第38話「邪神ロキ再び①」
俺が様々な政策を挙げ、マッケンジー公爵以下8人の質問に答えた後……
各自には1週間の『猶予』を与えた。
だが、猶予といっても何か悪いリミットの意味ではない。
挙げた中で、9人に志願したい仕事があるならば、じっくりと考える為の時間である。
何故ならば……
俺は己の判断において、各自の持ち味、つまりは適性を考え、配置のシミュレーションをしていた。
だが、仕事をするのは機械ではなく生身の人間、最も重要といえるモチベーションの問題がある。
つまり、やる気があるのとないのでは、与えた仕事への取り組み方と成果が全然違うのだ。
中でもイシュタルとエリザベスには……
それぞれふたりの自室へ呼ばれ、改めて質問攻めにあった。
ライバル意識むき出しの美少女ふたりは、「あの女には絶対負けたくない!」ときっぱり言い放って、目をギラギラさせていた。
むむむ、仕事に対する前向きさは買える。
だが、この様子では……雪解けは当分先だろう。
そんなこんなで時間が経ち、その日の深夜の事……
俺は、すっかり甘えん坊になったイシュタルとたっぷり愛し合った後……
眠りに入った……
だがすぐ何者かの邪悪な気配を感じ、ふと目を開けた。
すると!
仰向けに寝た俺の目の前に、ロキの不気味な笑顔があった。
顔こそ金髪碧眼の美少年だが、目は吊り上がり、口は耳まで大きく裂け、とがった鋭い牙も見えている。
超が付く至近距離!
俺の顔と奴の顔がほんの30㎝も離れていない。
さすがに豪胆な信長モードとなった俺も驚いて、つい大きな声が出る。
「う! うわぁ!」
「ひゃははははははっ! 良い反応! おっひさ~、げんきしてるぅ~~」
俺の慌てぶりを見て、大笑いしたロキは空中で猫のようにくるりと回転。
軽やかに俺のベッドの脇へ降り立った。
こいつは相変わらずノリが超軽い。
神とは思えない下品さだ。
あ、そうだ。
と気付いた俺はそっと、横に寝ているイシュタルを見た。
だが、これだけ大騒ぎしたのに彼女は全く起きない。
変だな?
これだけ大騒ぎして、気が付かないなんて。
小さく驚く俺に、ロキの声が降って来る。
「でぇじょうぶだぁよ! おめぇの嫁さんはさ、俺様の特製睡眠魔法で眠らせてあるからよぉ」
ああ、久々にロキとサシで話すのか……
嫌な予感しかしない。
けれど、一体、何の用だろうか?
大きな溜息が、俺の口から吐かれる。
「はぁ~~~あ」
「おいおいどうしたよ? こんなに可愛い嫁さんとさぁ、あんなに可愛い妹ちゃんが居るのに情けない溜息つくなんてよ。超ばち当たりな奴だぜぇ、神の俺様がばちい~っぱい当てちゃうよぉ、えいえいっと!」
ロキは俺の脇腹を「つんつん「」と突く。
奴の爪が鋭くとがって、更にピンと伸びているせいで結構痛い!
「いていてぇ、やめてって! ったく……嫁と小姑にはさまれるこの設定って、絶対に俺の事、いじって喜んでいるでしょ?」
俺の精一杯の抗議に対し、ロキは「我関せず」といった態度だ。
逆にこんな事までのたまう。
「でも、太郎よぉ! 俺様のお陰でよ、お前の世界でいうジェットコースターみたいなスリル満点の人生だろ?」
「俺様のお陰って……事実は全く違うっす。あまりにもアーサーが超草食で、不憫だったから、仕方なく引継ぎしただけっす」
「いやいやいや! やっぱさ、平凡な人生なんて、超つまらねぇぜ、ぎりぎり生きるか、呆気なく死ぬかの二択だよぉ! 明日が全く分からない方が超おもしれ~! ひゃははははははっ」
「いやいやいや! 良く考えて、俺……一旦死んだから、刺されて呆気なく」
「あ、そうか。そうだった、ひゃははははは」
「ロキ様、笑っている場合じゃないっす。俺は基本、平凡な人生がいいっすよ」
生きるか、死ぬか……
神として、ロキからのご神託なんだろうが、素の俺は平凡が一番良い。
異世界だって、アーサーからの引継ぎがなければ、可愛い子とふたりで平和に暮らすに越したことはない。
やっぱ信長は小説やゲームで憧れ、空想の中で楽しむ方が良いって実感してる。
「あはははははは! それに平凡な結婚も、俺様から言わせりゃ、超が付く不毛だぜぇ!」
「いいえ! 不毛じゃありません。俺としては……平凡で、家族皆が仲が良い、幸せな結婚の方が良いんです!」
「ばっかだな~、張り合いがない、平穏無事なんて、くそつまらない毎日だろが!」
「良いんです! 平穏無事で。くそつまらなくても平和が一番!」
「ブー! ざんね~ん! おめぇの人生は全然平和じゃありまっせ~ん! 俺の計画で美少女嫁と美少女小姑の永遠凄絶バトルは、もう織り込み済ぃ!」
「…………」
「だって人の不幸はよぉ、甘い蜜の味って言うだろが! 分かるぅ?」
「はぁ……人の不幸って……もう、良いです、この話は」
「ちぇ! これから折角盛り上がる面白いところだったのに」
「ノーサンキュー! それにしても最近俺って、信長政治モードが凄いんですよ。キレッキレッです」
俺の話を聞き、ロキも満足そうな表情である。
そりゃそうか、俺は所詮ロキの『作品』に過ぎない。
そして奴がこの世界の管理人をやめる為の『道具』だもの……
「ああ、だろうな! 俺様の腕はたいしたもんだと自画自賛」
「…………」
「こら! 死んだ魚みたいな目で、俺様を見るんじゃねぇ」
「…………」
「おめぇの大好きなノブはよぉ、進取性と革新性と決断力に優れた三拍子揃った御仁さぁ。その性格はよぉ、これからどんどん、おめぇの表面に出て来るぜ」
「性格が出て来るって……まあ、俺、超が付く信長ファンなんで、彼に染まるって凄く嬉しいですけどね」
「だろ? でもノブの性格はおめぇとは完全に真逆だ。これからおめぇがよぉ、本来の愚図でのろまな己とどう折り合いをつけて行くか、俺様は楽しみなんだよ、へっへへへ、悩め、悩みまくれ」
ロキは何気に凄い立派な事を言うように見せているが……
実は俺をいじって、おもちゃにし、面白がっているのがまるわかりである。
「やっぱ……完全に俺で遊んでいますね」
「おう、完全に遊んでるよ、予定通りってとこだ! 俺様の管理人脱出作戦もな!」
「やっぱり! ならロキ様の思い通りに行っている引き換えに、何かご褒美ください! 俺、この世界へ凄く貢献してるっしょ? サービスポイント高いでしょ?」
ここぞ! とばかりに……
チャンスと見た俺は、ロキに『加護』を求めたのであった。
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