第18.5話 フォン=リンメイの回想
皆様、あけましておめでとうございます。
何とか新年の正月期間に間に合いました。
今年もゲームの世界に義妹と来たので、素敵な”出会い”を求めて僕らは二人、冒険に出る。をよろしくお願いします。
私、フォン=リンメイは今、城から来た使いの馬車に乗って王城に向かっている。先のブラックドラゴンの変異体の討伐報酬の件で、ようやく答えがでたみたいである。
どのような分配になっているかは聞いてみないことには分からないが、一番多く支払われるのはあの緋村光一・春歌の兄妹であろう。それだけは間違いなく理解できる。
「緋村兄妹か・・・。」
思わず声に出してしまったが、あれほど奇妙でどこか浮世絵離れしているとぼけた冒険者には遭遇した事はない。私も先々代のギルドマスターが運営していた時代に冒険者となり、時間を掛けて功績の残してギルドマスターにまで上り詰めたが、その間に多くの冒険者を見てきたが故に断言できる。
だが、よくよく考えたら彼ら緋村兄妹は私が最高責任者である王都「グームリー」の冒険者ギルドに登録してまだ約二週間ほどでしかないEランクの新米冒険者パーティーだった。
故に普通ならばさほど印象に残る事はない。しかしこの緋村兄妹はすでに私にとって今は亡きシェードが率いるシェードパーティーとはまた別のベクトルだが、頭を抱えるパーティーとなっていると言ってもいい。
ギルドにとって厄介となる存在ではないが、とてつもなく扱いづらいと言った方がいいかもしれないが・・・。
緋村兄妹を知ったのは約二週間前、緋村兄妹が私の冒険者ギルドに登録しようとして、シェードパーティーに絡まれたと言う報告を部下から受けた時だった。
あの時は丁度、部屋で書類仕事をしている時だった。ギルドの職員の一人が慌てた様子で部屋に入ってきた。
「ギルドマスター大変です。」
「・・・ノックぐらいしたらどうだ。もし来客中だったらどうするつもりだったんだ?」
「も、申し訳ありません。でも大変なんです。シェードパーティーが!!」
「・・・またあいつらか。」
シェードパーティーの名を聞いて私は思わずため息をついた。奴等はどうしようもない問題児だが、今の時勢で考えれば戦力にはなるので、いざという時に使い捨てにするために国のトップとも話し合った末に奴らの行動を黙殺する方向できたが、最近、目に余るようになっていたのは確かだった。そろそろ奴らの対応も考えねばならんなと思いながら訊ねた。
「それで、あの馬鹿者共は今度は何をやらかしたんだ?」
「そ、それが先程、少し前に冒険者になるために登録に来た一般の兄妹に因縁をつけた挙句に、表で決闘することになったのですが、その兄妹の兄にやられているんです。」
「・・・何?」
斜め予想の報告に思わず訊ねてしまった。しかし部下は同じ報告をし、どうやら虚言ではないらしくもう少し詳しく聞くと、もう一度、部下の報告を疑ってしまった。
何故ならばそのやって来た兄妹というのが、兄は見た目10代の後半で、タキシードにマントという貴族のような格好をしており、右腰に差した鞘に収まった剣が不釣り合いに見えるほどで、妹の方も見た目10代の中頃で、ふりふりが多くついている、一目見ただけで高価と思われるドレスを着ており、どこかの姫君にしか見えず、持っている魔法の杖が不自然に見えるぐらいというモノだった。
聞いただけでも部下の報告を疑うには十分な内容である。と言うかそのような格好で本当に冒険者の登録にきたのであれば、その兄妹の神経を疑う。
とは言え、部下が大騒ぎになる前に止めて欲しいと懇願してくる上に、ギルドを預かるギルドマスターとしても事を大きくする訳にはいかないので、私は席を立った。
「おい、お前達!何をしている!」
ギルドの正面玄関に立ち、そう叫びながら周りを見渡すと、報告にあった通りの格好をしたまだ少年と言ってもいい男が何事もなかったかの様に立っており、近くにこれまた報告にあった通りの格好をした少女がいた。シェードパーティーは全員、倒れており、すでに事は終わった後だというのが見て取れた。
この事に色んな意味で驚きながらも、それを表に出す事無く、この騒ぎの一部始終を見ているであろう受付嬢のドロシーに説明を求め、説明を受けて、緋村兄妹の兄の方にこの時、声を掛けたが、何故かこの時、この兄弟が私を見て驚いた表情をしていたのかは謎だ?何か驚くところがあったのだろうか・・・?
そえはともかくとして緋村光一を問いただし、話を聞いた結果、彼らに非はなかったので、不問とした。
この時、緋村兄妹と自己紹介をし、兄の光一が初歩的とは言え回復魔法を無詠唱で唱えたのを見て、この時はシェードパーティーをあっさりと返り討ちに出来る強さを含めて、割と有望な人材が来たかもしれないと思った。
しかし、その直後、彼の回復魔法を受けて治療されたシェードが、その彼に襲い掛かったが、逆にあっさりと斬り捨てられた。
しかし、あの時の彼の一連の動作は、間違いなく超一流の達人のそれだった。それにまたしても私は驚く事になり、同時にこの兄妹の名は、すぐに広まるだろうなとも思った。
その予感は当たり、次の日、また緋村兄妹と関わる事となった。
ふたたび昨日と同じく今度はドロシーがノックもなしに大慌てで入ってきた。その事を咎めつつ何があったのかを訊くと、またあの兄妹が原因の騒ぎだった。
内容を聞くと、どうもドロシーがランサーイノシシ討伐の依頼を煽てる様な形で説明し、緋村兄妹はそれにのって依頼を引き受けたのはいいが、何と9体も狩ってきたという。それには私も思わず「何だと!?」と叫んでしまい、もう一度報告を聞くと間違いなく9体狩ってきたというものだった。
私はその数に驚いたのは確かだが、同時に緋村兄妹の冒険者の技量はなったばかり、いくらシェードパーティーを難なく倒せるとは言え、ランサーイノシシを9体も狩れるのだろうかと思い、別の高ランク冒険者の力を借りたのではというのが、頭に浮かんだ。
それもありあの兄妹を問い質す必要もあり、ドロシーを伴ってギルドの受付広場まで行き、そのまま彼らの前に行き、まずは「お前達は昨日、今日と騒ぎを起こすのが好きな様だな」と皮肉ってやった。
そしてまずはランサーイノシシ9体の支払い金額が出た事を言い、「だが」と続けて私は元Sランク冒険者時代に高レベルモンスターなどを相手にする時の威圧感を出して彼らを睨みつけながら問うた。
「あの9体、本当にお前達だけで狩ってきたのか?」
「そうですけどそれ、どういう意味ですか?」
