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昼休み。
クラスメイトたちは昼食を食べようと、次々と教室を出ていく。
食堂でランチを食べる人もいれば、弁当をもって庭園で食べる人もいる。
けれど私は今日も今日とて、教室の自分の席で座ったまま。
どうせ今日も王太子殿下から仕事を押し付けられる。
もしかしたら朝の八つ当たりで、余計な仕事まで増やされているかもしれない。
本当はやりたくない。
だけどこんなこと言えるわけもない。
言ったところでどうせ頬を打たれるだけだから。
「あのさ」
だからじっと座ったまま、王太子殿下が来るのを待っていたのだが、隣に座る皇子殿下から声をかけられた。
「え……?わ、私ですか?」
突然のことに一瞬反応が遅れてしまう。
まさか私に話しかけてくるなんて思ってもいなかった。
「そう、君。えーっと……」
「あっ!も、申し遅れました。ミレイア・ノスタルクと申します」
私は急ぎ立ち上がり、名前を名乗る。
こうして自分の名を口にするのは久しぶりだが、きちんとできているだろうか。
「そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ」
「ですが」
「学園内ではみんな平等なんだろう?」
たしかにそう謳ってはいるが、実際のところ平等なんて存在しない。
すべてはその血筋が物を言う。
だから公爵家の偽物は、どこにいようとも忌み嫌われるのだ。
だけど自分の口からは、そんなこと言いたくなかった。
「さすがにそういうわけには……」
「困らせてしまったかな?」
「い、いえ。とんでもございません」
やはり皇子殿下は優しい。
困っている私を不憫に思い、気を遣ってくれたのだろう。
「ミレイア嬢と呼んでも?」
「こ、光栄でございます」
それに名前まで呼んでくれた。
明日には呼ばれなくなるかもしれない。
でもそれでもいい。
このたった一回で、私はまだ私でいられる。
「あのさミレイア嬢さえよければ、このあと学園を案内してくれないか?」
「えっ!私がですか?」
「そう。ダメかな?」
どう返事をしたらいいのか。
皇子殿下の頼みだ。断るなんて失礼だろう。
けれどもうすぐここに王太子殿下がやって来る。
そうなればとてもじゃないが、学園の案内どころではない。
どう返事をしようか。
そんなことを考えていると、やはり来てしまった。
「おい、お前!」
「……はい、なんでしょうか」
どうやら時間切れだ。
結局自分の口からなにも言えぬまま、情けない姿を見せる羽目になってしまった。
「こんなところで何をボサッとしているんだ?」
「……申し訳ありません」
ここで待っていろと言ったのは王太子殿下だ。
だけどそれをわざわざ指摘するなんて愚かな真似はしない。
私はいつもどおり頭を下げた。
「はぁ、こんな愚鈍な女が俺の婚約者だなんてな。そうは思いませんか、テオハルト皇子」
「……」
恥ずかしい。
こんなのはいつものこと。
それなのに皇子殿下に見られていると思うと、恥ずかしくて仕方がなかった。
きっと皇子殿下は、この姿を見て呆れているに決まっている。
「ほらお前はさっさと婚約者としての勤めを果たしてこい!」
「……かしこまりました。皇子殿下、申し訳ございません。学園の案内はぜひ他の方に」
「ああ、それなら私が!」
学園の案内と聞いて王太子殿下が名乗りを上げる。
朝のやり取りを見ている私は不安になったが、そう思ったとしてもどうすることもできない。
私が今やるべきことは、王太子殿下の婚約者として仕事をこなすこと。
だから先にこの場を離れようとしたのだが、
「待ってくれ」
「えっ」
皇子殿下が私の手を掴む。
突然のことに言葉を失った私をよそに、皇子殿下が口を開いた。
「私は彼女に案内をお願いしたのだが?」




