第44話「悪党よ、チャンスは一度だ!①」
俺は今、王宮の地下深い牢獄に居る。
旧きアルカディア王国創立時に、王宮深く掘られた牢獄である。
魔導灯の淡い光に照らされる古びた石畳が異様な圧迫感を感じさせ、周囲には重くすえた臭いが充満していた。
先の魔物討伐に続き、エリック弟ゴヴァン・マイルズだけを伴った俺は、ある人物を訪ねていた。
ここまで言えば、もう誰にでも分かるかもしれないが……
訪ねた相手とは汚い策謀を巡らせ、俺を密かに殺そうとした前宰相のガマリエル・オライリーである。
俺に殴られ、投獄。
俺の暗殺計画を含め、謀反の証拠品がたっぷり出て来たから、有罪確定。
そんなオライリーは数日の牢暮らしで髪と髭はぼさぼさ。
ろくに風呂に入れさせて貰えないせいか、身体も臭い。
俺に気が付いたオライリーは猪のように突進、鉄格子をがっしと掴む。
「がしゃがしゃ」揺さぶりながら、大声で吠える。
「くそ暴君めぇ! 今更、何の用だ!」
「ほう、毒虫。牢に入ってへこんでいると思ったら、意外にも元気そうじゃないか? 気力は衰えていないようだ」
俺がそう言えば、オライリーは、拳を固く握りしめ、怒りで「ぶるぶる」と身体を震わす。
「糞っ! 貴様、偉そうに勝ち誇りおって!」
「ふ、栄枯盛衰だな」
「栄枯盛衰? ふざけるな! それより私の息子はどうしたっ? バッドは無事なのかぁっ!?」
「バッド? あの、どうしようもないバカ息子か?」
「貴様ぁ! 私の可愛い息子を! バ、バカ息子だとぉ!」
こいつにとって息子バッドはどうやらアキレス腱か、逆鱗らしい。
少しからかっただけで、激怒している。
「ああ、なんならくそみたいなごく潰しと呼んでも良い」
「な、何ぃ! くそみたいなごく潰しだと! だ、黙れぇ! 私の息子はくそじゃない! ごく潰しじゃないっ!」
「いや、お前の息子は最低のごく潰しだ。上級貴族子息の身分をかさに、暇さえあれば街中で、罪もない王国民に散々暴力を振るっていたからな」
「う、嘘だ!」
「嘘じゃない。教えてやろう。バッドはな、任意で事情を聴こうとした衛兵に刃向かって大暴れし、お前同様、逮捕された」
「た、た、逮捕だとぉ!?」
「うむ、この地下牢のどこかに居るだろう。但し生きているかどうかは知らん」
怒鳴るオライリーに対し、まるで興味などなさそうに俺は淡々と話してやった。
俺のつれない返事を聞き、オライリーは唇を噛み締める。
「ち、畜生ぉ! ……昔、戦場で鍛えた俺と違って、あいつは死んだ母親似で身体が弱いんだ。こんな環境で、もし病気にでもなったら……」
目の前には意外にも……
我が子を心配する純粋な父親の姿があった。
他の貴族と画策して、俺を容赦なく横死させようとした極悪人とは思えない。
「ふん、毒虫。さすがのお前でも息子だけは可愛いし、心配か?」
俺がからかうように声をかけると、オライリーは悔しそうに俺を睨む。
「あ、当たり前だ! 子供を心配しない親がどこに居る? アーサーぁ! お前には良心が無いのかぁ!」
は?
俺には良心がないだと?
寝言は寝てから言えと返したい。
大声で怒鳴るオライリーだが……
奴の言う事は完全に論理が破綻している。
自分の都合の良いようにしか解釈し、考えていない。
「ふふふ、良心だと? 薄汚い毒虫が面白い事を言うじゃないか?」
「な、面白いだと!」
「たわけ! 俺を謀殺しようとした極悪人が何を言う」
「く!」
「まあ良い、お前達親子には、たった一度だけチャンスをやろう」
「な、何!? 何と言った?」
「おいおい、お前の耳には、汚い耳くそでもいっぱい詰まっているのか? 一度きりチャンスをやると言っているのだ」
「くう! うるせ~~っ」
「素直に話を聞け、毒虫が! 俺はな、大改革を行う事にした」
「だ、大改革だと!」
「そうだ! ひとつは冒険者ギルド、つまり冒険者の互助会だ」
いくら話しても、オライリーには俺が勝ち誇っているとしか見えないらしい。
命を助けるという話も、自分達親子を悪戯に嬲るとしか感じていないのだろう。
「冒険者ギルド? 今更、そんな話など無駄だ! 俺には、もう関係無いっ!」
絶叫して話を遮るオライリー。
また、「がしゃがしゃ」と閉じ込められた猿のように鉄格子をゆさぶる。
と、ここで。
今迄黙っていたゴヴァンが、遂に怒りの声をあげる。
「オライリー! 元宰相ともあろう者が見苦しい。黙って王子のお話を最後まで聞けっ!」
あまりの取り乱しようにゴヴァンがやんわりと落ち着くように諭す。
だが、切れまくるオライリーの怒りは収まらない。
「はん! マイルズのくそ息子か! 下っ端貴族の小僧がぁ! この俺に対してそんな口を利きおって、許さんぞっ!」
騎士爵家の息子ゴヴァンの言葉に対し、元上級貴族のプライドなのか、オライリーは真っ向から言い返す。
しかし!
前田慶次ことゴヴァンも負けてはいなかった。
相手はもう、貴族の最高位たる公爵ではない。
今は、単なる犯罪人なのだから。
また王の俺がオライリーに何を説明しようとしているか、既に理解している事もあって強気な姿勢を崩さない。
「阿呆! 元は公爵でも今のお前は只の薄汚い犯罪人だ。アーサー様はお前に真剣に向き合おうとされている。それが分からないようであれば、こちらこそ許さんぞ」
「おい、毒虫。ゴヴァンの言う通りだ。そんなに今すぐ死にたいのなら、バカ息子共々首をすぱっと刎ねるが、どうだ?」
ゴヴァンの叱責に続き、容赦無い俺の言葉を聞いたオライリー。
さすがに口を慎むしかない。
ぐっと唇を噛み締め、無言で俺とゴヴァンを睨み付けたのである。
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