私の問いに緋村光一がムっとした表情をしながら訊ねてきた。私はそれに普通一般の抱く疑問をぶつけたのだがそれに対して兄の光一よりも妹の緋村春歌が反応して喰って掛かってきた。そして段々ヒートアップし、
「そもそも、ギルドマスターだろうが何だろうが、あなたはお兄様の力をどの程度に見ているか知りませんが、お兄様がその気になったらあなた何てすぐに負けるくせに!!!」
彼女のその言葉に私も激高し、思わず張っ倒そうとした時だった。
次の瞬間、緋村春歌に向かって動かそうとした右手が、彼女本人によって掴まれてビクとも動かず、そして緋村光一が鞘を右手で持ち、左手で逆に持って鞘から半分ほど抜いて刃の方を私の首筋にピタリと当てていた。
これには周りのギルド職員や冒険者達は驚愕したが、何より一番驚いていたのは私自身だった。
緋村光一が私に剣を当てる動作が全く見えなかったのもそうだが、何よりパッと見、非力そうに見える緋村春歌が瞬時に自分の腕を取り、完全に力で抑えている事に驚愕した。この娘、こんなとぼけた格好をして弱そうに見えながら身体能力が全く予想外に高いのか・・・。
しんと静まり返った室内で緋村光一の声だけが響いた。
「あなたが僕達の技量を疑うのも、春歌の言葉に気分を害したのも理解できますが、例え理由がどうあれ妹に危害を加えようとする事は許さない。」
この時、私は緋村春歌の身体能力もそうだが、緋村光一の有無を言わさない凄まじい殺気に完全に呑まれて思わず謝罪の言葉を口にしていた。
私の謝罪にこれ以上の騒動は起こらないと感じたのか彼は剣を外して鞘に仕舞い、そして妹にも謝罪する様に言い、彼女も私の手を離して素直に頭を下げて謝ったので、私は内心何ともいえない気持ちになりながらも受け取ってとりあえず険悪な雰囲気は流れた。
しかしここで緋村光一がトンでもない提案をしてまた場は騒然となった。
「でもギルドマスターが冒険者になったばかり、しかも見た目弱そうな僕達を疑うのも当然なので、今回はこうしましょう。僕も春歌も無報酬は嫌なのでランサーイノシシ2体分の満額6000000フープでいいです。そうすれば僕と春歌で1体分ずつの満額3000000フープになりますから。」
彼のこのトンでもない提案にまた周囲は唖然とし、私も一瞬、唖然とした表情で彼を見たが、すぐに我に返って頭を振り、
「いや、お前達が狩ったランサーイノシシ9体分の損傷箇所などをから減額して出した報酬金額は渡すさ。」
その言葉に彼は困惑していたが、ちゃんと全ての理由を言い、彼らを納得させた上で、側に控えていたドロシーに小切手を出させた。
「金額が金額だからな。金貨では渡せんので小切手で渡す。後は自分達で銀行で両替してくれ。」
私がそう言うと「はい、分かりました。」と言って彼は小切手を受け取ったので労いは掛けておいた。が、私自身、もの凄い疲労感に襲われたのは確かだった。
そんな私の心情など分からないであろう緋村兄妹は礼を言うとギルドを出て行き、その後姿を見ながら、私は頭痛を堪える様にこめかみに指を当てながら、周りに業務を再開する様に指示した。
それを見ながら、私はあの二人も別の意味で問題児なるかもしれんなと内心で大きくため息を吐いた後、何処か重く感じる足取りで支部長室に戻った。
それからしばらくはこれと言って騒ぎはなかったが、今の私から見て一週間程前に城からの呼び出しを受けた。城に登城するとシルビアーナ第二王女が、第二王女親衛隊隊長エレーナ・エンディア殿とお抱えの学者であるメリル・リナリス博士を連れて迎えてくれた。
呼び出しの内容はここ最近、ユーリ村付近からアデス山脈の麓にモンスターの出没が増加しており、その原因がアデス山脈にある様なので、異変の元凶の調査と排除をするために討伐隊を編成して山を登るので、その日程の調整と優れた冒険者パーティーを何チームか参加させ、私自身も参加して欲しいと言うモノだった。
ギルドとしてもその異変の報告は、何度か聞いており、前日もあの緋村兄妹が薬草採取の依頼でユーリ村を襲ったモンスターの討伐をしたと言う報告を大まかにだが、聞いていたので、討伐隊に冒険者パーティーを参加させるのも、私自身が参加するのも反対はなかった。
参加させる冒険者パーティーはすぐに目星が着いたが、そこにシルビアーナ王女が参加させて欲しい冒険者パーティーがあると言い、彼女がそんな事を言うなんて珍しい事もあるなと思いながら冒険者パーティーの名前を聞いて、私は驚いた。
その上がった名が緋村兄妹だった。推薦人はシルビアーナ王女の妹君でミリーナ第三王女であり、その親衛隊隊長であるミヤビ・アマネ殿だった。
何でもユーリ村付近からアデス山脈の麓にモンスターの出没増加の調査に出られたのはミリーナ王女とアマネ殿で、緋村兄妹とはユーリ村で出会い、共に村を襲ったモンスターの討伐したそうである。
そのような報告があったか?と思いながらもミリーナ王女とアマネ殿の推薦でシルビアーナ王女からの希望なので、緋村兄妹も参加させる冒険者パーティーの1つに加える事にし、ギルドに戻ってから部下達に討伐隊に参加させる冒険者パーティーに強制依頼を出す様に命じた。
それから2日後、討伐隊に加わる者達が顔合わせも込めて城の訓練場に集まったのだが、ここにおいてもあの兄弟は場違いないつものタキシードとドレス姿で現れ、私は一瞬、唖然とした。いや表面上、他の冒険者や親衛隊員達も何も言わなかったが、全員が好奇の目であの兄妹を見ていたのは確かだった。
そしてシルビアーナ王女からの説明を受けたところでEランクの新米冒険者パーティーである緋村兄妹の能力を疑問視されたが、
「ええ、大丈夫ですよシルビアーナ姉様。少なくとも戦闘能力はご兄妹のどちらも私やミヤビより上ですから。」
ミリーナ王女の言葉に広場はざわめき、シルビアーナ王女は私にも確認を取ってきたので、
「・・・その事実については私は知りませんが、少なくとも緋村兄妹が今回の依頼遂行において足手まといにならないのは断言できますね。それだけの技量はあるでしょう。」
と返した。 彼女は私の言葉に取り合えず納得したのか、ユーリ村へ向かう馬車へと乗る様に指示した。
もっとも「ユーリ村」へ向かう途中、その光景を見て目を輝かせる緋村春歌に、兄の緋村光一も面白そうに外の景色を見ており、その様子が私も含め他の者達も憮然とした様子で見るか、呆れた様で見ており、誰か観光か何かと勘違いしている様子の二人を注意しようとしたところで、シェードの後を継いだドリアが嘲る様に言い、それを聞いた緋村兄妹は周りの視線に気づいたのかバツが悪そうにしたが、しばらくして他の冒険者パーティーと話をし始めていた。私は正直、話の内容に興味がなかったので聞き流していたが・・・。
