第3話「あ~あ、俺、死んじゃった」
こんなにさえない俺だけど……
前世では、たったひとつだけ、楽しみがあった。
実は、恋をしていたんだ。
え?
似合わない?
キモオタのお前が恋なんてすげ~気持ち悪い!?
そう言うなよ、こんな俺だって、誰かを好きになって良い権利くらいある。
で、恋の相手は誰かというと……
笑顔がとびきり素敵な近所のコンビニバイトちゃん。
年齢は俺と同じか、少し上だろう……某アイドルタレント似の可愛い女の子なのである。
タレントレベルの可愛い子だから、当然、恋敵は多い。
彼女の勤務時間には、何故だか男の客が大幅に増えていたから。
ああ、でも恋って辛い。
特に片思いはとても苦痛だ。
本当は、勇気を出して言いたい。
レジ越しに、「ひとめぼれです、君が好きだ」とコクりたい。
「容姿ではなく、俺の内面を見て下さい」と伝えたい。
さりげなく甘く、愛を囁きたいのだ。
うん! けしていい加減な気持ちではない。
当然、真剣だ。
だけど……自分でも分かっいる。
そんな甘い恋など柄じゃない。
全然似合わない。
俺は元々意気地なしだし、このキモさだ。
ふられたら、全治1年はかかる。
作者同様、傷つく事に超敏感な豆腐メンタルなのだ。
それにクラスの女子からは普段、後ろ指をさされてる。
傍を通るだけで「近付くな、ばい菌!」って怒鳴られている……
酷いよ、あんたら。
でもさ、これって、男に対するセクハラじゃないのか?
だから、バイトちゃんへ下手に声をかけでもしたら……
多分不審者として、即座に店内の防犯ベルを押され、警察へ通報される。
格好良い男だったら、自信を持っておしゃれにデートを申し込むけど……
この俺だよ。
キモい、『ブタロー』なんだもの。
情けないけど、自分に全く自信が無いんだ……
でもズルイよな。
そう思わない?
もし同じ事をしても、カッコいいイケメンなら全然許されるのに。
絶対セクハラになどならない。
だが、超が付くキモ男は即座に訴えられ、下手をしたら牢屋行きに間違いない……
男は性格重視って世間じゃ言うけれど、違うよ、絶対に違う。
俺は、よ~く分かってる。
だから、ささやかな幸せだけで満足している。
買い物をして、彼女がつり銭を間違えたら優しく指摘してあげる。
商品がなくなりそうな時に、わざとその商品を買い、品出しと店の売上げ貢献をするようなフォローをしていた。
え?
そこまで好きなのに、お前は消極的過ぎるだと?
いや、いいんだ!
「遠くから見守る愛もある!」って、誰かが言っていたじゃないか。
だが……
平凡な日々を送っていた俺にも、遂に運命の日って奴がやって来た。
え?
恋が叶うとか、奇跡の幸せが突然に来たのかだって?
全然違う!
これが、まったく逆さ!
最悪の不幸になったんだ!
ある日の事……
俺がいつものように、遠くからバイトちゃんを眺めて幸せに浸っていたら、事件は起こった。
レジに居る彼女が、いきなり大きな悲鳴をあげたのだ。
驚いて店内を見渡したら、ひとりの女の子がチンピラに絡まれている。
何故絡まれているのか、原因は良く分からなかったが……
誰が見ても怖くなるほど、チンピラは目が据わっていた。
何やら相当にヤバそうな雰囲気だった。
いきり立つチンピラを刺激しないよう、野次馬根性で「そっ」と近付いてみたら、絡まれているのも、めちゃ可愛い子だった。
速攻でチェックしたら、年齢は俺と同じか、ちょい下くらいか。
バイトちゃんとはまた違う、コケティッシュなタイプだ。
でも誰も助けに行かない。
俺も含め、遠巻きにして皆が見ていると……
「お願い! あの子を助けてあげて!」
麗しのマドンナ、バイトちゃんの縋るような声が俺も含め、見物人の耳へ突き刺さった。
だけどチンピラは、誰かが近付こうとすると、思いっきりナイフを振り回していた。
これは本当にヤバイ。
下手に近付くと巻き添えを喰ってしまう。
バイトちゃんの可愛い声が俺のハートに突き刺さるのは全然OKだが、チンピラのナイフを喰らうのは真っ平だ。
なので、俺を含めた店内の客は「早く、警察が来てくれよ」と、思っていただろう。
そうさ、俺も所詮は『臆病者』なんだよ。
凶悪そうなチンピラを見て、完全にびびってしまったもの。
ホントに世の中、世知辛いや。
誰もが自分に災難が及ぶなんて、絶対に御免被るよ、って思ってる。
何かあっても、殆どが知らんふりの傍観者。
かくいうこの俺も、その中のひとり。
あ~あ……
深いため息をついた俺。
臆病な自分が情けないのと、可哀そうな女の子の様子を見ていられなくて、思いっきり視線をそらした。
だけど……不思議な事に……
怯えて嗚咽している、女の子の声らしきものが、いきなり心へ聞こえたんだ。
『ねぇ! 助けて! お願い!』
「え?」
思わず女の子を見ると、「じっ」とすがるように俺を見つめていた。
その瞬間何故だか勇気が湧いて来た。
今思い出しても……
どうして俺は?
