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第33話「仕える為には手土産を①」

 オライリーの屋敷から出た『連判状』は、良く言えば下剋上、悪く言えば国家反逆罪の動かぬ証拠である。

 名前が記されていた貴族共は、生きた心地がしなかっただろう。

 最初は前宰相のオライリーと同様に投獄され、下手をすれば一族全員死罪になるのかと、戦々恐々としていたらしい。

 

 しかし……

 「とりあえず……首謀者のオライリーのみ投獄、弟コンラッドも含め、他は自宅にて謹慎」とする俺の意向を汲み取ると、おっかなびっくりで恭順の意を示すに到ったのだ。

 

 そうこうしているうちに、王宮へ例の『猿』ことトーマス・ビーンが、男をひとり伴って訪ねて来た。

  

 普通なら身元不明の者など、警備が厳重な王宮へは入れない。

 あっさり追い返されるのが常である。

 

 しかし俺が王宮警護の騎士達へ、事前に伝えてあった。

 風貌が猿の様な男が訪ねて来たらすぐ通すようにと。

 その為、トーマスと、もうひとりの男は謁見する許可を得る事が出来た。

 

 「仕えるにはまだまだ手土産が足りない!」と言う宿題をトーマスへ与えている。

 だから、奴はあれから俺への土産、何かを持って来た筈である。


 少し驚いた。

 とんでもなく迅速な動きだから。

 俺が宿題を出してから、まだ3日しか経っていない。

 こうやって、信長から出された期日の半分以下、超特急で仕事をするのも、秀吉の特徴だ。

 低い身分故、主君に少しでも覚えめでたく見て貰い、

 「誰よりも早く出世するのだ!」というとんでもなく強い意志が表れている。


 王宮警護の騎士から取次ぎされ、エリックがトーマスの来訪を告げて来た。


「アーサー様、先日市場で遭遇した猿……じゃない、トーマス・ビーンが、やって参りました」


「おう! それで?」


「あいつともうひとり、どうしても名乗らない身元不明の卑しそうな男を伴い 謁見を申し出ております。正体不明の男は武器の一時預かりを断固拒否し、何と帯剣したままです」


「ほう! 帯剣したまま謁見するのか、それは面白そうな奴だ」


「な、何を仰いますか! アーサー様のお許しがなければ、あんな無礼な男、猿共々とっくに成敗しております」


 エリックは怒っているが……

 当然「謁見OK、待ってたホイ!」なので俺は大声で返す。


「構わぬ、ふたりを通せ!」


「しかし! トーマスはともかく、もうひとりが帯剣したままでは万が一……」


「俺が良いと言っておる、通せ!」


「は、ははっ」

 

 エリックは不承不承、トーマス他1名計ふたりを執務室へ通した。

 トーマスは部屋に入ると、俺が事務を執っている机の遥か彼方に控える。

 「にやり」と笑うと臣下の礼を取り、馴れ馴れしい口調で俺の機嫌を取りにかかる。

 一方、正体不明の男はトーマスの背後に腕組みをして立ったまま。

 俺を見るその視線は鋭く、厳しい。


「へへへ、アーサー王子、本日はお日柄も良く、謁見させて頂くには誠に宜しい日ですなぁ」


 へりくだったトーマスの声を聞いたエリックは露骨に嫌な顔をするのと同時に、臣下の礼を取らない、もうひとりの男を怒鳴りつける。


「そこの者! 無礼である! アーサー様の御前だ、控えおろう!」

 

 だが俺は手を挙げ、いきり立つエリックを軽く抑えた。


「エリック、とりあえず好きにさせておけ。それと猿よ、世辞は良い。お前のみやげ次第で仕官を判断すると言った筈だ。俺はとても忙しい、さっさと簡潔明瞭に内容を述べろ」


「おお、これは、これは失礼致しました! では単刀直入に申し上げます」


「よし、申せ!」

 

 トーマスはまた「にやり」と笑い、言葉を選びながらも簡潔に話を続けて行く。


「アーサー様が必要とされているのは情報、金、人、もうひとつ武力でございますな」


「ふん! それで?」


「この4つをこのトーマス・ビーン、いや『猿』から贈らせて頂きますよ」


 おいおい、自らを猿だと?

