第16話 光一と春歌、初の苦戦をするとの事
何とか11月中に上げる事ができました。
そう少し早く書き上げる事ができないかなぁ~。
呆然と固まっている一同に対し、ドラゴンキメラは容赦なく右腕を勢いよく振り下ろし、一同が我に返った時には、もうドラゴンキメラの右腕がすぐ近くまで迫っていた。
ただでさえ元の素体であるブラックドラゴン自体が最上級モンスターであり、それをより強化改造したドラゴンキメラの一撃は、一同を蹴散らすには十分な威力だった。
ここにいるほとんどが死への恐怖や、後悔、無念と言った絶望の表情を浮かべるが、一同にその一撃が届くことはなかった。
光一が「破邪」を引き抜いてドラゴンキメラの一撃を受け止めたのである。
『!?』
シルビアーナ達一同の驚愕をよそに光一は「うわああっっっっ!!」と力いっぱいに叫び、ドラゴンキメラの右腕を押し返しきって弾き飛ばし、ドラゴンキメラに隙が出来たところに「飛翔剛波」を放った。
右腕を押し返されて弾き飛ばされ、その反動で無防備な身体を晒したドラゴンキメラに光一の放った「飛翔剛波」が直撃して大きな叫びをあげながら、ドラゴンキメラは数歩後退した。
それを見て光一が叫んだ。
「春歌、今だ!!」
「はいお兄様!!」
リトルドラゴンキメラ達にも使用した上位重力魔法である「グラビティプレス」を春歌は発動させてドラゴンキメラを大地に縫い付けた。
しかし、リトルドラゴンキメラ達と違い、それなりにダメージは与えている様だが、弱らせるまでに至っていなかった。
だが、ドラゴンキメラの動きを止める事はできたので、光一は「破邪」を構えてドラゴンキメラを見据えたまま、後ろにいるシルビアーナ達一同に「大丈夫か!?」と声を掛けた。
声を掛けられて、今まで呆然としていた一同は我に返り、シルビアーナはフォン=リンメイやミリーナ、自分の親衛隊長のエレーナに、素早く確認を取り「ああ、問題ない」と返した。
それを聞いて取り合えず安堵をすると「それでこれからどうするんですか?」とシルビアーナに尋ねる光一。
そこにドラゴンキメラが少し弱めの叫び声を上げた。何事かと光一と春歌を含む一同が警戒すると、すぐにその答えが出た。
一同の後方からしばし前に聞いた叫び声が複数、聞こえてきた。
「マジか?!まだ仲間がいたのか!?」
「ちょっと!?これってとんでもなくやばくない?!」
「・・・最悪の事態も想定した方がよさそうですね・・・。」
敵の増援として現れた2体のリトルドラゴンキメラ達を見て、一気に騒ぎだす一同。光一と春歌もまたもやゲームにはない展開に、もう驚きも突っ込みもなかったが、歯噛みしたのは確かだった。
そこに目の前のドラゴンキメラが「グラビティプレス」を打ち破って霧散させ、その巨体を起こしてきた。
そして一同を威嚇する様に唸り声を上げたが、その瞳には光一と春歌が写っている。どうやら先程のやり取りで、完全に光一と春歌が標的となった様だった。
「どうやら僕と春歌は完全に目を付けられたみたいだな。それで結局、これからどう動いたら良いのですか?それともそれぞれが自主行動で後は臨機応変ですか?」
シルビアーナに尋ねるに再度どう行動するのか尋ねると、シルビアーナはわずかに思案すると、
「・・・緋村兄妹、先程の攻防とあれの標的となったという事であれの相手を任せても良いか?」
と光一と春歌に尋ねてきた。そのシルビアーナの問いを聞いた何人かはありえない事を聞いたと言う表情でシルビアーナを見たので彼女は手早く説明した。
「先程の攻防で、彼らが今回のメンバーの中では一番戦闘能力が高いの事実、しかもドラゴンの方も彼らに目をつけたので、彼らにドラゴンの注意を引き付けてもらうのがこの状況ではベストだろう。無論、倒せとは言わんし、援護の戦力も何人か残す。要はドラゴンの注意を引き付けて欲しいのだ。その間にあの二匹の幼生体を残った戦力で潰す。そしてドラゴンを討伐する。策としてはこのような感じだ。」
まぁ、無難と言えば無難だが悪くないんじゃないかなと光一が聞いて思っていると、シルビアーナは主だったメンバーのまとめる者達に、賛成か否かを問うており、尋ねられた者達は皆、他に案もないのか賛成の様だった。
そこに光一と春歌にも「それでよいか?」と尋ねられてきたので、光一と春歌としては少し驚いた。顔はドラゴンキメラから目を離すわけにはいかないので、シルビアーナの方を向かなかったが、光一達の驚きが伝わったのか、「貴殿らが面だってあのドラゴンの相手をする事になるのだから、意志を確認するのは当然だろう。」と返ってきた。
