第31話「平手爺やと語る国家運営①」
王宮へ戻り、ゴヴァンを新たに部下へ加え、マイルズ兄弟の忠誠心をあげた。
暫しの休暇を与え、兄弟を下がらせると……
次は、平手の爺ことクラーク・マッケンジー公爵を執務室へ呼び出していた。
俺が宰相オライリーをぶん殴り、奴の逮捕後に行った家宅捜索の報告をさせる為だ。
ちなみにオライリーのひとり息子バッドは、王都の街中で捜索中の衛兵に見つかり任意同行を求められたが、断固拒否。
大暴れして、抵抗した為、父親同様これまた牢獄へ放り込まれた。
その時、シードルフの息子エイルマーも居て同様に暴れたが、こちらは自宅謹慎を条件にし、青ざめた父親へ引き取って貰った。
マッケンジー公爵は、俺から呼び出されるのを朝よりずっと待っていたらしい。
即座にやって来ると、すぐに報告を開始した。
彼の表情は悪鬼のようになっている。
主君である俺の前なので、こみあげる激しい怒りを何とか堪えているらしいのだ。
案の定というか……
報告の内容と、マッケンジーの怒りは比例。
オライリー邸から出て来た証拠品の中身は凄まじかった。
アルカディア王国トップの貴族として君臨していたオライリーは、油断し切っていたのだろう。
まさか、急に家探しされるなど夢にも考えてもいなかったようだ。
なので、謀略の証拠がわんさか山のように出た。
公金横領、配下の貴族の出世の便宜を図る書類や誓紙が多かったという。
だが中でも悪質なのが、やはり俺を誅殺する秘密の計画書。
毒殺、闇討ち等、薄汚い卑怯な手を使って俺を亡き者にした後、弟コンラッドを神輿に担ぎ、傀儡とする。
という手立てがいろいろと書いており……
賛同者は主犯オライリーに始まり、シードルフ以下王国の有力貴族が殆ど。
彼等の名と血判がずらりと押してあった。
そして……
悪事がここに極まれりというものが、オライリーとガルドルド帝国との密約状だ。
帝国が、アルカディア王国侵攻の際、裏切って内部から手引きをすれば奴を将軍にするという誓約書である。
ご丁寧に、帝国皇帝の署名まであった。
まあこんなものは絶対にあてにならない。
簡単に反故にされる『空約束』だと俺の勘が告げていた。
自分だけ助かるような裏切りの決定的な証拠が出て……
マッケンジーが怒り心頭で憤るのも無理はない。
「若! 宰相たるオライリーがここまで腐りきっておったとは! 譜代貴族の風上にもおけない大不忠者ですぞ」
「で、あるか!」
「で、あるかって、若! 奴らは忠義心皆無な最低の連中ですぞ……シードルフや奴の配下の貴族、騎士共も含め、容赦なく極刑に処すのが妥当かと!」
「ふむ……」
俺は少し考えてから「ポン!」と手を叩く。
「爺! この世で大事なものを、俺が3つあげてみせようか」
「は? この世で大事なもの?」
唐突な俺の質問。
マッケンジー公爵は呆気に取られ、「ポカン」と俺を見つめた。
貴方は……大切な話の最中、一体何を言っている?
そんな顔付きだ。
しかし、俺は構わず話を続ける。
「俺が先に答えよう、それはな。人の命、愛、そして金だ」
「わ、若! いきなり! 何を仰っているのですか? 創世神教司祭が行う説教みたいな話をしている場合ではありませんぞ」
マッケンジー公爵は驚きつつ、やんわりと俺を咎めて来た。
だが俺は動じず、逆ににっこりと笑う。
「爺! まあ、俺の話を聞け」
「は! き、聞きまする!」
「うむ……では次にな、国家運営に必要なものを3つあげよう。俺が生まれるずっと前から政務に携わって来た爺へ、こんな事を言うのは、まるで猿にいちから木登りを教えるようなものだがな」
猿に木登りを教えるとは、釈迦に説法と同じ意味だ。
仏教がないこの異世界ではそのような例えになる。
王子の俺にそう言われ、さすがに恐縮したマッケンジー公爵は手を左右に振り、一応は否定する。
「そ、そんな!」
「ふむ……では言おう。それはな、爺。金、人、情報の3つだ」
「は、はい! 確かに若の仰る通りです」
「でだ! 新宰相になった爺とは、まず一番大事な金の作り方、それと使い方を相談せねばならない。王国にとってはまず先立つものが金だからな」
「はい!」
「我がアルカディア王国の財政の根幹を為すのが塩湖だ。こちらに金と人をもっと投入し、生産力を上げ、利益をぐんと増やす。詳細は後ほど相談だ」
「は、はい!」
マッケンジー公爵は噛みながらも、大きな声で返事をした。
これは「納得した」という意味だろう。
アーサーから得た知識により、俺は王国の財政事情を把握している。
塩湖とは、王国の北方にある、文字通り塩水の巨大な湖である。
この塩湖から採掘される良質の岩塩が稼ぎ出す外貨がアルカディア財政の要なのだ。
常識だが、人間を含めた動物は塩がなくては生きていけない。
アルカディア産の岩塩はとても良質。
この世界で海に面した国以外、とても重宝し、高値で購入されていたのである。
「爺、俺は他の商業政策も考えておる。これも後で相談。さあ次は人だが……ここが最も難題だ」
「若、人が……難題なのですか?」
「ああ! 家臣の第一条件は王家、王国に対し忠誠心が高いのは、勿論だが……それ以上に個々の能力が優れている者達が必要だ」
「個々の能力ですか」
「おう! 能力はスキルと言い換えても良い。王国にとって必要なスキルを持ったエキスパートが数多必要なのだ。複数のスキル持ちや全てをこなせるオールラウンダーは金に糸目を付けず特に厚遇して迎え入れたい……だがそこまでの奴は滅多に居ない」
「優れたスキルですか……確かに若の仰る通りですね」
「ああ、この国に限らず大抵の貴族や騎士は世襲により親の仕事をそのまま引き継いでいるだけだ。それでは彼等が持つ真の適性が見えぬ」
「御意!」
マッケンジー公爵は納得し、大きな声で返事をした。
ここで俺は悪戯っぽく笑う。
「ふ! まず俺からして、王に最適な人材かは甚だ疑問だな」
「わ、若!」
「ははは、冗談だ。それはおいといてもだな、話を戻せば、今のアルカディアには優れた人材があまりにも不足している。それ故、限られた者を鍛えつつ使っていくしかない。当面はな」
「限られた者を……鍛えつつ、ですか?」
「うむ! まずは身内のイシュタル、エリザベスを使う。ガンガン働いて貰う」
「え? イシュタル様とエリザベス様を……ですか?」
「ああ! 俺と爺を助ける宰相補佐としてな」
「さ、宰相補佐!? 政務未経験の年若い女子をですか?」
俺の話を聞き、マッケンジー公爵は絶句した。
身内で王族とはいえ、何の実績もない、政務未経験の年少女子ふたりをいきなり重用する。
それも……自分に匹敵する権限を与えると、次期国王の俺が言うのだから。
アルカディア王家に長く仕えた実直な老人は……
驚きのあまり再び大きく目を見開き、俺を見つめていたのである。
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