第52話「自称賢弟の変貌①」
皆さんは、お気付きになっているだろうか。
俺がこの異世界へ転生して来てから……
放置プレーをされている奴がひとり。
西洋異世界なのに設定は織田信長の世界。
この不可思議な物語にたくさん登場人物は居る。
けれど、ごくごく近しい身内の中で。
アーサーこと俺の家族……
両親、妹以外、残りのひとりだ。
まあ、他の反乱貴族と同様、厳重な監視の下、自宅謹慎させているんだけど。
そう、アーサーの実弟コンラッド・バンドラゴンである。
皆さん、何となく想像がつくだろうが……
こいつの立ち位置は、信長の弟、『優等生』織田信行である。
多くの小説などでは、信行は自身の小さい器を弁えず、兄・信長に度々背き殺されてしまった……
呆気なく、儚く短い人生を送った弟とされている。
良く言えば、悲劇的な若き武将。
悪くいえば……身の程知らずというイメージがとても強い。
一説によれば、そこまで凡将ではなかったともいうし、多々ある歴史小説のイメージとはだいぶ違ったようだ。
そもそも信行という名前も、後世で、どこぞの誰かがつけたらしい。
あの信長公記では、基本的に『勘十郎』と呼ばれていた。
更に自身が改名したなど、他にもいくつか名前がある。
『信勝』という名前が、資料には多く記されているみたい。
でも巷では信行という名が最も知られている。
だから、今後も信行と呼ぶようにしよう。
閑話休題。
ある日、俺は母アドリアナから彼女の部屋に呼ばれ……
ふたりきりとなり、頭を下げられ何度も頼まれた。
「コンラッドと貴方は血を分けた実の兄弟。頼むから無茶はしないで欲しい」とね。
この母は、俺がいきなりオライリーを殴った事件を目の当たりにして、相当ショックを受けたようだ。
以来……
変貌した俺への接し方に一線を引いている。
はっきり言って、畏怖するという表現がぴったりなのだ。
しかし母の信じられないセリフに驚いた俺は、思わず聞いてしまった。
「母上、無茶をしないとは?」
「アーサー……兄の貴方とは、いろいろあったけれど……あの子は……コンラッドはほんの少しだけ迷い道へ入っただけなのよ」
「はぁ? コンラッドがほんの少しだけ? 迷い道へ入った? 密かに奸臣共と謀って、俺を容赦なく暗殺しようとしたはかりごとがほんの少しとか、迷い道なのですか?」
「だって! しょ、所詮! ほ、ほんの、出来心でしょう?」
「そうですか……ほんの出来心ねぇ……」
俺は苦笑し、首を傾げてしまった。
そんな俺を、アドリアナは何と!
凄い目で睨んで来る。
「アーサー! 貴方は首謀者のオライリーさえ、あっさりと許したじゃない」
「ええ、確かに許しました」
「であれば! コンラッドも同様に許しなさい! もし貴方が実の弟に手出ししたら、この母が容赦しません」
おいおい……容赦しませんって……
いつの間にか、俺の方が凄い悪者になっているじゃないか……
一歩間違えば、こっちが殺されていたのに。
否、俺が入れ替わらなければ……
アーサーは確実に暗殺されていただろう。
この母は……鬼だ。
アーサーは全く悪い事などしていない。
なのに、加害者である弟コンラッドの心配ばかりしている。
コンラッドへ、悪行を心から反省するよう申し入れした気配もない……
同じ血を分けた兄弟なのに、完全に偏向した弟贔屓だ。
俺は少し悲しくなる。
何だか、アーサーって……
母親からの愛情が極端に薄かったのかと、つい同情してしまった。
実母土田御前から、冷たく突き放されたという伝承の信長と一緒だ。
またも苦笑した俺は……
一転、アドリアナを冷たく見据える。
「母上……いや、オフクロ!」
「な、な、何!?」
「……俺がオライリーを許したのは、奴が改心し、我が王国の為、必死に働くと言ったからです」
「そ、それが……どうしたというの?」
「はぁ……分かりませんか? コンラッドも全く同じだという事です」
「え? 全く同じって?」
ため息をついた俺が言うと、アドリアナはポカンとしてしまった。
「理解出来ない!」という顔付きをしている。
何だよ、この人は?
ボケているんじゃないか?
俺の方が呆れてポカンとしたいくらいだ。
でも俺は手綱を緩めない。
「もし奴が、改心しないようであれば、今度こそ容赦しないって事ですよ」
「な! そんな! 今度こそ容赦しないって! こ、この私がそんな事はさせません!」
「無駄です! 受け付けません! いくら貴女がオフクロとはいえ、俺の判断には一切口を挟ませません!」
「あ、あああ……あううううううん……」
終いには、泣き出してしまったアドリアナを置いて、俺はさっさと自室へ戻ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
家臣達へ仕事を割り振った会議から数日後……
俺はエリック弟、前田慶次ことゴヴァンを連れ、王宮内にある奴の私室へ出向いた。
実は俺、アーサーに転生してから、コンラッドとはまともに話してはいない。
何故ならば、王宮へ戻ってから、結婚やらいろいろあって、てんやわんや忙しかった。
そうこうしているうちに、俺への謀反計画が発覚したから。
謹慎蟄居を命じ、神輿となったコンラッドも自室へ押し込めたのである。
オライリーのように、地下牢へぶち込まないだけラッキーと思って欲しいが。
果たして、コンラッドとはどんなキャラなのか。
ここは、あの邪神ロキの管理する異世界。
俺の持つイメージも反映されている。
コンラッドの部屋の前で頑張っている、警護兼監視役の騎士2名に声を掛けてから……
俺は扉をノックした。
そして呼び掛ける。
「おい、コンラッド。俺だ、アーサーだ」
「は、は、はい! た、た、ただいま開けます」
思いっきり噛んで返事をしたのは……
コンラッドにつけた若い侍従である。
身の回りのケアをさせるのは勿論、コンラッドに自死させない為の監視役も兼ねている。
間もなく扉が開き……
侍従が出迎えてくれた。
しかし、コンラッドの姿はない。
「おい、コンラッドを呼べ、俺から大事な話があるとな」
「はい!」
俺が侍従へ命じてから、5分後……
奥の部屋に通じる扉が開き……
アーサーに造作こそ似ているが、数段以上格好良い風貌をした、ひとりの少年が現れた。
「ふふふふふ、兄上、ようこそ!」
ひとめで分かる愛想笑いを浮かべ……
アーサーの弟コンラッド・バンドラゴンが遂に姿を現したのである。
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