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第57話「道三会見①」

 『猿』ことトーマス・ビーンの報告から早や1か月あまりが過ぎた。

 その間、宿敵ガルドルド帝国の進撃はどんどん進み激しくなっていた。

 

 人喰いの魔物で構成された帝国軍の残虐非道ざんぎゃくひどうぶりは、世界中で人々の噂となっており、たった1ヶ月間で多くの国が滅んでしまった。

 結果、帝国領になるエリアは増える一方である


 対して俺は、綿密な情報収集の為、猿が差配する配下『草の者』達へ、新体制で得た多くの利益をつぎ込んでいた。

 

 冷静に考えれば帝国に対し、まともには戦えない。

 だからまずは、情報収集に徹していた。

 同時に財力の徹底強化、人材の確保をはかり、反撃の機会をうかがう。

 また、帝国の魔物の軍に対抗、更に打ち破る為、秘密兵器も開発中である。

 

 え?

 どんな秘密兵器なのかって?

 申しわけないが、一般公開はまだ先。

 厳秘、すなわち内緒である。


 さてさて……

 そんなある日、我が嫁イシュタルから連絡&報告があった。

 何やら俺へ見せたいものがあるという。


 何だろう?と思い、イシュタルの居間へ出向いてみれば、王宮では見覚えのない立派な白鷹が一羽、止まり木に止まっていた。


 イシュタルが笑顔で頭を下げる。


「旦那様、急にお呼び立て致しまして恐縮です」


「で、あるか。一体何用だ?」


「はい、父から便りがありました」


 イシュタルの父……

 それは隣国アヴァロン魔法王国国王アルベール・サン・ジェルマンである。

 すなわちイシュタルが帰蝶だとしたら、アルベールは斎藤道三となる。


 道三はまむし渾名あだなされた戦国時代の怪人物である。

 だが、この世界のアルベール王は違う。

 紳士然とした美男子で、高名な魔法使いだという。

 イシュタルの美貌は父親譲りらしい。


 そして魔法は勿論、智謀にも長け、小国ながらガルドルド帝国に屈する事無く抵抗している。

 アヴァロンと我がアルカディアは立場と利害がほぼ一致。

 それで平和的同盟締結及び俺とイシュタルの政略結婚に応じたのだ。


 しかし……

 それはあくまで表向きの形。

 最終的な敵が帝国なのは変わらないが、アルカディアに隙があれば容赦なく乗っ取るつもりらしい。

 それが本音なのは、先日のイシュタルとの会話で改めて認識した。


「お前のオヤジ殿か? それで内容は?」


 俺が手紙の中身を尋ねると、イシュタルは黙って首を横に振り、何故か白鷹を指さした。


 ん?

 どういう意味だ?


「私もどのような趣旨で便りが来たのか、まだ聞いていないので分かりませぬ」


「ん、聞いていないだと? ……そうか、分かった! その白鷹はオヤジ殿の使い魔……メッセンジャーなのだな?」


「仰る通りです。父アルベールが特殊な魔法で自分の肉声をこの鷹へ託しております」


「うむ! で、あるか! 早速聞こう」


「はい!」


 こうして……

 彼女のオヤジ殿、アルベール・サン・ジェルマンからの『便り』を、俺とイシュタルは一緒に聞く事となったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ……特別な『開封』の魔法があるらしい。

 イシュタルの言霊を受け、白鷹は中年の男の声で喋り始めた。


『おう、イシュタルよ、息災か? お前から送られる普段の便りを読めば元気らしく何よりだ』


 という至極普通の挨拶で始まった。


『早速だが、お前の婿アーサーはどうしている? 奴が変わったという噂を最近、良く聞いておる』


 うん、分かる。

 極力目立たないよう各施策を行って来たつもりだが……

 冒険者ギルド、商業ギルド等、公にしている施設もある。


 また楽市楽座で、関門所というこの世界の関所を全廃した事もあり……

 目的の商人以外にも入国はフリー状態。

 帝国は勿論、アヴァロンからもたくさんスパイが潜入している事は想像に難くない。

 まあ、経済発展と引き換えに覚悟はしていたが、相当な情報量が流失しているだろう。


『単刀直入に言おう。私は婿殿と直接会いたい。そう伝えてくれ。以前から機会を作ろうと思ってはいた。最近ガルドルドが勢いを増し、皇帝の命で侵攻を活発化させているから、いろいろ相談したい。会うには最も良いタイミングだろう』


「旦那様……」


 とイシュタルが俺を見ながら、厳しい表情で頷く。

 うん。

 俺もイシュタルの言わんとする事が分かる。

 これは罠かもしれない、彼女はそう言っているのだ。


 そうこうしている間も、イシュタルのオヤジ殿のメッセージは続いている。


『会見の時期は1か月後、場所は我がアヴァロン王国王都と言いたいところだが、それではイシュタル、お前が警戒して、婿殿を引き留め、彼はアルカディアから出られないだろう』


 おお!

