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第16話「嫁の侍女は女戦士」

 『禁断の妖精』とも呼べる、アーサーの妹エリザベスは……

 俺が新妻イシュタルの下へ行くと知り、少しねながら送ってくれた。

 聞けば、嫁としてイシュタルがアルカディア王宮へ来た時……

 この『義姉』を全く無視し、結果お互いに全く口を利かなかったらしい。

 

 アヴァロン魔法王国王女イシュタルを『あの女』呼ばわりするくらいだから、初対面とかは関係なく、『愛する兄』の嫁として、大が付くくらい嫌いなのだろう。


 まあ、『小姑と嫁の間柄』は、少しずつ修復させるしかない。

 何故なら、先ほどエリザベスに話した事は、けして出まかせではないのだから。


 エリザベスはまだ12歳と幼く、更に『女』だ。

 だからなのか、周囲の『大人達』は見る目がなかった。

 男尊女卑らしいこの中世西洋風異世界では、周囲の評価が著しく低かったようであるが……

 アーサーの記憶を受け継いだ俺は、彼女が素晴らしく利発でとても冷静沈着という判断は当たっていた事を、自ら話して確かめた。


 うん、すぐに分かった。

 エリザベスは滅多な事では動じず、沈着冷静。

 果断に富んだ性格で、打てば響く、とんでもない切れ者である事を。

 充分俺の同志として、素晴らしい政治的手腕を発揮するに違いない。

 どこぞの国の、お馬鹿な王子にくれてやるなどとんでもないのだ。


 そんな事を「つらつら」と考えながら、俺は王宮のとある部屋の前に来た。


 ここにもひとり、騎士が警護に立っていた。

 部屋の造りは、エリザベスと一緒で、5間続き。

 そう、我が嫁であるイシュタルの部屋である。


「おい! 俺の嫁は、居るか?」


 騎士に尋ねると、即座に返事が戻って来る。


「はい、イシュタル様は、ご在室でございます」


「よし」


 俺は頷くと、扉を叩いた。

 少し強めだが、いわゆるノックだ。


 どんどんどん!


 し~ん……


 どんどんどん!


 し~ん……


 何だ?

 魔力を感じるから、間違いなく部屋に居るだろうが、全くリアクションがないぞ。


「おいおい、本当に居るのか?」


 俺が聞けば、騎士は苦笑して両手の人差し指を立てて、頭の上に添えた。


 何だ?

 これって、イシュタルが「怒ってる」ってサイン?

 鬼マーク?

 何故に日本と、この異世界で同じ?

 怒ってるって、俺がさっさと新妻である自分の所へ来ないからなのか?

 

 仕方がない。

 苦笑した俺は再びノックした。

 しかし、相変わらず反応はない。


 こうなったら、エリザベスの時と『同じ方法』を取ろう。

 俺は息を吸い込み、声を張り上げる。

 

「おい、イシュタル! 聞こえているのだろう? 俺はお前の夫アーサーだ、さっさと開けないとぶち破るぞ」


「え? アーサー様」


 扉をぶち破ると聞き、さすがに焦る騎士へ、俺はしかめっ面で首を横に振った。

 黙認しろという合図である。


 一応、これが最後通告。

 だが……


 し~ん……

 としてやはり返る言葉はなし。


 これでは仕方がない。

 軽く、蹴りを一発入れよう。


 どごん!!!


 さすがにロキから貰った、常人の10倍を誇る膂力抜群な肉体だ。

 ちょっと本気を出すと、特製の頑丈な扉が呆気なく粉々に破壊された。


「おい! 亭主の帰還だ、入るぞ」


 部屋へ、入ろうとした俺は少し驚いた。

 扉の向こうに全く反応がなかったのに、何と!

