第55話「自称賢弟の変貌④」
ペナルティ?が魔物退治と聞き、コンラッドは急に不安そうな表情となった。
少し身体が震えていた。
だが、そうなるのも無理はない。
ア―サーから貰った記憶によれば……
コンラッドは武技の訓練を守り役の騎士ガレス・シードルフ伯爵から手解きされた。
何かにつけ運動音痴の俺を、つまり兄アーサーだけには負けないと豪語していたらしいが……
コンラッドにはまだ、対人、対魔物、いずれの戦場へも出た事がない。
そう、肝心の実戦経験がないのだ。
戸惑うコンラッドを見据え、俺はきっぱりと言い放つ。
「コンラッド! 俺達は王族であると同時に騎士でもある!」
「そ、それは……確かにそうですが……」
「騎士とはズバリ戦う者だ」
「戦う者……」
「そうだ! 戦う者とはな。己の身体を張り、日ごろ磨いた武技を使い、王国民を害する敵から守る存在なのだ
「…………」
顔を伏せ、上目遣いに俺を見るコンラッド。
戦う事を怖がって、卑屈さが表れているようだ。
「おい! コンラッド! どうした、返事がないぞ。違うのか?」
俺の鋭い眼光とえぐるような声に怯え、コンラッドは盛大に噛みながらも、叫んだ。
「は、は、はいっ! あ、あ、兄上のぉ! お、お、仰る通りですっ!」
「で、あるか! 良い返事だ!」
「う、う……」
「ならば、王族たる、騎士たる良き模範を自ら見せよ、コンラッド」
「う、ううう……」
「戦う者として果たすべき役割を全うせい! 難儀する王国民の剣となり盾となれっ! さすれば死罪は勿論、国外追放だって取り消しにしてやろう」
「…………」
「コンラッド、よ~く聞けぃ! 出撃は1か月後じゃ!」
「え? た、たった1か月だけ? も、もう少しお時間を頂けませんか? 心の準備が……」
「たわけ! 何が心の準備じゃ! お前も騎士としてこれまで修業を積んで来たのだろうが! 臆するな!」
「…………」
俺が檄を飛ばしても、コンラッドは俯いたまま、無言。
びびって、唸る事も出来ないらしい。
ここで、俺は『鞭』をおさめ、代わりに『飴』をちらつかせてやった。
「コンラッド、安心しろ! 俺も一緒に出撃してやる」
「あ、兄上も一緒に?」
「おお、一緒に戦う。それまではゴヴァンに付いて、戦闘訓練をみっちりやれい」
「せ、戦闘、訓練!?」
「ああ、そうだ! オライリーの息子バッド、ガレスの息子エイルマーも一緒だぞ」
「…………」
「どうだ! お前はぼっちではない、俺や仲間が居れば心強いだろう!」
「…………」
「は~はははははははっ!!!」
「…………」
コンラッドの私室には……
俺の高笑いする声だけが、大きく大きく響いていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
1か月後……
俺が命じた通り、コンラッドは出撃した。
リーダー、ゴヴァン・マイルズ率いる冒険者ギルド所属のクラン、ブリッツの一員として。
約束を履行し、俺もクランブリッツに同行していた。
ちなみにこのクランブリッツは、将来、赤母衣衆の礎となる。
それにしても、ゴヴァンが行う指導と訓練は俺の予想以上に厳しかった。
個人戦、集団戦、対人、対魔物……
いろいろなパターンを想定し、基本&実戦形式のありとあらゆる訓練が繰り返された。
しかしゴヴァンはさすがであった。
単に厳しいだけではなく、褒めて育てる事も忘れなかった。
結果、コンラッドを含め、バッド、エイルマー達貴族の息子は単に鍛えられただけでなく……
自信もつけた上、相互に心の絆も紡がれ、団結力も強固となった。
そう、わがまま息子達は……
心身とも、たくましい戦士への第一歩を踏み出していたのである。
さてさて!