「ユーリ村」に到着して新村長や他の村人達の歓迎を受けた後、アデス山脈の麓の森に来た時、緋村兄妹ののんきな呟きに私が注意すると、他のメンバーも不快そうな表情や呆れたような表情で緋村兄妹を見ており、それに気づいた彼らはまたもやバツが悪そうにしていた。
この緋村兄妹、本当に観光か何かと勘違いしているんじゃないだろうな・・・。正直言ってこいつらを参加させたのは失敗だったかもしれないとこの時は思った。もっとも数時間後に全く逆の考えに変わる事になるのだが・・・その時の私はまだ知らなかった。
アデス山脈へと登るために通らなければならない麓の森ではモンスターの襲撃が多かった意外、何もトラブルはなかったが、道中でふとした事からドリア達の心情を聞く事になり、私も含めてここいる面々がその事に共感も理解も出来ないが、多少、ドリア達を見る印象が変わったのは確かだった。
そんなやり取りもしながら遂に異変の元凶があると思われるアデス山脈を登り始め、始めは麓の森同様、モンスターの襲撃以外、何もなかったが、山も半分少し登ったあたりで、先行していたドリア達から掛け声が飛んできたところから一変した。
我々がドリアパーティーのいるところに駆けると、ドリア達は深刻な表情で山岳の部分を見ていた。
私たちが来たのを見ると、口で説明するよりも見たほうが早いと言う様子で、自分達が見ている山岳の少し下の部分を見るように顔をしゃくった。
その仕草に怪訝な表情になりながらも示された方を見てみると私を含め、皆、絶句してしまった。
そこにはアデス山脈に生息するモンスターの大量の亡骸があり、弱い下位のものから上位のものまで様々で、どれも何かに襲われて殺されたモノばかりだったからだ。
「どうやら、何かとんでもないのがいるのは間違いないようだな。」
「それがアデス山脈の異変の原因なのでしょうかお姉様?」
「恐らくな・・・。」
シルビアーナ王女の呟きにミリーナ王女が尋ねると彼女は肯定し、私に尋ねてきた。
「ギルドマスター、この大量のモンスターの亡骸を調べて、これ・・を作り出した原因の正体を特定できるか?」
その質問に私は首を横に振って否定せざるを得なかった。
「さすがにこれだけで正確な特定までは・・・、ただ、アデス山脈に生息するモンスターの中では上位もしくはボスに当たるモンスターのモノまである以上、これをしたのはそれ以上の何かという事になりますな。少なくともこれだけの精鋭を連れてきたのは間違いではなかったのは確かでしょう。」
私の言葉に彼女は「そうか」と返し、山頂を睨むように見た後「どちらにしても原因を突き止めて排除しなければいけないのだから行くしかないな」と山頂に向かって進む様に命じられた。
そして再び山頂を目指して進み始める我々一同。しかし皆、先程までと違い険しい表情になっていた。
ふと、緋村兄妹はどうかと思い、ちらっと彼らを見てみると彼らだけは普段の表情をしていた。この状況を理解して平然としているのか、理解できていないのか、前者ならば大したものだが、後者ならばただの阿呆としか言いようがないな・・・と思いながらも私は歩を進めた。
それから一時間ほど経過し山頂に近づいたところでとうとう私達は異変の元凶の一端と遭遇する事となった。先行しているドリアパーティーから再び掛け声が飛んでき、しかし今度は声に焦りがあったのだ。
「まずいぜ!この辺りでは見かけない化け物共と遭遇したぞ!応援にきてくれ!!」
救援の声に、我々は武器を構えながらドリア達の元へと走ると、そこにはそれなりの大きさのドラゴンのようなモンスターが5匹おり、ドリア達と戦闘をしていた。
しかし私やリナリス博士など一部の者はそのドラゴンのようなモンスターを見て驚愕せざるを得なかった。
初めて見るドラゴンという事もあるが、メインは最上級ドラゴンの一種であるブラックドラゴンの幼生態だと思うが、身体のあちこちがブラックドラゴンではなく他のドラゴンやモンスターの一部であり、ここまで来るとブラックドラゴンと同じような上級、最上級モンスターの合成体だった。
そもそもブラックドラゴン自体が一国の軍隊でも勝てない程のモンスター故に、この目の前のドラゴンの幼生態達は、明らかにブラックドラゴンの幼生態よりも強いだろう。
それが5匹もいるので、間違いなく苦戦は免れない。いや犠牲者も必ず出るだろうと思いながら戦闘を開始すると、やはり案の定苦戦を強いられる事になった。
さらに何と後から2匹、それも背後から攻めて来たので、一気に状況は不利になり、私も内心、歯噛みし大きく焦った。
しかし結果だけで言えば、それは単なる杞憂に終わった。緋村春歌が上位重力魔法である「グラビティプレス」を発動させ、ドラゴン達を弱らせると緋村光一が「魔攻陣」を発動させて、ドラゴン達はあっけなく全滅した。
我々はそれを呆然と見ている間に終わり、彼の声に我に返るとすぐに何人かが彼らに噛み付いた。
一同からの怒りの追求に緋村春歌は萎縮してしまったのか、うつむいて何も言わず、緋村光一がしどろもどろになりながらも何とか答えた。
「い、いや、状況の判断もまともに出来ないのかと言われても僕も義妹もこういう敵味方乱れての乱戦なんてした事が無くて、困惑して行動がとれなかったので・・・。」
「はぁ!?何、ふざけた事言ってんだお前?!」
「全くよ!それって新米の言う事よ!ふざけてんのあんた?!」
「い、いや、ふざけているも何も僕達は冒険者になってまだ10日ほどなんですけど・・・。」
「「「「はぁ!?」」」」
彼の返答に、ここにいるほとんどが呆けた声を出したが、私の「・・・確かに緋村兄妹はEランクの新米冒険者コンビだな。」と言う言葉に、ここにいる者達のほとんどが「そういえば」と思い出した表情になった。その中でカリンカパーティーのリーダーであるカリンカがぼそりと言った。
「何か技量と経験が噛み合ってないわね。」
「・・・確かにそうだな。普通だったらそういうのってありえないんじゃないか?」
「・・・何だかチグハグな兄妹だな・・・。」
そんな一同のやり取りに困惑した表情を見せる緋村光一。緋村春歌もうつむいたまま顔をあげようとしなかったが、正直、私も彼らの言に内心、頷いた。この兄妹は常識的に見て、あまりにもおかしいのである。
明らかに技量と経験が噛み合ってない。今まで妙だと思っていたが、この兄妹って一体何者なんだ?