 長身で逞しい女戦士が、腕組みをして立ちはだかっていたからである。


 ふうん……

 気配を消していたのか。

 戦いのプロだな、この女。

 

 女戦士の年齢は25歳くらい。

 身長は180㎝を楽に超えている。

 女性にしては大柄だ。


 ブラウンのショートカットに大きな鳶色の瞳、僅かに笑みを浮かべた口元に意思の強さが表れていた。

 鎧の上からも、鍛え抜かれ盛り上がった筋肉が分かる、まるで肉食獣のような肉体だ。


 しかし、この逞しい女戦士に、俺は全く見覚えがない。

 アルカディア王国の人間ではないのだ。


 イシュタルの部屋に居るとなれば、アヴァロン王国の人間なのは間違いない。

 まあ警護の騎士は知っているだろう。

 イシュタル一行を部屋へ案内した筈だから。


 なので、騎士へ聞く。


「おい! こいつは、誰だ?」


「は! イシュタル様付き侍女の、オーギュスタ殿です」


「ほう! 侍女? 名はオーギュスタか? ……全然、そうは見えねぇなぁ……」


 俺が皮肉を籠めて言えば、


「オーギュスタ殿は自身で申されました。自分は単なる侍女ではないと。イ、イシュタル様の護衛も兼ねておりますと」


 少々噛みながら、騎士は答えた。

 俺が扉を蹴破るなんて、いつものアーサーとは、まるで違うと驚いているのだろう。


「成る程、オーギュスタ、お前さ」


「…………」


 しかし俺が呼び掛けても、オーギュスタは相変わらず返事をしない。

 無言で、じっと見つめて来る。

 完全に無表情だ。


「おいおい、いい加減に返事くらいしないと、怒るぞ」


「…………」


 俺がここまで言っても、オーギュスタはスルー。

 これって舐められてる?

 ならば、逆手で行ってやろう。


「ふふ、あくまで抵抗するのか?」


「…………」


「よし、俺と勝負をしようか? オーギュスタ」


「勝負!?」


 勝負を持ちかけたら、やっと反応があった。

 多分、オーギュスタは自分の力に絶対の自信を持ち、且つ競い合う事が大好きなんだろう。


「アーサー様?」


「ははは、ノープロブレム。命を懸けたやりとりとかじゃない、これさ」


 俺は自分の腕を掴み、オーギュスタへ示したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 結局、オーギュスタはあっさり部屋へ入れてくれた。

 王家が与えた、王宮におけるイシュタルの部屋は、エリザベスと同じ造りである。


 ちなみに俺個人の部屋は勿論、夫婦共用の部屋は別にあり、ケースバイケースで使う事になっている。

 夫婦がどう暮らすのか、元高校生の俺には分からないが、この世界の王族の暮らしは不思議な感じがする。


 入った部屋のテーブルで、俺とオーギュスタは勝負をする。

 そう、アームレスリングだ。


 でも勝負となれば、つきものなのは戦利品だ。


「おい、オーギュスタ、俺との勝負なら何を賭ける?」


「…………」


「さっきから言っているが、あるじに対し、返事をしないのは、今後許さんぞ」


 相変わらずダンマリばかりのオーギュスタを、俺は責めた。

 すると、


「……私の主は、イシュタル様だけです」


 ああ、予想した通りの答えだ。

 でも、俺の作戦はまだまだ序盤である。


「おお、そうか! じゃあふたつ賭けよう」


「ふたつ?」


 賭ける物がふたつと聞いて、オーギュスタは吃驚していた。

 よしよし、もっと揺さぶってやれ。


「ああ、そうだ。ひとつはオーギュスタ、お前が、俺の忠実な部下になる事」


「な!?」


「言った筈だ。この国で俺に従わぬのは許さぬ」


「…………」


「もうひとつは、今後ちゃんとイシュタルに取り次ぐ事、以上だ」


 俺の条件を聞き、オーギュスタにはつい欲が出て来たらしい。


「で、では! ……私が勝った場合は?」


 ああ、当然聞いて来ると思った。

 俺の答えは、


「オーギュスタ、お前を俺の側室にしてやろう。毎晩たっぷり可愛がってやる」


「な、な、な、何ぃぃぃっ!!!」


 さすがにオーギュスタは驚いていた。

 オーギュスタにとっては全く予想外の答えだから。

 前世なら、セクハラ間違いなし。

 俺のとんでもない答えを聞き、オーギュスタは目を白黒させている。

 もう完全に、こっちのペースだ。


「ははははは! 安心しろ、ほんの冗談だ。もしもお前が勝ったら、アルカディア王国ごと、俺はアヴァロン魔法王国に従おう」


「くう!? 国ごと従うだと? だ、だが、貴方は王子! まだ王ではないぞっ!」


「大丈夫! 非公式だが、俺はさっきオヤジから王になる了解を貰った。約束は出来る」


 俺はそう言うと、不敵に「にやり」と笑ったのである。

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