第17話 僕のやりたい事を見つけたよ。
物語的にはまだプロローグ的な感じなのにここまで掛かるって一体?
春歌そしてシルビアーナ達一同に襲い掛かろうとしていたドラゴンキメラに、素手系の戦闘スキルの1つで飛び技系の1つである「気功破」の上位版である「気功剛破弾」を放って、その窮地を救った光一。
シルビアーナ達一同はしかし、ドラゴンキメラの強力な一撃を直撃で受けたにも関わらず、負傷したところも見当たらず、ピンピンしている光一を信じられないモノを見る目で見ていた。
「ヒートアップ」によって3倍の強さになったドラゴンキメラの尻尾による攻撃を受けても、その元々の壊れ性能と上級防具のお陰でほとんどダメージはなかった。
それならばすぐに助けにこいよという事になるのだが、尻尾による攻撃を受けて岩壁に叩きつけられた時に、軽く脳震盪を起こしたらしく僅かの間だが、気絶してしまっていた。ここら辺がうまく受身を取るなりして衝撃を逃がす事ができない辺り、光一も身体の性能をまだ完全に使いこなせていないと言えるだろう。
次に光一が目を覚まして起き上がり、自分が吹き飛ばされた方を見ると、シルビアーナ達一同は麻痺により動けないので変化はないとして、義妹の春歌は女の子座りをして泣いており、ドラゴンキメラはそんな春歌に襲い掛かろうとしていたので、光一は「気功剛破弾」を放って冒頭に戻るという訳である。
そして光一はすぐさま春歌の元に駆けつけると、春歌は光一に縋る様に抱きつくと今度は安堵からかまた泣き出した。
春歌ってこんな性格だったっけ?と内心、首を捻りながらも春歌を抱きしめて宥めていると、ギルド長のフォン=リンメイが叫んだ。
「緋村光一!取り込み中悪いがまたあのドラゴンが動き始めたぞ!!」
フォン=リンメイの叫びに、光一がドラゴンキメラに目を向けると、確かにドラゴンキメラがヨロヨロしながらも再び立ち上がってきた。
「春歌!春歌も後ろに下がってろ!!」
光一は立ち上がり、地面に突き刺さっていた「破邪」を引き抜き、春歌を後ろに庇いながら「破邪」を構えてドラゴンキメラを睨み付けた。
ドラゴンキメラは今度は飛翔する事無く、そのまま威嚇する様に近づいてくると、口から「火炎弾」を放ってきた。光一はそれを「破邪」で難なく切り払っていくが、その隙に再びドラゴンキメラの遠心力による勢いがついた尻尾による攻撃が光一に迫ってきた。
だが、今度は庇ったり守ったりする者がいないので、光一は「破邪」を構えて自分の剣の間合いに入った瞬間に振り下ろした。
次の瞬間、ドラゴンキメラの尻尾は見事に断ち切られ、切断された。
この光景にシルビアーナ達一同も驚いた様だったが、ドラゴンキメラも驚いた様で、一瞬、動きが止まった。
その隙を突いて光一は再び「飛翔剛波」を放ち、またもや直撃を受けたドラゴンキメラは悲鳴と思われる叫び声を上げながら、再度、後ろへと数歩、後退した。
後退したドラゴンキメラは威嚇する様に咆哮した時だった。ドラゴンキメラの全体を覆っていた薄い朱色の光が消えた。
「ヒートアップ」の発動時間が終了した事を示しており、これによりドラゴンキメラの能力は元に戻った。
元々ドラゴンキメラに勝機などなかったが、これによりもはや完全にドラゴンキメラの運命は決定したと言ってもよかった。
光一は「破邪」を握り締めながらドラゴンキメラへと突撃した。本当は春歌に強力な魔法を放ってもらったらもっと早く決着が着くのだろうが、今の春歌の精神状態では酷だと思ったので春歌に魔法を放つ様に指示を出さなかった。
ドラゴンキメラは向かってくる光一に対して右腕を繰り出してきたが、光一はそれを何なく避けて、逆に腕の辺りからドラゴンキメラの右腕を切断した。