そこにミリーナ王女が仲裁に入り、私も取り合えず賛同した事で、冒険者パーティー側も「まぁ、確かに」と頷き、王国側の親衛隊員達も、とりあえず納得した様だった。
そしてシルビアーナ王女が一同を労うと、負傷者の治療などを指示する傍ら、私やリナリス博士などモンスターに詳しい者を集めて尋ねてきた。
「単刀直入に尋ねるが、このドラゴンというか、そもそもこれはドラゴンと認識してよいのか?」
「まぁ、我々の知っているブラックドラゴンとはかなり違うが、ブラックドラゴンが元となっていると認識してよいだろうね。」
「そうか、それでこれは何だ?ブラックドラゴンの変異体か何かか?」
彼女の問いに私達は顔を見合わせてから答えた。
「変異体というにはあまりにも不自然なところが多いね。」
「と言うと?」
「このブラックドラゴン、見たところ身体のあちこちが他のドラゴンや、このブラックドラゴンと同じような最上級モンスターのパーツが見られる。いくら何でもこんなのは自然にはありえない。」
「では誰かが手を加えたという事か?」
彼女の問いに私達は頷き、そして博士は頭をかきながら困った表情で答えた。
「どこの誰がこんなモンスターを生み出したか、まぁ、いくつか候補はあるけど、確実に言えるのはこのモンスターが、アデス山脈の異変の元凶で、ボク達を襲ってきたこのモンスター達は幼生態・・・だ。」
博士の言葉に私達は沈黙せざると得なかった。
「つまりこれらを生んだ親がまだいると?」
「まぁ、まだ遭遇していないという事はもっと凄いのが山頂辺りにいるんじゃない?」
しばしの沈黙の後、大きくため息をついた彼女は「それでも、異変の元凶の確認と排除のために山頂までいかねばならん。」と答え、その言葉に私達もも肯定の意を示した。
それからいささかの休息をはさんで一同の状態を整えてから、山頂を目指して歩を進め、そしてしばらく進み、山頂付近まで来たところで、緋村春歌が空を見上げて感嘆の声を上げた。
「うわぁ~、空がとても綺麗で、星が大きく輝いて見えますね。」
「まぁ、ここはもう山頂付近で標高も高いから、街で見るよりもよりはっきりと見えるだろうね・・・。」
兄妹のとぼけたやり取りを聞いている時だった。空を震わせるような大きな叫び声が響き、私達の頭上を大きな影が横切り、そして私達の眼前であるアデス山脈の山頂に全長20メートルはあろうというドラゴンの変異体が降り立ち、凄まじい威圧感を放ちながら、私達を威嚇する様に大きく叫んだ。
これが異変の元凶かと理解したと同時に私達はその威圧感に飲み込まれてしまい、全員、驚愕、恐怖、呆然とした表情でドラゴンを見つめるしかできなかった。
呆然と固まっている私達に対し、ドラゴンは容赦なく右腕を勢いよく振り下ろし、私達が我に返った時には、もう右腕がすぐ近くまで迫っており、私も含めてここにいるほとんどが死への恐怖や、後悔、無念と言った絶望の表情を浮かべただろうが、次の瞬間、何と緋村光一が剣でドラゴンの一撃を受け止めたのである。
その光景に私達が驚愕したのをよそに彼は力いっぱいに叫び、ドラゴンを押し返しきって弾き飛ばして、ドラゴンに隙が出来たところに「飛翔剛波」であろうと思われる技を放った。
右腕を押し返されて弾き飛ばされ、その反動で無防備な身体を晒したドラゴンに彼の放った「飛翔剛波」が直撃して大きな叫びをあげながら、ドラゴンは数歩後退した。
それを見て彼は妹の緋村春歌に対して叫び、ドラゴンの幼生態達にも使用した「グラビティプレス」を緋村春歌は発動させてドラゴンを大地に縫い付けた。
しかし、それなりにダメージは与えている様だが、弱らせるまでには至らなかったが、その動きを止める事はできたところで、彼は剣を構えてドラゴンを見据えたまま、後ろにいる私達に「大丈夫か!?」と声を掛けてきた。
声を掛けられて、今まで呆然としていた私達は我に返り、シルビアーナ王女が私やミリーナ、ご自身の親衛隊長であるエンディア殿に、それぞれの兵達の確認を素早く取る様に伝え、確認して問題ない事を伝えると緋村光一に「ああ、問題ない」と答えた。
それを聞いてすぐに「それでこれからどうするんですか?」と指示を仰ぐ彼。
そこにドラゴンが少し弱めの叫び声を上げ、何事かと私を含む皆が警戒すると、一同の後方からしばし前に聞いた叫び声が複数、聞こえてきた。
どうやら仲間を呼んだ様で、一気に騒ぎだす一同。更に目の前のドラゴンも「グラビティプレス」を打ち破って霧散させ、その巨体を起こして、一同を威嚇する様に唸り声を上げたが、その瞳には緋村兄妹だけが写っている。どうやら先程のやり取りで、彼らが標的となった様だった。
再度、指示を仰いでくる彼にシルビアーナ王女はわずかに思案すると、
「・・・緋村兄妹、先程の攻防とあれの標的となったという事であれの相手を任せても良いか?」
と彼らに尋ねたので、そのシルビアーナ王女の問いを聞いた何人かはありえない事を聞いたと言う表情で彼女を見た。もっとも私は驚きはなく、彼らの強さを考えればむしろ、この状況ではそれがベストとは言わずともベターだと思ったのが、周りはそうではない様なので、彼女は手早く説明し、主だったメンバーのリーダー達に、賛成か否かを問うており、尋ねられた者達は皆、私も含めて賛成だった。
緋村兄妹にもと尋ねられると、顔はドラゴンから目を離すわけにはいかないので、シルビアーナ王女の方は向いていなかったが、彼らのの驚きは伝わってきたので「貴殿らが面だってあのドラゴンの相手をする事になるのだから、意志を確認するのは当然だろう。」と返し、納得した様子の彼らも肯定した。
「では」とシルビアーナ王女が続けようとしたところで、ドラゴンは両足で大地をしっかりと踏みしめ、身体を固定して顔を突き出し口を私達に向けて大きく開け、口の中に膨大な魔力が凄い勢いで集まり始め、口の中が輝き始めた。
明らかに何かを放つというのが理解できたので、何人かが射程範囲内から逃げる様に叫んだが、もう間に合わない状態だったとはいえ緋村光一は妹の緋村春歌に信じられない事を叫んだ。
「春歌、リフレクションプレートを使え!!」
それを聞いて私いや他の者達も緋村光一の正気を疑った。発動すると敵の魔法攻撃や跳び系の剣技や格闘技を反射する防御魔法「リフレクションプレート」、反射できるのは使用者の魔法技量によって変わり、緋村春歌が優れた魔法使いとはいえ、あのドラゴンの攻撃を反射するなど無理である。しかし緋村春歌は「リフレクションプレート」を発動し、それを見て他の者達は「何を考えてるんだ?!」とか「無茶だ!死ぬぞ!!」と喚いていたが、彼らは構わず、ドラゴンは強力なブレスを放った。
しかし何と彼女の発動した「リフレクションプレート」はドラゴンは強力なブレスを耐え切って反射し、逆にドラゴンの変異体に直撃し、ドラゴンは大きな悲鳴を上げながら、その巨体を大きく転がして、今はあちこちから煙を上げながら横たわっている。
その光景を私達は一種の奇跡を見る顔でで穴が開くぐらいに見つめしまった。それほどまでに緋村春歌のした事はありえない事だった。私は自分の中の常識がどこか崩れた気分だった。
しかし煙を上げて横たわっているドラゴンが急に咆哮を上げると、全身が薄い朱色に包まれ、受けたダメージなどなかったかのように勢いよく起き上がったのだ。
