第12話「信秀オヤジから、家督を継げ!①」
俺はアルカディア王国軍のエース、柴田勝家ことガレス・シードルフ伯爵を信長トークで論破し、オライリー麾下の騎士達を眼力で下がらせた。
傍らの平手政秀ことマッケンジー公爵を振り返る。
可愛い『若』の大変貌に吃驚しながらも、公爵はとても嬉しいらしい。
アーサー命と見える『爺や』は目をキラキラさせていた。
俺は顎で床を指す。
哀れ林佐渡ことオライリーは気絶し、倒れたままとなっていた。
油断していたせいもあるが、今の俺の腕力も常人の10倍。
まあ、手加減しておいたから、命に別状はない。
さてこいつの始末だが、すぐ粛正はせず、少しクールダウンさせるか。
俺はそのままマッケンジー公爵へ指示を出す。
「爺!」
「はっ!」
「オライリーを牢へぶち込め。暫し頭を冷やさせろ」
「若、奴を処分しないのですか?」
「うむ、こいつにはまだ使い道がある。但し奴の部下達に奪還されないよう警戒は厳重にせい」
「は!」
「という事で、今日から爺が宰相だ」
「はっ! ありがたき幸せ!」
「オライリーを収監したら、急ぎお前の兵を率い、奴の家を接収、王家の権限で家宅捜索をせい」
「は! 仰せの通りに」
「うむ! もし逆らったら主人の命はないと言って、ガレス同様、配下の騎士達は蟄居させておけ。奴を叩けばホコリがたくさん出る筈だ、いろいろとな」
信長は、超が付く凄い早口だったんじゃないかというのが俺の推測である。
加えて、極端に言葉が短くて、主語なんか、どんどんとっぱらうとか。
つまり言動から主君の意図を即座に理解し、部下はすぐに命令に対応せよという主義なのだろう。
もしも俺が信長の部下になったとしら……絶対に上手くやれないと思う。
転生前は異常にとろかったから、そんな人の部下になったら、大変だもの。
でもこれって俺だけじゃないと思う。
あの打てば響く臨機応変な秀吉でさえ苦労したらしいから……
程度の差はあれ、部下全員が苦労したんじゃないかなぁ。
確かに信長は大好きだ。
しかし、自分がこの異世界で生き残る為には、信長の長所のみでなく短所も学ぶべきだと。
反面教師として、信長と同じ轍を踏まないようにね。
なので、信長譲りの早口の癖は変わらないが、具体的な指示を出したのだ。
信長は自身が相手の言葉の裏を、気持ちを、瞬時に読み取れるからと言って、他人も同じように出来て当たり前……
出来ないと、こいつは無能で使えないとバシッとレッテルを貼る。
でもそんな信長は超の付く天才。
世の中は凡才の方が圧倒的に多いというのに……
思い通りにならないと信長は大きなストレスを抱える。
そんなジレンマに陥って、何かあるごとにいらいらしたという。
これが事実かどうか、所詮後世の推測にすぎない。
だけど、もしも事実だとしたら、信長の大きな欠点のひとつだったと思う。
閑話休題。
オライリーはシードルフを始めとして多くの貴族を抱き込み、俺を追い落とし、殺す為の密談をしていた。
また宰相の地位を利用して、あくどく私腹を肥やしているという話もアーサーから聞いている。
奴は家探しなど、全く予想していないだろうから、油断しているに違いない。
決定的な『証拠品』が回収出来るのは確実だと俺は見ていた。
命じられたマッケンジー公爵も、それは当然心得ている。
アーサーの話に加え、マッケンジーは清廉な性格から、オライリーを蛇蝎の如く嫌っていた事も分かっている。
今迄は、貴族間の『パワーバランス』で下手に手が出せなかっただけだ。
「御意! すぐにオライリーの屋敷へ向かいます」
「よし! それと爺、俺は嫁へ顔を見せる前に、父上……じゃない、オヤジに会う」
「は!」
そう、この王国でいろいろな政策を行う場合、やらなくてはならぬ事がある。
簡単な話だ。
俺は所詮王子である。
まだ正式な王様ではない。
それ故、肝心の決済権が殆どない。
その為に、父クライヴ・バンドラゴン、すなわち『織田信秀』を退位させ、新たなアルカディア王として、権限移譲のOKを貰わなくてはならないのだ。
「良いか? オヤジと話をつけたら、爺とはいろいろ相談があるからな。戦利品を確保したら、明日朝一番で王宮へ持って来い。期待している」
「御意!」
マッケンジー公爵は気合の入った声で答えると大きく頷いた。
『こちら』も、俺の意図は伝わっているようだ。
さすが『爺や』だ。
改めて深く一礼すると、マッケンジー公爵は足早に大広間を出て行った。
さあて、俺も「ちゃきちゃき」用事を済まして行かないと!