 愛娘のイシュタルが俺に惚れているのを、このオヤジは気付いていやがる。


『ふふふ……ちなみに今回は女が立ち入れぬ男と男だけの話もある。言っておくがイシュタルは来るに及ばん。未来の王妃としてアルカディアでしっかり留守居るすいをするように』


 イシュタルの同行は不要。

 父として久しぶりに愛娘に会いたいはずなのに……

 これは変だ。

 男と男だけの話などただの口実。

 それ故、イシュタルは確信を強めたようである。


「私が……来るに及ばないとは……この会見が父の仕組んだ罠というのは確定です」


「うむ……」


「護身用の防御魔法を行使出来る私の同行を禁じたとすれば、ひとりになった旦那様を事故か何かに見せかけ容赦なく殺せる。我が父はそのような黒い腹づもりに違いありません」


「成る程な」


 という会話の後……

 白鷹の口から、会見場所の指定が為された。


『公平にあいだを取ろう。アヴァロンとアルカディアの丁度中間、国境上のデルブリ村にて会おうじゃないか。気楽な雑談が趣旨だから軽装で来るが良い。供も少なくて構わん。こちらも同様にする。連絡は以上だ、ではまたな』


 オヤジ殿ことアルベール王のメッセージは……終わった。


「旦那様ぁ、デルブリへ行ってはいけません。行けば必ず殺されます。どうかおやめくださいませ」


 天文二十二年(1553年)

 ……娘婿の信長へ、

 尾張と美濃の国境近くにある富田の正徳寺にて会おうと、帰蝶の父・道三から申し入れがあったという。

 

 今回の手紙を「聞いて」俺には分かった、これはイベントなのだと。

 邪神ロキのセッティングした特別なイベント発生なのだと。

 

 会見の際……

 下手をすれば、対応を間違えれば、信長は道三により殺されていたかもしれない。

 しかしアイディアと豪胆さで見事に切り抜けた。

 

 結果、道三には分かった。

 うつけものであるなど、とんでもない。

 周囲の目は節穴、むしろ真逆だ。

 信長は将来、天下を取る器なのだと……

 自分の息子はいずれ信長の門前に馬をつなぐと。

 

 道三に類まれな才能を認められた信長は、以降この偉大な岳父からフォローして貰える事となったのだ。


 涙を浮かべ、取りすがり、俺の身を案ずる我が嫁イシュタル。

 彼女の柔らかな身体を、優しく抱き締めながら……

 俺は堂々と会見する事を強く決意する。


「俺はな、お前達家族を絶対に守ると決めている。お前のオヤジが罠を仕組んでいても平気だ。これぐらいの試練を乗り越えられなくてどうする?」


「で、でも……」


「心配するな。俺は必ず無事に戻る。そうでないとお前も殺されてしまう」


「…………」


 イシュタルは黙り込む。

 もし俺がアヴァロン国王イシュタルの父アルベール・サン・ジェルマンに謀殺されれば……アルカディアに残ったイシュタルも殺される。

 やはりイシュタルは、嫁である以上に『人質』なのだ。


 そうなると、アルベール王の思惑も単純なものではないと分かる。

 もしも俺とイシュタル両方の『総取り』ならば、彼女もこの会見へ呼び寄せる筈だから。

 イシュタルが行使する防御魔法云々はあるとしても、最悪の場合以外、俺は殺されず人質になるのかと思う。

 まるでスポーツチーム同士の選手交換トレードのように。


 俺とイシュタルが双方の人質になったら……

 アルベールが私情を捨て、イシュタルを捨て駒にすると割り切りさえすれば、圧倒的にアヴァロン側が有利だ。


 次期国王の俺を押さえられたアルカディア王国は、アヴァロンの風下に立つしかないだろう。

 機を見るに敏なアルベール王の事だ。

 イシュタルの奪還も謀るに違いない。

 

 隙を見て、イシュタルを取り戻したら……

 切り札がなくなったアルカディアに生き残るすべはない。

 アヴァロンか、帝国に呑み込まれ、消滅してしまうだろう。


 まあ良い。

 対策は考える。


 俺だって、やって見せるさ。

 信長に負けないよう、大胆に切り抜けて見せる! 

『蝮の仕組んだ罠』を研いだ牙で思い切り噛み破れ!

 とも思うのだ。


 利用される筈の俺の方が、逆にこの会見を最大限に活用してやる。

 信長が道三に後ろ盾になって貰ったように、俺もイシュタルのオヤジにバックアップして貰うのだ。


「まあ、任せろ」


「え?」


 ……このセリフを言うのは俺が愛読していたラノベの主人公。

 魔法の女子学園教師を務める長身痩躯のカッコいい最強魔法使いが、ヤマ場で使う大好きなセリフなのだ。

 信長は勿論、俺もこの魔法使いのように無敵で且つ、頼もしくありたい。


「イシュタル、聞こえぬのか? 俺に任せろ! そう、言っておる」


「は、はいっ!」


 噛みながらも……

 はっきりと返事をしたイシュタルを、俺は再び抱き締めていたのである。

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