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第21話「茶の湯の心①」

「イシュタル、お前ははるばる長旅をして来た身だ……とても疲れているだろう」


「…………」


 俺がいたわると、イシュタルは無言でじっと見つめて来る。

 

 「見ず知らずのうつけ男に嫁ぎ、いざとなれば故国の為、ためらわず命を投げ出せ」

 そう、父から命じられた少女は、どんなに心細かったであろうか。


「まだゆっくり寝ていれば良い、夜は明けていないぞ」

 

 俺が言ったら、イシュタルは抱きついたまま、首を振る。


「いえ、もう寝ません」


 もう寝ない……か。

 じゃあ、今朝俺がやろうとしている事を話そう。

 ひとつひとつ、アーサーが残していった問題や課題をクリアしていかなければならないから。


「そうか、じゃあ、お前に話したい事がある」


「はい……」


「ズバリ言おう。お前と俺の妹エリザベスの関係だ」


「…………」


 単刀直入に告げたせいか、さすがにイシュタルも言葉を戻さなかった。

 しかし、俺の話はこれからだ。


「今、お前達ふたりの間には微妙な壁がある。だが俺は、お前とエリザベスが姉妹として上手く折り合って欲しいと願っておる」


「はい、私もあの方とは折り合いたいです」


 ううむ、『あの方』……呼ばわりかぁ。

 エリザベスは実妹ながら、俺に対して強烈な恋愛感情がある。

 そんな気持ちを、イシュタルも敏感に感じ取ったに違いない。


 昨夜、イシュタルから聞いたところでは……

 輿入れの際、行き違いがあってちょっとした口論があり、その後エリザベスは彼女とひと言も口を利かなかったらしい。


 俺は言い方に注意しながら、姉としてイシュタルの自覚を促す。


「イシュタル、幸いお前はエリザベスより4つ年上。今後はあくまでも彼女の姉としてふるまって欲しい」


「姉として……ですか?」


「おう! エリザベスは根っからの悪い子ではない」


「それは……分かります」


「ならば、大きな寛容さを持て!


「大きな寛容さ……ですか」


「おう! もしも相手が生意気な事を言っても穏やかに堂々と、どん!と受け止めて欲しいのだ」


「はい、穏やかに堂々と、そして、どん!と受け止めるのですね! かしこまりました」


 おお、素直だ。

 というより、俺を信じて従うと決めたのだろう。

 

 ならば、俺もしっかりと告げないといけない。

 イシュタルを、どうフォローするのかを。


「ありがとう、イシュタル。お前は他家から嫁に来た身だし、新たな家臣との関係、しきたりの違い等、いろいろ不慣れで大変だとは思う」


「…………」


「しかし自信を持て! 聡明なお前なら大丈夫だ。そして俺とお前は、心も身体も完全に寄り添う夫婦となった」


「はい!」


「もしも困った事があればすぐに言え。俺は誰の前でも、堂々とお前を嫁として扱い、しっかりと守る事が出来る」


「はいっ!」


 俺の言葉を聞き、安堵と勇気が生まれたのだろう。

 再び、より大きな声で返事が戻された。


 イシュタルの気持ちはとても晴れやかになったようだ。

 漆黒の瞳が、しっとりと濡れたように光っている。


「よし! では、とりあえず着替えよう。夜が明けたら朝飯を食べる。俺とお前、そしてエリザベスと3人で一緒にな」


「え? 3人で一緒に?」


 先ほど微妙な壁があると言ったのに?

 どうして?

 

 驚いて目を丸くするイシュタル。

 そんなイシュタルへ、俺は黙って頷いていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 アーサーの記憶から教えて貰ったが、この異世界では朝食を摂る。

 ちなみに似た世界の地球の中世西洋では、昼と夜の2食だったらしい。

 だから、所変われば品変わるという奴だ。

 

 以前バンドラゴン家では、全員一緒に食事を摂っていた時期もあったようだ。

 それも頻度的には、全員が集まりやすい朝食の割合が高かったという。

 