って、自分へ問い質したい。
何故、そんな気持ちになってしまったのかって。
誰も助けに行かないなら、俺が行けば目立つ!
『愛しのバイトちゃんへ、最高にカッコイイ所を見せよう!』 なんて気の迷いが起こってしまった……
だから俺は……一世一代の勇気を振り絞った。
わけの分からない大声をあげて、チンピラに体当たりしていたのだ。
俺の巨体に体当たりされたチンピラはよろけ、案の定、逆上した。
態勢を立て直すと、雄叫びをあげながら、俺を捕まえた。
そして、ナイフでぶっすりと何度も刺しやがったのだ。
「おらぁ! このクソでぶ! 死ねやぁ!」
見知らぬ男から発せられた、殺意を籠めた叫びと同時に、激しい痛みが何度も俺を襲った。
17年の人生を生きて来て経験した事のない、冷たい異物が身体へ侵入する感触が妙にリアルだ。
あ、ああ、い、いてぇ!
す・ご・く、いてぇよぉ!!!
「きゃあああっ」
向かい側には、真っ青になり絶叫する女の子。
お、おい!
な、何、やってるんだ!
君、叫んでないで、逃げろ!
逃げろったら、逃げろ!
俺は大声で叫ぼうとした……
だが、声は出なかった。
かすれた唸り声が出ただけだ。
「う、う……」
信じられないシーン。
激しい痛みと共に、自分の身体のあちこちから、真っ赤な血が噴き出したんだ。
「ぶしゅ」って、音を立てて……
「「きゃあああああ~~っ!!」」
俺が刺されたのを見て、脅されていた女の子、バイトちゃんの張り裂けんばかりな悲鳴が響く。
当然店内は大騒ぎとなり、店長がすでに警察へ通報していた為、駆け付けた警官がチンピラを即逮捕。
俺は救急車で病院へ運ばれたが……
刺された箇所が急所に近く、呆気なく死んでしまったらしい……
らしい……
と言うのは後からある人物に―――否、人あらざる存在から聞いた話だから。
あの血が噴き出すシーンは鮮やかだったが、俺はすぐ気を失ったようだ。
だから、その先の記憶が無い。
死ぬって……こんなものなのか?
天国とか、地獄なんてない……一切が無なんだ……
俺の意識はどこかへ飛ばされてしまい、何も考えられない『無の存在』になっていたのだった。
東導 号作品、愛読者の皆様!
特報です!
『魔法女子学園の助っ人教師』
『第5巻』の発売が決定致しました!
皆様の多大なる応援のお陰です!
本当に、本当にありがとうございます!
発売日等、詳細は未定です。
◎そして!
この度『コミカライズ』が決定致しました。
宜しければ、11月12日付けの活動報告をご覧下さいませ。
既刊第1巻~4巻が発売中です。
店頭でぜひ、お手に取ってくだされば嬉しいです。
既刊が店頭にない場合は恐縮ですが、書店様にお問合せ下さい。
この機会に4巻まとめ買い、一気読みなどいかがでしょうか。
皆様の応援が、次の第6巻以降の『続刊』につながります。
何卒宜しくお願い致します。