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本物の公爵令嬢  作者: Na20


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9/20

9

 

 翌日からは、いつもどおり仕事を押し付けられる日々。

 当然時間などあるわけもなく、あの日以来ランカ帝国のことは調べられていない。


 いつもと変わらない日常。

 しかしある日突然、そんな変わらない日常に大きな変化が訪れる。


 噂の留学生が学園にやって来たのだ。

 学園は騒然となったが、それもそのはず。


『ランカ帝国から留学生が来るらしい』


 ただでさえ学園はその噂で持ちきりだったのに、まさかやって来たのが皇族だなんて誰が予想しただろうか。


 テオハルト・フォン・ランカ。

 ランカ帝国の第二皇子。


 ランカ帝国の皇族は、赤の髪と金色の瞳を持つと聞く。

 先日読んだ本にもそう書いてあった。

 そして教室の前に立つその人も、もちろん同じ色で。



「テオハルト・フォン・ランカだ。今日からよろしく」



 教室は大騒ぎ。

 事前に話を知っていた担任の教師でさえも、緊張しているように見えた。

 これだけでいかに帝国が王国より上の存在なのかが分かる。

 もちろん私も驚いた。

 けれど一番驚いていたのは王太子殿下だった。



「テオハルト皇子!」



 まだ挨拶中にもかかわらず、隣の教室からこの教室に飛び込んできた王太子殿下。

 それだけでも失礼だというのに、特に交流はなかった皇子殿下を名前で呼ぶ始末。

 とてもじゃないが生きた心地がしなかった。



「まさかテオハルト皇子が来るとは!いや、挨拶が遅くなってしまったな!」



 自分は皇子殿下と対等だとでも思っているのか。

 いやむしろ次期国王である自分の方が上だとでも勘違いしていそうで恐ろしい。



「ん?ああ貴殿か。どうせ学園で会えるから挨拶はあとででもいいかと思ったんだが、まさか他のクラスだとは思いもしなかったよ」


「なっ……」



 学園のクラスは成績順に上から、A、B、Cと分かれている。

 私のいるクラスはAクラス。そして王太子殿下はCクラス。

 まさか王太子がCクラスだなんて予想外もいいところ。

 当然王太子殿下はこの結果を素直に受け入れられるはずもなく、さらには婚約者であるわたしがAクラスだったことから、散々文句を言われた。

 王太子殿下にふさわしい婚約者であるべく、努力した結果にもかかわらずだ。


 しかし反論してもただ手を上げられる。

 だからそのことには一度も触れたことはなかったのに……



「ほらまだホームルーム中だろう?話はまたあとにして、貴殿はそろそろ自分の教室に戻った方がいい」



 言外にここはお前の教室ではないと言っているようなもの。



「っ、あ、ああ、そうだな!話はまたあとにしよう!」



 王太子殿下も馬鹿にされたと気づいたようだが、さすがに分別はあったらしい。

 いつものように悪態をつくわけでもなく、それだけ言って教室へと戻っていった。



(よかった……)



 内心ハラハラしていた私は、密かに胸を撫で下ろした。



「……えー、では皇子殿下はあちらの席に」


「分かりました」



 ようやく本来の流れに戻り、教師が皇子殿下に席を示した。

 そして皇子殿下はその示された席へと歩みを進める。



「これからよろしくね」



 皇子殿下の席……それは私の隣。

 皇子殿下が席に着く前に、わざわざ私へと声をかけてくれた。

 それに声も表情も、先ほどとは違いとても優しいもの。



「こ、こちらこそよろしくお願いします」



 まさか声をかけられるとは思っておらず、私は慌てて返事をする。

 驚いて声が変になってはいなかったかと心配になるが、皇子殿下は気にした様子もなく席に座った。


 それから授業が始まったものの、どうしても隣が気になってしまう。

 皇子殿下が私に声をかけてくれたのは、私がどんな人物かまだ知らないから。

 知ればきっと軽蔑される。

 分かっている。

 それでも、ああして純粋な優しさに触れるのはいつぶりだろうか。


 そっと隣を盗み見る。



(えっ)



 しかしどうしてだか皇子殿下と目が合ってしまった。

 急いで視線を逸らす。

 私の席は一番後ろなので周りには気づかれていない。

 だけど盗み見ようとした本人に気づかれてしまった。

 はしたないと思われただろうか。



(でも……)



 ただ一瞬の出来事。

 けれどその一瞬見えた皇子殿下の顔は、笑っているように見えた。



(……あの子に似てる?)



 ふと昔を思い出す。

 顔すらもよく思い出せなくなった大切な友達。

 覚えている彼は、茶色の髪に茶色の瞳。

 どこにいてもよく見かける色。

 赤と茶、金と茶……全然違う。

 それに孤児と皇族は天と地の差だ。不敬にもほどがある。

 それなのにどうして、似ているだなんて思ったのだろう。



(……元気にしているかしら)



 ふとそんな思いが過った。

 彼は私のことなんてもう忘れている。

 だけど私は八年経った今でも、まだこうして思い出している。

 私もいつか彼のことを忘れる日が来るのだろうか。


 もう一度皇子殿下を見る勇気はない。

 けれどあの顔が忘れられず、懐かしい思いを抱かずにはいられなかった。


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