第62話「道三会見⑥」
これから俺が『念話』を使うと聞き、アルベールは身構えた。
傍から見ても分かる。
緊張し、身体に力が入っている。
念話を行使するのは相当な術者だという認識があるのだろう。
そもそもアルベールはこの世界でも相当な魔法使いだ。
諺にあるじゃないか。
一流は一流を知ると。
何?
俺が小賢しいって?
いやいや、たまには、少しくらい自慢しても良いよね?
アルベールは俺に対し、最初は戸惑い、今や怖れているやもしれない。
『大うつけ』だと、巷で噂の俺だったが……
実際に会えば全く違うという印象を持ったはず。
また……
魔法使いという同じ土俵上でも、底知れぬ力を持つ者だと知った。
けして侮れぬと感じたに違いない。
さあ、用意は良いか、オヤジ殿。
準備は万端か?
俺は心の中で、密かに呼び掛けながら、軽く息を吐く。
そして念話をオン!
早速、話を切り出した。
『おい、オヤジ殿』
『う、う、ほ、本当に! ね、念話を使うのだな?』
もしかしたら、半信半疑だったのか……
俺が念話を使うと、アルベールは大仰な反応をした。
だが俺は華麗にスルー。
きっぱりと言い放つ。
『当たり前だ。この期に及んで嘘などついても時間の無駄じゃ』
『むうう』
またもや唸るアルベール。
何とか主導権を握ろうと考えているのだろうが……無駄だ。
『俺もオヤジ殿も忙しい身じゃ。単刀直入に言おう』
『むう……』
『やがて帝国が動き出す。アルカディアを潰す為にな。だが俺は奴らを迎え撃つ』
『な、帝国が動く!? ム、ムコ殿が! む、迎え撃つだと!』
『ああ、その時奴らは本腰を入れて、徹底的にアルカディアを攻めるだろう。それに対し、我が王国は当然反撃すると申しておるのだ』
『な、何故! いきなりそのような事を言う?』
『ははははは! そちらこそ何を言っておる。オヤジ殿、察しが悪いぞ』
『な、何!』
『もっと頭を使えというのじゃ。先ほどからヒントをたくさん与えておるではないか』
おお、自分でも信じられないくらい大胆な物言い。
さすが信長スキル。
以前から思っていたけれど……
ようこそ、信長。
小心な太郎よ、バイバイさようならって感じだ。
一方、当たり前というか、アルベールは激怒する。
『な、何だ! 若造の癖にその言い方は! 生意気なぁ! む、むっか~』
『いかんなぁ、オヤジ殿は。俺の話をしっかり聞いていてくれないと困る』
『むっか~むか~』
『まあ、そう怒るな。許せよ、オヤジ殿。貴方と話しているとつい、いじりたくなるのじゃ』
『くうう……』
『話を戻そう。オヤジ殿との会見で、俺が真性の大うつけや阿呆ではないと知れただろう?』
『む……』
『その事実を知ったのは、オヤジ殿だけではない。この場に帝国へ通じる者が居れば、明日にでも速攻で伝わるじゃろう』
『むう……確かに』
『唸るのを止め、やっと言葉を発したか?』
『うぬ』
『帝国は近い内に攻めるであろうよ、アルカディアをな』
『…………』
『簡単な理屈じゃ。禍根を断つ! というではないか。俺が真の大うつけならば攻めるのはずっと後回しで良い。しかし小利口な若造なら後が面倒、大きくならぬうちに攻め潰せ、帝国皇帝はそう考える筈』
『な、成る程』
『ここでじゃ、先ほどオヤジ殿と結んだ同盟が改めて役に立つ』
『むう……同盟がか、話が見えて来たぞ』
『うむ! 俺は罠を仕掛ける。さすれば、オヤジ殿が帝国へ痛撃を加える大きな機会となるのじゃ』
『分かった……ムコ殿は敢えて囮となり、それを私が背後から挟撃する、そういう事なのだな?』
『そうだ! 背後から襲うのは卑怯、騎士道にもとるなどと抜かすなよ、オヤジ殿』
『い、言わん! 帝国相手にまともに戦ったら、我々は確実に敗北する。国力が違い過ぎる。大人と子供だ』
『ははははは、小さな子供であるオヤジ殿は、でっかい大人の帝国に勝つ為、策を弄するのは当たり前という事じゃな。俺も全く同意見だ』
『おお、ムコ殿にも分かるか! 正々堂々、正義を貫くなどとこだわらない。なりふり構わず、ありとあらゆる策を持って戦わねば帝国には勝てぬのだ』
『ははははは、ようやく意見は一致したな。でもまだ俺には策がある。ここからが肝心じゃ』
そう、俺にはまだ作戦が残っている。
それをこのオヤジへ伝えなくてはならない。
案の定、アルベールは驚く。
『な、ムコ殿にはまだ策があるだと? 肝心!? そ、それは!』
『ズバリ言おう。三重の罠じゃ。すなわち伏せ勢! 先ほど両国間で塩を輸送する話をしただろう?』
『あ、ああ、そうか!』
『おお、さすがはオヤジ殿、気が付いたか?』
『おお、今度はさすがに気が付いたぞ』
『うむ! 奴らに奇襲をかける為、オヤジ殿、我がアルカディアの輸送隊共々、直前まで輸送専門の部隊に擬態する。そしてじゃ、もしも戦が始まれば、180度転進、奴らの背面から隙をつき攻撃するのだ』
『お、おおおお!』
『俺、オヤジ殿の本隊、両国の連合奇襲部隊、都合三方から帝国軍を包囲、総攻撃開始じゃ!』
『ムコ殿! す、素晴らしい作戦だ! と、共に勝とうぞ、帝国に! 絶対勝とう!』
『無論じゃ。但し裏切りは許さんぞ』
『相分かった。裏切りなど愚かな真似をしたら私も滅ぶ。ムコ殿にもその言葉、そのままそっくり返してやろう』
『はははははははっ!』
さすが『蝮』と渾名される曲者オヤジだ。
一筋縄ではいかない。
俺は思い切り大笑いして、了解の返事に代えたのであった。
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