第23話「城を出て街へ行こう」
愛する嫁イシュタルと愛する妹エリザベス、ふたりの超絶美少女をはべらし、茶の湯風なスペシャル朝食を食べ終わった、アルカディア王国第一王子アーサー・バンドラゴン。
弱小国のぼっち王子という、明日の命をも知れぬ運命はさておき……
女子運においてはどん底人生から大逆転した俺は、先ほどから自室で考え込んでいた。
今日の午後には平手爺やことマッケンジー公爵から、林佐渡こと宰相オライリー関係の報告があるだろう。
多分、俺を殺そうとした陰謀を始めとし、贈賄の証拠品を山ほど持って……
それ故、王都の視察は午前中のうちに「さくっ」と済ませておきたい。
俺は王都視察をするにあたり、情報整理をしたいのだ。
入れ替わる前のアーサー王子の知識と、新たに加わった俺、雷同太郎の新たな判断、チートスキルとの3つを刷り合わせし、実行可能な施策を確認しながらね。
アルカディアのような弱小王国でも、どんな大国でも変わらないが、発展させる為に必要な条件がある。
大まかに順番をつければ、まずはダントツで経済、次に情報、続いて人材、最後に軍備といった所か……
もし信長に倣うのであれば、徹底的に経済力強化を図るのが一番だ。
まず先だつ物は金なのだ。
ズバリ!
信長が勝ち抜けたのは財力が原因だと言い切って過言ではない。
関所の廃止、楽市楽座の施策、堺や大津など当時の有力商業都市の直轄化等の政策を見てもはっきり分かる。
次は情報。
桶狭間の際、実際に今川義元を討ち取った事よりも、敵の所在に関して有益な情報をもたらした事を評価していた。
こちらも金が重要といえる。
いつの時代でも大切な『情報』収集には金がかかるもの。
家臣を使っても経費はかかるし、外部の情報屋みたいな輩から買ったら凄い金を求められる……
人材の確保だってそうだ。
働きに見合う充分な報酬を払わねば、金の切れ目が縁の切れ目、人はどんどん離れて行く。
金の代わりに精神論を振りかざして不当な扱いをすれば、即下克上。
家臣に背かれ、切腹もしくは捕まって打ち首となり、ジ・エンド……
ちなみに信長は、宿舎の本能寺を配下の明智光秀に襲われ、燃え盛る炎の中で切腹。
味方に裏切られるなんて!
俺は、そんなの嫌だ!
ごめんこうむる!
『本能寺の変』の際、信長は「是非に及ばず」と言い切って死んだという。
彼は潔く、桜が散るように美しく死んだ。
確かに、俺の憧れではある。
だが、俺はまだ死ねないのだ。
アーサーとの約束を守る為に。
そしてキモオタと蔑まれた俺自身が堂々と胸を張って生きた証を残す為に。
さて、話を戻そう。
発展条件の最後にあげた軍備だって金が全て。
そう、現代より簡素とはいえ、兵を雇うのは勿論、装備を手立てしたり、動かすのだけでも莫大な金が必要だ。
豊富な資金力があって大軍を動かせたのは勿論、信長軍自体の大部分が金で雇った足軽だった。
そして信長軍は専業の軍隊でもあった。
農業と兼務していた、当時の農民兵とは全く違ったから。
その為、兵の数を常に揃える事が可能だったし、他の大名が戦えない農繁期だって戦えた。
何につけても、最大の武器は経済力なのである。
よし、決めた。
信長を見習おう。
まずアルカディア王国の経済発展、バンドラゴン家の財政強化を考える。
そして、施策として考えている事をまとめながら、我が王都ブリタニアを、自分の目で見ておこう。
考えがまとまった俺は、部屋前に控えている御付きの騎士に声を掛けた。
転生してすぐマッケンジー公爵と共に会った、エリック・マイルズという若い騎士だ。
エリックは実直な性格で武技に優れた青年騎士という趣きであり、そこそこのイケメン。
最初に直感した通り、異世界信長ワールドの役回りとしてはややおとなしめな前田利家といったところか。
「おい! エリック、おるか?」
「はっ、ここに! 王子のお傍に控えております」
エリックは、呼べばすぐ「ワン!」と答える忠義者。
つい犬千代って呼びそうだ。
「エリック、午前中俺はブリタニアの街を視察したい。供をしてくれないか?」
「御意! かしこまりました」
「領主の身分を隠して行くから、目立たない格好で行くぞ。至急侍女に命じて用意させい!」
「は!」
ブリタニアに関しては、貰った様々な記憶と知識があるから、アーサー王子は生まれ故郷の街を散々見ていただろうが……
やはり俺も直接見ないといけないと思う。
