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第17話「帰蝶主従攻防戦①」

 俺とオーギュスタは、『勝負の件』でいろいろと言い合っていた。

 気が付かないうちに、ふたりとも声が大きくなっていたらしい。

 

 と、その時。

 「かちゃり」と扉が開く音がした。


「オーギュスタ、騒がしい。何を騒いでいるのです?」


 と、奥の続き部屋から出て来た小柄な少女は……

 やはり!

 マッケンジー公爵から聞いていた風貌から、間違いない。

 俺の嫁イシュタル・サン・ジェルマンであろう。


 受け継いだアーサーの記憶&知識から補足すると……

 イシュタルは、アルカディア王国の隣国アヴァロン魔法王国国王アルベール・サン・ジェルマンが、跡継ぎの長男をさしおき、とびきり可愛がっている娘である。

 

  今年で16歳の若輩ながら、父に劣らぬ魔法の才を誇り、『アヴァロンの黒き魔女』と呼ばれる高名な魔法使いなのだ。


 実は、アーサーの記憶の中にも、イシュタルの顔はない。

 少し前にアヴァロンへ出向き、見合い話をまとめたマッケンジー公爵から、このような女の子だと話だけ聞いているだけである。

 そう、今日が全くの初対面なのだ。

  

 俺が改めて見やれば……

 

 さらさらした、流れるような肩までの黒髪。

 鼻筋が「ぴしり!」と通った、知性を感じさせる整った顔立ち。

 髪と共に、黒き魔女と呼ばれる由縁の、切れ長の目に輝く漆黒の瞳。

 この黒い瞳が、イシュタルを見た人は吸い込まれるような錯覚を感じさせるほど魅惑的なのである。


 おお、これはまた!

 『妹』のエリザベスとは全く違うタイプの超美少女だ。

 そしてブタローと揶揄され、結婚など一生無理と諦めていた俺の悲願が、見事に成就した瞬間でもある。 


 だが、まだまだ喜ぶのは早い。

 まずは自称侍女、実はイシュタルの護衛役オーギュスタとのアームレスリング勝負に勝つ事。

 それからだ。


 俺はイシュタルに向かって、軽く手を挙げる。

 良く言えばフレンドリーに。


「よう!」


「うふふ、初対面なのに馴れ馴れしい殿方ですね。一体、貴方はどこのどなたでしょう?」


 ここで常人の王子なら、「俺は夫だぞ! ふざけるな!」とか怒るであろう。

 しかし俺の中身はほぼ信長。

 良い意味で、絶対『まとも』ではない。


 だから俺はまず、


「ああ、可愛いお前を口説きに来た通りすがりの男だ」


 と言う。

 予想外の答えと受け止め、イシュタルは首を傾げる。


「可愛い私を口説く通りすがりの方?」


「おお、そうさ。よければ逢引きしないか?」


 だが、イシュタルはただ者ではない。

 俺をアーサーだと認識している癖に、

 

「では早々にお引き取りを……私はもう夫が居る身。人妻なれば見ず知らずな他人と不貞行為を働くなどとんでもございません。逢引きなど出来ませぬ」


 と、言い放った。


 ほう、そう来たか。

 やるじゃないか!

 嫁に来てやった私を後回しにして、お前はとんでもない男って事か。

 俺がナンパしに来たという攻撃に対し、機転を利かせ、人妻だから出直して来いって言っているんだ。


 俺は少し嬉しくなる。

 この子はただ者ではない。

 やはりアヴァロンの黒き魔女は凡庸ではなく、結構な切れ者なのだ。


 そしてオーギュスタもただの戦士ではない。

 状況が変わったと見て、俺へ切り出して来た。


「アーサー様らしき……貴方……イシュタル様にお会い出来て……これで出された条件のひとつがクリアされましたね」


「ああ、そうだな」


「で、では! こうなったからには、私との勝負自体がもう無意味なのでは?」


 出された条件のひとつとは、イシュタルへの取り次ぎだ。

 確かに、オーギュスタの言う通り、願いはひとつ叶った事になった。


 しかし俺の『口説き』が、まるで子供の使いのようにあしらわれてしまったから、これでは意味がない。

 

