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第61話「道三会見⑤」

 特殊な防具、母衣ほろの説明を受け、納得したアルベールではあったが……

 母衣衆の捧げ持つ金属棒も気になる様子である。


「むうう……ではムコ殿。あ、あの棒は? あの金属の棒はどのようなものなのだ? 見たところミスリル製のようだが……」


「ははははは、教えるのはひとつだけと言っただろう。オヤジ殿は見た目通り相当な欲深よくぶかじゃて」


 俺がそう言うと、案の定アルベールは大いに怒った。


「な、何ぃ! 見た目通り私が欲深だと!」


「まあ、そう怒るな。オヤジ殿は充分、分かっておるのだろう」


「な、何をだ?」


「世の中とはな、ギブアンドテイクの法則で成り立っておるという事だ」


「は? ギブアンドテイク?」


 アルベールはいぶかし気な表情をしている。

 いまいちピンと来ないという面持ちだ。


 仕方がない。

 補足してやろう。


「おう! 先ほどオヤジ殿と確認した」


「確認?」


「察しの悪いオヤジ殿じゃ。同盟の話でこの法則は明白だろうに」


「むうう……」


「まだ、いまいちピンと来ないようじゃの。ならば説明してやろう」


「む、むっか~~」


「まあ、落ち着け、オヤジ殿。ギブアンドテイクとはな、何かを与えたら代わりに何かを貰う、何かを貰ったら代わりに何かを与えるという、対等な互助関係を言うのじゃ」


「く! 私は子供ではない! それくらいは分かっておるわ。馬鹿にするな!」


「ならば! 手の内を全く見せぬオヤジ殿にこれ以上俺が与えるものはない」


「な!」


「だがしかし! 息子としてはオヤジ殿に対して冷たすぎる仕打ち、親不孝者! そう、世間からなじられてもかなわん。だから少しだけヒントをやろう」


「ヒ、ヒントだと」


「ああ、あの棒こそ俺の切り札となる。対帝国用のな」


「た、対帝国用の切り札!? 確かにあの金属棒からは強力な魔力を感じる! しかし魔法使いが使う魔力増幅用のワンドスタッグともまるで違うぞ、ムコ殿よ……」


 クールダウンし、俺の持参した金属棒の正体を見極めようとするアルベール。

 さすが、俺が蝮と呼ぶ百戦錬磨の猛者である。


 しかしそんな手は、この俺にすっかりお見通しだ。


「ははは、さすがだ、オヤジ殿。そうやって少しでも俺から情報を引き出そうとしておる。だが……それは無駄というもの」


「む、むう……」


「そして今度こそ、打ち止めじゃ」


「打ち止め……そうだ! さっきムコ殿はギブアンドテイクと申したな?」


 アルベールは何か、攻めの新手を見出したらしい。

 眼には少しだけ、余裕の気配がうかがえる。


 まあ、ここは俺もがっちりと受け止めてやろう。


「おお、確かに言ったぞ。意味を良く覚えたか、オヤジ殿」


「ああ、今のやりとりでよっく覚えた。その件でムコ殿に申し入れたい事がある」


「おう、何だ? 思う存分に申してみせい」


「むっか~、相変わらず偉そうに! ま、まあ良い。我が息子ダヴィドの事だ」


「オヤジ殿の息子か? イシュタルの兄なら俺の義理兄にあたる。改めて挨拶でもさせたいのか?」


「ううう……違う! 息子の結婚話だ」


「ほう、オヤジ殿の息子の結婚話が、俺に何か関係があるのか?」


「何を言っておる。先ほどムコ殿はギブアンドテイクと申したではないか?」


「ははは、意味が全く分からん!」


「うう、ならば言ってやろう。お前は我が宝イシュタルをめとった。ならばギブアンドテイク! そなたの妹エリザベスをダヴィドへ嫁がせい!」


「成る程! 確かに俺はギブアンドテイクと申した。それと二重に婚姻関係を結べばオヤジ殿との関係もより深くなる。同盟を含めた約束事もお互いしっかり守られる。確かにいいこと尽くしじゃな」


