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第8話「詰んだ人生、俺に任せろ!」

 ……とまあ、こんな経緯いきさつで俺はここまで来たんだ。

 ごめん!

 話が結構長かったけれど、これで分かってくれた?


 え?

 充分分かった?

 俺も『ついていない人生』だけど、お前は断然それ以上?

 とても気の毒だって?


 ああ、その通りだな。

 でも折角転生したから、ぜひ巻き返したいよ。

 身体も強くなり、チートスキルもたくさん貰ったから、残りの人生、大いに楽しみたいよ。

 

 じゃあ、これで回想は終わり、ご清聴ありがとう!

 引き続き、ぜひぜひ最後までお読み下さい。

 宜しくお願いします。


 ふうう……


 という事で……話は戻る。

 俺は深呼吸をした。

 目の前のアーサー王子から、いろいろな情報を聞かされて、さすがに混乱している。 


 うん、今の俺は、精神体アストラル……

 すなわち幽霊の筈なのだが、不思議と胸が「どきどき」する。

 細かい事はもう考えず、そんな時は深呼吸だと思い、やってみたら簡単に出来た……


 そして、落ち着いたら……えらくムカついて来た。

 

 ロ、ロキの奴ぅ~!

 話がちが~~う!!!

 「おめぇが転生するのは単なる地方領主の息子」に、とか言ってたじゃないか。

 あの、大嘘付き野郎! 詐欺師!


 しかもだ、いくらチート満載且つ万全な状態でもさ……

 単なるパンピーの俺へ、

 「いきなり王位継承して王家を盛り立てろ!」と言ってもだいぶ無理があるんじゃあ……

 

 それもさ、このアーサー王子の国って田舎の小国じゃない。

 更にいえば、ガルドルド帝国っていう強大な敵対国があって、いつ攻められるか戦々恐々としているらしい。

 

 まあ確かにロキの言う通り、信長の置かれた状況に似ている。

 信長の領国尾張と今川義元が治める駿河って感じかも……


 仕方ない。

 とりあえず、詳しい事情を聞いてみるか。 


『あのアーサー王子……言い難いけど実は俺、貴族ではないっす。前世では、と~っても地味~な平民だったのですよ』


『何? 太郎殿が平民? そうなのか?』


『そうっす! だから、引き継ぎしても果たしてお役に立てますかね?』


『ふうむ……』


『出来れば……自信ないからパスしたいっす』


 と、お伺いを立てると、アーサー王子の顔がみるみる青くなって行く。

 「今更、話が違う!」という感じだ。


『いやいや! 太郎殿! そんな事、言わないでくれ! 私の代わりになってくれ、頼む!』


『んな事言っても。俺……あんたが今まで生きてきた過去を全く知らない。王族の物言いは勿論、作法も分からない。このままでは、入れ替わっても絶対にボロが出ますよ。一体、どうすれば良いっすか?』


 俺は思わず泣きを入れてしまう。

 これはズバリ本音。

 

 だって、現状のままでは余りにも情報不足。

 ロキから何の説明もなし。

 このまま入れ替わって、もしも俺が『偽者』だとばれれば……

 

 ざっくり! 

 市民の前で公開処刑されてしまうかもしれない。

 中世西洋の死刑方法も読んだ事があるけど……ぞっとする。

 

 うわ!

 折角転生出来たのに、すぐ死ぬ?

 さすがにそんなの嫌だ。

 いっそ、このまま逃げようか。

 身軽な幽霊のままで……浮遊霊と呼ばれても構わないから。

 

 しかし、その辺はさすがに悪辣とはいえ神様のはしくれ、ロキはしっかりと考えてくれたようだ。

 アーサーが「安心しろ」と言うように、にっこりと笑ったのである。


『大丈夫! 太郎殿が平民でも王族未経験でも心配無い! それも神から聞いている』


『え? 聞いているんですか? 俺には何の説明もなかったのに……』


『ああ、男同士で嫌かもしれないが、私と手をつないでくれ。私の全ての知識と経験をお前に与えよう、注意すべき人物や事柄も全てな……』


 げげっ、引き継ぎの為に仕方ないとはいえ、

 確かに嫌だな……男同士で手を繋ぐのなんか……

 多分、大昔幼稚園のお遊戯で、女子が足りなくて友達と手を繋いだ以来だ。

 

 そんな俺の気配を察したのか「すまんすまん」と、アーサー王子は平謝りである。

 仕方なく、俺が恐る恐る手を伸ばすと、王子はしっかりと俺の手を掴んで来る。

 

 うわあ、でも、しゃあねぇ。

 一回覚悟を決めれば、後は開き直りだ!

