第46話「悪党よ、チャンスは一度だ!③」
俺から「商人になれ!」と言われ……
驚きのあまり目を丸くし、口をあんぐり開けたオライリー。
呆然として言葉も出て来ないらしいので、俺は説明を重ねてやる。
「おい、オライリー。お前、たかが商人だなんて思うなよ」
「…………」
「お前に与えるのは、我が王国における富国強兵の一端を担う重要な仕事なんだ」
「…………」
「多くの罪を犯した反逆者のお前を、元の宰相へ戻すわけには行かない。俺はそこまで寛容な男じゃない」
「…………」
「だが、商人となったお前の働きいかんでは、貴族として復帰させる事も考えておる。ちなみに商業ギルドの責任者というのはお前以外に、俺と爺だ」
俺の話を聞いて、オライリーの目にようやく落ち着きが戻って来た。
どうやら、ようやく『中身』を理解したようだ。
だが、オライリーは「ぱくぱく」と口を酸欠金魚のように動かしている。
相変わらず思うように言葉が出ないらしい。
まだショックから抜け切れず、頭に身体がついていかないようだ。
少し経って、何とかオライリーは言葉を発する事が出来た。
「ね、ね、ね、根っから……」
「ふむ、根っからが何だ?」
「貴族の私が……」
「…………」
「しょ、商人なんか……務まらない、絶対に出来るわけがない……」
息子が冒険者になる事同様、己に与えられる役割を拒むオライリー。
ならばと!
俺はきっぱりと言う。
「たわけ! 何を申しておる。お前は商人の適性がばっちりではないか、まさに天職だ」
「て、適性? て、天職?」
「そうだ! 爺がお前の邸を接収し、徹底的に捜索した」
「う!」
「たわけ! 何がう、じゃ! 色々と出て来たぞ。面白いものがたくさんな」
「…………」
「俺を殺そうという書面の他に、お前が散々商人の真似事をし、密かに蓄財していたお宝がたっぷりと出て来たのだ」
「あ、ううう……」
爺……マッケンジー公爵によれば、オライリーは俺の殺害計画と共に、汚職の限りを尽くし私腹を肥やしていた。
俺は事実を述べると共に思いっきり、皮肉ったのだ。
悪事をさらされ、オライリーは脱力し、小さく息を吐いた。
今迄の勢いが嘘のように押し黙った。
鋭くオライリーを睨んだ俺は、「ここぞ!」とばかりに一喝する。
「このたわけめが! 身に覚えがあるだろう?」
「…………」
「岩塩を始めとした我が王国の物資売買から散々ちょろまかし、あれだけ金を貯めこんでいたお前だ」
「…………」
「たわけ! 今更、私は商人に向いていませんよ、などとは言わさんぞっ!」
「…………」
完全に無言となってしまったオライリーを、俺は更に糾弾する。
「まだある! こうして蓄財した金を……実は裏でこっそりガルドルド帝国へも流していたな、オライリー」
「え? そ、それ本当ですか? 王子!」
さすがに吃驚したゴヴァン。
俺は平然と返してやる。
「ああ、本当だ、ゴヴァン」
一方。
何でばれている!?
証拠は全部消した筈なのに!
オライリーの顔には、そう書いてあった。
そして身体はまたもぶるぶると震えていた。
先程の怒りとは違い、恐怖からだ。
明らかに動揺している。
不正な横領をした上、蓄財をした金を敵国へ流す……
国内だけの反逆ならいざ知らず、これは一国の宰相としては完全な裏切り行為である。
「何だと! こ、この! くそ売国じじいめが! ぶち殺してやる!」
衝撃の事実を初めて聞いて怒り心頭になったゴヴァン。
殺気の籠った、どすの利いた声が投げ掛けられ、オライリーは「ぎょっ」とした。
オライリーが恐る恐る見ると、ゴヴァンは、「すぐ殺す!」とばかりに鬼のような形相で睨みつけている。
「ひっ!」
震えあがったオライリーへ、俺は種明かしをしてやった。
「たわけめ、俺には分かるんだよ……お前の心に、つまり魂に浮かぶ事がな」
「え?」
「俺の前で、絶対に隠し事は出来ん!」
「ひ、ひいい……」
「お前はな、いざとなったら帝国を手引きしようとしていた。コンラッドを傀儡にしてアルカディア王国を売り渡す。その上で自分と息子だけ助かるよう、帝国から地位と援助を受けようとしていたな」
オライリーの秘密を知る事が出来たのは、俺がロキから得たサトリ……
すなわち『読心能力』の為である。
「ひ、ひえ~っ!」
そろそろ……
クロージングの頃合いだ。
俺は信長ほど気が短くはないが、かといって『のんびり屋』でもない。
「そろそろ決着をつけるぞ、オライリー! 俺は忙しい。いつまでも無駄な話は御免だ」
「あうううう……」
「いいかげん覚悟を決めろ! 商人になるか、売国の罪で首をすぱっと刎ねられるか、どちらでも好きな方を選べぃ!」
追い詰められたオライリーは……
大きな声で悲鳴をあげ、見苦しいほどに命乞いをする。
「ぎゃ~っ! た、た、助けてくれぇ! 命だけはぁ!」
「ははははは! いくら叫んだって誰も助けてくれやしない」
「うわうううううっ!!!」
「落ち着け、毒虫! お前が反逆者確定で死刑になったら、あれだけ気にしていた、息子の行く末はどうなる?」
「あ、ああ……バッドが……」
「ひとりで逝くのが寂しいのなら、反逆者とその息子、連座制でふたり一緒に並べ……」
「う、うう……」
「大勢の王国民の前、王都ブリタニアの中央広場ですぱっと斬首してやっても良いぞ!」
俺が、奴と息子バッドの末路を告げると、やはりオライリーには堪えたようである。
「ぐ!」
「宰相まで務めたお前ほどの男が、そんなみっともない死に方で良いのか?」
「…………」
「耳をかっぽじって良~く聞け、オライリー! 俺はな、救いようのない毒虫親子へ、もう一度だけチャンスをやると申しておる」
「…………」
「たった一度きりのチャンスをしっかり掴めぃ! そして華々しく復活してみせよ!」
「ううううう……」
俺が激しい檄を飛ばすと……
オライリーは犬のように唸り、縋るような視線で、俺をじっと見つめたのであった。
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