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本物の公爵令嬢  作者: Na20


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5/10

5

 

 身支度が終わると、玄関ホールに向かう。

 そこで同じく学園に行く妹、リリアンを待つのだ。

 ここでリリアンより来るのが遅いなどあってはならない。


 だいたい三十分ほど待つと、リリアンが公爵と公爵夫人、それに兄のロバートを連れてやってくる。



「お父様お願い~」


「分かった分かった。それじゃあ次の休みにでも一緒に買いに行こうか」


「やったぁ!ありがとうお父様!」


「もう父上はリリアンに甘いんだから」


「だってリリアンはこんなにも可愛いんだもの。仕方ないわ」



 なんて仲睦まじい家族だろう。

 でもこれは私に対する警告だ。

 お前は本当の家族ではない、それを努々忘れるなと。


 そんなことは分かっている。

 でもここで身じろぎでもしようものなら、文句や嫌味が飛んでくるだけ。

 文句も嫌味も慣れたものだが、わざわざ愚かな真似はしない。

 彼らに関わると体力も気力も削られる。

 だから私はこのつまらないやり取りが終わるまで、じっと頭を下げ続けるのだ。


 無事にいつもの流れが終り、次は馬車へと乗り込む。



「どうしてあんたと同じ馬車に乗らないといけないのかしら」



 先に馬車に乗っていたリリアンの言葉だ。



「……申し訳ございません」



 余計なことは言わない。

 この家で生きていくには、そのことを忘れてはいけない。



「はぁ。お父様は私のお願いなら何でも聞いてくれるのに、どうしてこれだけはダメなのかしら」



 体裁を気にしてか、学園への行き帰りの馬車だけは、リリアンと同じ馬車に乗ることが許されている。

 確かに乗り心地はいい。

 けれどそれ以上に、リリアンと顔を会わせるのが苦痛だ。

 リリアンは馬車の中にいる間は、延々と嫌味を言ってくる。だから私はそれを聞かなくてはならない。


 慣れてはいても、少しくらい静かにしてほしいと思ってしまう。

 結局この日も、学園に着くまでひたすら嫌味を聞かされる羽目になった。



 学園に着くと、まずは午前の授業を受ける。

 けれどこの時点で私の身体は悲鳴を上げていた。


 毎日の短い睡眠では疲れが取れないのに、朝の仕事のせいで疲れは増すばかり。

 それに朝食は食べているが、正直あの量では足りない。

 常に空腹で、さらには栄養が足りていないからか、頭がうまく回らない。


 なんとか午前の授業を終えると、ようやく昼休みだ。

 できることならどこか静かな場所で休みたい。

 お腹が空いているので食事をとりたい。

 けれどその望みが叶ったことは一度だってない。



「俺の婚約者ならちゃんと仕事をこなしてくれよ?さぁ行こうか、リリアン」


「うふふ、お姉さま頑張ってね?」



 昼休みはこうしていつも仕事を押しつけられるのだ。

 婚約者だからという理不尽な理由で。

 しかし私には選択肢などなく、その理不尽を受け入れるしかない。


 そして休む暇もなく午後の授業が始まる。

 学園でのこんな生活ももう三年目。

 昼食を食べないことには慣れたが、この睡魔だけはいつまで経っても慣れない。

 目蓋が閉じないよう必死に手をつねり、なんとか午後の授業をやり過ごす。


 しかしまだ私の一日は終わらない。

 午後の授業が終わると、次は王太子妃教育を受けに城へと向かう。


 最初は耳を疑った。なぜ私が王太子殿下の婚約者なのかと。

 公爵は一体何を考えているのか。

 私ではなくリリアンを婚約者にすればいいのに。

 彼女は私と違って、家柄も血筋も何の問題もない。

 それに王太子殿下とリリアンの仲は、皆が知っているのだから。


 けれど婚約者は私。

 おかげで私は学園中の嫌われものだ。

 愛し合う二人を引き裂く悪女。それが私の学園での名前だ。


 当然当事者である王太子殿下にも嫌われていてる。

 だからきっと腹いせに、仕事を押しつけてくるのだ。

 婚約者ならきちんと勤めをはたせと。


 学園では生徒会の仕事を、城では王太子の仕事を。

 けれど王太子の仕事には国の機密も含まれる。

 だからいくら婚約者といえど仕事は引き受けられないと言ったら、生意気だと頬を打たれた。

 結局それ以降は何を言っても無駄だと悟り、ただ仕事をこなしている。


 城での仕事が終わり家に帰る頃には、すでに外は真っ暗だ。

 裏口から屋敷の中に入り、厨房へ向かう。

 公爵一家の夕食の時間はとっくに終わっている。

 それに使用人たちの食事の時間も終わっていて、厨房には誰もいない。

 翌日の食材に手をつけると怒られるので、他の

 食べられそうなものを探し、自分の部屋へと戻る。

 パンやスープがあるときは運がいい。時には残飯しかない時もあるから。

 以前は残飯でも食べたが、腹に当たったことがあり、それ以降はやめた。


 遅すぎる夕食を終えたあとも、まだ休むことはできない。

 机の上には、朝とは別の書類の束が置いてある。

 身体は休息を必要としているが、明日に回すのはただ自分の首を絞めるだけ。

 だから身体に鞭を打って、なんとか仕事をこなす。


 ようやくすべてが終わる頃には、もう真夜中だ。

 こんな時間にお湯など沸かせるわけもなく、桶に水を入れ、布で髪と体を拭く。

 そうして着古した寝間着に着替え、固いベッドに横になる。

 疲れているおかげですぐに寝ることができる。

 けれどそれもほんの数時間だけ。


 その数時間後には、私の変わらない一日がまたすぐに始まるのだ。


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