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第56話「帝国の脅威」

 アルカディア王国の新体制が発進し、約1か月が過ぎた。

 俺の思惑通り、各部門は順調だ。


 まず情報部門。

 『猿』ことトーマス・ビーンの配下達『草の者』達が大陸の広範囲へ散っている。

 トーマスの言った通り、アルカディアからの手の者とは気づかれぬよう、目立たない一般人の姿を装っている。

 

 もう少ししたら、トーマス経由で報告が上がって来る筈だ。

 概して情報収集は金をかければかけるほど、確実でより精度の高いものが入る。

 そう俺は信じている。

 報告の内容次第では、大幅な予算追加を行い、人員増を考えたいと思う。


 新設した冒険者ギルドも予想以上の繁盛ぶりだ。

 仕事を求めたおびただしい数の冒険者がこの王都ブリタニアへ入っている。

 運営はエリックとゴヴァンの兄弟、そしてトーマス。

 ギルドの収支に関してはエリザベスとネネにざっくりと計算させてみた。


 結果を聞けば、予算面での効果は上々だ。

 実際に魔物討伐など、正規軍の出動と比べ、予想通りにだいぶ予算が割安となっている。

 かといって正規軍と比べ、討伐のクオリティはそんなに落ちてはいない。

 すなわちコスパが結構良いという事だ。


 またギルドにおける新たな人材確保の見通しも明るい。

 エリック達によりいくつかの有望なクラン、かなりの冒険者達がピックアップされている。

 条件次第では、正規の社員……

 じゃなかった、正規の王国民として国籍を取得させた上、本採用する事も視野に入れている。

 

 更にいえば男子だけじゃなく、女子のサルベージもOK!

 エリザベス&ネネの女傑コンビがしっかり行っている。

 最近は人材交流でオーギュスタも女戦士の選定に加わっているという。

 少々違うかもしれないが、将を射んとする者はまず馬を射よ、だ。


 そして商業ギルドも順調。

 俺はたまに顔を出す程度だが……

 現宰相マッケンジー公爵と元宰相オライリーのコンビで上手くやっている。

 マッケンジーはオライリーを蛇蝎だかつの如く、嫌っていたが、王国の為に と、割り切ったらしい。

 ここでもエリザベスとネネが大活躍。

 オライリーの手綱を締め、マッケンジー公爵を上手くフォローしている。


 この商業ギルドも冒険者ギルド同様に商人の流入が激しい。

 アルカディアは辺境の国。

 果たして有効かという懸念はあったが……

 荒業ともいえる『楽市楽座』実施の効果もあり、商取引きが活発となっている。


 そうそう!

 塩湖から塩を運ぶ為の新街道、例のソルトロードもほぼ完成した。

 え?

 幹線道路の完成にしてはやけに早すぎる?

 いやいや、この異世界の街道はアスファルトで舗装などしない。

 障害物を除去し、果てしなく道を平たんにならすだけだから。


 少し補足しよう。

 バスクアルの傭兵部隊1,000人が先導、出現する敵は人でも魔物でも容赦なく蹴散らした。

 だから、後続で騎士隊と工兵隊を率いたガレスも楽ちん。

 まず先行したバスクアル達は塩湖最寄りのラークス村へ10日あまりで到着。

 続いて、ガレス達の仕上げにより、あっという間に街道は整備された。

 いずれ俺はラークス村を訪れ、製塩設備の整備を行うとの伝言を、バスクアルは村長へ伝えてくれた。

 俺が直々に塩湖のビルドアップをビシッとやり、アルカディア王国の財政基盤を盤石にせねばならない。


 そして最後は魔法省を任せた我が嫁イシュタル。

 魔法に関しては完全に発展途上だったアルカディア王国。

 だが、だが王国内在住で魔法の才能を持つ者は勿論、冒険者ギルド経由で相当の魔法使いが入って来た。

 なので、イシュタル自ら有能な人材を選抜。

 何とか魔法使い部隊の体を為すと思ったら、みるみるうちに質もどんどん充実して来たのだ。


 そうこうしているうちに……

 更に1か月が過ぎた。

 トーマスから重大な報告があるとの連絡があった。

 多分奴が使う『草の者』達から有力な情報が上がったのだろう。


 有益な情報ほど鮮度が重要。

 それが鉄則。

 という事で、早速俺は執務室へトーマスを呼び出した。

 現れた猿顔の男は珍しく冗談もかまして来ず、緊張の面持ちで俺をじっと見つめたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺と『猿』ことトーマス・ビーンは執務室で向かい合っている。