なるほど~と納得しながら光一と春歌も肯定した。「では」とシルビアーナが続けようとしたところで、ドラゴンキメラは両足で大地をしっかりと踏みしめ、身体を固定して顔を突き出し口を光一達一同に向けて大きく開け、口の中に膨大な魔力が凄い勢いで集まり始め、口の中が輝き始めた。
ゲームのドラゴンキメラが使ってくる攻撃方法の中で一番強力な「メガビームブレス」と全く同じ行動なので、この目の前のドラゴンキメラがこれから放ってくるのも「メガビームブレス」だろう。
何人かがドラゴンキメラの射程範囲内から逃げる様に叫んだが、もう間に合わない状態だったので、光一はゲームで、今、自分の身体となっているプレイヤーキャラが一定のレベルを越えた辺りで、このドラゴンキメラ相手に使った戦法を、この現実になった世界で通用するかどうか分からなかったが使用する事に踏み切った。
「春歌、リフレクションプレートを使え!!」
発動すると敵の魔法攻撃や跳び系の剣技や格闘技を反射する防御魔法「リフレクションプレート」、反射できるのは使用キャラの魔法技量によって変わってくるが、ゲームにおいて今の春歌の身体となっているプレイヤーキャラは、ドラゴンキメラの「メガビームブレス」も反射して、ドラゴンキメラに大ダメージをあたえていたので、今の春歌も理屈で言えば「メガビームブレス」も反射できるはずなのである。
春歌も光一のその考えを察し、「リフレクションプレート」を発動した。
それを見て外野は「何を考えてるんだ?!」とか「無茶だ!死ぬぞ!!」と喚いていたが、光一と春歌は構わず、ドラゴンキメラは「メガビームブレス」を放った。
その結果、光一と春歌の賭けは勝ち、春歌の発動した「リフレクションプレート」はドラゴンキメラの「メガビームブレス」に耐え切って反射し、ドラゴンキメラに直撃し、ドラゴンキメラは大きな悲鳴を上げながら、その巨体を大きく転がして、今はあちこちから煙を上げながら横たわっている。
その光景をシルビアーナ達一同は信じられない顔で穴が開くぐらいに見つめている。まぁ、彼女達の常識で考えれば、ありえない事で一種の奇跡を見ているのだからこの反応も納得といえば納得といえた。
しかい何時までもカカシの様に突っ立ってられても困るので、光一が声を掛けようとした時だった。煙を上げて横たわっているドラゴンキメラが急に咆哮を上げると、ドラゴンキメラの全身が薄い朱色に包まれ、受けたダメージなどなかったかのように勢いよく起き上がった。
「お、お兄様、あれって!?」
「まさか、ヒートアップか?!」
ヒートアップ、「フリーダムファンタジープレイ」において使用できる一定時間能力を向上させるスキルの上級スキルで、使用すると一定時間、全て能力を三倍にする事ができるスキルである。
光一と春歌は、ここにきてヒートアップによってドラゴンキメラの能力が一定時間とはいえ全ての能力が三倍になった事も驚いたが、何よりもドラゴンキメラがヒートアップを使用した事に驚いた。
ゲームの「フリーダムファンタジープレイ」においてはアデス山脈のドラゴンキメラ戦においてドラゴンキメラがヒートアップを使用する事もなければ、そもそも設定においてもヒートアップを使用できるなんて設定はないからである。
自分達の知っている知識において、使用できない敵が使用するというのは、場合によっては驚かないでもないが、ドラゴンキメラのような強力な敵が使用するなんて展開には「ふざけるな!!」と叫びたい気持ちに駆られた。
そんな光一達の思いなど理解するはずもなく、立ち上がったドラゴンキメラは今までとは違う大きな叫び声を上げた。
それを聞いた瞬間、光一と春歌は当然の事、後ろで光一達のやり取りを聞いてざわめいていたシルビアーナ達一同も、耳に凄まじいキーンとした音がなり、光一と春歌以外立っていられなくなり大地に膝を付けることになってしまった。
それを見て光一はしまったと思った。ドラゴンキメラが繰り出す攻撃技の1つ、「パラライズボイス」で、これを喰らうとダメージとともに一定の確率で状態異常の1つ「麻痺」を起こり、一定時間動けなくなってしまう。
