第41話「チート能力本格始動②」
いずれ王となる俺には、シンパやブレーン、部下達の人心掌握をするのが必要不可欠。
念の為、『人心掌握』というのは、他人の気持ちを自分の意のままに操る事。
自分が意図した方向へと他人を誘導し、気持ちをその方向へ導く事なのだ。
でも人心掌握の際に行う『誘導』方法って、部下全員に似たような同じ事をやっても上手くいかないんじゃない?
俺は高校生だったからせいぜいアルバイト。
純粋な会社勤めはした事がない。
だから上司と部下の兼ね合いなんて良く分からない。
しかし親から聞いた話や信長関係の本から得た知識でそう考える。
まあ、大勢の部下を持つ人は、ひとりひとりにまで手が回らないかもしれない。
でも部下達の中で、キーマン、キーウーマンとなる部下が絶対に居る。
彼等彼女達には、上司自ら特別にケアし、個々に綿密なコミュニケーションをとる事が絶対に必要だと思う。
何故なら、人間って性格、価値観が千差万別。
仕事において上司がひとつの実績を出したとしても、分かり易く手本を見せたとしても、心に響く人と響かない人が居るからだ。
そういった考えを……俺の部下に置き換えれば、
羽柴秀吉ことトーマス・ビーンや前田利家ことエリック・マイルズとは話し合い、俺が考えた『知略や政策』で納得&感服させられる。
だが武闘派、つまり前田慶次ことゴヴァン・マイルズや柴田勝家ことガレス・シードルフ伯爵のように己の力を信奉する者は違う。
俺個人の『強さ』をはっきり見せないといけないのだ。
かといって、ゴヴァンをねじ伏せたように、単なる『試合』での力比べはつまらない。
もっと有意義な方法がないかと考えたら……
よし! と思い付いた。
そのゴヴァンに考えを話したら、「名案です!」と絶賛された。
「試合より、全然燃える!」とも言われた。
俺はゴヴァンへ、改めてその後の構想を話した。
すると、彼は意気に感じ、「喜んで供をする」と言ってくれたのだ。
ここまで引っ張って申し訳ない。
もうお分かりかもかしれないが……
行うのは王国民に害を為す魔物の討伐である。
今回、魔物を倒すメリットとしては、
メリット1:治安向上による、王国民の生活安定。
メリット2:俺自身の強さの自己確認及び、周囲への浸透。
メリット3:新設される冒険者ギルドクランのシミュレーション。
他にもいろいろある。
だが、まずはこの3つだろう。
というわけで……
俺は忠実な家臣となったゴヴァン、謹慎中のガレス・シードルフ伯爵、そのひとり息子エイルマーの4人で出発した。
行き先は王都から少し離れた、とある村。
馬を休ませながら速足で走らせ、王都ブリタニアから2時間あまり……
着いたのは山間にある、一見のどかな村であった。
俺達は、早速村長に会う。
実はこの村、元宰相オライリーの領地である。
奴を投獄した際、領地&財産等を容赦なく没収したから、今は俺の直轄地となったわけ。
領民の窮状など考えない冷酷な領主ライリーは、他の貴族同様、領民からの救助の陳情を完全に無視&放置していた。
王子の俺が直々に来て、ようやく陳情が通ったと、安堵の表情を見せた村長ではあったが……
すぐ不安そうな表情になる。
出発前、事前に話は聞いていた。
今回の敵はゴブリン約200匹。
小説やゲームでは所詮雑魚キャラのゴブリンではある。
だが、この数ともなれば、普通は騎士一隊・数十人で対処する相手。
それが実際に来たのは、俺達たった4人だけなのだから。
でも……
複雑な眼差しで俺を見るのは、村長だけではない。
この村に来るまで、シードルフ伯爵は疑いの眼差しで俺を見ていた。
公爵オライリーを容赦なく投獄した俺が、やはり「裏切者は許さない」として……