 さすがアルベール。

 ここでエリザベスを息子の嫁にくれと言って来た。


 これまでのやりとりで、多分俺を捕え、人質にするのは諦めたのだろう。

 ならば、話の成り行きとして、新たな人質を欲したに違いない。

 ものの道理としても、辻褄が合っている。


「おお、で、では!」


 と、アルベールは期待をこめて問いかけるが……

 俺の答えは当然ながら決まっている。


「だが断る!」


「な、何故だぁ!!」


「ははは、理由その一、イシュタルの礼は先ほど申した」


「馬鹿な! イシュタルは我が国の至宝。お前の口先三寸の言葉で足りるものではないわぁ!」


 何やらアルベールが吠えているが……ここは華麗にスルー。

 ついでに皮肉も言ってやろう。


「理由その二。イシュタルがアヴァロンの至宝ならば、エリザベスは我がアルカディアの至宝。悪いが、オヤジ殿の息子だと全く釣り合いが取れぬ」


「な、何だと! ならばムコ殿! お前はイシュタルと釣り合うというのかぁ!」


「おお、しっかり釣り合う。オヤジ殿はお忘れか?」


「何をだ!」


「イシュタルは俺に惚れておると申したぞ。どうやらオヤジ殿の思惑とはだいぶ違ったようじゃ」


「く!」


「聞け、オヤジ殿。あの子はな、この俺の大きな器に惚れたのじゃ」


「く! くうううう……」


「最後に理由その三、エリザベスは既に我がアルカディアの要職、宰相補佐に就任しておる。あの子が居なければ様々な部分が立ち行かぬ」


「ぬうう……」


「以上! よってエリザベスを嫁に出す事は絶対にない。オヤジ殿の息子だけではない。誰にもくれてやるつもりはない!」


「ならば! 万が一、帝国皇帝から人質にくれと脅されてもか?」


「ははははは! それこそ絶対にありえん! 俺はエリザベスを人身御供じんしんごくうになど絶対にせぬわ」


「ぬおおお」


「まあ、そう怒るな、オヤジ殿。代案を用意した。オヤジ殿には別の方法でしっかりギブアンドテイクしてやるわい」


「な、何? 別の方法だと」


 ここまでアルベールをだいぶ怒らせた。

 俺が舐められない為だが、外交とはバランスが大事。

 大丈夫。

 落としどころはしっかりと用意してある。


「おお、オヤジ殿をたっぷり儲けさせてやろう」


「私が……たっぷり儲かる?」


「うむ、オヤジ殿は我が王国の特産物を知っておろう?」


「アルカディア王国の特産物? 岩塩か?」


「大当たりじゃ。イシュタルを頂戴した礼として、友好国アヴァロンには相場の半額で譲る事としよう」


「は、半額だと!? ほ、本当かっ!?」


 うん!

 やはり喰い付いて来た。

 よし、計算通りだ。


「うむ、但し条件がふたつある」


「条件?」


「いくらオヤジ殿が相手とはいえ、こちらも商売。利益をちゃんと出したい。だから仕入れは現金払いのみ、後払いの手形は一切なし。その上で現在の取り引き量より10倍の岩塩を買って欲しいのじゃ」


「何? 現金支払いのみで10倍買えだと?」


「おうよ! こちらは薄利多売。そちらは半額の仕入れ。オヤジ殿はそれだけ買っても充分に大儲け出来る。アヴァロン国内だけではなく周辺の塩を欲する国へ余剰分を売っても良い」


「むう、確かに悪くない話だ」


「もうひとつ! 輸送には護衛を兼ねた専任の部隊をオヤジ殿には手配して欲しい。岩塩の受け渡し場所は……そうだな、このデルブリが良い!」


「むう……専任の護衛をこのデルブリまでか? ……何か特別な意味がありそうだな?」


「ふむ、オヤジ殿、ここからは俺の独り言。俺とオヤジ殿のこの会見は帝国も充分に承知しておる筈。どこぞに間諜も居るだろうから、厳秘の内緒話じゃ」


「な? 厳秘の内緒話だと?」


「……ああ、俺は念話を使う。驚かず戸惑わず心して聞けぃ」


「ね、念話を使うだと!? お前がか? むむむ……」


 驚き唸り続けるアルベールは、俺をじっと見つめたのであった。

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