これにより状態異常に対する抵抗値が凄まじく高い光一と春歌は、多少のダメージを受けただけだったが、シルビアーナ達一同とってはただでさえそこそこのダメージをうける「パラライズボイス」が、ヒートアップの発動によってかなりのダメージを受けた上に全員、麻痺が発動して動けなくなってしまった。
中には気絶して戦闘不能なってしまった者も何人かいる。どちらにしろ動けるのは光一と春歌だけとなり、その上、ヒートアップによって3倍の強さになったドラゴンキメラとリトルドラゴンキメラ2体からシルビアーナ達一同を守らなければならなくなり、状態は一気に不利になってしまった。
思わず歯軋りしてしまう光一だったが、ドラゴンキメラはそんな事を意に解す筈も無く、翼を広げて低空飛行で、その身体を宙に浮かせ、光一と春歌に向かってドラゴンキメラの攻撃技の1つである「火炎弾」を連発で放って来た。
シルビアーナ達が動けない以上、避けるわけにもいかず次々に飛んでくる「火炎弾」を光一は「破邪」で弾くまたは切り裂き、春歌は防御魔法である「マジックシールド」で防いだ。
「マジックシールド」もしくは「破邪」で弾かれた「火炎弾」は着弾した場所で爆発を起こし、あっという間にあたり一面が爆雲で覆われ、視界が見えづらくなりながらも跳んでくる「火炎弾」を防いでいるその時だった。
2体のリトルドラゴンキメラが爆雲から飛び出し、光一と春歌にそれぞれ襲い掛かった。光一は噛み付こうとしたしたリトルドラゴンキメラを「破邪」で防いだが、春歌は「三精霊王の杖」を使って「マジックシールド」を張っていたので、リトルドラゴンキメラに対応できずにとっさに出した左腕を噛み付かれてしまった。
その事に動転したらしく、張っていた「マジックシールド」も消してしまい、悲鳴をあげながらリトルドラゴンキメラを引き剥がそうとする春歌。
後方のシルビアーナ達が「落ち着け!」などの言葉を掛けているが、春歌の耳には届いていないらしくパニックを起こしている様だった。
そんな春歌の様子を光一は明らかにまずいと認識したので、まずは目の前のリトルドラゴンキメラをすぐに倒さねばならないと決意し、素手系の戦闘スキルの1つ「閃光脚」を使って鋭い勢いのついた蹴りを無防備なリトルドラゴンキメラの腹に放った。
光一の「閃光脚」はリトルドラゴンキメラの腹を突き破り臓器を破壊し、リトルドラゴンキメラは「破邪」から口を離し、苦痛の叫びを上げた。その期を逃さず、光一はリトルドラゴンキメラの腹部から足を出すと、そのまま「破邪」を大きく振りかざし、リトルドラゴンキメラに勢いよく斬り付け、そのまま一刀両断にした。
そしてその勢いのまま、春歌の元に行き、春歌の腕に噛み付いていたリトルドラゴンキメラにもう一度「閃光脚」を使った。
悲鳴の叫びを上げながら大きくぶっ飛ばされるリトルドラゴンキメラ。だが光一はリトルドラゴンキメラに止めを刺す前に義妹の春歌を落ち着かせようとした。
「春歌、落ち着け!」と春歌の両肩を持って春歌を宥めると、春歌も光一の顔を見て安堵したのか落ち着いた様に見えた時だった。
「おいっ緋村光一!後ろだっ!!!」
フォン=リンメイの叫びに光一がバッと勢いよく後ろを見ると低空飛行をしたドラゴンキメラが近くまで接近しており、ドラゴンキメラの尻尾が勢いよく光一と春歌に迫っていた。
とっさに春歌を突き飛ばした直後、ドラゴンキメラの尻尾が光一を弾き飛ばし、あっという間に後ろの岩間に勢いよく激突してなお跳ぶ勢いは止まらず光一の姿は見えなくなった。
弾き飛ばされた時に手から離れたであろう「破邪」がシルビアーナ達の眼前近くに突き刺さった。
これを見たシルビアーナ達一同は絶句しており誰かが呟いた「あいつ死んだんじゃないか・・・。」「どう見ても生きていないだろ。」と言った声が春歌を含む一同の耳に聞こえた。
「いやぁぁぁぁぁ!!、お兄様ぁぁぁぁぁっ!!!」
次の瞬間、春歌は絶叫を上げながら光一の元へと駆け寄ろうとした。シルビアーナやフォン=リンメイなどが「ば、ばか者!今、この状況で敵に背を向けるな!!」「お、落ち着け緋村春歌!」「ここでパニックを起こしたら、間違いなく全員死ぬぞ!!」と叫んだが、今の春歌には全く聞こえていなかった。
そこに光一に蹴飛ばされたリトルドラゴンキメラが何時の間にか起き上がって飛行で春歌の近くまで寄っており、そのまま光一の元へと駆け寄ろうとした春歌の背中に襲い掛かった。
春歌がリトルドラゴンキメラの接近に気づいて振り向いた時、すでにリトルドラゴンキメラは大きく口を開けており、そのまま春歌の左肩から右腰に掛けて噛み付き、そのまま春歌を押し倒した。