「どうだ、猿」


 と、俺が報告を促すと……


「はい! 今回だけは事実をご報告致しますよ、脚色しないありのままを」


「たわけっ! 今回だけは脚色しないだと! お前はいつも嘘ありきで俺に報告していたのか?」


「へへ、もう時効なんでご勘弁を。でも……今回だけは本当にヤバイんです」


 やっと笑った『猿』であったが、すぐに表情が引き締まった。

 俺の中で、悪い予感が徐々に確信へと変わって行く。 


「何? 今回だけは本当にヤバイ?」


「はい! とうとう帝国が、ガルドルド帝国が本腰を入れて動き出しました」


 本腰を入れて帝国が動いた?

 まあ、これは想定内だ。

 奴らはこの世界の覇権を本気で目指しているからだ。


 それにマッケンジー公爵と話した時にも告げている。

 『奇行』や『未経験の女子重用』を知れば、俺を真性の馬鹿だと思ってくれる。

 結果、油断してこちらへ攻撃の手が緩み、後回しにされればその分時間も稼げる そう、踏んでいた。

 

 イシュタルには本当に申しわけないが……

 帝国の矛先がまずは彼女の実家、隣国アヴァロン魔法王国へ向けられれば御の字だと。


 しかし……俺は気になった。

 目の前の猿も俺のこうした状況や奇行の裏側に隠された俺の意図には気付いている筈。

 だとしたら、とても変だ。

 いつも明るい『猿』が、このように暗く元気がないわけはない。


 いや、とりあえずこいつの報告を受けよう。

 少しだけ動揺した俺の気持ちが、こいつには絶対悟られないように冷静を装おう。


「うむ! で、あるか。ならば猿! 帝国の動きとやらを具体的に申してみよ」


「は!」


 猿は気合の入った声で返事をした。

 表情も怖ろしく真剣だ。

 やはり凄く変だ。

 本当におかしい。


「アーサー王子、帝国が新規の軍投入を開始しました」


「新規の軍?」


「はい、それが驚く事に人間の軍ではありません。怖ろしい魔物の軍なのです」


「怖ろしい魔物? よ、よしっ、猿よ、もっと詳しく話せぃ!」


「は! 帝国皇帝の命でフリーのテイマーが雇われました。大金を積んだだけあってとても凄腕です」


「フリーの凄腕テイマー? 成る程」


 テイマーとは本来、調教師という意味。

 だが、中二病の認識として異世界のテイマーは『魔物使い』の事だ。


「奴らの主力である騎馬軍団以外に、テイマーによって制御コントロールされた魔物の軍が新規軍として投入され、進撃を開始したのです」


「むう……」


「怖ろしい事に、奴らの通った後には人間も動物も喰いつくされ、肉片は勿論、血の跡も一切残っていません。まるで飢饉の際、イナゴが大量発生したように」


「何!? となると帝国軍の魔物は人間を喰らう捕食者なのか?」


「はい! それも先日王子が倒したゴブリンやオークの小群などではありません。数万体にも及ぶ逞しいオークの大軍と身長5mを超える巨大なオーガ数千体の混成部隊なのです」


「むうう……そうか」


 さすがに、衝撃ショックで信長節が引っ込んだ。

 オーク数万!?

 それにオーガ5千を加えた魔物の軍だとぉ!!


 対して、我がアルカディア軍の総兵力は人間の騎士と傭兵を足してやっと1万に行くかどうか……

 その上、帝国軍は人間の騎馬軍団だけで5万の兵力を誇っている。


 もしも奴らが総勢で攻めて来たら、アルカディア王国は確実に滅ぶ。

 それにもしも魔物の軍が先攻させられたら、ただ死ぬだけではない。

 王国民全てが、生きながら魔物に喰われてしまう。


 『猿』もさすがに、いつものハッタリと元気がないわけだ。

 それどころか、今は俺とふたりだけと見て珍しく本音を見せた。

 悲痛な声で救いを求めて来たのだ。


「お、王子! この危機を打破するお考えをっ! いつものように大きなお声で! 素晴らしいお考えをお聞かせくださいっ!」


 執務室に響く『猿』の悲嘆……

 俺はぐっと唇を噛みしめ、対応策を考え始めたのであった。

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