第63話「帰還」
そんなこんなで……
イシュタル父アルベール・サン・ジェルマン王との会見は終了した。
かつて織田信長が義父斎藤道三に後ろ盾となって貰ったのと同じくらい、実りのある会見だ。
具体的にいうのなら……
アヴァロン魔法王国との軍事平和同盟を継続し、履行の確認をした事。
岩塩を中心とした商業取引の足掛かりを作った事。
対ガルドルド帝国の作戦実施用意と俺の覚悟を見せた事。
そしてアルベールへはといえば、こちらの手を完全には見せず威圧した事。
俺の人となりと器を見せた事等々。
時は金なりという。
もしくは疾風迅雷という響きも素敵である。
両方とも俺の方針にピタリと合致する言葉だ。
やるべき用事は既に済んだ。
取り交わすべき約束もした。
ならば、早々に引き上げるのが肝要。
というわけで、俺はアルベールに別れを告げると、速攻で帰途についた。
しかしただ帰るだけでは意味がない。
王国内の治安向上を旨に、訓練を兼ねた魔物掃討戦を実施しながら帰還する。
但し、例の金属棒は使用しない。
奥の手としてまだまだ隠しておく。
帝国とアルベールに対する謎かけにもしたいからね。
俺の率いる母衣衆3隊は騎士団に劣らず精強であった。
マイルズ兄弟、猿ことトーマスを煽り競わせていたし、『馬に人参作戦』で報奨金も大いに弾んだから尚更だ。
帰路にはゴブリン、オーク、オーガなど人喰いの魔物が数多出現した。
だが、難なく蹴散らし、倒す事が出来た。
しかし、帝国軍が使う人喰いの魔物軍団は遥かに強力であろう。
だから、今回の戦いは単なる練習台にしかならないと思える。
但し、我が隊が人外相手の戦いに慣れるくらいは出来た筈である。
こうして……
行きと同様帰還まで約2週間かかった行程ではあったが……
戦闘訓練に明け暮れた母衣衆の精鋭達は確実に経験を積み、スキルアップしたのである。
やがて……
王都ブリタニアに入ると、黒母衣衆のひとりを使いに走らせた。
俺達の無事を先に伝える為である。
開け放たれた正門には……
平手政秀ことマッケンジー公爵、柴田勝家ことガレス等々、塩湖へ遠征中のバスクアル以外の面々が揃い、出迎えてくれた。
そして配下の騎士団、兵士の面々も……
それだけ、俺の生還、そしてアルベールとの会見の成否が注目されていたという事。
当然、出迎えの中にはイシュタルとエリザベスの顔も見える。
「ははははは! 今、戻った! 皆の者、出迎えご苦労。万事が上手く行った!」
俺の大音声を聞き、
「「「「「おおおおおおおおおおっ!」」」」」
と出迎えの者全員が応え、歓び叫んだ。
続いて俺は言う。
「ひと時休む。母衣衆も解散して休め。報告はその後、爺!」
「は! 若! ここに居ります」
俺は、マッケンジー公爵以外にも聞こえるように大きく声を張り上げる。
「暫し後に呼ぶ! 呼ばれたら俺の居間へ来い!」
「御意!」
「それと、イシュタル! エリザベス!」
「は、はいっ! 旦那様!」
「お兄様、エリザベスはここに居ります」
「お前達ふたりはすぐ俺の居間へ来るように! ふたり同時に話す事がある! 良いかっ!」
「了解ですっ!」
「かしこまりましたっ!」
愛する嫁、愛しい妹……
ふたりの元気な返事を受け、俺は満足して頷いたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
30分後……
指示通り、俺の居間へイシュタルとエリザベスは訪れていた。
無理やり同じ長椅子に座らせると……
両端に離れ、少し身体をねじって、視線を合わせないのはご愛敬だ。
向かい側の長椅子に座った俺は、軽く息を吐く。
何故、このふたりを先に呼んだのか?
それは俺にやりたい事があったから。
その『やりたい事』を嫁と妹へ見せるのだ。
「イシュタル!」
「はいっ!」
「エリザベス!」
「はい!」
「詳細な報告は爺が来てから行う。共に俺の話を聞くように」
「はい!」
「かしこまりました!」
「ふむ! お前達を爺より先に呼んだのは、俺の覚悟を見せる為だ」
「覚悟?」
「お兄様、何の覚悟でしょう?」
「ははははは! 帝国の外道めが、まもなくこのアルカディアへ攻めて来る。えげつない魔物共の大軍と一緒にな」
「な!」
「ほ、本当でございますか?」
「ああ! 本当だ! 但し詳しい話は後だ! まずは黙って俺の唄と舞いを見よっ!」
「え? 唄う?」
「お兄様が舞う?」
「ああ、いつ覚えたかとか、どこの国の唄とか、詮索は一切無用! 俺の姿、その眼に間違いなく焼き付けいっ! 唄を魂にしっかりと刻み込めぃっ!」
俺はそう言い放つとすっくと立ち上がった。
ロキの奴……
『信長スキル』にこのような特技も入れておいてくれたのだ。
やがて……どこからともなく、幻の唄と調べが聞こえて来る。
と同時に、俺の身体にも変化が生じる。
ああ! 身体の切れが良い。
おお! 手足が自然に動く。
そう!
もうお分かりであろう。
俺が唄い舞おうとしているのは、
信長が好んだ幸若舞『敦盛』 の一節なのである。
知らない方も多いと思うが……
この唄は平敦盛自身の心持ちではない。
敦盛を討った源氏方、熊谷直実が出家する際の心情が描かれているのだ。
思へば……
この世は常の住み家にあらず……
草葉に置く白露、水に宿る月よりなほあやし。
金谷に花を詠じ、榮花は先立つて無常の風に誘はるる……
南楼の月を弄ぶ輩も 月に先立つて有為の雲に隠れり。
人間五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり。
一度生を享け、滅せぬもののあるべきか。
これを菩提の種と思ひ定めざらんは、口惜しかりき次第ぞ。
ああ、凄いよ、凄いっ!
俺の身体が言葉が完全に信長と化している。
ふと見やれば……
何と!
イシュタルとエリザベス、ふたりが手をつないでいる!
固くしっかりと、つないでいる!
俺の唄と舞いを見て、驚き、呆然としているかと思えば……
否!
確かに驚いてはいるが……
呆然などしてはいない。
ふたりとも身体が打ち震えている。
唇を強く噛み締めている。
大粒の涙を流している。
こらえるように嗚咽している。
ふたりが、何故こうなったのか……
俺には分かる。
多分、ふたりには唄の言葉の持つ意味は分からないだろう……
舞いがどこの国の物かは、見当もつかないだろう……
だが!
俺の魂から発する、信長の強き心構えと潔い覚悟が……
不思議な感動を呼び起こしたのだ……
いがみ合うふたりの心をひとつにし、強く深く打ったのである。
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