無理な魔物討伐を強行させ、息子共々誅殺しようとしていると。
まあ、そう思うのも無理はない。
シードルフ自身が俺を暗殺しようとしたのだから。
逆の立場なら、誅殺されるのは充分ありうる事である。
しかし不忠者&反逆者として、俺から蟄居を命じられたシードルフ伯爵。
息子と共に生殺与奪を握られている身だから、抵抗の余地はない。
なので、渋々ついて来たという次第。
まあ論より証拠。
「一緒に戦えば分かる」と伝え、俺は4人を引き連れ、村から早速出撃したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
山道を、馬に揺られながら、俺達はゆっくり進む。
魔法使いである俺が、密かに索敵魔法を発動しているから、奇襲される事はない。
ちなみに、これから俺達が討伐する魔物ゴブリン。
箇条書きで奴らの特徴を並べると、
小型の人型魔物。
体長は50cmから最大1m前後。
性格は残忍で陰険。
雑食であり、群れて人間や家畜も襲う。
普段は地下で暮らしていて、眩しい光が嫌い。
身体耐久力弱し。
物理攻撃に弱くて、魔法耐性も一切無い。
火属性の魔法が特に有効。
巷のファンタジー世界ではもう登場が常識、当たり前に出て来る魔物だ。
それも雑魚中の雑魚。
典型的な『やられキャラ』である。
しかし、雑魚扱いも数が少ない場合のみといえる。
何故ならば、単体では滅茶苦茶弱いゴブリンだが、基本的に大群で行動する。
分かり易く例えれば……
アマゾンに生息するあの猛魚ピラニアをイメージして欲しい。
膨大な群れの数を頼んで、強い相手でも圧倒するのだ。
いくら屈強な騎士だって、ゴブリン10体が一度に向かって来たらてこずる、
そして30体なら苦戦、50体では命が危険にさらされ、100体の群れともなれば、一方的に蹂躙される恐れも充分ある。
シードルフ伯爵から見れば、今居る4人の中で唯一頼りになるのは『若きライバル』ゴヴァンだけ。
不可解に変貌した俺は全くの未知数だし、可愛い息子は半人前以下。
自分ひとりで200体強のゴブリンと戦えるとは思っていない。
こうなるとガレスの心には疑念が湧き上がる。
反逆者の自分と息子に先陣を切らせ、ゴヴァンに守って貰いつつ、俺はさっさと逃げるに違いないと。
ここで俺は、ロキから授かったチート能力『さとり』を使う。
シードルフ伯爵の心を読み切ると、馬を走らせる。
そして奴の真横に並び、馬上から話し掛けたのである。
「おい、ガレス!」
「は!?」
生前の『アーサー王子』は、奴をガレスと名前で呼んだ事などない。
姓のシードルフ伯爵殿と呼んでいた。
だが俺は、奴の懐へ一気に入る為に、ファーストネームで気安く呼んだのだ。
「汚い耳をかっぽじり良っく聞け、指示を出すぞ」
「は! ……お、お願い致します」
唇を噛み締め、沙汰を待つシードルフ伯爵、否、ガレス……
奴の身体が震えている。
どうやら武者震いのようだ。
「息子と共に、もう死ぬ覚悟は出来た!」という、開き直りと達観した波動が強く放たれている。
しかし俺は、奴にとって想定外の命令を言い放つ。
「敵と遭遇したら、俺とゴヴァンがふたり、前に打って出る。お前は後方で息子と一緒に待機しろ」
「な? え?」
目を真ん丸、口をぽか~ん……
そんなガレスへ、俺は構わず指示を続ける。
「たわけ! 何を腑抜けておる! 俺達が討ち洩らしたゴブリンが後方へ行ったら、息子と共にふたりで仕留めろ! あい分かったか!」
「…………」
驚愕の表情を浮かべた後……
ガレスは大きく目を見開き、真剣な眼差しでじっと俺の顔を見つめていたのである。
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