 しかし、父王クライヴがやまいを得てからは全員で食事をする事はなくなった。

 父を中心にしてまとまっていた、家族の絆は、どんどん脆くなって行った……

 弟コンラッドが、兄のアーサーを亡き者にしようと陰で画策していたから、尚更バラバラになったのだ。


 なので、いろいろ考えた

 ……結果俺の打った手は、3人で朝食を摂るだけではない。

 それだけじゃあ、面白くはない。

 ちょっと変わった、食事の方法にしたのだ。


 そんなこんなで……

 やがて午前6時となった。

 

 俺はまず、侍女をエリザベスへ使いに出した。

 1時間後に、俺が迎えに行くと告げて。

 「朝食を一緒に食べよう」という伝言も合わせて。


 そしてイシュタルを連れ、朝食を用意した部屋へ行く。

 騎士とオーギュスタを護衛に付け、一旦部屋にイシュタルを残し、俺がエリザベスを迎えに行くのだ。


 俺が直接迎えに行ったら、エリザベスはいろいろと考える筈だ。

 昨夜『姉』と同衾した兄が朝一番で自分の下へ来てくれた

 これは自分に最も気を遣ってくれていると。


 しかし俺は改めて誘う、はっきりと。

 『家族3人』で飯を食おうと。


 果たして……

 エリザベスは、どう答えるのであろうか。

 

 もしかしたら、あっさり断る?

 しかし俺は、「はい!」と快い返事を貰える大きな自信を持ち、

 午前7時ぴったりに……

 愛する妹の部屋の扉をノックした。


 扉はすぐに開いた。

 開いた扉のすぐ傍に居たエリザベスは、しっかり身支度をして待っていた。

 

 昨日会った時の、すっぴんでさえ超可愛いのに、今朝は化粧までバッチリ。

 12歳にはまるで見えない、大人の色香が漂っている。 


 じゃあ「機嫌はどうか?」と見やれば、微笑みながら元気良く挨拶もして来る。


「おはようございます! お兄様」


 うん!

 この様子なら、敢えて返事を聞くまでもない。

 言葉に出して、ベタに誘う事自体も愚の骨頂。


「おお、エリザベス、おはよう! 3人で飯を食うぞ。さあ行こう」


 「3人で」と、ストレートに誘っても予想通り、エリザベスは「嫌」とは言わない。

 彼女は俺の『立場』もしっかり理解してくれているようだ。


「はい! 喜んでご一緒致します。でも……お兄様も大変ですね」


「ん? 何が?」


「すぐ王となり、このアルカディアの政務で手一杯になるのは目に見えているのに、朝一番に私みたいなわがままな女子の機嫌も取らなくてはいけないなんて」


「いやいや、お前はわがままじゃないし、これも大事な仕事だ」


「うふふ、大事なお仕事なのですか?」


「ああ、お前とイシュタルは、これから俺の大事な両腕となる」


「私が? お兄様の? それは光栄です」


 俺が、イシュタルの名前を出しても華麗にスルー。

 やはり、エリザベスが相当の『ライバル心』を持っているのは明らかだ。

 ただ、俺の為に働くのは全く異存がなさそうでホッとした。


「おう! 部下同士の人間関係の調整も王たる俺の仕事だからな」


「人間関係の調整? うふふ、やっぱり王様って大変そうですね」


 俺に頼られたと思ったのか、エリザベスは凄く嬉しそうだ。

 そしてイシュタルとの事を、まるでひとごとのように笑う。


 そうこうしているうちに、俺は朝食がセッティングされた部屋へ到着した。

 扉の前には騎士が一名、護衛の為、直立不動で立っていた。


「アーサー様、お疲れ様です」


 敬礼をする騎士へ、同じく敬礼で返す俺。


「おう、異常はないな? 引き続き、警護を頼むぞ」


 エリザベスと騎士が見守る中、俺は扉をノックした。


「はい!」


 だが返事をしたのは、イシュタルではない。


「待たせたな、アーサーだが」


「はい! 今、すぐ開けます」


 扉が開き、現れたのは……

 これまた護衛に残したオーギュスタである。

 俺が戻るまで、イシュタルが待つ間の、話し相手も兼ねている。


「うふふ、アーサー様! お疲れ様です!」


「え? 貴女はアヴァロンの?」


 優しい笑顔を浮かべる、オーギュスタを目の当たりにして…… 

 それまでは余裕で澄ましていたエリザベスも、さすがに驚いてしまったのであった。

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