「お、お兄様、あれって!?」
「まさか、ヒートアップか?!」
緋村兄妹の言葉に私達は絶望を味わう事になった。
ヒートアップ、一定時間能力を向上させるスキルの上級スキルで、使用すると一定時間、全て能力を三倍にする事ができるスキルでつまり、これであのドラゴンは全て能力を三倍になったという事である。
ただでさえ手に負えそうにない強敵がより強力になったという事である。絶望するなという方が無理だろう。
しかもドラゴンは今までとは違う大きな叫び声を上げ、それを聞いた瞬間、私達は耳に凄まじいキーンとした音がなり、緋村兄妹以外立っていられなくなり大地に膝を付けることになってしまった。
その上、身体が麻痺して力が入らず、中には気絶して戦闘不能なってしまった者も何人かいる。緋村兄妹だけとなり、その上、ヒートアップによって3倍の強さになったドラゴンとその幼生態2体。
もはや勝負は決した状態となり、私を含めここにいる一同が死を覚悟せざるを得なかった。
ドラゴンは翼を広げて低空飛行で、その身体を宙に浮かせ、ドラゴンに向かって「火炎弾」を連発で放ち、緋村兄妹は私達を守るために跳んでくる「火炎弾」を緋村光一は剣で弾くまたは切り裂き、緋村春歌は防御魔法である「マジックシールド」で防いだ。
「マジックシールド」もしくは「破邪」で弾かれた「火炎弾」は着弾した場所で爆発を起こし、あっという間にあたり一面が爆雲で覆われ、視界が見えづらくなりながらも跳んでくる「火炎弾」を防いでいるその時だった。
2体のドラゴンの幼生態が爆雲から飛び出し、緋村兄妹にそれぞれ襲い掛かった。緋村光一は噛み付こうとしたしたドラゴンの幼生態を剣で防いだが、緋村春歌は杖を使って「マジックシールド」を張っていたので、このドラゴンの幼生態に対応できずにとっさに出した左腕を噛み付かれてしまった。
その事に動転したらしく、張っていた「マジックシールド」も消してしまい、悲鳴をあげながらドラゴンの幼生態を引き剥がそうとする緋村春歌。
思わず私たちが「落ち着け!」などの言葉を掛けるが、彼女の耳には届いていないらしくパニックを起こしている様だった。
そんな彼女の様子を緋村光一は明らかにまずいと認識した様で、次の瞬間、素手系の戦闘スキルの1つ「閃光脚」を使ってドラゴンの幼生態の腹を突き破りドラゴンの幼生態は剣から口を離し、苦痛の叫びを上げ、その期を逃さず、ドラゴンの幼生態の腹部から足を出すと、そのまま剣を大きく振りかざし、そのまま一刀両断にしてしまった。
そしてその勢いのまま緋村春歌の元に駆けつけ、彼女の腕に噛み付いていたドラゴンの幼生態を「閃光脚」でぶっ飛ばした。そして妹を落ち着かせようとする緋村光一。
緋村春歌を宥め、落ち着き始めたところで、低空飛行をしたドラゴンが近くまで接近しており、ドラゴンの尻尾が勢いよく緋村兄妹に迫っており、私は叫んだ。
「おいっ緋村光一!後ろだっ!!!」
私の叫びに緋村光一がバッと勢いよく後ろを見るとドラゴンの尻尾が勢いよく緋村兄妹に目前にまで迫っており、とっさに緋村春歌を突き飛ばした直後、ドラゴンの尻尾が彼を弾き飛ばし、あっという間に後ろの岩間に勢いよく激突してなお跳ぶ勢いは止まらず緋村光一の姿は見えなくなってしまった。
弾き飛ばされた時に手から離れたであろう緋村光一の手にしていた剣が私達の眼前近くに突き刺さった。
これを見た私達は皆、絶句しており誰かが呟いた「あいつ死んだんじゃないか・・・。」「どう見ても生きていないだろ。」と言った声が私達の耳に聞こえたが私もその言葉に同感だった。正直、緋村光一はもう生きていまいと思ってしまった。
だが、問題はその後だった。
「いやぁぁぁぁぁ!!、お兄様ぁぁぁぁぁっ!!!」
次の瞬間、緋村春歌は絶叫を上げながら兄の元へと駆け寄ろうとし、この状況においてあまりの愚行に私は落ち着かせようとしたが、彼女には全く聞こえておらず、そこに緋村光一に蹴飛ばされたドラゴンの幼生態が何時の間にか起き上がって近くまで寄っており、そのまま兄の元へと駆け寄ろうとした彼女の背中に襲い掛かった。
緋村春歌がそのことに気づいて振り向いた時、すでにドラゴンの幼生態は大きく口を開けており、そのまま彼女の左肩から右腰に掛けて噛み付き、そのまま押し倒した。
間違いなくこのまま食い殺されるであろうというその光景を私達は絶句しながらみているしかなかった。
しかし、しばらくしても緋村春歌が食い殺される様子がなく、そうこうしている内に噛み付かれてジタバタしていた彼女の手にしている杖がドラゴンの幼生態の顔に直撃して、大地に叩きつけられる事となった。
そして、ゆらりと起き上がった緋村春歌は驚いた事に目に見える様な怪我はなく、キッとドラゴンの幼生態を睨みつけると杖を頭上まで持ち上げると、勢いよくドラゴンの幼生態の頭部へと振り下ろし、頭部を粉砕した。
私達はそれを再び絶句しながら見る中、緋村春歌が今度こそ兄の元へと駆け寄ろうとした時、ドラゴンの放った「火炎弾」の直撃を受けて爆発と共に彼女の身体は痺れて動けない私達の真横へと吹き飛ばされて倒れた。
「おいっ!生きているか?!」と何人かが口々に声を掛ける中、彼女はゆっくりとだが上半身を起こした。
3倍の威力となった「火炎弾」の直撃を受けたにも関わらず、緋村春歌は全身のあちこちに細かい傷や多少の火傷を負ったぐらいで命に関わる怪我は全く負っていなかった事にも驚愕だが、次の瞬間、緋村春歌は女の子座りのままメソメソと泣き出してしまい、別の意味でも驚愕させられてしまった。
今まで多くの冒険者を見てきたが、この様な場面でメソメソと泣き出してしまう者など今まで見たことがない。そもそも常識的に考えて、まっとうな冒険者ならばこのような場面で泣き出す事自体が信じられない思いだった。
緋村兄妹の少なくとも妹の精神性は私達の思うものとは全くの別物であるという事をマジマジと見せ付けられる光景だった。
とは言え、今のこの窮地に何もするわけにはいかないので、私達は叱咤した事となったが、今の彼女には全く聞こえていない様子だった。
今の状況に私達は焦っていた。自分達は動けず、麻痺が取れるにはまだしばらく掛かり、唯一戦える緋村兄妹は片方は生死が分からず、もう一人はメンタルが原因でもはや戦える状態ではない。
故にもはや私達に出来る事はドラゴンを睨みつける事ぐらいしかできない中、ドラゴンは動かなくなった彼女を戦えないと本能的に感じ取ったのか、止めをさそうと翼を大きく広げると彼女に向かって飛翔して迫った。
このまま緋村春歌は殺られるだろうが、私達の近くにいるが故に、このまま私達も巻き添えを喰らって大半が殺される結末が待っているだろう。
もはや、ここまでかとここにいる皆が思った時だった。迫ってきたドラゴンに緋村光一が吹き飛ばされた方から強力なエネルギー弾が跳んできて、ドラゴンの側面に着弾して大きな爆発と共に、直線に吹き飛ばされ岩山に激突して墜落した。
私達はその光景に何事かと驚愕しながらも、何とかエネルギー弾が跳んで来た方を見ると、そこには何かを放った様な構えをした緋村光一が、ほとんど負傷した様子もなく佇んでいた。
が、私は正直、負傷したところも見当たらず、ピンピンしている彼、緋村光一を信じられないモノを見る気持ちで見ていた。他の者達もそうだろう。
