復讐じゃないの
自分の人生に復讐したいわけではないの。
つまらない家を抜け出して、安っぽいジャグジーに身を沈めているのは。
母親に言いなりの、旦那を憎んでる訳じゃないの。
ただ姑に支配された家の中では、息が出来ないだけなの。
まさくんは優しい。
メールで知り合った、名字も知らない人だけど。
彼に抱かれているときだけ、自分が選択を間違ったんじゃないかって疑いを捨てられるの。
学生時代の友人たちは、PTAの愚痴をまるで勝ち誇ったように語る。ちさとももうすぐだよって、ストレスがいけないんなだからあんまり考えないようにしなよって、私を傷つける言葉ばかり投げつけて。
じゃあ女の出来損ないみたいな私は、どんな言葉を返せばいいの?
人の出来損ないになりたくないから、怒鳴り返さないだけなのよ。怒鳴る元気もないほど、疲れきっているだけなのよ。あなたたちのLINEグループから、逃げる勇気もない私だけど。
浴槽の泡は不自然に固まったまま。水をかければ、儚く消えてしまうの。
まさくんは、彼女が冷たいといつも私に甘えてくる。彼女がいるのに、どうしてこんなことをするのなんて、こわくて聞けないの。
私を裏切った人生に、復讐したいわけではないの。
ただ、まさくんの子供を孕んでしまいたいだけなのよ。