 どうやらトーマスは、自分を渾名あだなでフレンドリーに呼ばせる事で、親しみ易くさせる腹づもりらしい。

 相変わらず頭が切れる男だ。


 閑話休題。


 トーマスの提案を聞き、思わずニヤリとした俺。


「ほう、それは面白そうだ」


「はい! 中でも! アーサー様は王国内外の情報を取る為の手立ては一番欲しがっておいででしょうな。この猿も全く同意見でございます」


「ふむ……」


「情報とは全てに通ずる、金にも人にも武力にも」


「ほう、たかが猿の癖に、わけしり顔で物を言えるのだな?」


「はは、お忙しいところ申し訳ありませんが、暫しの間、アーサー様には猿の話をご静聴頂きたく!」


 トーマスはそう言うと、相変わらずしかめっ面のエリックを見て、にやりと笑った。


「さてさて、まずは情報のお土産を。この猿めが子飼いの者どもを王の臣として奉げますぞ」


「お前の子飼いの者?」


「はい! 捧げるのはざっと男女50名ほど、普段は各国の街で商人、職人、芸人をしている者共です。そして彼等の情報収集能力は卓越しておりまして、帝国、アヴァロンを含め、この大陸どこの情報でもいかようにも、それも迅速にお届け致しましょう、更に予算を頂ければ、もっと人数を増やすつもりですよ、へへへ、いかがでしょう?」


「ふむ、良いっ! 続けろ、猿!」


「はい、次に金の件ですが、アルカディア領内にいくつか良質の鉱脈を発見してあります。なので、その場所をアーサー様へお伝え致します、金とミスリルの大鉱脈でございますよ」


「ふむ、金とミスリルの鉱脈か……ありがたい情報だが……猿よ、それだと開発するのに最初は金と人が要るではないか! 俺が欲しいのはすぐ懐へ入り、即座に使う事の出来る金だ、そちらはどうなのだ?」


「へへへ、これはこれは、ついうっかりしていました」


「……まあ、良い、話を続けろ。但し、すぐに金を稼げる方は引き続き宿題だぞ」


「は! 厳しいご指摘、了解致しました。次……人材に関しては当然お分かりでしょうが……この私ですな、へへへ」


「ふん、相変わらず言うわ。まあ良い、で最後は?」


「武力……でございますな、私の後に居るのは古くからの知り合いでして、様々な傭兵隊の長をしている者。今日はアーサー王子に引き合わせしたく、連れて参りました。こやつには仕えるよう話を既に通してあります」


 だが、トーマスが見つめてもどこ吹く風という態度の男である。

 

 良く言えば野性的、悪く言えばむさい。

 黒髪で顔下半分がもじゃもじゃの無精ひげに覆われており、相変わらずこちらへ挑むような眼光を投げ掛けている。

 いかつい顔付きで、まるで山賊。

 お世辞にも人相が良いとはいえなかった。

 年齢はトーマスより10歳ほど上の30歳前後といったところか。


「ふん! こいつは傭兵か? で、数は?」


「約10隊の小隊がありまして、総員1,000人程度となります。こ奴はそれを束ねる隊長でございますね、へへへ、いかがでしょうか?」


 控えめながらも胸を張るトーマス。

 

 成る程!

 この異世界では野武士が傭兵に変わったのか。

 多分、こいつは蜂須賀小六だろう。

 

 しかし改めて思う。

 猿ことトーマスはなかなかやる男だと。

 さすがこの世界の秀吉役だ。

 短期間で、これだけのものをまとめて俺に献上するとは大したものである。


 しかし、俺はけして本音を言わない。


「ははは、猿! たった1,000人では少ない! 少な過ぎる! 全然充分とは思えないがな」


「は! 申し訳ありませぬ」


「だが俺の投げた宿題を解き、まずまずの答えを持ち帰って来た事、あっぱれだ」


「ははっ! ありがたき幸せ! では私の仕官の件は?」


「いや、まだだ! 何故ならお前の連れて来た男はな、俺に仕えようというツラではない。よし、傭兵よ、まず名乗れ! そして望みを申してみせよ」

 

 俺が促すと……

 髭面男の口が開き、重々しく低い声が洩れたのであった。

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