妹も妹なら兄も兄と言うのをマジマジと見せ付けられた気持ちだった。緋村光一はそんな私達の考えなど分かるはずも無く、すぐさま妹の元に駆けつけると、緋村春歌は兄に縋る様に抱きつきまた泣き出した。
正直、大きな子供が泣いているのを見ている気分であり、場違いな気持ちだった。
そこにドラゴンがヨロヨロしながらも再び立ち上がってきたので私は叫んだ。
「緋村光一!取り込み中悪いがまたあのドラゴンが動き始めたぞ!!」
私の叫びに、緋村光一はドラゴンを見、立ち上がり、地面に突き刺さっていた剣を引き抜き、
「春歌!春歌も後ろに下がってろ!!」
と妹を後ろに庇いながら剣を構えてドラゴンを睨み付けた。そしてそれからは1つの英雄譚を間近で見る事となった。
彼、緋村光一がドラゴンの放つ火炎弾や尻尾の攻撃も難なく切り払い、逆に「飛翔剛波」を直撃させ、受けたドラゴンが悲鳴と思われる叫び声を上げながら、後ろへと数歩、後退した。
後退したドラゴンは威嚇する様に咆哮した時、ドラゴンの全体を覆っていた薄い朱色の光が消え「ヒートアップ」の発動時間が終了した事を示しており、これによりドラゴンの能力は元に戻った。
これを好機と見た彼はドラゴンへと突撃し、彼に対して繰り出してきたドラゴンの右腕を、何なく避けて、逆に腕の辺りから切断した。
悲鳴を上げるドラゴンキメラに対して、すぐ間近まで接近すると雷魔法を使用した魔法剣技「雷龍斬」の最上級技である「雷龍連撃斬」で、満身創痍にして追い詰めた。
緋村光一が止めを刺そうとした時、ドラゴンは翼を大きく広げ、その時に生じた突風で彼が怯んだ隙にその巨体を大きく宙に浮かしており、そのまま大空へと一直線に飛翔した。
「あのドラゴン、逃げるつもりだ!!」
誰かの叫びに私達はざわめき始め、焦った表情になる中、彼は剣を正眼に構える形で闘気と魔力を込め始め刀身が闘気と魔力で輝くと、彼は剣を左右に大きく振り上げると飛翔して逃げようとしていたドラゴンに対して剣を一直線に振り下ろすと、剣から強力なビームが放たれ、飛翔していたドラゴンを飲み込み、そのまま消滅させた。
それを見て私いや私を含めあの技が何か理解できた者はは今日何度かの驚愕に襲われた。
緋村光一が使用した技は、魔法と剣技のスキルでも最上級技の1つである「天破放刃」であり、これが使えるのは魔法と剣技の両方を極めた達人だけなのだ。断じて緋村光一のような年端もいかない者に使用できる技ではない。なのに緋村光一は使いこなしており、その威力は私が過去、数名が使用した「天破放刃」よりも強力だった。
もはや私の思考は訳が分からないと言わざるを得なかった。
私達の混乱をよそに彼は構えを解き、そして妹の緋村春歌を見て安否を尋ね、受け答えからしてどうやら彼女の精神状態も落ち着いた様で、ゆっくりと起き上がった。
そして次に彼は私達の無事も訊ねてきた。
「シルビアーナ王女もギルドマスターも、その他の皆様も大丈夫ですか?怪我とかはありませんか?」 「あ、ああ、皆、命に別状はないと思う。とは言えまだ身体は痺れているので、動くことはできんが。」
緋村光一に声を掛けられて我に帰った一同は、シルビアーナ王女が代表して答えた。とは言え、今の全ての状況はまだ飲み込めていないのか、それとも受け入れられないのか、どこか呆けた様子だったが。もっともそれは私もだったが・・・。
シルビアーナ王女が回答した直後、魔法を使用し、それにより私達は身体の痺れがとれて起き上がれたので、確認のために「ファインか?」と訊ねると、彼が肯定したのでと礼を述べた。
取り合えず今の状況の整理と確認などをしようとした時、ちらちらと輝く雪が降り始め、「星雪振りか」と誰かが呟き、何人かが空を見上げた。そこに
「あの、僕達、頂上で星雪振りを見たいので、頂上に行ってきて良いですか?」
緋村光一が問い掛け、その質問にシルビアーナ王女を始め、彼の質問を聞いていた者達は一瞬、「はぁ?」と呆けた様な表情をした後、呆れと怒りが混じったような表情したが、私はもう何も思う事はなかった。
ただ、この色んな意味で外れているこの兄妹らしい発言であるとだけ思った。
しかし、シルビアーナ王女は違ったらしく、表情から却下と何か言おうとでも感じられたのだが、その前に「まぁ、よろしいのではないですか?」とミリーナ王女が発言した。
それを機と見て私も「ああ、行ってくればいい。君らの好きにしたまえ。」と呆れた表情をしながらも言ったが、たぶん、その時の私の表情はどこか悟ったような表情だったのではないかと思う・・・。
私達のの発言にシルビアーナ王女達は問いただそうとした時に、彼らは「では、ちょっと行って来ます。」と会釈した後、シルビアーナ王女が止める前に、あっという間に頂上へと向かって行ってしまった。
それを見るだけしかできなかったシルビアーナ王女は私達に「どういう事だ!?」と問い詰めてきたので、
「シルビアーナ王女、あの兄妹はあのような思考をしていると認識した方が良いでしょう。異変の元凶と思われる存在は彼、緋村光一が討伐したので、取り合えず異変は解決でしょう。ならば後のこの辺りを調べるのは私達でも十分に出来ますし、何よりあの兄妹の言動にいちいち振り回されなくて済む。それにあれほどの信じらない戦闘能力をしている以上、反対してもし駄々を捏ねられて暴れらでもしたら、そちらの方が大変でしょう。」
「い、いや、幾らなんでもそれはないだろう・・・。」
引きつった表情で答えるシルビアーナ王女に私は首を横に振った。
「・・・あのような浮世絵離れした兄妹に私達の常識は通用しないと思った方がよろしいかと・・・。」
私の発言に、全員沈黙したが、そこにミリーナ王女が発言した。
「・・・まぁ、あの御兄妹が色んな意味であそこまで外れているとは思いませんでしたが、全く理屈が通用しないわけでもないですので、使おうと思えば使えないこともないと思いますが・・・。」
「まぁ、それは否定しませんな・・・、ただ物凄く扱いづらいだけで・・・。」
私は苦笑しながらそう答え、あの兄妹が星雪振りを見ている間に、この辺りを調べてあのドラゴンの幼生態などがまだ残っていない等を確認した方がいいだろうと伝え、それを聞いたシルビアーナ王女は何ともいえない表情の後、大きくため息を吐いた後、この辺りを調査する様に命じた。
結果的には何も無くこれで取り敢えずは異変解決と思ったところで、緋村兄弟が戻ってきたので、シルビアーナ王女が揶揄したが、彼らには通じておらず、とても嬉しそうな返答に「そ、そうか、それはよかったな」とシルビアーナ王女は少し引きつりながら返した。
私を含めミリーナ王女などを数名を除き、緋村兄妹の反応に呆れた表情をしたが、今回の任務の間に彼らの言動を見ていたため、この兄妹はこういう奴等だという悟りでもしたのか、何人か肩を竦めたぐらいで、それ以上何かを言う事はなかった。
「これからどうするんですか?」と緋村光一が訪ねたので、下山する事を伝え「君達が星雪振りを優雅に観賞している間にこの辺り一帯は調査したしな」と最後に皮肉りながらシルビアーナ王女は彼の質問に返した。
そして下山の準備を始めようとしたところで緋村春歌が
「帰るのでしたらテレポートを使っていいですか?」
と訊ね、それにシルビアーナ王女が答える前にカリンカが噛み付いた。
