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第18話「帰蝶主従攻防戦②」

 さすがにイシュタルは高名な魔法使いだ。

 俺の著しい変貌に気付き、自信の源が何らかの魔法から来ていると疑い、探って来たのだろう。

 

 しかし俺の膂力は魔法によるものではない。

 ロキの『神力』により、アーサーの肉体へ備わったものである。

 俺を調べても、結局は魔法の『ま』の字も感じないので、イシュタルは強気にゴーサインを出したというわけだ。

 だけどというか、この『黒き魔女』も俺が扉を容易に破壊した事を忘れている……


 でも、分かった!

 エリザベスは勿論、イシュタル、オーギュスタふたりのアヴァロン組も、充分部下として使えそうだと。

 

 今のアルカディア王国には人材が絶対的に不足している。

 だから必ず俺の陣営へ加えてやる。


 俺は思わず「にやっ」と笑い、拳を握り締めた。


 さあ勝負だ!


 俺とオーギュスタは腕をがっしり組んだ。


 どむ!


 木製のテーブルが肉の当たる鈍い音を立てる。

 その後は……部屋を沈黙が支配して行く……


 俺と右手を組み、向かい合ったオーギュスタは……驚愕のあまり固まってしまっていたのだ。

 同じく、イシュタルも固まっていた。

 

 理由は簡単だ。

 俺が、アームレスリングで勝ったから。

 それもあっさり、一方的に楽勝した。


「ま、まさか! マスタークラスと言われた戦士の私が……ま、負けた? この、わ、私が? 戦士ではないアーサー様に?」


「ははははは! オーギュスタ、良ければもう一回やるか?」


「え?」


「よしやろう! さっきは右手で勝負したから、今度は左手で勝負だ」


「は、はい……」


 しかし!

 またも同じ事が繰り返され、テーブルは鈍い音を立てた。

 

 アーサーに対し彼女達が持っていた常識が、完全に覆された、否!

 粉々に破壊された信じられない状況である。

 イシュタルとオーギュスタの時間は、完全に止まった……


「よし、勝負はついたな」


 うん!

 嫌らしく聞こえるかもしれないが、今のイシュタル達を『現実』に引き戻す事が必要だ。


「…………」

「…………」


 しかし、ふたりから返事はない。

 このままではどうしようもないので、俺がしっかりクロージングしなければならない。


「おい、イシュタル!」


 俺の「びしっ」とした張りのある声に、びくっと身体を震わせ、イシュタルは何とか返事をする。


「は、はい!」


「改めて、名乗ろう。俺がアーサー・バンドラゴンだ。もし疑うのなら、そこに居る警護の騎士へ聞くが良い」


 ここは相手が絶対に逃げられないよう、一気に畳みかけるのが、勝利への近道だ。


「そんな! う、疑うなんて」


「ならば、改めて認識してくれ、俺はお前の夫だ」


「…………は、い……」


 よし!

 これで、俺ブタローの結婚確定。

 政略結婚だって、何だって、結婚は結婚。

 それも相手は超美少女。

 凄く、嬉しいぜ!

 

 作戦も成功。

 扉を閉ざして「怒っていた」イシュタルの機嫌の悪さなど、どこかへ飛んで行ってしまった。

 この様子なら、俺が主導権を握れるだろう。

 だがここで、手綱を緩めるのは早すぎる。


「聞け、イシュタル! 俺はな、凄く嬉しいぞ」


「え?」


 嬉しい?

 今迄の経緯を考えたら、俺の言葉は意外な筈。

 普段のイシュタルなら、すぐ気付いて、打てば響けと返すかもしれない。

 だが、この状況では難しいだろう。


 俺はイシュタルへ、果断のない攻撃を続けて行く。


「先ほどの話で分かった。お前は貞淑な嫁だと確信した。見ず知らずの怪しい男の誘いなどきっぱり拒絶する、不貞行為など一切受け付けない、素晴らしい女じゃないか」


 俺は、イシュタルに逃げ道を作ってやる。

 これは戦いにも通じる。

 単に攻めっ放しでも駄目なのだ。

 

 窮鼠猫を嚙むともいうことわざがある。

 つまり、弱い相手へ対し逃げ道を全てふさぎ、あまり一方的にやり過ぎると……

 相手は追い詰められて、開き直り、思わぬ反撃に走る。


 案の定……

 俺の言葉を聞いたイシュタルは安心して力が抜けたらしく、「ほう」と大きく息を吐いた。


 暫し、時が経ち……ため息をついた後、イシュタルは、俺をじっと見つめて来る。 

 そう、俺はイシュタルの立場も考えていた。

 さっき俺の誘いを断ったイシュタルの発言と行動に、正統性を持たせる事も必要なのである。


「…………」


「まあ、考えてみたら当然だな、生まれてこの方お前とは1回もあった事がない。互いの顔をずっと知らず、結婚した今日が初対面だから」


「…………」


 イシュタルは無言であったが……表情を見れば分かる。

 安堵し、ホッとしている事が。

 自分をアヴァロンへ帰し、オーギュスタと結婚するという、俺の無茶な提言を聞いていたから。

 

