神様稼業
「よし、お主にワシの力の全てをやろう」
前任者滅神の際の晴れ晴れとした表情を最近無性に思い出す。
妄想の中でぼこぼこに殴りつける。それが最近の俺のストレス解消方法だ。
今なら判る。前任者も魂がすり減って、減って減って減りまくって、ついに自神の存在を維持出来なくなったのだろう。
そしてそれが、たとえようもない福音であったことも。
そう思いながら、俺は土下座を敢行する。
検定でもあれば、多分準一級は余裕だな。
今この場の現場検証なら、一級も夢じゃない。
そう自神を慰める。
「ごめんなさい、当方のミスです」
俺は下っ端。苦情処理係。
同僚(超先輩)や上司(超越先輩)の尻ぬぐいばかりしている。
なんであいつらのうっかりミスだとか紛失書類の後始末だとかをしなくてはならないのか。
査定に響くからだ。
俺は信者ゼロなので、給料(信仰心)が削られると、存在そのものがヤバイのだ。
遙か昔に滅んだ宗教で、残った信仰心を細々と自神の維持に費やし、就活に成功したのだ。
まぁ常に神員募集の酷い職場だったから、一発採用な訳だったのだが。
そして指導係(同じく信者無し)は必要最小限の事だけ教えてくれて、冒頭のセリフを吐いてくれやがった。
くそう、能力だけ譲られても、俺という神の存在がどこにも知られていないのだから、信仰されるはずもない。
そもそも俺自神、何を司っているのやら記憶と歴史の彼方に消えてしまって判らないのだから、権能の振るいようもないのだが。
…そう、譲られたのは力は力でも、苦情処理係としての権力であり、実態は汚物処理だ。くそう。
「では、チート能力で異世界はどうでしょう。剣と魔法の中世ヨーロッパ風で、オレツエー無双できますよ」
「まあ仕方ねぇな。それで手を売ってやるよ」
鼻の穴ピクピクさせながらドヤ顔をしている。
うわー、なんで毎回こんなのをピンポイントで事故死させるかなぁ。
まぁ送り先は同僚や上司の担当世界だが。
適切に処理しましたと報告書を上げれば、中身を見もせずに承認印押すからいいけどさ。
「では、自由に振る舞ってくださって結構ですよ。最近停滞しているので、世界を革新させる刺激が必要なんです」
そう言い残せば、ご覧のとおりだよ。
はっはっはっ。ザマァ。予想通り、色々やらかしてくれてるよ。
おおー、どんどん神への信仰心が減っていくなぁ。
まぁ担当神が俺だと勘違いしているので、愉快な勘違いが繰り広げられているが。
これは楽しみだな。来世(神世界での1ヶ月相当)の給与明細が、同僚と上司の。
ああ良かった。俺の給与査定が苦情処理件数だけで。
上にいる奴らが転落したら、どうしよう。
部下になるのかな? でも能力的に変わるわけ無いから、多分相変わらず禄でもない失敗を多発されるんだろうなぁ。
よし、仕事は変わらず行こう。
ただしチート野郎どもをしっかり管理させるようにしよう。
俺は最初に頭下げるだけの簡単なお仕事だ。それで永遠に縁が切れる。
一方管理する方は、多分永遠に延々と後始末に追われるはずだ。
俺がチート能力を付けまくるし、恋愛フラグを刺しまくっておいてやるし、最近不老不死も流行ってるし。
こんだけ色々付けておけば、後始末に大わらわで俺への苦情を書類にまとめる時間もないだろう。
官僚機構主義万歳。正規書類じゃなきゃ受け付けない硬直組織最高。
あいつらはハンコ押すだけの簡単なお仕事としか認識していないが、補佐という名目で一切合切押しつけられた俺なら分かり切っている。
重箱の隅を突き崩して作った削りカスを文句と不受理の対象とする位だ。
サボっていたあいつらには、絶対に俺を飛び越えて提出出来る書類を作成出来るはずがない。
そうそう嫌がらせついでに、転生者をこっそり寿命無しの種族にこっそり変更させておくのもいいな。
美形両親を選んでおけば、相当な確率がない限りは美形に生まれるだろう。
まぁ内面が表情ににじみ出るだろうから、多分相当のマイナス補正で、せいぜいいい顔かもぐらいで終わると予想するが。
で、勘違いした奴らが、きっと色々とやらかしてくれるんだよ。
あー、なんだかストレスがすーっと消え去った。
この先が楽しみだ。仕事にやりがいが出来たぞ。
よし、頑張ろう。
のちの部下諸君よ。いるとは思えないが、聖人君子な転生者に当たるといいな。
あ、ダメか。奴隷制度改革とかで、世界中を引っ掻き回してくれるに違いない。
くっくっくっ。ああ、楽しみだ。
(おしまい)




