体の一部だった。
「・・・これはまた凄い事になってるじゃないか・・・。」
竜巻が起きた海域に来た紫炎の毒花海賊団、その船長であるラーエラは船の上からこの海域に浮かんでいる斬り刻まれた魔王軍の残骸を見て顔をしかめながら言った。
これらを見る限り魔王軍は全滅もしくは大損害を受けたのは間違いないだろう。
「魔王軍がいなくなっちまったから、あたしらだけで「シスコ」を襲っても天使様とガチでやりあわなきゃならないで旨みがないし、シーサーペントもこれまでは魔王軍が最低限のコントロールはしていたようだけど、こうなった以上、こっちにも襲い掛かってくるかもしれないしで、これ以上「シスコ」付近にいても美味しい思いはできないかもしれないね・・・とは言え、先程の竜巻を起こした奴がどういう奴か興味もあるし、このままこの海域から去るのも面白くないし・・・。」
さて、どうするかと思案していると、部下のマーマンが「船長!」と報告をしにやってきた。
何気に聞いてみると、みるみると笑みを浮かべ始める。
それは「シスコ」を襲撃している魔王軍の部隊長「ヒュール」の遺体を回収したと言う報告だった。
「ヒュール」は鷲型の悪魔で、その姿の通り飛行戦を得意としており、武器の槍さばきも中々の技量を持っている。悪魔としての力も中々に高く、何度もアニエスと互角の戦いを繰り広げた好戦的な性格をした悪魔の戦士である。
しかし今は見るも無残に首と胸と背中の左羽が根元から途中まで付いただけの姿となって船体の上に転がされている。
「ふん、あんたも随分な姿になったもんだね。」
ラーエラがつまらな気にヒュールの亡骸を見下ろしていると、妙な事に気付いた。微かだがヒュールの亡骸から魔力を感じるのである。
亡骸になった時点で魔力を感じる事は絶対にないのに、この状態でも微かとはいえ魔力を感じると言う事は・・・、
「”魔王の生命の加護”かい、ふん、こんな状態でも仮死状態でいられるなんて大したもんだと言うべきか、死ねない事を哀れと言うべきか。判断に迷うねぇ。」
”魔王の生命の加護”、魔王から授けられる加護の1つで、生命力が大幅に上がり、死ににくくなるというものである。
とは言え死ににくくなると言うだけで、死なないと言う訳ではないので、ヒュールもこのまま放っておけば死ぬだろう。
「別に助けてやる義理なんて無いけど、あんたは生かした方が面白くなりそうだからねぇ、助けてやろうじゃないか、あたしに感謝して涙を流して敬いな。」
そう言って上位回復魔法リカバリーを掛けると、ヒュールの身体が淡い光に包まれた後、損失した体の部分も修復された五体満足の状態に戻った。
それから間もなくヒュールが目覚め、上半身を起こした。
「おや、お目覚めかい?」
「・・・テメェはラーエラか・・・まさかテメェに助けられるとはな・・・。」
「ふ~ん、暴れる事しか頭にない脳筋かと思ったけど、状況を理解できる程度の知恵はあったんだねぇ~、そうだよ、あたしが助けてやったのさ、盛大に感謝して涙を流して敬いな。」
ラーエラの物言いに、盛大に舌打ちするヒュール。そんな様子をニヤニヤしながら見下ろすラーエラ
そこに不機嫌な声でヒュールが尋ねた。
「俺の部下達はどうなった?」
「み~んな、綺麗に斬り刻まれてバラバラになって海に漂っているよ。あんたが部下を全員引き連れていたなら全滅だね。」
「ちっ、ふざけやがって・・・」
「で、あんた達がそうなったのは先程発生した竜巻が原因かい?」
「ああ、そうだ」
「ふ~ん、と言う事はあれは天使か、もしくは「シスコ」の連中がやったってことかねぇ~。」
「ふん、あのクソ天使も「シスコ」の連中にもあれほどの魔法は起こせるだけの力はねぇよ!あれが使えるならもっと早く使ってるだろうが!!」
「まぁ、確かにそれもそうだねぇ、と言う事は他所から来た奴が手を貸したという線が濃厚かね?」
「多分そうだろうよ。おい、俺の槍は知らねぇか?」
「生憎だけど知らないね。多分、今頃海の底じゃないのかい?」
ラーエラの言葉にヒュールはまた盛大に舌打ちすると勢いよく立ち上がり、
「おい、テメェらの持っている槍を俺に1本くれや。」
「はぁ?何であたしらがあんたに槍を恵んでやらなきゃならないんだい?そもそも槍を持ってどうするつもりさね?」
「は、決まってんだろ!こんなふざけた事をしてくれた奴らのいる「シスコ」に礼をしに行くんだよ!」
ヒュールの言葉に、ラーエラは冷めた表情の上でバカを見る目でヒュールを見た。
「あんた馬鹿かい?いや、あんた脳筋だから馬鹿か。一人で今から攻め込んだところでまた殺られるのがオチさね。」
「一人じゃねぇよ。シーサーペントも最低限の制御は出来るんでな。」
「・・・へぇ~、まだシーサーペントを最低限とは言え制御する事は出来るのかい・・・。」
ヒュールの返しの言葉に実に面白い事を聞いたと言わんばかりに楽しそうな表情になるラーエラ。
「なんであんたの様な脳筋がシーサーペントを最低限とは言え制御できるのか分からないが、まぁ、そこら辺はどうでもいいね。興味もないしねぇ。取り合えずヒュール、あんた、今から「シスコ」にお礼参りにいくのはやめときな。」
「ああ!?何でテメェにそんな事、指図されなきゃならねぇんだ!!」
「ふん、これだから脳筋の馬鹿は!いくらシーサーペントがいるからと言ってあんたはもう部下はいない。おまけにあちらは強力な魔法を使える正体不明の相手がいる。あんな強力な魔法を使える以上、シーサーペントを連れてもう1回攻めに行ったところで、借りを返す前にまた風魔法で斬り刻まれるのがオチさね!言っとくがあたしはもう1回、あんたを治療してやるつもりはないよ!それでも良いなら今すぐ突っ込んで斬り刻まれてきな!」
ラーエラとヒュールはしばし睨み合うが、ヒュールもラーエラの言っている事が理にかなっていると理解出来る頭はあるらしく、盛大に舌打ちしながら目を先にそらした。
「じゃ、どうするってんだ?不利だからこの海域から撤退しようってか?」
「はっ、馬鹿言ってんじゃないよ。せっかく面白くなってきたのにどうして退かなきゃならないんだい?まずは情報を集める事さね。」
「ああ?情報だぁ?」
「先程の竜巻を起こしたのがどこのどいつなのか?どういうやつなのか?まだ「シスコ」にいるのか?これらを把握してから、策を練るんだよ。お互い盛大に盛り上がるためにね!」
そう答えるラーエラは目を爛々と輝かせながら嬉々として語り、全身から得の知れぬモノが出ており、周りにいた部下達がいささか怯えた表情で、数歩後ずさった。
もっともヒュールはそれに臆することなく、
「ちっ、正面から駄目なら搦め手ってか。面倒だぜ。」
策を練ると聞いて苦虫を噛み潰した表情で盛大に舌打ちしたのだった。彼は脳筋なので策を練るのは不得意なのだった。
こうして「シスコ」はしばし海賊とシーサーペントの襲撃から納まった。しかしこれは嵐の前の静けさだと光一達やアニエスを含む誰もが感じるのだった。
思ったよりも長くなったけど、その気になればこれぐらいでも書こうと思えば書けるんですなぁ~。
これはこれで経験になったのは確かですな。