 仮に、いくら俺との仲が壊れても、イシュタルは簡単に故国へ帰れない。

 その理由も俺は見抜いていたが、それは彼女とふたりきりの時に話した方が良い。

 部下オーギュスタの目の前で、これ以上恥をかかせない為だ。


 そして、俺は再び断言する。

 イシュタルの立ち位置を。


「もう一度言うぞ、イシュタル。お前はこのアーサー・バンドラゴンの嫁なんだ」


「は、はい!」


 再び言質げんちを取ったところで、とりあえず対イシュタル戦は終了。

 次は、オーギュスタと戦う。

 だが、イシュタルと同じ戦法ではいかないのがミソ。


「オーギュスタ!」


「は、はい!」


「世間で言う、常識とはあてにならぬ言葉よのう」


 俺のくだけた、曖昧な言葉を聞いて、オーギュスタはとても怪訝な顔付きをする。


「は、はい……」


「オーギュスタよ、聞け。常識とは、隠された真実を知り、驚く為にある言葉なのだ」


「隠された真実を知り……驚く為に?」


「そうさ! 分かるか? 人生とは信じていた常識が簡単に覆される驚きの連続だといえよう。逆にそんな人生の方が楽しいものさ」


 続く言葉は俺の謎掛けだ。

 俺はオーギュスタが『切れ者』か、試したのである。


 俺の言った意味は、こうだ。

 アヴァロン魔法王国は、俺アーサーの身辺を洗い、全てを掴んでいた筈。

 すなわちアーサーはひ弱な草食系で、力技なら、オーギュスタは負けっこないと判断。

 よって、アームレスリングの勝負をすれば、イシュタルとオーギュスタが主導権を握れるという常識だ。


 しかし最早、真実は違う。

 明かす事など絶対に出来ないが、今のアーサーの中身は俺、すなわちチート魔人なのだから。


「は、はい! 分かります……王子に対する私の常識は誤っていました」


 おお、俺の意図は伝わっていた。

 オーギュスタ、お前も『使える女』だな。


 さあてさて、こうなれば最終のクロージングだ。


「……勝負の結果は、はっきりした……悪いが、勝者の特権で要求を変えさせて貰おう」


「…………」

「…………」


 イシュタルとオーギュスタは無言だ。

 普通の男なら、勝った勢いで、無理難題を言って来る。

 そう危惧しているに違いない。

 

 しかし俺は、すなわち信長は常に逆手を行く。


「イシュタルよ、改めて頼む、俺の嫁になってくれるな?」


 頭を下げた俺。

 予想外の展開に、イシュタルは返事がすぐ出来ない。


「は?」


「どうした? 耳の穴をかっぽじってしっかり返事をせい! お前以外に俺の嫁はおらぬわ」


 お前以外に俺の嫁は居ない……

 すなわち、オーギュスタは嫁にしない。

 そういう認識が頭に浮かんだのだろう。


 イシュタルは大きく噛みながらも、頑張って返事をする。


「は、は、はいっ!」


 さあ、次はオーギュスタだ。


「そして、オーギュスタ!」


「は、はいっ!」


「お前ほどの女なら、故国に想い人が居るのだろう? ならば俺は無理にお前をめとらぬ」


「…………」


「お前はアヴァロンより、遠きこのアルカディアまで来た。なれば、愛する者と離れ離れは辛いものよ。もし出来るのなら、かの者をアルカディアへ呼び寄せよう」


「…………」


 俺が打診しても、オーギュスタは無言だ。

 心を読んで分かる。

 実はオーギュスタには特別な『想い人』が居る。

 しかしその相手に、このアルカディアへ来て貰うのは絶対に無理なのだ。


 なので、俺は妥協案を出す。


「もし居ないと申すのであれば、これから新たな想い人を作るも良し、俺の側室になるのも良しだ」


「アーサー様……」


 オーギュスタはかすれた声で、俺の名を呼んだ。

 感情が高ぶったのか、目が潤んでいる。


 よっし、オーギュスタの気持ちをがっちり掴もう。


「但し、今回の俺の勝ちで、お前にこれだけは守って貰うぞ」


「…………」


「約束だ。己の命を大切にし、俺とイシュタルへ忠実に仕えよ」


「え?」


「いいか、絶対に無駄死にはするなよ。俺はな、お前のような優秀な者を失いたくない」


 俺が何故こんな言い方をしたのか?

 それはオーギュスタの『想い人』に関係がある。

 彼女が優秀なのは勿論、もしも『想い人』が原因で行き場がなくなった場合……

 心の拠り所を失い、自死でもされたら余計に困るのだ。


 オーギュスタは……俺がサトリの能力を使い、彼女の秘密をズバリ見抜いたとは露ほども知らないだろう。

 単純に優秀と言われて悪い気はしていないらしい。

 元気に返事を戻す。


「は、はいっ!」


「ちなみに……悪いが、お前が側室になる件は、イシュタルが『うん』と言ったら改めて検討だな」


「は? イシュタル様がうんと仰れば……でございますか?」


「おお、そうだ。俺はイシュタルの尻に敷かれる。多分言いなりになるだろう。可愛い嫁がもしノーと言えばこの話は白紙に戻す」


 いきなり話を振られ、イシュタルは戸惑う。


「そ、そんな!」


「ははははは、イシュタルよ、お前の形の良い尻になら、いくら敷かれても構わんがな」


「も、もう! 知りませぬ」


 俺を尻に敷くと言われ、イシュタルは頬を赤くし、少しむくれていたが……

 目元は、ちゃんと笑っていた。

 うん、甘えているのが分かる。

 まあ所詮、他愛もない話だものな。

 

 そして……

 場を仕切る俺が思いっきり笑ったので、緊張していたオーギュスタも初めて笑顔を見せたのである。

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