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「降りろ」
馬車が停まり御者から降りるよう指示される。
恐る恐る馬車から降りると、目の前には見たこともないほど大きな建物が。
こんな大きな建物見たことがない。
ここが公爵家……
あまりの大きさに言葉を失ってしまう。
「さっさとついて来い」
「あっ、すみません」
そう言って連れてこられたのは、屋敷の裏口。
そこから中へ入ると、メイドが待ち構えていた。
「ここからは私が案内します」
「ああ、あとは頼んだ」
それからはメイドのあとをついていく。
その間に何人ものメイドにすれ違ったが、目の前を歩くメイドも含め、皆がきれいなお仕着せを着ている。
その事実を目の当たりにして、私はなんだか恥ずかしくなった。
公爵家の養子になるのだからと、一番きれいな服を選んで着てきたはずなのに、私が一番汚い。
そしてやはりそれは、私の思い違いなどではなかった。
「嘘でしょう?この薄汚れた娘が?」
案内された部屋に入るや否や告げられた現実。
恥ずかしくて思わず俯いてしまう。
「はい。孤児院から連れてきた者です」
「……これが本物なの?」
(本物?)
派手に着飾った女性――ノスタルク公爵夫人の口から聞こえた小さな呟き。
本物とは一体どういう意味なのだろうか。
「はぁ、仕方ないわ。旦那様がこの娘を養子にすると決めたのだから、最低限の教養は身に付けさせないと」
「えっ!僕はこんなやついらないよ!」
「ねぇ私の召し使いじゃないの?」
公爵夫人に続き、息子のロバートと娘のリリアンが口を開く。
その言葉には不快さが滲み出ている。
ここまできてようやく理解することができた。
本当の家族?
そんなものは、私の期待が作り出した幻想にすぎないと。
(どうして愚かにも期待してしまったのだろう)
養子になれば、孤児の私でも貴族になれるとでも?
いや、そんな日が一生訪れることはない。
たとえ書類上は貴族であっても、本当の貴族だと認められることはない。
孤児はどこまで行っても孤児のまま。
別に貴族になりたかったわけじゃない。
ただあの大切な約束を胸に、穏やかに暮らしていければそれでよかったのに。
けれどもはやその願いが叶うことはないと理解してしまう。
私はこれから、まったく歓迎されていないこの家で生きていくしかないのだ。
こうして始まった新たな生活。
それはひっそりと、そして確実に私の心に影を落としていった。