 

 恐る恐る手を繋ぐと……

 すんげぇ!

 一気に!

 アーサー王子の記憶が、鮮明な映像付きで、俺の頭へ流れ込んで来た。

 まるでドキュメンタリー映画のように、アーサーのナレーション付きで語られて行く。

 

 改めて思い知らされた。

 彼の住むアルカディア王国は、周辺を強国のガルドルドや微妙な関係の魔法王国アヴァロンに囲まれた辺境にある弱小国なのである。

 

 現在、やまいに臥せっている父王は40代半ば。

 病はなかなか回復せず、長きに渡って寝込んでおり、重くなるばかり……

 早くも、跡目相続の話が出ている。

 

 しかも3つ違いの弟、第二王子コンラッドが全てにおいて、アーサーよりも出来が良いと来た。

 なので、母親である王妃、宰相を始めとした家臣の大部分がそいつを推しているようなのだ。

 

 逆にアーサー王子に、味方は殆ど居ない。

 数少ない味方は、子供の頃からの御付きである公爵の爺やと実直な騎士数名くらいだ。


 ああ、この設定は、もろ同じ!

 父王は織田信秀、弟コンラッドは織田信行だろう。

 やはり中世西洋風の……『信長ワールド』なんだ。

 俺が信長の居る日本の中世へ転生するのが叶わなかった代わりに、ロキの奴、こんな凝った設定を用意したんだろう。

 

 そしてまた、意外な事実が……

 驚いた事に、アーサー王子は既婚。

 既に、イシュタルという嫁が居た。

 

 改めて詳しく聞けば、完全に政略結婚。

 嫁イシュタルはこれまで一度も会った事もない隣国アヴァロンの王女だという。

 

 それも今日、アルカディア王国へ来たばっかりだとか。

 もしやイシュタルが、斉藤道三の娘で、信長の妻・帰蝶って設定なの、ロキ先生?

 

 って、あのさ……それよりアーサー大先生。

 ……自分の嫁が来る凄く大事な日に、旦那が普通こんな森に居る?


 そして挙句の果てに木から落ちてあっさり死ぬなんて……

 俺に負けず劣らずのダメっぷりじゃないか?


 何か、悲しくなって来た。

 同じ詰んでる人生同士として。


 そんな事をつらつら考えていたら……

 次に大写しとなった美しい少女を見て……

 俺は仰天してしまった。


 何?

 こ、この超絶美少女はぁ!

 まるで、どこかの西洋人形?

 

 い、否!

 超レア物の萌えフィギュアみたいに可愛いっ!

 こんな可愛い子……見た事がないっ!

 世の中に実在するんだ?


 と、思っていたら、アーサーが淡々と語って行く……

 

 え?

 この子が、アーサーの実妹エリザベスだって?

 

 オーマイガー!

 アーサーに、全然似ていない。

 でも彼にすっごく懐いてる?

 超ブラコン?

 うっそ!

 

 俺が、吃驚して口をあんぐり開けていると……映像は終わった。


『太郎殿、本当にすまん、申し訳ない……』

 

 どうやらアーサー王子が先ほどからずっと謝っているのは、男同士で手を握る事ではなかった。 

 自分が置かれた苦しい立場を一方的に俺へ押し付け、自分は別の世界へ転生してしまう事らしかった。

 おお、軟弱者なのに結構責任感は強いんだ。


 俺は、アーサーの必死な顔を見て考えた。

 結局、俺がアーサーの『尻拭しりぬぐい』をする形になるのかぁ。

 

 性格は、結構良い奴だと思うけど……

 俺以上に、詰んでる人生じゃないか。

 

 でも……人の事は言えない。

 キモいブタローの俺だって、前世では最早、詰んでいた人生だったもの。

 

 もし俺が、信長みたいな冷静沈着且つ豪胆不敵な男だったら……

 陽気に笑い飛ばして、あっさり切り抜けられるかもしれないけど。

 

 超小心者のチキンな俺じゃあ、不安だ、凄く……

 ロキから貰ったチート能力が、果たしてどこまで役に立つことやら……

 

 俺は再び、懇願するアーサー王子を見た。

 相変わらず、すがるような目で俺を見つめている。


 もし俺が、ここで「やっぱり嫌だ」って言っても、選択肢は他に無いだろう。

 だから、もう覚悟を決めるしかない。


 唯一救いなのは……

 アーサー王子が、宮中のどの人間よりも、領内の事情に明るい事。

 彼は宮中に居ていろいろな人間に陰口を叩かれるよりはと、思い切って外へ出たようだ。

 

