キャプテン・ビーバー
いらっしゃせー
金髪の店員のだらけた声がかすかに聞こえてくる。少しイラついたがまあ、そんなのどうでもいい
あった、あった。
今週号のハロハロコミックだ。この日をどれだけ待ち侘びたことか。
どれどれ。ん?
ない。
なぜだ。なぜないんだ。なぜどこにも《無限戦域》がないんだ。今月号のためにどれだけ頑張ってきたと思っているんだ。
クソが。ついてねえ。
その瞬間だった。
ーーガラッ!!
勢いよくドアが開く。
冷たい夜風と一緒に、男が入ってきた。
フード、マスク、そして手には黒い袋。
「動くな」
短い声。
空気が一気に重くなる。
おい。おいおい。なんだよ今日は本当についてねえ。クソッムカつく。もういっそのことやっちまおうか。そうだ。俺は悪くない。急に出てきたこの強盗が悪いんだ。俺は悪くない!
「出てこい、ヴォルテージ・パラリシス」
俺の体から眩い光の粒が放出される。それが体の形を作るのに1秒も掛からなかった。
「どうしたんだよお、キャプテン」
気だるそうに光の人間のような物が出てきた。年齢は30歳くらいだ。手には《Paralysis》と書かれた腕輪をしている。
「ヴォル、目の前の黒いマスクのやつの足と手を麻痺させろ」
「オーケーだ。キャプテン」
そういう時ブォルは両手を強盗の手にかざした。
「な、なんだよその光みたいなやつ!お前、次動いたらうつからなああああ!」
取り乱している。この分なら苦労せず切り抜けられそうだ。
「いくぜ!キャプテン!」
「ああ、頼む」
「ヴォルテージ!レグ アンド ハンド!」
強盗は震える手で銃口を向けた。
「本当に撃つぞ!撃つからなあ!え?うああああああ」
突然強盗が膝から崩れ落ちた。そして悶えた末、手足の感覚を無くしたまま泡を吹いて気絶した。
「ただの一般人じゃねえか。電圧を感じねえ。次はもっと強いやつとやらせてくれよ」
「ほんと、お前の血の気の多さには困る。命懸けの戦いの何が楽しいんだ」
ヒ、ヒイイ
レジの方から悲鳴のような声が聞こえてくる。
「なんだ、騒がしい。ん?ここら辺から電圧を感じるぞ!!」
ヴォルが何かに反応したかのようにレジの方へ向かった。ちょうど悲鳴が聞こえた場所あたりからだ。
「敵か?」
「いいや、生きてはいねえ。それにしてもなんだこの四角いの」
「ん?ああ、それは電子レンジというんだ、物を温める道具だな。それよりその店員は敵ではないんだよな?」
「ああ、ただの一般人だ。敵ではない。だが、こいつはさっきの戦いをまた待ってるはずだ。今後のために記憶を改ざんすることをお勧めするぜ。」
「そうだな。ヴォル。銃を持ってこい」
「お、おう。だがキャプテン何をする気だよ」
「あとで警察やらなんやらがきた時強盗だけが倒れていて店員は無事っていうのも違和感だからな。ここで店員には死んでもらう。ヴォル、頭を麻痺させといてくれ。苦しみながら死ぬのは可哀想だからな」
「キャプテンのそういうところ嫌いじゃないぜ」
ヴォルはキャプテンに聞かれないようできるだけ小さい声で呟いた。
「ヴォル、なんか言ったか」
「いいや、何も言ってねえ。それより頭だけでいいのか?脳もやっておかないと痛みはねえけど意識はあるぜ」
「恐怖と苦痛は別物だ。店員にはできるだけ恐怖した表情で死んでほしいからな。そちらの方がリアリティが高いだろう?」
「はは、そうだな。じゃあ頭だけということで。ヴォルテージ ヘッド」
店員は頭に違和感を覚えたのか、急に頭を抱えて何がぶつぶつ言い出した。
「はふへええくははひ」
頭が麻痺しているせいで何を言っているのかわからない。それに口も閉じれないようだ。
「うるさいなあ、もういい、早めに終わらせる」
そういうとキャプテンは銃を手に向け引き金に手をかけた。そして今までの激しい口調とは打って変わって囁くような祈るような口調で呟いた。
「アーメン」
バアアン
コンビニ内に轟音が響き渡った。しかし銃から弾は出てこない。
店員はショックで気絶してしまっている。
「なんだよ、これ。空砲じゃねえか。使えねえ。今日は本当についてねえな」
キャプテンは耳の裏を掻いた。怒った時の癖だ。
「ヴォル、両方の脳みそを麻痺させろ。もう警察とかどうでもいい。腹が立ってしょうがないんだ。確実にやれ」
「わかってるよキャプテン。はあ、一般人を手にかけるようなことダサいからしたくねえんだけどな」
「ヴォル早くやれ!」
「わかったって」
ヴォルは両方に向かって片手ずつ手をかざした。
「どちらも気絶しているのが不幸中の幸いってやっだな。・・・ヴォルテージ ブレーン アンド ブレーン」
「終わったか、ヴォル戻っていいぞ」
「キャプテン戻る前に“でんしれんじ“ってやつを見に行ってもいいか?」
キャプテンは呆れたようにため息をついた。
「好きにしろ。ただし10秒後には戻れ」
「オーケーだぜ。キャプテン!」
そういえば漫画はどうしようか。来月までは待てないし、いっそのこと漫画会社まで書かせるか。
「できればそんなことに俺を使わないでくれると嬉しいぜ」
ヴォルが電子レンジを物色しながら言った。
「決めた。決行は明日だ。ちゃんと準備しておけよ!」
キャプテンは珍しく張り切っていた。