悲鳴を上げるドラゴンキメラに対して、すぐ間近まで接近すると「破邪」に魔力を流して雷を纏わせるとそのドラゴンキメラの巨体に大降りで一撃、二撃、三撃と凄い速さで斬り付け、そのたびに「破邪」に纏った雷の魔法がドラゴンキメラの全身を貫き、最後の十一撃目は真正面から上段から一直線に振り下ろすと、今までよりも強力な雷がドラゴンキメラの全身を貫いた。
雷魔法を使用した魔法剣技「雷龍斬」の最上級技「雷龍連撃斬」で、これを受けたドラゴンキメラは倒れはしなかったが、もはや満身創痍である。
光一が止めを刺そうと思った時、ドラゴンキメラは翼を大きく広げた。その時に生じた突風で光一が怯んだ隙にドラゴンキメラはその巨体を大きく宙に浮かしており、そのまま大空へと一直線に飛翔して行く。
「あのドラゴン、逃げるつもりだ!!」
シルビアーナ達一同の誰かの叫びにざわめき始める一同。ここで逃がしたらここまで来た徒労が無駄に終わり、異変自体も解決できない。ついでに言えばシルビアーナ達王国側の人間は任務失敗となり、評価に響くだろうし、フォン=リンメイ達、冒険者ギルド側の人間は払われる報酬が大幅に低くなる。
一同が焦った表情になる中、光一は「破邪」を正眼に構える形で闘気と魔力を「破邪」に込め始めた。
「破邪」の刀身が闘気と魔力で輝くと、光一は「破邪」を左右に大きく振り上げると飛翔して逃げようとしていたドラゴンキメラに対して「破邪」を一直線に振り下ろした。
魔法と剣技のスキルでも最上級技の1つである「天破放刃」で、振り下ろした「破邪」から強力なビームが放たれ、飛翔していたドラゴンキメラを飲み込み、そのまま消滅させた。
空へと放たれた「天破放刃」のビームもしばらくして消え去り、ドラゴンキメラが飛翔していた方を見ていた光一は構えを解いた。そして春歌を見て安否を尋ねた。
「春歌、大丈夫?大怪我などは負っていないか?」
「・・・はい、色々と攻撃は受けましたが、問題はないです。大丈夫です。」
どうやら春歌の精神状態も落ち着いた様で、ゆっくりと起き上がった。
光一は春歌の状態を訊ねた後、シルビアーナ達一同の状態も訊ねた。
「シルビアーナ王女もギルドマスターも、その他の皆様も大丈夫ですか?怪我とかはありませんか?」
「あ、ああ、皆、命に別状はないと思う。とは言えまだ身体は痺れているので、動くことはできんが。」
光一に声を掛けられて我に帰った一同は、シルビアーナが代表して答えた。とは言え、今の全ての状況はまだ飲み込めていないのか、それとも受け入れられないのか、どこか呆けた様子だったが・・・。
シルビアーナの回答に、そういえば全ての状態異常を治す状態回復魔法「ファイン」があった事を思い出し、光一は「ファイン」をシルビアーナ達一同に使用した。
光一の使用した魔法により身体の痺れがとれた一同は起き上がり、フォン=リンメイは「ファインか?」と訊ね、光一が肯定すると礼を述べた。
取り合えず今の状況の整理と確認などを一同がしようとした時、ちらちらと輝く雪が降ってきた。
「星雪振りか」と誰かが呟き、何人かが空を見上げた。
光一と春歌も空を見上げると、ちらちらと輝く雪が降ってくる。空には星も輝いており、本当に星が降ってきている様に見えた。
もう少しで頂上なので、頂上で見たらより星がはっきりと見えるので、更に綺麗に見えるだろう。
「ねぇお兄様、頂上に見に行って見ませんか?」
「えっ、いや、それは見に行ってみたいけど、今は依頼を受けている最中だし、さすがに駄目だろう。」
光一は春歌の提案に面食らった様だったが、すぐに駄目出しを出した。
「でも異変の元凶はお兄様が倒したじゃないですか。」