 つまり領内の庶民達、いわゆる働く人に直接触れていたいと、僅かな供を連れてまめに領内を回っていた。

 

 これって、信長がやっていた事と同じかも。


『うつけ』とか、『あくたれ』で嫌われていたらしい信長と違うのは、アーサー王子の方は領民達の話をよく聞き、出来る限り彼等の不満に対応したって事。

 それ故、宮中で人気のある第二王子コンラッドより、領内の農民の間ではアーサー王子の方が断然人気があるらしい。

 けして逞しく強い男ではないが、アーサー王子の穏やかな人柄を領民は皆、慕っているようだ。


 この王子が急に居なくなったら、きっと悲しむ人だって居るんだものな。

 多分、あのエリザベスちゃんも含めてさ。

 

 むむむ……仕方ない!

 これも俺の運命か。

 どうせ俺は刺されて、一旦は死んだのだから。

 

 あの詐欺師ロキからいいように、もてあそばれる俺に、他へ行く宛てなどない。

 決めた!

 優しく誠実な、アーサーの跡を継いでやろう。


『分かった、アーサー王子。俺、貴方と入れ替わるよ』


『ほ、本当か!?』


『ああ、転生するのは俺自体が望んだ事だから……』


『太郎殿! あ、ありがとう! 恩に着る』 


 俺はアーサー王子に対して「もう気にするな」と伝えてやった。

 するとアーサーは「ホッ」としたように俺にもう一回、ちゃんとした握手を求めて来た。

 

 今度はさっきと趣旨が違うので、俺もしっかり握り返す。

 俺の手を握ったアーサーは吃驚していた。

 大きく、目を見開いている。


 おいおい、どうしたの?

 一体、何を驚いているのだろうか?


 と思ったら、アーサー王子が大声で叫ぶ。


『見えた! い、今! 痩身の武将が見えたぞ! 矢で鋭く的を射抜くような、厳しい目付きをした真っ黒な鎧をまとった男だ!』


『え?』


『ああ! 彼はノブナガというのか?……素晴らしい男だったらしいな。私もあんな風になりたかった』


 ありゃ!

 どうやらアーサー王子へ、俺の持つ信長のイメージと知識が流れ込んだらしい。

 そして……今迄過ごして来た自分の人生へ、強い後悔が押し寄せて来たのか……

 

 うん!

 俺にも……アーサー王子の気持ちが少しだけ分かる……

 今思えば、俺だってもっともっとこれまでの人生を頑張れば良かった、なんて思うもの……


 再び見ればアーサーは涙ぐんでいた……

 愛する妹、そして生まれ育った故郷への惜別の念……

 

 そろそろ、アーサー王子は旅立つらしい。

 遂に別れの時が来たのだ……

 そんな哀しい波動も俺へ伝わって来る……


 思わず、アーサー王子と同じ気持ちになった俺から、自然と別れの言葉が出る。


『心配するな! 大丈夫だ、後は任せろ……アーサー王子』


『た、太郎殿!』


『次の異世界で、今度こそ幸せになれるといいな……気を付けて、アーサー王子』


 俺の別れの言葉を聞いて、アーサー王子は更に胸が一杯になったようだ。

 目を大きく見開き、声は大きく震えている……


『お、お、おお! 太郎殿、あ、ありがとう! 本当にありがとう! 特にエリザべスを頼むっ! 利発で可愛くて思い遣りがあって、我が妹ながら本当に良い子なんだ! 必ず守ってやってくれっ!』


『よし分かった! 約束しよう!』


『う、うむ! 安心したっ! で、では、さらばだっ! 重ね重ねお願いするが、妹とアルカディア王国を頼むぞ……太郎殿、そなたの健闘を祈っておる』


 アーサー王子の感謝と惜別の念が、俺の心を満たしたその瞬間……

 意識は、また遠くなって行ったのである。

東導 号作品、愛読者の皆様!

特報です!


『魔法女子学園の助っ人教師』


『第5巻』の発売が決定致しました!

皆様の多大なる応援のお陰です!

本当に、本当にありがとうございます!

発売日等、詳細は未定です。


◎そして!

この度『コミカライズ』が決定致しました。

宜しければ、11月12日付けの活動報告をご覧下さいませ。


既刊第1巻~4巻が発売中です。

店頭でぜひ、お手に取ってくだされば嬉しいです。

既刊が店頭にない場合は恐縮ですが、書店様にお問合せ下さい。

この機会に4巻まとめ買い、一気読みなどいかがでしょうか。

皆様の応援が、次の第6巻以降の『続刊』につながります。

何卒宜しくお願い致します。

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