さよなら
「えっと…口でしようか?」
「いや、別にいいよ。疲れてるから」
『疲れてる』って言葉が、どれほど私を傷つけるか貴方は知らない。
『別に』って言葉で切り捨てられる、私の虚しさを貴方は知らない。
したかったわけじゃない。
ただ貴方に、喜んでほしかった…。
愛が降り積もるには時間がかかるのに、壊れるのは一瞬なのはなぜだろう?
高校で二年生の時に同じクラスになった。
最初はふざけてダベるだけの友達で。
グループで花火を見たし、映画にも出かけた。
私は本当は彼の友達が好きだったけれど、その人には既に恋人がいて。
相談に乗ってくれたのが、彼だった。
別に顔はかっこよくないけど、頭がいいわけでも運動が出来るわけでもなかったけど、優しかった。
惨敗のクリスマス、迫られたキスから、私は逃げなかった。
高校を卒業して、彼は地元で就職して、私は地元から都内の大学に通った。
毎日会いたいってほど必死じゃなくて、でも一週間に一度会えないと寂しかった。
大学は自由で、楽しくて、多分私は浮かれていた。
引き換えに彼は毎日忙しくて、会うたびに表情を失っていくのが分かった。
「別に一週間に一度会わなくてもよくない?」
電話口で、私が黙り込んだのは何秒だった?
うん分かったと、言った言葉は震えていなかっただろうか?
疎遠になっていく、それが目に見えて分かるのに、怒れるような私じゃなくて。
自分ではお金を稼いでないって負い目が、いつもあった。
本当は大学に行きたかったのに、家の事情で就職しなくちゃならなくなった彼の、奥底にある私への八つ当たりめいた憤りに、私は気付かないふりをしていた。
結局、わかっていたんだ。
これは長く続く恋じゃないんだって。
大切だった安物の指輪が、失くしても気付かないぐらい普通になって。
一緒に観た最初の映画を思い出せなくなって、電話しなくても平気になって、スタンプばかりの会話を続けて。
あなたの匂いが、もう思い出せないの。
大好きだった声が、今は遠すぎて聞えない。
確かに好きだったと信じたいけれど、それは幼い恋だったから。