第25話「口入れ屋藤吉郎への宿題②」
やはりというか……
ここで天幕の陰から「ひょこっ」と登場したのは、小柄で猿のような風貌の男である。
もろ秀吉が外人化したような男だ。
そして、開口一番。
「へへへっ、私がネネの夫、トーマスです」
は?
トーマス?
ベタにヒデとかじゃないの?
さすがのロキでもそこまでやらないか……
俺は最もらしい名前を名乗るトーマスを見て苦笑した。
傍らでは、エリックが唖然としている。
気になってちらと見やれば、エリックは現実が受け入れられない、まるで、信じられないという顔をしていた。
可憐な美少女と、片や、にやついたブサ男の組み合わせ……
いわゆる美女と野獣が、彼の中では「ありえね~」という大ショックなのだろう。
俺は改めて確信する。
タイミングといい、猿顔といい、いかにもな登場シーン。
トーマスという男、こいつは絶対に木下藤吉郎、すなわち秀吉に違いないと。
織田信長と、木下藤吉郎こと羽柴(豊臣)秀吉の出会いには諸説ある。
最初、信長に仕えていた知り合いに聞いて、訪ねて行ったとかという説が有力らしいけど。
シチュエーションは全く違うが……
俺的には、今体験しているように、ふたりが街で出会ったイメージを持っていた。
運命の出会い……
憧れて良く思いを馳せたものだ。
……当時、流れ者に近い商人であった藤吉郎と、町で出会って、気に入った信長が取り立てるきっかけになったって。
まあ、俺の信長への思い入れが、この世界に影響している可能性もある。
あの、悪戯好きなロキなら、面白がってやりかねない。
「見かけはボロでも……真の価値がある商品か?」
俺が、ネネちゃんへ聞くと、きっぱり。
「はい!」
と、返事。
迷いのない口調に、俺は苦笑。
この少女が、本当は何を言いたいのか、はっきり分かっているから。
実は自分の旦那を大いに自慢したいんだ。
「ネネ! お前は口が上手いというか、性格がずるいというか、ずうずうしく思い上がりというか」
「うふふ、そうですかぁ? ひどぉい」
「はん、言うわ! そこまでこいつに惚れているのか?」
「はい!」
「ふん! 分かったぞ。この店で真の価値がある商品というのはお前の夫の事だな、ネネ」
俺の指摘を待っていたかというように、ネネちゃんは「にこっ」と笑う。
表情は「作戦成功! してやったり」というのがピッタリだ。
ネネちゃんの代わりに、俺の質問に答えたのが彼女の夫トーマスである。
「ほう、こりゃ驚いた。今までどんな城や街でもウチの嫁の口上を見抜いた方は、全くと言っていいほど居なかったんだ」
おお、嫁が嫁なら夫も夫。
この猿男、俺を褒めながら、さりげなくネネちゃんの自慢をしている。
俺は少しあほらしくなって鼻を鳴らす。
「ふん、馬鹿を言え。そんな奴等の目は、どうせ全員、節穴だ」
「節穴? 確かにそうかもしれませんねぇ。や、念の為ですが俺がサービスするとは言っても、あっちの方の奴隷とかじゃあ、無いですよ。それはパスです」
ほう!
あっちって何だ?
まさか、エッチ?
ふざけるな、気持ち悪い!
