第19話「デレ嫁、デレ夫①」
オーギュスタとのアームレスリング勝負が終わって3時間後……
ここは、俺の寝室である。
あの後、イシュタルの居間で食事をしてから、申し入れがあった。
それが何と!
イシュタルから俺へ……
「ふたりきりで、一緒に寝たい……」って、誰にも聞こえないよう、「そっ」と囁いて来たのだ。
多分俺が、「侍女のオーギュスタを嫁にする」と言った事が、焼き餅みたいに心へ残っていたに違いない。
そして、俺とイシュタルはしっかり抱き合った後……結ばれた。
心と身体、あらゆる意味で、夫婦になったのだ。
ああ、イシュタルを、チョロインって言わないでくれ。
ここは西洋風戦国の世界。
最初に政略結婚っていう下地があった。
さてさて、それにしてもエッチなんて俺は未経験。
イシュタルも同じらしい。
お互い全く初めて……だったので、中々上手く行かなかったが……
試行錯誤の末、 何とか、ぎこちない愛の行為が終わり……
ふたりとも、一糸もまとわずに仰向けに寝転がり、手だけつないでいる。
「不思議なものですね……」
「ぽつり」とイシュタルが呟いた。
当然ながら、俺も同意。
というか、キモイ男、ブタローである俺の場合、結婚出来た事自体が奇跡なのである。
「ああ、そうだな」
「少し前までは何の縁もゆかりもなかった女と男が、こんなにも近しく感じられるなんて……」
ああ、そういう事か。
確かに、それも同意だ。
俺だって、こんな不思議な感覚を味わった事はない。
エッチどころか、女子と付き合った事もなかったブタローには、大自然の驚異?以外の何物でもない。
「アーサー様」
でも……
俺の名を呼ぶイシュタルを、「そっ」と抱けば、実感する。
柔らかく温かい、すべすべした肌の感触があるから。
やはり、俺は結婚したんだと。
え?
爆発しろ?
ああ、何とでも言え。
リア充で、爆発でも何でもしてやるぜ。
俺の胸の中で甘える可憐な嫁が、とても愛しくなって来ているから。
「うん! 俺もだ。イシュタル、お前が自分の一部のような気がするな」
「うふふ、そう仰って頂けると嬉しいです。夫婦になるという事はこういうものなのでしょう」
「だな。でも王族同士の結婚は普通とは違う」
ふと思った事を口にした俺。
イシュタルが言葉尻を捉えて聞いて来る。
「普通とは違う?」
「先ほどイシュタル、お前が言った通りさ。見ず知らずの者同士が国の都合、親の都合、兄弟の都合でいきなり結ばれる」
「成る程。私達の場合は完全に政略結婚ですよね? では普通とは、一体どのような結婚なのでしょう?」
王族貴族と、一般庶民の結婚の違い……か。
俺は思うままに教えてやる。
「うん、最初の見ず知らずは変わらない。だが会ってこのように、いきなり結婚する事はほぼない。徐々に気持ちを確かめ合うのだ」
「徐々に気持ちを?」
「ああ、それで果実が少しずつ熟すように気持ちを高め、やがて最高の時期が来たら……結婚してくれと、どちらかが申し込む。まあ男の方からが多いかもしれんがな」
「結婚してくれ……それが、本来のプロポーズというものなのですね」
「ああ、だから俺とお前がもしも平民同士だったら、まだ挨拶程度なのは間違いない」
「挨拶程度……うふふ」
「はは、面白いか?」
「はい! しかし、今や私とアーサー様は他人ではありませぬ。心も身体も結びついた真の夫婦でありますもの」
「おいおい、身体はともかく心はどうだ?」
「心も……完全に参りましたから。面白い最高のプロポーズもして頂きましたし」
おいおいおい……
改めて思うけど、3時間前には、俺に会おうともしなかったこの子が、ここまで言う?
完全にデレって言うんだな。
前世のブタローは女子に、全く縁がなかった。
彼女達の習性に関しては、全て初体験。
だから、凄く新鮮だ。
ならば俺も、どう答えるか、分かっていながら聞いてやる。
「俺に参ったのか?」
「はい! アーサー様にしてやられました」
やはり、予想通りの答えだ。
ならば、こう切り返してやる。
「してやられたのは、お前だけじゃない、オーギュスタも。いや、お前のオヤジ殿もそうだ」
「私の父が……ですか?」
「そうだ! どうせ、アーサーのようなひ弱な男は喰い殺してやれとオヤジ殿に言われ、嫁いで来たのだろう?」
ああ、目に浮かぶ。
イシュタルの嫁入りが決まった時……
彼女の父アヴァロン魔法王国国王アルベール・サン・ジェルマンは、愛しい娘へ厳命しただろう。
もし隙があれば、いつでもアーサーを刺して命を奪って来いと。
まあ、イシュタルは魔法使いだから、魔法で殺せと言ったかも。
故事で伝えられる、短刀を帰蝶へ託した、あの斎藤道三のように。
但し俺を殺したら、イシュタルの命もない。
いくら高名な魔法使いでも多勢に無勢。
王子を殺した刺客は、容赦なく無残に殺されるだろうから。
父王から見て、イシュタルは……所詮捨て駒なのだ。
「……はい」
案の定、イシュタルは静かな口調で肯定した。
故国の為に、死んで来いと言われた事を。
俺は微笑んで言葉を続ける。
「まあ……オヤジ殿にどう命じられて嫁いで来たのか、大方想像は付く。イシュタルよ、お前ひとりでアルカディアが盗れるのなら安い物だとな」
「…………」
「ははははは、やはり図星か? しかし本当は違うぞ」
「え?」
俺に違うと言われ、意外だったに違いない。
イシュタルは驚いて、大きな漆黒の瞳を真ん丸にした。
真っすぐに俺を見つめる。
「ち、違うのですか?」
「おう! お前のオヤジ殿はな……実は別離の悲しみに耐え、涙を無理やり隠し、愛するお前を送り出した筈だ。……俺はそう思う」
「ア、ア、アーサー様ぁ! あああああっ!!」
イシュタルは俺の言葉に心を揺さぶられたのだろう。
大きな声で叫んだ。
……王族の男は自国の繁栄存続を第一に考える。
その為にはなりふり構わない。
先程エリザベスにも突っ込まれたが、姉妹や娘を『駒』に使うのはその為だ。
だが、イシュタルは……
俺の言葉が本当に嬉しかったようである。
無理もない。
いくら『黒き魔女』と呼ばれても、まだ16歳の多感な女子なのだから。
チートな身体のお陰で夜目が利く俺には、暗闇の中、イシュタルの涙がはっきり見えたのであった。
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