「はぁっ!?あんた何とぼけた事言ってんの!テレポートでこれだけの人数を運べるわけないじゃない!ボケボケも大概にしなさいよ!!」
まぁ、カリンカが怒るのも理解はできる。瞬間移動魔法「テレポート」は優れた魔法使いであるカリンカでも自分のパーティーメンバーぐらいしか一緒に運べず、また長距離移動も出来ない。
しかし緋村春歌は「でも私できますよ。この人数でテレポートする事ぐらい。」と言って来たので、
「はっ、この人数ときたか。そこまで言うならやって見せてもらおうじゃない。でもできなかったあんた、そのボケボケの言動、帰る間控えてくれる。はっきり言って癇に障ってしょうがないのよ。ねぇ、みんな。」
とカリンカは言って私達に声を掛けてくると何人かが頷いた。どうやら彼らのの言動を不快に思っている者もいた様である。まぁ、その気持ちは分からないでもないが・・・。
しかしカリンカの性格を考えたら普段ならばもっとボロクソに言っているだろう。なのにこの程度で押さえている時点で、カリンカ自身も緋村兄妹、特に兄の強さに内心、恐怖があり、妹の春歌に言い過ぎて光一が出てくるのを恐れているのだろう・・・。
緋村春歌は不安げに兄、光一の方を見ると、光一はやれやれといった様子で「テレポート」を使う様に頷いた。
それを見て春歌は「三精霊王の杖」を掲げて瞬間移動魔法「テレポート」を発動した。
次の瞬間、景色がぶれたと思ったら、大きな街の広場にいた。通行人達がいきなり現れた光一を見て驚愕している。中には腰を抜かした者もいた。
「ち、ちょっとここってグームリーの中央広場じゃない・・・。」
カリンカが震える声で言う。確かにこの街の広場の景色は私達にとってよくなじみのある王都グームリーの中央広場の光景だった。
グームリーの中央広場に「テレポート」で移動した事に私も含め一同は何ともいえない表情をしていたが、カリンカを始め、他の魔術師達は愕然とした表情をしていた。
まぁ、気持ちは分からんでもない。あんなボケボケした娘が、自分達よりも遥かに魔法使いとしての技量が上だなんて、彼女達のプライドを破壊するのには十分なモノであろう・・・。
しかし、兄も兄だが妹も妹という事か・・・、やはりこの緋村兄妹はどちらも私達の常識では考えられない程の技量の持ち主という事か・・・。
「あの、これからどうするんですか?と言うかちゃんと全員いるか確認しないんですか?」
緋村春歌の問いにシルビアーナ王女は「そうだな」と悟ったような表情をしながら、点呼をとり、全員の確認が取れ、全員が「テレポート」でグームリーの中央広場に移動できた事が証明されたので、取り合えず報酬についても含め、これからの説明もしないといけないと言う事で、全員が最初に集まった王城内の第三訓練広場に移動する事になった。
ちなみにユーリ村に待機させていた馬車へは、城に戻ってから連絡兵を出す様である。
第三訓練広場で聞いた内容は、ますは今回の異変解決に参加した者全員への労いの後、今回は色々な事態があり城に勤めている親衛隊員達はともかくとして、冒険者達に支払う報酬を出すのが少し時間が掛かるかもしれないという事と、報酬を支払う時、ギルドで受け取るようになるか、城まで出向いてもらう事になるかは後日連絡するというものだった。
その説明の後、解散となったが、緋村兄妹以外、皆、すぐに出て行く気配がなく、所々で口々に今回の冒険の内容を話していたが、皆が皆、緋村兄妹について話している。
カリンカなどは「何なのよあいつら?!あんなとぼけた奴らのくせに、あんなにどっちも技量はぶっとんでいるなんてふざけているとしか言いようがないわ!!」と喚き散らしており、パーティーの面々が宥めていたが、その表情はカリンカの言い分に賛同していたのが、ありありと理解できた。
そんなカリンカの様子を何気なく眺めているとシルビアーナ王女がエンディア殿とリナリス博士そしてミリーナ殿とアマネ殿を連れて私のところに来て、近くにある応接室に私を招いた。
シルビアーナ王女に進められ材質の良いソファーに座るとシルビアーナ王女が対面に座った。
「リンメイ殿、まずは今回の異変解決のための参加、礼を述べる。」
「いえ、ギルドとしてもこの問題は解決する必要がありましたからな。」
「左様ですか・・・それにしてもいやはや此度の任務、色々な意味で驚かされてばかりでしたな。」
そう言って苦笑するシルビアーナ王女。と言うよりも苦笑するしかないのだろう。
「まぁ、山頂にあのようなドラゴンがいた事も驚きですが、驚きの大半はあの緋村兄妹ですがね。」
「・・・全く、色んな意味であそこまでぶっ飛んだ者達も珍しい。しかしよく今まで良くも悪くもあそこまで目立つ者達が世に知られなかったものだ。私はそれも疑問で仕方がない。」
「仰る通りですね。本当に何者なのだろう・・・あの兄妹は・・・?」
私の言葉に場が沈黙した。しかしいくら考えても答えなど出るはずもなく、かといって本人達に訊ねようとは、本人達の強さや技量を見せ付けられた後では思わなかった。藪を突いてトンでもないモノを出す勇気は私にない。王国側としてもそれは同じだろう。しばらく互いに無言の後、
「・・・考えても分からない以上、それについては今は保留しよう。あの兄妹は言動で何度も隊をかき乱したが、同時に一番の功労者でもあるからな・・・。」
「・・・今回の調査兼討伐に参加した冒険者達に支払う報酬も、いつもの様に、活躍したパーティーに報酬金額を活躍順にいくらか増やして払うと言う形で、此度は緋村兄妹が支払う金額が一番金額多いと言う形でよろしいですかな?」
私の言葉にシルビアーナ王女は即座に首を横に振った。
「いや、今回は討伐したモンスターが、あのような変異体のブラックドラゴンだからな。通常の支払いでは内にも外にも示しがつかなくなるだろう。」
「・・・確かに。」
そもそもブラックドラゴン自体、歩く天災のようなもので、現れた場合、一国の軍隊を総動員しても討伐できるかどうか分からないのだ。それを討伐した以上、支払う報酬も相応のものを払わなければ自国内でも他国にも示しがつかなくなる。
「・・・もっとも魔王が世界を脅かし、世の情勢が非常に不安定な今の時に、アデス山脈の山頂にブラックドラゴンの変異体が出たなどと出たらより不安と混乱を及ぼしかねんが・・・それにそれを一人の新米冒険者が討伐したなどと言っても誰が信じるか・・・、寧ろこの事を公表したら、それこそ混乱を招きかねん。
彼女の言葉に私は同意した。そもそも私自身もあの光景を見ていなければ、ブラックドラゴンの変異体が出たと言う話は信じても、それを一人の新米冒険者が討伐したなどと言われても信じるどころか意にも解さないだろう。
「まぁ、そのような訳故、今から父上である王に伝え、この事を公表するのか、報酬はどうするかを議論する事になるであろう故、しばらくは此度の討伐の内容は伏せ、報酬についてもしばし待っていただきたい。」
事情が事情故に私はその事を了承すると、礼をして応接室を出て、第三訓練広場に戻るとまだ今回の冒険に参加したパーティーは緋村兄妹以外、残っていたので口止めをすると、私を送るために用意されていた馬車に乗り、ギルドに戻った。
ギルドに戻ると職員達が迎えてくれたので、いくつか指示を出すと、今日はもう色々な事があり疲れたのは確かだったので、休む事にした。