それを痺れて動けないシルビアーナ達一同は再び絶句しながらみているしかなかった。
リトルドラゴンキメラはそのまま春歌を食い殺そうとしたが、ここでリトルドラゴンキメラにとって誤算が起きた。どれだけ顎に力を入れても春歌の身体に牙をより深く突き立てようとしても突き立てられず、肉を噛み千切る事もできない。
春歌の凄まじい防御力に加え、上級の防具の効果故に、リトルドラゴンキメラの攻撃は春歌にダメージを与える事無く、そうこうしている内に噛み付かれてジタバタしていた春歌の手にしている「三精霊王の杖」がリトルドラゴンキメラの顔に直撃して、噛み付きを外されて、大地に叩きつけられる事となった。
リトルドラゴンキメラの重量が無くなり、何とか起き上がった春歌はキッとリトルドラゴンキメラを睨みつけると「三精霊王の杖」を頭上まで持ち上げると、勢いよくリトルドラゴンキメラの頭部へと振り下ろした。
次の瞬間、果物の様にリトルドラゴンキメラの頭部が砕け散った。シルビアーナ達一同がそれを絶句しながらみている中、春歌が今度こそ光一の元へと駆け寄ろうとした時、ドラゴンキメラの放った「火炎弾」の直撃を受けて爆発と共に春歌の身体はシルビアーナ達一同の真横へと吹き飛ばされて倒れた。
「おいっ!生きているか?!」と何人かが口々に春歌に声を掛けると、春歌はゆっくりとだが上半身を起こした。
3倍の威力となった「火炎弾」の直撃を受けたにも関わらず、春歌は全身のあちこちに細かい傷や多少の火傷を負ったぐらいで命に関わる怪我は全く負っていなかった。
しかし春歌の精神の方は限界を超えてしまったらしく、女の子座りのままメソメソと泣き出した。
これを見たシルビアーナ達一同は「泣いている場合か?!」や「しっかりしろ!緋村春歌!!」「状況を理解しているのか?!?!」と言った叱咤の怒声が飛んで来たが、今の春歌の耳には全く聞こえていなかった。
ここでいくら春歌の身体の能力が高く、強力な武器を持っていても精神面は普通の一般人、ましてやこういう極限に近い状況なんぞ経験した事もない平和な世界の住人の精神が浮き彫りになった。
もし、春歌がシルビアーナ達の様にこういう修羅場を何度も経験して精神面がもっと強く、状況を冷静に見れたのならば、自分達の今の身体のスペックと身に着けている防具の性能の事から光一が吹き飛ばされて些かのダメージを負ったぐらいで命に別状は無い事に気づけたであろう。
事実、この世界の中でも強力なモンスターに上位に入るドラゴンキメラの「火炎弾」の直撃を受けても多少の負傷程度でピンピンしている事や、リトルドラゴンキメラに噛み付かれても春歌の手や身体が何とも無い事がそれを証明している。
これがシルビアーナ達ならば間違いなく致命傷になっただろうが、春歌や光一には何て事もない攻撃なので、泣き崩れる事もなければ、思いっきり動揺する事もなかっただろう。
しかし現実には精神面にこのような耐性がない故に、春歌はそれに気づかずに泣き崩れ、もはや戦闘ができる状態ではなくなっている。
シルビアーナを始め主だった者達は焦っていた。自分達は動けず、麻痺が取れるにはまだしばらく掛かり、唯一戦える緋村光一と春歌の2人は片方は生死が分からず、もう一人はメンタルが原因でもはや戦える状態ではない。
もはやドラゴンキメラを睨みつける事ぐらいしかできない中、ドラゴンキメラは動かなくなった春歌を戦えないと本能的に感じ取ったのか、止めをさそうと翼を大きく広げると春歌に向かって飛翔して迫った。
春歌はシルビアーナ達一同の近くにいるが故に、このままではシルビアーナ達一同も巻き添えを喰らって大半が殺されるだろう。
もはや、ここまでかと思ったときだった。迫ってきたドラゴンキメラに光一が吹き飛ばされた方から強力なエネルギー弾が跳んできて、ドラゴンキメラの側面に着弾して大きな爆発と共に、ドラゴンキメラはそのまま直線に吹き飛ばされ岩山に激突して墜落した。
シルビアーナ達一同はその光景に驚愕しながらも、何とかエネルギー弾が跳んで来た方を見ると、そこには突き出した両手の下と下の部分を合わせる形で何かを放った様な構えをした光一が、ほとんど負傷した様子もなく佇んでいた。
やっぱりヒーローはヒロインの危機に駆けつけるのは王道ですよねw
でもこう見ると物語的には進んでいないんだよな 汗