こっちこそ絶対にパスだ。
言っておくが、俺は男に興味はない。
御付きの美しい小姓を可愛がったらしい信長とは違う。
こんな汚い猿など尚更だ。
それにしても、何か偉そうに言うじゃないか。
こいつ、俺が主君として相応しいか試しているのであろう。
じゃあ、俺もはっきりと言ってやろう。
「このたわけめが! のぼせ上がるな!」
「はい~?」
「何がはい~だ。可愛いネネならともかく! お前みたいに得体の知れないキモオタ猿が、あっちの奴隷などと、反吐が出る! 虫唾が走るわ!」
俺が信長ばりにそう言うと、トーマスはあまりの罵倒、毒舌に我慢しかねたのかさすがに口を尖らせた。
「くうう、得体の知れないキモオタ猿とはあまりにも酷い! 俺は確かにイケメンじゃないけど超もてるんですよ!」
「ははは、そうらしいな」
「はっきりした証拠があります。こんな超可愛い嫁が居るじゃあないですかぁ!」
「ネネが!? お、お前の超可愛い嫁だとぉ!? 信じないぞ! う、う、嘘もいい加減にしろ! 金か何かで臨時に雇ったに決まっている!」
今度は、トーマスの吐いた衝撃の台詞にエリックが絶句した。
当のネネちゃん自身が「猿の嫁だ」と言ったのに、エリックは現実を受け入れられないらしい。
「にやり」と笑ったトーマスの口からは、意外な事実が次々と明らかにされる。
「おい! そこの騎士様! 良~く聞いておくれよ。ネネは俺の事を好きだと言った、たくさんの候補の中から、選びに選び抜いた超美少女なんですよ」
「た、たくさんの候補? う、嘘をつけ! この馬鹿猿!」
「馬鹿猿は酷い。なぁ、嘘じゃないよなぁ? お前は最高の恋女房だよなぁ、ネネ?」
「は~い! その通りよぉ」
トーマスの声に応え、愛くるしい表情を見せるネネちゃん。
間違いない、このふたりはあつあつラブラブだ。
相変わらず現実を受け入れられないエリックは、またも目を白黒している。
「えええええ! 猿みたいに不細工なお前が? たくさんの女の中からこの子を選んだだとぉ!? う、嘘だろう……俺みたいなイケメンだって、彼女がひとりも出来ないのに!」
よほど悔しかったのだろう……
盛大に落ち込むエリックに対してトーマスは的確な指摘をする。
「へへへ、はっきり言おうか。あんたはイケメンで真面目なのは良いが、真面目すぎて、堅苦しいのさ。傍に居る女だって息が詰まっちまう」
「な? 俺が真面目すぎて、堅苦しいだと?」
「そうさ、あんたはどうせ可愛い女子とデートしたって話が続かず間が持てないだろうよ。結局つまらない男と思われ、いっつも女子の方から別れを切り出されるってパターンだろ?」
「げ!?」
「その反応、ほ~ら、図星だ」
ほぉ!
確信した。
このトーマス、やはりこの世界の藤吉郎だ。
やはり人間観察という才能は、抜きん出ている。
他にも、様々な能力を兼ね備えているのだろう。
うん!
こいつ、もしかしたら結構使えるかもしれない。
俺は、熱弁を振るうトーマスをじっと見つめた。
そしてエリックをいじる。
「ははははは! おい、リック、会ったばかりの割にはこの猿、お前の事がとても良く分かっているじゃあないか」
「くううううう」
俺が面白そうに笑えば、よほど悔しかったとみえて、エリックは身悶えして唸っている。
ろくに、言葉も出て来ないようだ。
ここで、エリックにとっては更に致命的な攻撃が加えられた。
トーマスの嫁である、ネネちゃんのコメントだ。
「リックさん! 夫の言う通りね。悪いけど、貴方って……女性の扱いに慣れていないでしょう?」
「は!?」
いきなりの、突っ込み&指摘に対して、エリックは目を白黒させている。
顔も、トマトのように真っ赤になってしまう。
ネネちゃんは、悪戯っぽく笑って言う。
「女性の扱いに慣れていないっていうのはね。うふふ、エッチとかだけじゃないのよ」
「あうう……」
「女性への接し方、女性の気持ちの読み取り方、そして一番大事な気配り、思い遣り……空気を読んでをタイミング良くそれが出来なくちゃ、どんなイケメンだってゴミクズよ」
「ゴ、ゴミクズゥ!?」
あまりにもきついネネちゃんの『口撃』
エリックはあまりのショックに目を丸くしたのであった。
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