第27話「やんちゃな慶次をコレクション!①」
当然西洋人風なのだが……
顔かたち、性格……どこをどう見ても日本人の『猿』こと羽柴秀吉にしかみえないトーマス・ビーン。
その上、奴の恋女房の名前がネネと来やがった。
こちらも日本人女性の北政所とは似ても似つかぬ西洋顔、栗毛でブラウンの瞳を持つ美少女である。
どうせ、あの邪神ロキによるこの世界への『補正』に違いないのだが……
この世界で『織田信長』として生き残る為に、トーマスこと秀吉が重要なキーマンになるのは間違いない。
俺の勘が、はっきりそう言っていた。
そんなトーマスへ『宿題』を出した俺は、エリックを連れ、再び王都視察に戻った。
王宮内で人望の無かったアーサー。
それ故、引き継いだ俺の家臣団は僅かでまだまだぜい弱だ。
しかし大きな収穫はあった。
女子とはいえ、ふたりの忠実且つ超切れ者が加わったから。
少しでも前向きにと、考えた俺は大きな手応えを感じ、颯爽と歩く。
片やエリックは俺の後ろを対照的に「とぼとぼ」歩きついて来る。
ネネから、いろいろとガンガン突っ込まれたショックがまだ尾を引いているようだ。
そのエリックが元気なく、且つ不満そうに聞いて来る。
「アーサー様……あんな得体の知れない奴を、本当に召し抱えるおつもりなのですか?」
ん?
得体の知れない奴か……
確かに由緒正しい騎士爵家出身のエリックから見れば、身元不明な平民のトーマスは怪しさ満点だ。
実際の秀吉も、柴田勝家辺りの生え抜きから見れば、永遠に身分の低い『ごくつぶし』にしか見えなかっただろうから。
しかし信長同様、俺の考えは全く違う。
「ああ、大いに本気だ」
「ええっ!? 大いに本気……なのですか?」
「おお、猿が俺の出した宿題に対し、どこまでの結果を出すか、楽しみだよ」
「結果……ですか? どうせあんな猿、はったりのバカ野郎ですよ」
「ははははは! はったり結構! 猿結構!」
「へ? はったり結構、猿結構って……いけませんよ、はったりなんて、所詮嘘やごまかしじゃあないですか?」
「エリック、逆に噓も方便と言うじゃないか? 俺はな、結果重視だ」
「結果、重視ですか?」
「そう! 課せられた役目を果たし、求められる結果を出す為には、許される嘘なら、多少ついても構わないと思っているんだ」
「許される嘘なら……構わない」
「そうさ! 俺の国には、口先だけで何も行動しないエセ評論家など要らぬ」
「エセ? 評論家は不要……ですか?」
「うむ! 不言でも有言でもはったりでも嘘をついても良い。やるべき事をしっかり行い、最後にはちゃんと結果を出す奴が好きなのさ……」
「ううう……ちゃんと結果を出せって、完全に実力重視という事ですね?」
「そうさ! あとこれも言っておく。俺が重用する家臣は、身分出身など一切問わないからな」
「え? 重用する身分出身は一切問わないって! それ、どういうおつもりですか?」
「どうもこうもない! 午後は爺との打合せがあるが、はっきり言うつもりだ。俺が使う奴は身分や生い立ちなど関係ない。実力重視、結果を出す奴を抜擢し、重用するとな」
「…………」
そう!
これから俺がやろうとしているのは……
俺の構想と信長の考えをミックスした、アルカディア王国の大改革なのである。
但し……
さすがにチート魔人とはいえ、俺ひとりで一国の政務を行うには限界がある。
個より集。
しっかり結果を出す為には、シンパとなる忠実で優秀な家臣が大勢必要なのだ。
マッケンジー公爵は勿論、アーサーが幼少の頃から忠実に仕えているエリックもぜひ上手く使いたい。
本物の前田利家より多少大人しいが、実直なこの騎士が俺は嫌いではないから。
「エリック!」
「は、はい!」
「俺はな、お前にも期待している。いつまでも王子付きの騎士のままではいかんぞ」
「そ、そんな!」
恐縮するエリックだが……
本音は半分半分。
俺の傍で一生仕えて行きたいという想い、反面もっと意義のある仕事をしたいという想いが混在していた。
こういう奴って、部下としては凄く可愛いと思う。
「いや、エリック。お前に任すいろいろな仕事を考えておる」
「ほ、本当ですか?」
「おお、その際はしっかり頼むぞ。お前は俺が頼りとする立派な騎士だ。あんな猿などに負けるでないっ!」
「は、はい!」
エリックにはまだ、俺の真意は見えていないのだろう。
このバランスが難しいところだ。
家臣に真意は理解して欲しい。
しかし主君とは全ての内面が見抜かれていては、却って駄目だとも思うのだ。
ここでいきなり俺の心に、アーサーから受け継いだ記憶と知識が甦る。
大柄で生意気そうな顔をした若い騎士の顔が浮かんで来た。
「ふむ……そう言えば、お前には弟が居たな」
「はい! ゴヴァンですね」
「うむ、ゴヴァン・マイルズだった。これまで数回会ったが……お前に負けないくらいの騎士という話だな?」
「はい! 武芸の素質は私より遥かに上かと! 両親が亡くなってから……近しい親戚も居らず、私はゴヴァンと兄弟ふたりきりで生きて来ました」
「そうか、しかし! ゴヴァンはなってない!」
「はい……」
「お前が言うほどの凄腕を持ちながら、奴は誰にも仕えておらん。最近は何も仕事をせず、王都をぶらぶらして遊んでばかりいるというではないか」
「うう……王子の仰る通りです」
「兄のお前が、兄弟ふたり分の食い扶持を得る為、必死に稼いでいるというのに……何もしないで遊び呆けるとは……奴め、お前を完全に舐めているな?」
「…………」
「俺には分かった! 王宮を出る時にエリック、お前はこんな格好を見られたら、弟に笑われると申したからな」
「…………」
「だがこの格好をさせたのは主君の俺。つまりお前は公務の為、やむなくこの服を着た」
「……でも今の恰好を見たら、ゴヴァンに笑われます。大笑いされます」
エリックが情けない顔をして言うのを見た俺は、つい鼻をほじった。
丸めた鼻くそをピンと! 空高く弾き飛ばす。
そしてエリックを「キッ」と見据えた。
「ふむ! もし……ゴヴァンがお前の恰好を見て笑ったら……絶対に許さぬ」
「笑ったら……絶対に許さぬとは?」
「弟の食い扶持を稼ぐ為、真面目に汗して働く兄を笑うなど言語道断! 俺は絶対に容赦しない」
「え? 容赦しないって?」
「言葉通りだ……ほら、それに噂をすれば影だぞ」
「ええ? あああっ!」
俺は進行方向を指さした。
告げた諺通りである。
兄エリックを遥かにしのぐ巨体をゆすらせ、ゴヴァン・マイルズがこちらへ向かって歩いて来たのである。
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