「エリック、行くぞ!」
「は!」
これまた元気よく返事をするエリック。
俺の変貌を目の当たりにして驚いた後……
今回のやりとりを見て、更に嬉しくなったのだろう。
主人の後を地獄の果てまでついていくという、愛犬みたいな喜びに満ち溢れていた。
何となく、前田利家の幼名『犬千代』という名前が思い出されて、笑いそうになった。
次に俺は『母』アドリアナへ向き直る。
こちらは息子の大が付く変貌を見て、思考がついて行かないという表情だ。
「母上……いや、オフクロ!」
俺がフレンドリーに、砕けた言い方をしたら、アドリアナは目を丸くしている。
「は? オ、オフクロ?」
「ああ、オフクロには一応、断っておく。これから俺は、オヤジに会う。奥へ通るぞ!」
「オヤジって!? アーサー! いけません、陛下は病に臥せってお休み中です。お身体に触ります」
「急用だ! 心配ない、すぐすむ」
「あ、こ、これ……ま、待ちなさい」
俺は、制止する母アドリアナを華麗にスルー。
エリックを従え、父クライヴ・バンドラゴンの寝室へ向かったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……父クライヴが寝ているのは王宮一番奥の寝室だ。
俺と供のエリックが部屋に近付くと警備担当の王宮騎士が一礼し、扉から離れた。
エリックには部屋の外で待機するよう伝え、扉を軽くノックした俺は父へ来訪を告げる。
「父上、アーサー、只今参りました」
「入れ」
俺の声に答えるかのように重々しい声が響いた。
俺は扉を開けると、部屋の中央に置かれたベッドに寝かされた父へ近づいた。
「良い、アーサーとふたりきりにさせてくれ」
息子である俺の姿を認めた父王クライヴが、病状を診ていたらしい医者と世話をしていた侍女に告げると、ふたりは部屋の外へ下がって行く。
「はは、これで人目を気にせず話せる。……アーサーよ、まずは祝いの言葉を送ろう!」
クライヴが祝いと言うのは、俺が嫁イシュタルを迎え結婚した事だろう。
「ありがとうございます!」
俺が一礼するとクライヴは嬉しそうに微笑む。
かつては逞しく荒々しい戦士だったらしい。
だが、今は影を潜め、顔色は青白く不健康そうに痩せ細り、頬骨が尖ってしまっている。
「アーサー、黒き魔女と呼ばれるイシュタルは、アヴァロンに鳴り響いた才女。お前にとって良い嫁になるだろう……」
「はい! 尻に敷かれないように頑張ります」
「は、ははは……と、ところで、急にどうした? 何か儂に用事がありそうだが?」
俺は病床の『父』を力付けるように言う。
「父上、いやオヤジには言っておこう。まずはオライリーぶっ飛ばして汚い膿を出しました。今後も邪な奴等は排除し、志を持って国の為に働く者だけを残すつもりです」
「むう……オライリーを? ぶっ飛ばしただと?」
「ああ、オヤジは……薄々知っていた筈だ」
「…………」
「奴は仲間を募り、悪計をたくらみ、俺を追い落とそうと、いや、殺して亡き者にしようとしていた」
「…………」
クライヴは、俺の問い掛けに対し、無言だった。
でも沈黙は……肯定の証だろう。
この人は超が付く厳しい父親だ。
前世ではありえない凄い父親だ。
何故なら、自分の息子を殺そうとする部下を放置していたのだから。
信長の父、織田信秀以上の厳父だろう。
それ故、俺が逆にオライリーを粛正すると言っても責めないのだ。
「男なら卑怯で姑息な罠など、逆に噛み破れ!」強い眼差しがそう告げていた。
ならば、俺も淡々と語るのみ。
「俺は先ほどマッケンジーへ命じ、奴の屋敷を捜索させている。多くの証拠が見つかるはずだ。それに他の罪や奴の息子の狼藉をけして許す事など出来ない」
「ふむ……」
クライヴは軽く息を吐くと、俺をじっと見つめた。
そして、
「……少し驚いたぞ。先ほどからの物言い、……一体、どうしたのだ? その変わりようは?」
「ふむ、俺は……変わりましたか?」
「ああ! 俺の知っておるアーサーとは全く違う」
俺の覇気のある物言い、そして大胆な行動に、クライヴは少し驚いたようである。
目を大きく見開き、訝し気に俺を見つめたのであった。
東導 号作品、愛読者の皆様!
特報です!
『魔法女子学園の助っ人教師』
『第5巻』の発売が決定致しました!
皆様の多大なる応援のお陰です!
本当に、本当にありがとうございます!
発売日等、詳細は未定です。
◎そして!
この度『コミカライズ』が決定致しました。
宜しければ、11月12日付けの活動報告をご覧下さいませ。
既刊第1巻~4巻が発売中です。
店頭でぜひ、お手に取ってくだされば嬉しいです。
既刊が店頭にない場合は恐縮ですが、書店様にお問合せ下さい。
この機会に4巻まとめ買い、一気読みなどいかがでしょうか。
皆様の応援が、次の第6巻以降の『続刊』につながります。
何卒宜しくお願い致します。




