カレー
カレーを作った。ただのカレーだ。市販のルーで作ったから不味くはないはずだった。茶色くてどろどろしていて、はじめにこれを作った人間は美味しそうだなんて思えたのだろうかと考えた。きっとその人は、この先日本でこんなにも多くの人が、カレーを食べるようになるなんて思いもしなかったはずだ。
私も、はじめにその嘘をついたときは、まさかこんなに大事になるなんて思ってもいなかった。ただ窮地から逃れたいだけの、言い訳じみた嘘だった。愛情を欲しがる、醜い嘘だった。
あなたの目が見開いたとき、それだけでわかった。いや、本当はもっと前からわかっていた。あなたは私なんて必要としていないって。
ただ独り暮らしで、部屋も会社から近くて、恋ばなをするような友達もいない、そんな私なら便利で安全だと考えたのだろう。
逃げられない飲み会の帰り、手を繋がれて私はそれだけで舞い上がってしまった。部内でも明るくて人望のある、私とは違うカーストに属してる人だったから。
浮気してるのと問い詰めたとき、てゆーか付き合ってもいないでしょってあなたはため息をついた。私を馬鹿にした顔で。
耐えられない屈辱だった。死ぬか殺すかしたかった。でも臆病な私の本性が、そんな恐いことできるはずもなかった。
だからつまらない嘘をついた。男の人が一番動揺しそうな嘘を。
意味ありげにお腹を撫でた私を、あなたは化け物を見るような顔で見わね。
知らないと叫んで、私の部屋を出ていった。
私なんかに、幸せが訪れるはずはなかったのね。