今回の相手はオーク30体強。
この前と場所は違うが、戦場はやはり王都近郊の、とある村。
対してクランブリッツは、俺を入れて総勢15名。
全員が騎馬。
なのでクランというよりは、小規模な騎士団という趣きだ。
しかし、何と言っても初陣。
俺とゴヴァン以外のクランメンバー全員が緊張していた。
日頃の悪態など、つく余裕が全くない。
ちなみに、オークとは豚のような顔をした中型の人型魔物である。
習性はゴブリンに近い。
しかし全く異なる点もある。
人間の女性に異常に執着し、襲うのだ。
怖ろしい事に……
人間の女性を散々犯した上、餌としても喰らう。
その為、ゴブリン以上に怖ろしい人間の敵とみなされている。
また、ゴブリンよりは遥かに智能が発達しており、簡易な武器を使う。
群れのリーダーの指示に従い、シンプルな作戦に基づいて戦う為、人間顔負けの戦いをする場合もある。
だから、けして侮れない。
オークの被害を訴えた村民を力付け励ました後……
村から少し離れた草原で、クランブリッツは戦いに突入した。
今回も俺とゴヴァンが盾役である。
騎馬で突っ込み、極端に突出、まずはふたりきりで戦った。
傍から見れば、30体余りのオークに、たったのふたり。
完全に多勢に無勢。
戦闘が素人同然のコンラッドから見れば、絶望的な戦いに映ったに違いない。
しかし常人には、強敵のオークだが……
チート魔人な俺、そして傾奇者前田慶次ことゴヴァンには全く楽な相手である。
数も雲霞のような大群ならともかく、たかが30体余り。
ならば、余裕を持って戦える。
俺は剣を振り回し、オーク共を容赦なくぶった切る。
ゴヴァンもオークの首と胴体を泣き別れにし、地獄へどんどん送る。
戦場となった草原には奴らの断末魔の悲鳴が満ちた。
この戦いは大事だ。
クランブリッツが積み重ねて来た、1か月に亘る訓練の集大成なのだから。
仕上げの実戦訓練も兼ねている。
俺とゴヴァンは思いっきり無双。
息を呑んで見守る、コンラッド達、後方待機部隊13名。
頃合いを見て、俺とゴヴァンはコンラッド達へ数匹ずつ、手負いのオークを逃がしてやった。
その数匹のオークを、後方待機部隊のクランメンバー13名が全員で協力しながら倒すのが、彼等の仮免レベルの騎士ライセンス取得試験だ。
ちなみに有名な個人対個人の馬上槍試合は儀式みたいなもの。
騎士本来の戦いは集団戦なのである。
こうして、最終的にはオーク全てを殲滅する。
コンラッド達には、まず圧倒的に有利な状況で戦わせ、徐々に厳しい戦いへと慣れて貰うのだ。
こうして……
約1時間に亘る激しい戦いの末……
オークの群れは全滅していた。
戻った俺とゴヴァンを、オークの返り血を浴びて戦闘の興奮冷めやらぬコンラッド達は……
大きな感動を表す、突き抜けるような勝利の歓声で迎えたのである。
クランブリッツは初陣を飾った。
僅かだが、全員が自信を付ける事に成功したのだ。
大勝利を手にして、意気揚々と村へ帰った俺達を村民は総出で歓迎してくれた。
妻や娘をオークに惨殺された者達は、
「ありがとう! ありがとう! 妻子の仇が討てた! 嬉しい!!」
と歓喜の涙を流し……
コンラッド達若き騎士へ抱きつき、もみくちゃにした。
本当は……
「愛する家族が犯され、無残に殺される前に守ってやりたかった」と俺は思う。
被害者が悲しみをこらえ、無理に喜ぶ様子を見て心は酷く痛む。
そんなこんなで……
大歓迎が、ひと段落して……
コンラッドはひとり、俺の下へ走り寄って来た。
息が切れるくらい、全力で走って来た。
今回は……信長と同じにはならなかった。
信行ことコンラッドは、俺に「粛正」されなかったから。
そう、コンラッドは生きている。
大切な仕事をきっちりやり遂げた一人前の『漢』として、晴れやかな、とびきりの笑顔を浮かべている。
そこには『賢弟』をうそぶく、生意気な少年の面影はどこにもなかった。
俺はふと、母アドリアナの泣き顔を思い出した。
今の俺とコンラッドを見れば、安堵し笑顔を見せるに違いない。
「あ、兄上! 聞いてくださいっ!」
「おう!」
「僕は! 僕は! 立派な王族として、勇ましい騎士として、頼もしい戦う者として、しっかりやるべき事をやります! やり遂げてみせますっ!」
「そうかっ!」
「はい! 王国民がこれ以上悲しい思いをしないよう、もっともっと強くなりますっ!」
「で、あるかっ!」
「はいっ! 頑張りますっ! もっとガンガン鍛えて下さいっ!」
大きな声で決意を語るコンラッドの目は熱く熱く燃えていた。
身体を張って前線で戦った俺への尊敬に加え、自分が持つ真の存在価値も見い出していたのである。
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