「いや、まぁ、そうだけど・・・。」
「だったら、訊くだけ聞いてみませんか?」
諦めずに食い下がる春歌に、光一も仕方がないなという表情をしながらも、一応、訊いてみる事にした。
光一も何だかんだいって、頂上で星雪振りを見たい気持ちがあったのだ。
「・・・あの、すいません。」
「うん?何だ?どうかしたのか?」
「あの、僕達、頂上で星雪振りを見たいので、頂上に行ってきて良いですか?」
光一の問いにシルビアーナを始め、光一の質問を聞いていた者達は一瞬、「はぁ?」と呆けた様な表情をした後、呆れと怒りが混じったような表情した。
シルビアーナが却下と説教をしようと口を開こうとした時、その前に「まぁ、よろしいのではないですか?」とミリーナが声を発した。
それに続いてフォン=リンメイも「ああ、行ってくればいい。君らの好きにしたまえ。」と呆れた表情をしながらも、どこか悟ったような表情で言った。
その二人の発言にシルビアーナ達はどういう事かと問いただそうとした時に、光一と春歌は「では、ちょっと行って来ます。」と会釈した後、頂上へと向かって駆け出した。
シルビアーナが止める前に、あっという間に行ってしまった。
「見てくださいお兄様!とっても綺麗ですよぉ~~~!!」
「ああ、そうだね春歌。とっても幻想的で綺麗だ。」
アデス山脈の頂上についた光一と春歌は天を見上げ、空から降ってくる星雪振りを見て感動の声を上げた。
先程の頂上付近で見た時も綺麗に見えたが、頂上で見ると星がより大きく見え、より幻想的に見える。
元の世界ではこのような光景はテレビやネット、本などでしか見たことがなかったので、より感動があった。
「この世界はこんな素敵な景色もいっぱいあるんですよね。」
星雪振りを見ていた春歌は何気にそんな事を言い、光一は「ああ、そうだろうね。」と答えると「だったらそんな素敵な景色をもっと色々と見てみたいですね。」と返してきた。
そんな春歌の言葉に、光一は春歌の方を見ると、空を見上げている春歌の横顔は、元々この世界に来てから目の覚めるような美少女顔なのが、今はより綺麗に見えて、そんな義妹を自分の恋人に出来たらいいのになと、ふと思った。
そこで光一は何気に今回の依頼で出合った冒険者達を思い出し、そういえば彼らのパーティーってハーレムパーティーで何気に羨ましいと思ったっけと思い出し、ゲームの「フリーダムファンタジープレイ」もストーリーそっちのけで色々とプレイが出来、その内の1つにハーレムを作るなんてプレイもあったなと考えた後、プレイした「フリーダムファンタジープレイ」の仲間や恋人に出来るヒロイン達を思い出し、次にこの世界で出会ったヒロイン達を思い出した。
どれも性格はともかく美女ばかりなのは確かだったので、ゲームに出てくる多くのヒロイン達もこの世界にもいるだろう。
そこで光一は突如閃いた。この世界にも魔王はいるが、それを倒す勇者もゲーム通りにいるので自分はそれに関わらず、だったらそんなまだ見ぬヒロイン達を求めて冒険に出て、自分も何度か迎えたハーレムエンドを目指そうと思った。
そう思った瞬間、何かが腑に落ちた感じがし、やる気が出てきて嬉しくなった。
「春歌」
「何ですかお兄様?」
「僕は見つけたよ。この世界でやりたい事が・・・。」
「はぁ」
光一の言葉に、星雪振りを見ていた春歌は不思議そうな表情で光一を見たが、光一は嬉しそうな表情で星雪振りを見ていた。
今の光一には星雪振りはより輝かしく綺麗なものに見えた。
光一と春歌はしばらくこの幻想的な星雪振りを見続けた。
次は一応、プロローグ的でもある第一章のラストのつもりです。
年内には書き上げてみせるぜ!!