次の日、ギルドに顔を出すと職員の何人かが、昨日のアデス山脈の異変調査と元凶討伐の事で色々、訊ねてきた。
伏せて置くように指示したのに大まかだが、内容がもう広まっている事に、参加した冒険者パーティーのどこかがもらしたのだろうという事に、内心、怒りが出、職員達の質問に答えずに、この事を黙っておく様に言って支部長室に入った。
怒り心頭で書類仕事をしているとドロシーが入ってきた。緋村兄弟が訪れたというモノで、内心、随分早いなと思いながらもドロシーと共に部屋から出、緋村兄妹の顔を見ると、
「ああ、来たか。他の冒険者パーティーは、昨日のような重大な依頼をこなした後は、来るのが遅かったり、次の日は来ない場合もあるのだが、君達は普段通りと言うわけか。」
私はそう言って肩をすくめた。話があると言って支部長室の扉を開けて、顎で入る様に命じ、緋村兄妹はそれに素直に従った。
そして、ソファーに座る様に言い、彼らが座ると、私もテーブルを挟む形でむかえのソファーに座った。
「まぁ、まずは昨日の依頼ではよくやってくれたと礼を述べておこう。色々と思うことが無いわけではないが、君達がいなければ、依頼を完遂できたか分からないし、そもそも全滅していた可能性も大いにあったからな。そうでなくても相応の犠牲者は間違いなく出ていただろう。」
「ど、どうも」
「あ、ありがとうございます?」
どこかぎこちない彼らの様子に私は「ふむ?」と一瞬、考える素振りをし、
「どうも君達は、居心地が悪そうだから、礼を言うのはここまでにして、手っ取り早く用件だけ言おう。まず、昨日の依頼の件、アデス山脈の異変の原因はブラックドラゴンの変異体である事、それを君達がほぼ二人で解決した事などは詳細はしばらくの間、公表されない事になった。と言ってもすでに昨日、参加した冒険者パーティーがポロっともらした事もあって大まかな事は冒険者達の間で知られているがな・・・。とはいえ君がほぼ一人でブラックドラゴンの変異体を倒したというのは知られていないがね。まぁ、言ったところでほとんどの者が信じないだろうが・・・。」
そう言って私は苦笑しながら肩を竦めた。
「それと報酬の話なのだが、そんなわけで国の方としてもどういう風に報酬を支払うかで協議しているようだ・・・。普段ならば一番活躍した冒険者パーティーに多く支払って、他は均一な形なのだが、今回みたいに討伐した対象がブラックドラゴンの変異体でそれを一人で倒したなんてだなんて例は過去に無いからな・・・。どれくらいの報酬を支払うべきか、他の冒険者の事もあり、ギルド内で払うか城で払うかなども協議しているようだ・・・。という訳で今回の依頼の報酬は支払われるのに数日掛かるという事だ。話はそれだけだが、何か質問はあるかね?」
私の説明に彼らは顔を見合わせて、緋村春歌がおずぞずと片手を挙げてとんでもない事を訊ねてきた。
「あの、私達、これから別の国に行こうと思っていたんですが、この場合、報酬をもらうまで他国へ行く荷物運びや護衛の依頼って受けられないのですか?」
彼女の質問に私は、内心随分とおかしな事を言うなと思いながらも言った。
「・・・何だ?君達は別の国に行くつもりなのか?」
「「はい」」
私の言葉に二人とも頷くと緋村光一は昨日、兄妹で話し合って、アデス山脈の星雪振りの様な素敵な自然の芸術や、まだ誰も突破していない、もしくはまだ知らないダンジョンに眠るレアアイテムの秘宝、そして世界中の美女、美少女ら、そういうのも含めて素敵な”出会い”を求めて冒険に出る事にしたという事を話した。それを聞き終えた私は、心底アホかこいつらとも思ったが同時にいかにもこの浮世絵離れした兄妹らしいとも思った。
「・・・いやはや、もはや何も言うべき言葉が思い当たらないな。」
頭痛でも堪えるかの様に片手を眉間に当てて答える私。
「・・・ギルドとしてはいけないのでしょうか?」
「・・・この時勢を考えたら、アホかと言いたいが、ギルドとしては君達の行動を縛る権限はない。それと報酬を協議している間に別の案件を受けてはならないという規則もない。とは言え普通は報酬が支払われるまで待つものだが・・・。まぁ、君達の好きにしたらよかろう。と言うか私からはそうとしか言えん。」
「・・・そうですか。ではそうします。思い立ったら吉ともいいますから。」
「・・・そうかね・・・。」
緋村光一の言葉にもはや私は何も言う気が起きず、手で退室する様に仕草をすると、緋村兄妹は一礼して退室して行った。
彼らが出て行った後で、私はあの兄妹の浮世絵離れしたぶっ飛びさに凄まじい疲労感を感じ、しばらく何もする気が起こらなかった。
そして彼らは報酬を受け取らないまま旅立った。受け取るつもりはあるようなので、そのうち取りにくるだろうが・・・。
私はそこまで考えた後、大きくため息をついてシルビアーナ王女が来るのを待っていた。緋村兄妹の事を回想している間に馬車は城に着き、私はすでに城の一室に座っていた。
そしてしばらくしてシルビアーナ王女がエンディア殿とリナリス博士そしてミリーナ殿とアマネ殿を連れて部屋に入ってきた。
「いや、待たせてすまないな。ギルドマスター。」
「いえ、その間、考え事も出来ましたから。」
「ふむ、そう言ってくれるのならばありがたいのだが、さっそく本題に入ろう。」
そう言って討伐報酬の内容が決まった事、今回の討伐内容はしばらくの間、伏せておく事などが正式に決まった事などを伝え、
「その事を、今回の調査兼討伐に参加した冒険者パーティーに伝え、報酬を支払う日時も一緒に伝えて欲しいのだが・・・。」
「ええ、それは了解しました。ただ1つ伝えておかねばならない事が」
私の言葉にシルビアーナ王女が「何か?」と訊ねてきたので、この前の支部長室での緋村兄妹とのやり取りと、もうこの国にはいない事を伝えた。
それを聞いて、ここにいる全員の顔が引き攣っていた。
「い、いやはや、何と言う自由な奴らだ。もはや何もいえん。」
「さ、さすがは緋村さん達というべきなのでしょうか・・・。」
シルビアーナ王女やミリーナ王女が何とか声を出してそう言う中、リナリス博士が「むう」と残念そうな声をあげた。
「うん?どうしたメリル?」
リナリス博士の様子にシルビアーナ王女が訊ねると「ああ、いや、もし彼らにあったら聞きたい事があったからね。それが無くなってしまったから。」と返した。
「聞きたい事?」
「ああ、彼、緋村光一の使っていた剣って極東の島国「ヒーモト」で生み出された神造兵器、神刀「破邪」で、妹の緋村春歌の持っていた杖って南の大陸ムーオで信仰されている三体の神にも近い強力な精霊が力を合わせて生み出した神造兵器「三精霊王の杖」なんじゃないかなって思ったから。」
「「「「なっ?!」」」」
リナリス博士の発言に私達はざわめき、博士に視線が集まり、シルビアーナ王女が真剣な声で訊ねた。
「・・・それは確かなのかメリル?」
「恐らくだが、十中八九間違いないと思うよ。前に見た資料の写真とそっくりだったから。あれが偽者ならば、それはそれで相当な技術だと言ってもいいけど・・・。」
リナリス博士の発言に私達は沈黙するしかなかった。こうして結局、あの兄妹は最後の最後まで私達に驚愕と謎を残していったのである。
話はフォン=リンメイの回想と言う名の第一章の主だった話の彼女の視点からの話なのに、文字数は今までで一番多い2万字越えって一体・・・?