2月5日〜雨の日の教室〜
「星野!お前は今日残りだぞ!」
先生の言葉に、正直ムカッとくる由希。
だが、しかたがない。3学期の振り返りカードを提出していないのだから・・・。
「由希、また明日ね〜。」
「バイバイ!」
帰って行く友達。そして、同じ理由で居残りにされている男子数人。
(や、ヤバッ!)
なにもともあれ、由希の学年(6年生)は男子と女子が対立していて、異性との会話など許されないのだ。
そのメンバーは明らかにどこかで見たことがあった。
(あの時と同じ・・・)
残っていた男子は、ゴンタ(小野)とミッツー(光石)だった。前にもこのメンバーで居残りにされたことがある。
その時は、ゴンタの悪戯を内緒にする代わりに、ミッツーの好きな人を教えてもらったりした。
そして、最後には由希がまっくん(松林)が好きだということがゴンタにバレてしまった。
正直いうと、由希はわずかにゴンタが好きだった。しかし、本命はあくまでも6年2組のまっくんだ。
まっくんはゴンタと正反対の性格で、やさしくて頭がよかった。しかし、スポーツは苦手。
ゴンタは意地悪で、発想力がある替わりに記憶力がほとんどなかった。そして、スポーツが得意だ。
由希はそんなことを考えながら、3学期の振り返りカードを仕上げていた。
『学習に関する反省:それぞれの教科の授業態度や成績で、良かった所と悪かった所をそれぞれ記入しましょう。』
(そんなの知るか!)
はっきり言って、由希はまじめに勉強していない。授業中はおしゃべりしているか、落書きをしている。
『国語
良かった所:テストの点数が良かった。
悪かった所:授業をきちんと聞いていなかった。教科書に落書きをしてしまった。』
『算数
良かった所:テストの点数が良かった。
悪かった所:授業を全く聞いていなかった。教科書にある人の悪口を書いてしまった。』
『理科
良かった所:実験の準備をきちんとできた。自分の意見を言えた。
悪かった所:ノートをとっていなかった。』
『社会
良かった所:テストの点数が良かった
悪かった所:調べ学習の作品をすべて未提出。授業中に寝てしまった。』
由希はすべて本当のことを書いている。しかし、このような内容だとゴンタよりも酷い成績が付くかもしれない。
ボコッ
ペットボトルのへこむ音がした。
「星野!俺達今日も遊ぶから、先生には黙ってろよ!」
ゴンタは前と同じく、今日も遊ぶ気らしい。
「わかった!」
由希はもうゴンタ達にはつきあっていられなかった。
ゴンタはミッツーと、ペットボトルでキャッチボールを始めた。
ボコッ
ベコッ
集中力が落ちていく由希。最後はいやになって、適当にらんをうめた。
『クラブ活動で:来年クラブの始まる3年生に、ボードゲームのコツを教えた。』
最後は『賞状をもらったなど、表彰されたこと』のらんに、『あるわけありません。』と書き、先生の机の上に置いた。
「ゴンタ!私帰るからね!」
由希がさっさと帰ると、ゴンタは寂しそうな顔をした。
「・・・ミッツー、俺達も帰ろうぜ。」
「えっ?」
「帰るって言ってるんだよ!」
ゴンタは由希のことが好きだった。由希と一緒にいたかった。由希の気をひきたかった。
結局、ゴンタはミッツーを教室において来た。外は大雨だった。
(俺の心の中みてーじゃん。)
その時、ゴンタは初めて自分が惨めな気持ちだということがわかった。
(また明日、由希に会えたらいいな。)
校庭を走って横切るゴンタは、男の子から男性にかわりつつあった。