第47話「悪党よ、チャンスは一度だ!④」
じっと俺を見つめるオライリー。
目が泳いでいるのは、どうやら心が揺れ動いているらしい。
ここが決め時だ!
と、俺は更に後押してやる。
「オライリー! お前が父親として、王国の為に働いている晴れ姿を……息子バッドに改めて見せる、最後の機会でもあるのだぞ」
「…………」
「頭の中でイメージせい! 商人のお前が扱った稀少で大事な荷を、冒険者になったお前の息子がしっかり警護し、王都に配送する」
「…………」
「旧き譜代の家柄であるお前達オライリー家の親子が、また我がアルカディア王国に貢献してくれる……俺はそう考えていたんだがな」
俺がそう言うと、乱心していたオライリーは……
ようやく落ち着いたようである。
「ア、アーサー様……私は……」
「おう、決心はついたか?」
「は、はい……で、でも、冒険者は危険な仕事……バッドは了解してくれるのか……」
相変わらず、愛息を心配するオライリー。
しかし、俺は豪快に笑い飛ばす。
「ははははは! 安心しろ! お前のバカ息子はこれからしっかり説得してやる。世話も面倒も俺とゴヴァンで責任を持ってみてやる」
「ほ、本当でございますか?」
「おう! 先ほども言ったがな、奴が真面目に働けば、ゆくゆくは一人前の騎士にしてやるぞ」
「バッドの説得を!? 世話も面倒も!? 一人前の騎士にする!? ほ、本当でございますか?」
「本当だ! もしもお前が商人として必死に頑張れば、息子からは必ずこう言われる。ガマリエルは誇れる自慢の父親……だとな」
オライリーの眼差しが徐々にではあるが、真剣なものへと変わって来た。
ようやく俺の意図を理解したのであろう。
どちらにしろ、オライリーにもう選択肢はない。
ここで俺の申し出を断われば、息子共々死罪に処せられる道しか残されていないのだから。
「でも! わ、わ、私は貴方を殺そうとした上、ガルドルド帝国と裏取引きして、この国を売ろうとした男」
「分かっておる!」
「わ、分かっているのなら……何故? 何故貴方様はそんな男を信用し……取り立てて頂けるのですか?」
「おう! 俺は言った筈だ。お前達親子へ、一度だけは機会を与えるとな」
「一度だけ機会を……」
「だから信用し、取り立てる! ふん、俺には分かるわい、お前の心情がな」
「わ、私の心情が?」
「ああ! 古参のお前は、もっともっと自分を認められたかっただけだろう?」
「…………」
「今のアルカディア王国には、荒馬たるお前の才を見抜き、使いこなせる度量のある人物がたまたま居なかった。商人という一番の適性を見抜けずにな」
「私の適性が商人なのですか…………」
落ち着いたオライリーは、いつの間にか話し方まで変わっていた。
「おお! 俺は想像しただけでわくわくする! お前が膨大な知識と度胸の良い勝負勘を生かし、広い世界を股にかけ、王国の為に大儲けする姿が目に浮かぶのだ。国の根幹はな、何と言っても経済力だ!」
「私が……王国の為に儲ける……国の根幹は経済力……」
「改めて言おう。百戦錬磨のお前には、金の大切さ、ありがたみが、痛いほど分かる筈だ!」
「ぎょ、御意!」
「うむ! 後で説明するが、お前がしっかりと腕をふるう下地は作っておく……」
「ははっ!」
「但し! 何度も言うがチャンスはこれ一度きり! 今度裏切ったらもう容赦しない。裁判なしで、即座に息子共々打ち首決定だ」
「は、ははっ! このオライリー、生まれ変わったつもりで頑張らせて頂きます」
「よしっ! すぐ王宮の風呂へ入れ。むさ苦しい髭も剃れ。そうだ! 元のダサイ髭ではなく、商人らしく粋にかっこ良く整えてな!」
「は!? 私の髭がダサかったと?」
「ああ、凄~くダサかったな。服も粋なカッコいいものをたくさん用意してやる!」
「……わ、分かりました、全て粋にし、格好良く致します」
1時間後……
オライリーは俺の命で地下牢から釈放され、早速風呂に入れられる。
風呂から上がり、髭をそらせ、商人風の衣服に着替えさせた。
やはり元貴族らしく見栄えがすると報告が入る。
俺がこうなった経緯と詳細を話したマッケンジー公爵から、いろいろ指示を受け……
ガマリエル・オライリーは大人しく俺が用意した商業者ギルドの省庁へ入った。
こうして彼は再び王家に仕える官僚として、また御用達商人としての準備を始めたのである。
一方、俺とゴヴァンは、オライリーの息子バッドと地下牢で対峙していた。
約束通り、バカ息子バッドの説得が今回の立てた計画の総仕上げだ。
父オライリーのモチベーションを「ぐん!」と上げる為、どうしても奴には冒険者になって貰わねばならない。
「くそ王子! シードルフの息子はおとがめなしなのによぉ、何で、俺だけ地下牢に閉じ込められるんだ!」
バッドはガレスの息子エイルマーを引き合いに出し、不貞腐れる。
相変わらず俺への言葉遣いを含め、態度が悪い。
罪を犯した自分の立場をわきまえない。
投獄されている意味さえも、全く分かっていなさそうであった。
ねめるような目付きをしたバッドを、俺は激しく叱責する。
「このくそたわけが! まだ分からぬのか? 俺達は外敵と戦い民を守る立場だぞ。だがお前は逆に、罪なき民へ害を及ぼした超の付く愚か者だ。貴族の風上にもおけんわぁ!」
「ううう……」
俺が一喝してもバッドは納得していないらしい。
ただ犬のように唸り、口籠るばかりだ。
しかしバッドには『やる気』を出して貰わねばならない。
謀反を起こした諸侯に対し、しめしをつけさせる。
その為には父親オライリー、息子バッドという両名でのセットを、模範にさせるのが一番効果的だといえる。
「バッド! これからお前がどうするのか、この俺が選択肢を持って来た。話を聞くがいい!」
俺とゴヴァンは『冒険者』という唯一の選択肢をバッドに示す。
バッドは身体を張って稼ぐ冒険者と聞き、最初は凄く渋っていた。
これまで貴族として贅沢三昧の生活に浸り、好き勝手やって来たのだから当然である。
しかし父親のオライリーが息子である自分の為に商人になった事。
冒険者を選ばねば、ずっと投獄されると知り、態度がガラリと変わった。
改めて考え抜いた末……
生き残る選択肢が冒険者のみだと知り、バッドは仕方なく承知したのである。
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