四階の講義室
「あぢぃー・・・。」
机上にぐだっと伸びて舌を出しているソイツは、どこからどうみても熱中症の犬でしかなく、見ているこっちの方が暑苦しくなってきて、私はクリアファイルを取り出した。ソイツは目敏く反応する。
「お、いいねぇソレ。俺を扇いでいいぞ、許す。」
「何様だ。」
「俺様―。」
にへら、と笑う。結局私は扇いでやることになる。ファイルの中にプリントが一枚と手紙が一通入っていた。この手紙の中身は何だったろうか。あぁ、そうだった、これは・・・。
「で、さぁ。いま俺考えたんだけど。すげーこと思い付いちゃったんだけど。」
「ふぅん。」
「聞きたいか?」
聞かなくても話し出す。それを分かっている私は黙っていた。
「防災訓練でさ、俺一回使ったことあるんだけど・・・四階から安全に降りんのにさ、窓から、こう―――輪っかになってる布を通るんだよね。分かる?」
と、言いながら机によぼよぼの線を引く。長方形の、頭の方の側面から斜めに棒が二本。棒と棒の内側で、棒人間が両手を上げている。
「あれなぁ、この大学にもあんだって。」
「へぇ。」
「うちの大学、坂だらけじゃん? あれ適当な斜面に設置してさ、あん中に水 流して、『夏季限定特設ウォータースライダー 一回三百円!』とかって言ってやったら、結構稼げると思うんだけど、どうだろう?」
どうもこうもないだろう。「いいんじゃないか。」と適当に返しておいた。どうせコイツは言うだけだ。案外、常識と非常識の境界線は弁えている。
「だよなー、いいよなぁー。ぜってぇ稼げると思うんだけど。どうすりゃ使わせてもらえんのかなぁ。」
「さぁな。」
冷たい相槌を打つ私にソイツは一言。
「いろいろ水に流してぇことばっかじゃんか、なぁ。」