表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/15

あなたのことがどうしようもなくすきなんです

 その人は奥さんのいる人だった。

 奥さんも子供もいる人だった。

 会社では信用されていて、部下が大変な時にちゃんとフォローを入れてくれる立派な上司だった。


 でも、私はだめな人間だから。

 だから私は、彼に恋をしてしまった。


「こんなおじさんに、そんな冗談を言っちゃだめだよ」


「冗談なんかじゃないんです」


 仕事上でのことで相談があるといって、私は彼を居酒屋に誘い出すことに成功した。

 いつも子供の顔を見るためにと速攻で帰宅してしまう彼を、短い時間でも独占できたことに高揚してしまったのだ。

 過ぎた酒は口を滑らせてた。

 彼は一瞬驚いたように目を見開き、そしていつものようににこりと笑った。

 その目じりによった皺にさえ、私は恋をしていた。


「聞かなかったことにしてあげるから」


 そう言って立ち上がりかけたその人の、スラックスのすそを掴んだ。

 どこまでも必死で形振り構わない、醜くてモラルの欠如した私。

 軽蔑しないでください。蔑まないでください。

 それでもあなたが好きなんです。


「わかってます。でも好きなんです。どうしようもないんです」


 無理やりにでも個室にしてよかった。

 隣の個室では多分大学生たちが、酒に浮かれて騒いでいる。


 顔を見る勇気がなくて、視線を落とせば自分のストッキングが少しだけ伝線していた。

 よれてねじれて正しくなくて見苦しい。

 それが、今の私には相応しい。


 どれほどの時間がたったのか。

 その人は私を振り払いもせず、優しく私の指をはずした。

 そして私の手を取り、言ったのだ。



「俺にいじめられたいか?くそやろう」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