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第59話「道三会見③」

 愛する女達を残し、俺がアルカディア王国王都ブリタニアを出発して約10日が過ぎた……

 間もなく隣国アヴァロンとの国境上にあるデルブリ村だ。


 デルブリ村は昔からアルカディア、アヴァロン両国間の協定で、中立地帯と決められた場所だ。

 このように両国の王や幹部が話し合いをするのに使われている。


 さてさて!

 一説によれば……

 正徳寺の会見の際、斎藤道三は待ち合わせ場所途中の民家に潜み、信長の行軍を盗み見したという。

 対して信長は髪は茶せん、刀をわら縄で提げる片肌脱ぎの奇抜な格好で堂々と馬に乗っていたらしい。

 その際、天高く突き抜けるような3間半の赤槍多数と新兵器の鉄砲を500丁も兵に持たせ誇示するように見せつけたと伝えられている。


 今の俺も信長に匹敵する兵を率いて敵の懐へ乗り込んだと自負している。

 俺の好きな言葉で表現するならば、かぶいておる!

 そう断言出来るだろう。


 行軍するウチの兵は遠くからでも目立つ。

 何といっても母衣ほろが目立つ。

 

 母衣の色は漆黒に赤、そして黄。

 漆黒こそ目立たず、闇にそのまま溶け込みそうな渋い色合いなのだが……

 赤と黄は『ど』がつく派手さだ。

 

 そしてこの道中、吹く風が強い。

 なので、巨大な風船とまではいかないが、母衣は結構な大きさでぶわっとふくらんでいる。


 そんなこんなで……

 村中を進む際、ある民家から異様に高い魔力を感じた。

 誰かが潜んで、こちらをうかがっている!


 むむ!

 これは相当な上級魔法使いの気配だ。

 意図的に魔力を抑え、自分の存在を何とか隠そうとしているが……

 チートな俺の前では無力だ。


 隠れている者の正体は……

 多分イシュタル父アヴァロン魔法王国国王、アルベール・サン・ジェルマンに間違いない。

 

 ロキの奴め……

 邪悪で超いい加減な性格のくせに、意外と細かい設定にこだわる。

 あいつ、見た目だけは紅顔の美少年。

 だから、黙ってさえいれば素敵な王子様って感じで、さぞや女子にもてるだろう。

 しかしあの口の悪さでは、どこかの誰かみたいに喋ったらがっかり王子だ。


 さてさて!

 史実をくつがえし、アルベールが潜む民家へ強引に踏み込んでも面白かったのだが……

 まあここは、ロキに免じて知らぬふり、華麗にスルーしよう。


 そんなこんなで……

 騎乗する俺達の馬の歩みは速く、もう少しでそのアルベールとの待ち合わせ場所だ。

 史実では信長の「かぶいた」恰好を道三が礼儀を盾にとがめようとしたが、信長の方が数段上手だった。

 いつの間にかきちんと正装し、相手がぐうの音も出ないように会見場所へ乗り込んだみたい。

 こうなると道三は後手に回り、且つ完全に脇役。

 会見の主導権は信長が握り、終始相手にペースを譲らなかったようだ。

 ならば俺も信長流を継承しよう。


「エリック」


「は!」


 これだけで俺の意思が即座に通じる。

 アーサーが幼い頃から、ずっと仕えて来ただけはある。

 エリックは笑って頷くと、俺の着替えを取り出すべく用意を始めたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 やはりというか……

 道三ことイシュタル父アルベールは民家に潜んでいた筈なのに、いつの間にか先回りしていた。

 更にバッチリ正装した姿で待っていた。


 同じく正装した俺を見て、一瞬「ぎょっ」としたようだが……

 何とか表情には出さず、努めて冷静を装っている。


「おう、そなたがアーサーか? 私がアルベールだ」


「で、あるか」


「な!?」


 信長流の受け答えにはさすがに慣れていないアルベール。

 とても驚いている。

 よし!

 この義理父へ、先制攻撃成功だ。

 

 攻撃は最大の防御でもある。

 ガンガン行こう!


「ははははは! そなたがイシュタルのオヤジ殿か? 俺がアーサーだ」


「むむむ……オ、オヤジだとぉ?」


 度重なる無遠慮な物言い。

 そんな俺にイラつき、唸るアルベールの前に俺はいきなりドカッと座った。

 場には緊張感がどんどん増し、高くなって行く。

 びきびきと、空気が固まる音が聞こえてきそうだ。


「ア、アーサーよ」


「何だ、オヤジ殿」


「…………」


 若造め!

 貴様の言葉遣いはなっていない!

 目上の人間に対する礼儀も知らない!


 それに何度も何度もオヤジと呼びやがって!

 いくらイシュタルの婿といってもずうずうしい!

 この馴れ馴れしい青びょうたんの無礼者めが!


 憤怒を押さえたアルベールはそう怒鳴りたかったに違いない。

 アルベールは高名な魔法使い。

 魔法を使い、自分の心を読まれないように隠している。

 だからサトリの能力でも、はっきりと言葉は読み取れない。


 しかしあたらずとも遠からずという。

 多分、俺の推測はほぼ図星であろう。

 鋭い眼光を飛ばし、怒りの波動が強く強く俺の心へ伝わって来るから。


 まあいくら凄まれても俺は馬耳東風。

 ロキのくれたチートのお陰でいろいろと自信はついた。

 もう怖くはない。

 どこ吹く風という態度だ。


 こうなると、俺に舐められた形のアルベールの怒りが益々ふつふつと煮えたぎって行く。

 と、ここで作戦へ変更だ。

 老練な野球投手のように、直球と変化球、つまり緩急を上手く使い分けよう。


「オヤジ殿」


「な、何だぁっ!!」


「かたじけない」


「は? かたじけないだと?」


「オヤジ殿には、良いモノを貰った礼を先に言っておく」


「良いモノぉ?」


「おう! さすがオヤジ殿の子じゃ。イシュタルは良き嫁だぞ」


「はぁ?」


 謝られた上、いきなり愛娘まなむすめの話題をふられ、アルベールは拍子抜けしたようだ。

 

 お前は一体、何を言っている!?

 と、顔にはっきり書いてあった。


 しかし俺はきっぱりと言い放つ。


「イシュタルは美しく聡明で優しい。今日の会見も、オヤジ殿ではなく、俺の身を案じてくれてな」


「…………」


「ズバリ、この会見がオヤジ殿の罠だと言い張った」


「…………」


「しかしな、俺は否定した。そんなはずはない。ガルドルド帝国の脅威が高まる中、同盟を結んだ両国が共倒れになる愚かな真似は、そなたのオヤジはけしてしないと言っておいたぞ」


「…………」


「ははははは! さっきから何を黙っておる。オヤジ殿には話す用件がたくさんあるからこそ俺を遠きこの地へ呼び、御身もここまで出向いたのではなかったのか?」


「………………むう」


 長い沈黙の後……

 とうとうアルベールは口を開いた。

 というか唸った。


「オヤジ殿が話さぬのなら、俺から話そう。いろいろと頼みたい事があるからな」


 俺は不敵にそう言い放つと、複雑な表情のアルベールをまっすぐに見据えたのであった。

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