こうして、俺は初めて自身で王都ブリタニアの街を視察する事にしたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
少し補足説明しよう。
アルカディア王国は約150年前、5代前のバンドラゴン王家当主が北の地から魔物を駆逐し、人間が住まない荒野を切り開いて建国した。
王都と定めたブリタニアは当初モット・アンド・ベリーという様式で造られた簡素で小さな町であった。
これは地球の中世西洋でも良く取り入れられた建築方法でもある。
モットと呼ばれた盛り土部分に城が築かれ、領主バンドラゴン家が居住し、その周囲に従士達が粗末な家を建てて生活した。
そして町をぐるりと木柵で囲み、魔物や敵軍の脅威を防いだのだ。
代を経てバンドラゴン家の先々代当主つまりアーサーの祖父にあたる人物は中々の傑物で統治能力に優れていた為、地味ながら国は栄えた。
木柵の外部には他領地から脱走した農奴などが住みつくようになり、ブリタニアの町も発展して行く。
やがては木造建築が主だったブリタニアの町もこの世界全体の発展と技術の進歩に伴い、石造りの『街』へ変わって行ったのである。
俺がこの街の、歴史の復習をしていたら……
エリックが「ぶうぶう」不満を洩らす。
自分の着ている服が気に入らないらしい。
俺達は今、目立たぬよう、じみ~な平民風の服を着て王都ブリタニアの中央広場を歩いているのだ。
エリックは顔を隠して歩いている。
知り合いに顔を見られたくないらしい。
馬鹿!
そんな事したら、却って目立つだろうが。
しかし、エリックはまだ覚悟を決められないようだ。
「王子、これではあんまりです。遊び人みたいな格好です。品が無さ過ぎますよ」
ああ、うるさい!
だがここで、厳しく怒鳴りつけたらエリックは委縮するだろう。
なので、俺は優しく諭してやる。
「遊び人? いや俺はそうは思わないぞ。それに領主の視察には目立たず実用的で良いじゃあないか?」
「はあ、本当に情けないです。こんな薄汚い格好を弟にでも見られたら絶好のからかいネタに……」
「いい加減にしろ。いいかげん黙って歩け。俺はこの街をじっくりと見極めたい」
「はぁ? 今更どうしてです? ここは王子が生まれた街ですよ! 散々見慣れているでしょうに……あ、待って下さいよぉ」
貴重な時間は限られている。
これ以上、エリックに構ってなどいられない。
俺は「すたすた」と歩き出す。
説得を諦めたエリックが、大きな溜息をついて俺について行こうとした、その時。
「おお、そこの恰好良いお兄さん達、良い仕事紹介するよっ」
鈴を鳴らすような可愛い声が俺達を呼ぶ。
「ん?」
「誰だ?」
「こっちですよ、こっち!」
声のする方を見ると栗鼠のような顔立ちをした可憐な少女が、笑顔で手招きしていた。
ブリタニアの中央広場には、ささやかながら毎日市が立っている。
風体からすると、少女はどこかの店の主らしかった。
「ふむ、結構可愛い子じゃないか? あんな女の子がどのような商売をしているか興味がある。少し見てやろう」
俺が乗り気になったのを見たエリックが驚く。
「えええっ!? 王子、やめておきましょう、凄く怪しいですよ」
俺が構わず歩きかけたので、エリックは両手を広げて制止する。
遠目に見ると少女は柔和な笑顔を浮かべているが、普通の客引きではなく何か思惑がありそうだ。
「いや、ちょっと面白そうな女の子だぞ」
「面白そうって……王子は世間知らずでいらっしゃいますね」
「俺が世間知らず?」
「そうですよ! あんなに可愛い子があのような不自然な笑顔で私達を誘うとは……話がうますぎます。美人局か、何かかもしれません」
「エリック、会って話してもいないのに変な先入観を持ってはいけないな。とりあえず、行ってみよう」
俺は嫌がるエリックを諭すと、少女の店へ向かったのであった。
東導 号作品、愛読者の皆様!
特報です!
『魔法女子学園の助っ人教師』
『第5巻』の発売が決定致しました!
皆様の多大なる応援のお陰です!
本当に、本当にありがとうございます!
発売日等、詳細は未定です。
◎そして!
この度『コミカライズ』が決定致しました。
宜しければ、11月12日付けの活動報告をご覧下さいませ。
既刊第1巻~4巻が発売中です。
店頭でぜひ、お手に取ってくだされば嬉しいです。
既刊が店頭にない場合は恐縮ですが、書店様にお問合せ下さい。
この機会に4巻まとめ買い、一気読みなどいかがでしょうか。
皆様の応援が、次の第6巻以降の『続刊』につながります。
何卒宜しくお願い致します。




