第51話「黒母衣・赤母衣」
新体制を宣言し、忠義心の高い家臣を適材適所に配置した俺。
これからは鞭と飴を使い分けなければならない。
ここで俺は先に『飴』を与える事にした。
本当は冒険者ギルドを軌道をに乗せ、有望な人材が集まってからだと、考えていたが……
襲いかかるガルドルド帝国の脅威を考えたら、従来の騎士団、バスクアルの傭兵部隊だけでは心もとない。
俺の信頼に足る強靭な部隊の創設は急がなければならない。
今回、飴を与える対象者はマイルズ兄弟。
具体的にいえば、ふたりへ、それぞれ一隊を任せる事にしたのだ。
決めたんだ、俺は。
いよいよ俺の親衛隊を作る。
俺は織田信長の軍制を採用し、新たな軍団を創設する。
そう、ご存じ信長自慢の親衛隊、黒母衣衆と赤母衣衆だ。
え?
母衣って、よく聞くけど何?
……って人の為に俺が少し説明しよう。
この母衣とは『幌』もしくは『保呂』とも書く。
では具体的に言うと何か?
母衣は武士の七つ道具といわれるもののひとつだ。
ちなみに武士の七つ道具とは……
具足・刀・太刀・矢・弓・兜の6つ、そして母衣を足した7つである。
ここでひと言。
刀と太刀は同じものだが、いくつか違いはある。
作られた時代も違うが……
太刀は馬上で、刀は陸上で用いると考えれば分かり易い。
……話を母衣へ戻そう。
母衣の形状は幅広い巾着。
材料は絹。
イメージとしては大きな風船を思い浮かべてくれ。
騎馬で疾駆する武士の背に、風で膨らむ巨大な絹の風船がついていると思えば良い。
さて、母衣はどうして生まれたか?
諸説あるが、俺の知っている事を話そう。
鉄砲が伝来する前……
我が日本の主な飛び道具といえば弓矢。
そして意外だが石つぶても。
石つぶてとは、つまりは投石である。
しかし、たかが石ころを投げると笑うなかれ。
あの武田信玄も石つぶての部隊を持っていた。
まともに当たれば、致命傷を負うほどの威力がある。
そう、母衣とは当時の飛び道具、弓矢と投石を防ぐ為の武具なのである。
しかし西洋から鉄砲が伝わり日本の戦法は一変。
弓矢と石には結構な効果があった母衣も、鉄砲の玉には敵わなかった。
こうなると母衣は無用の長物。
ただでさえ母衣は目立つ。
戦場では格好の標的だ。
形状もそうだし、色も派手。
黒はともかく、赤に黄色など狙いやすいったらない。
元々、母衣衆は馬廻り役がその役目を担った。
馬廻り衆とは、大将を護衛したり、伝令を担う。
終いには、部隊の切り札としても使われた。
だが母衣を着た武者も鉄砲が伝わると役割も変わって来た。
母衣衆に任じられる事が、大きな名誉とされるだけとなったのだ。
だが俺の作る母衣衆は無用の武具を背負うのではない。
付呪魔法で防御効果をまとわせる。
え?
付呪魔法って何、だって?
ほら、魔法剣士が属性魔法をミスリル剣にまとわせ戦ったりするじゃない。
この魔法も、俺はロキから貰っている。
魔法省の長となったイシュタルとも相談し、母衣へ強力な防御魔法をまとわせるのだ。
ちなみにかけるのは物理、魔法の両方に対応可能な防御魔法。
ああ、ついでに忌まわしい呪いも受けつけないようにもする。
え?
じゃあ、無敵で無双状態かって?
いや、物理攻撃と一緒。
魔法だって魔力と術者の技に比例する。
もしも付呪魔法以上の力が加われば、強固な魔法に守られた母衣だって簡単に崩壊してしまうのだ。
ようは相手の力を見極め戦う事が肝要である。
それでも、頼もしい防具がないよりはあった方が断然良い。
俺を含め、家臣達が命を落とす確率がぐんと低くなる。
というわけで……
俺はエリックとゴヴァンのマイルズ兄弟を執務室へ呼び出したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
母衣をまといし、部隊を創る。
そんな俺の説明が終わった。
「……という事だ。お前達は母衣という強力な魔道具をまとった、俺の特別な部隊の将となる。ちなみにエリックが黒母衣、ゴヴァンが赤母衣である」
個々で変更部分がある。
史実では前田利家は赤母衣衆に属しているから。
しかし一説によれば、黒母衣衆の方がやや格上だったらしい。
構成もベテラン武士が赤母衣よりも多かったという。
それで年長のエリックを黒母衣衆の将としたのだ。
「アーサー様! 母衣とは一体何でしょう!?」
「いや! 兄貴。話を良く聞いていれば、イメージはすぐ浮かぶさ。王子、サーコートみたいなもんすかねぇ?」
俺の話を聞いたエリックとゴヴァンは、凄い勢いで身を乗り出した。
「おお、ゴヴァンよ。母衣がサーコートか? 確かに似ているな」
サーコートとは、主に鎧の上からまとう、軽い生地で作った外套である。
ここは西洋風異世界。
母衣はないが、サーコートはある。
……確かにサーコートは母衣に似ていて、イメージすると分かり易いかもしれない。
だけど母衣は似て非なるモノ……
ひいき目かもしれないが、疾駆する馬上で風を受け、「ぱああっ」と背中に広がる母衣は凄く格好良い。
彩色も派手だから、『粋』というか、戦場では『かぶいている』と見えるだろう。
ちなみに、この「かぶく」という言葉は歌舞伎の語源となった言葉だ。
『かぶ』というのはすなわち頭部の意。
本来は「頭をかしげる」という意味である。
そしてそのような行動をとるという意味から『常識外れ』や『異様な風体』を表すようにもなったのだ。
中身が日本人の俺ブタローから見れば、『外人』のエリックとアーサーが母衣をまとえば、かぶいていて、とても良く映えるのである。
その上、母衣には付呪魔法による防御効果も見込める。
とあって、エリックもゴヴァンも、超が付く乗り気だ。
「たわけぃ、ふたりともまだ気が早いわ!」
「気が早い?」
「どうしてですか? アーサー様」
「良く考えろ。母衣はこれから製作する。それにだ、構成員たる肝心のお前達の部下が居ない。もしくは不十分な候補のみだ」
「「あ!」」
俺の指摘を聞き、エリックとゴヴァンはハッとして、同時に声をあげた。
驚く声が完全に重なっていた。
やはり血の繋がった兄弟である。
「改めて聞けぃ! ふたりとも!」
「「はっ!」」
「お前達が率いるのは精強を誇る俺の親衛隊だ! けして侮られてはいかん!」
「「ははっ!」」
「王国の内外から選りすぐりの騎士、戦士を集めよ。但し身分や出自にはこだわるな。立ち上げたばかりの冒険者ギルドも最大限に活用せい」
「「はははっ!」」
「オライリーの息子バッド、シードルフの息子エイルマーを含め、冒険者となった元貴族子弟達にもチャンスを与えい、だが元貴族といってもえこひいきはするな! 相分かったか!」
「「ははは~っ!!」」
執務室にマイルズ兄弟の大声が何度も響いた。
納得と歓びの返事であり、凄い気合がこもっている。
今この時こそ……
後にこの異世界の各国から怖れられる黒母衣衆、赤母衣衆誕生の瞬間であったのだ。
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