 まあ、これまでの俺、ブタローなら「しゅん」として引き下がっただろう。

 だが今のブタロー、すなわち信長仕様にバージョンアップした俺は違う。

 どんな窮地に追い込まれても、どんどん切り返せる自信がある。


「いやいや、オーギュスタ、おまえとの勝負は無意味ではない」


「え?」


「但し! このままでは少し面白みに欠けるかもな」


「お、面白み?」


「ああ、だから条件を少し変えよう」


「条件を変える?」


 オーギュスタが分からないという風情で、首を傾げるのを確認し、

 俺は「ちらっ」とイシュタルを見る。


「うん、どうやら俺は今、イシュタルという可愛い女子に手酷くふられてしまったようだ」


「…………」


 イシュタルは無言で俺を見ていた。

 何を言ってるの?

 という呆れた表情だ。


 俺は「にやっ」と笑い、言葉を続ける。


「なので非常に寂しい。寂しいから、新たな嫁を迎えねばならぬ。丁度良い、オーギュスタ、お前が嫁になれ!」


 「どかん!」とさく裂した、俺の爆弾。

 イシュタルに媚びず、退かず、省みず。

 「バン!」と切り返してしまった。


 いきなり嫁にすると言われ、驚愕したのは、オーギュスタである。


「は? はい~っ!」


「は?」


 そして、イシュタルも絶句してしまった。

 大きく目を見開くふたりの女子の前で、俺の『信長節』がさえわたる。


「うんうん、我ながら良いアイディアだ。俺が勝てばオーギュスタ、お前を嫁にする。そしてもう夫が居るというこの人妻を、さっさとアヴァロンへ送り返そう、どうだ?」


「そ、それは……」


 俺の言葉を聞き、今度はオーギュスタが絶句。

 そりゃ、そうだ。

 答えにきゅうするであろう。

 イシュタルの家臣である彼女が、

 「はい! そうですね、私を嫁にして下さい」なんて、言えるわけがない。


 だがここで、容赦する俺ではない。


「どうした? 勝負を躊躇ためらう事はない。けして損な取引きではないぞ。もしお前が勝てば、先ほどの条件も含めよう」


 俺の言葉を聞き、悩んでいたオーギュスタの顔に喜色が浮かぶ。


「先ほどの条件? 私が勝てば? ほ、本当でございますか? アルカディアは、アヴァロンに全面的に従うと!」


 多分アヴァロンは、俺が入れ替わる前の、アーサー王子の身辺調査をばっちりやっている。

 アーサーは超が付く草食系、気弱で大人しく運動音痴、当然膂力も並みの男性より大幅に弱い。

 そんな調査結果が出ている筈だ。


 オーギュスタは戸惑いながら、速攻で計算したんだろう。

 目の前のアーサー……

 つまり俺が何故か、急に口は達者になって、押しが強い性格になったようだと。

 しかし身体や力は所詮変わらないと考えている筈だ。

 

 ははは、でもさ……肝心な事を忘れている。

 俺が部屋の扉を、派手に蹴り壊した事をね、すっかり忘れているみたい。

 

 人間って、何か美味しい餌が目に入り過ぎた時、無理やり都合の悪い事を忘れようと排除するって本当だ。


「ああ、改めて約束しよう」


 俺が約束遂行を確約すると、イシュタルが叫ぶ。


「オーギュスタ!」


「はい! 姫様!」


「よ、宜しい! そ、そ、その方にアームレスリングで挑み、勝ちなさいっ! 以前から聞き及んだ通り、体格も変わっておらず、身体強化魔法の気配もありません! お前なら完全に勝てます!」


「は、はい!」


 イシュタルの飛ばす檄を聞き、オーギュスタは噛みながらも大きく頷いたのであった。

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