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本物の公爵令嬢  作者: Na20


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10

 

 昼休み。

 クラスメイトたちは昼食を食べようと、次々と教室を出ていく。

 食堂でランチを食べる人もいれば、弁当をもって庭園で食べる人もいる。


 けれど私は今日も今日とて、教室の自分の席で座ったまま。

 どうせ今日も王太子殿下から仕事を押し付けられる。

 もしかしたら朝の八つ当たりで、余計な仕事まで増やされているかもしれない。


 本当はやりたくない。

 だけどこんなこと言えるわけもない。

 言ったところでどうせ頬を打たれるだけだから。



「あのさ」



 だからじっと座ったまま、王太子殿下が来るのを待っていたのだが、隣に座る皇子殿下から声をかけられた。



「え……?わ、私ですか?」



 突然のことに一瞬反応が遅れてしまう。

 まさか私に話しかけてくるなんて思ってもいなかった。



「そう、君。えーっと……」


「あっ!も、申し遅れました。ミレイア・ノスタルクと申します」



 私は急ぎ立ち上がり、名前を名乗る。

 こうして自分の名を口にするのは久しぶりだが、きちんとできているだろうか。



「そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ」


「ですが」


「学園内ではみんな平等なんだろう?」



 たしかにそう謳ってはいるが、実際のところ平等なんて存在しない。

 すべてはその血筋が物を言う。

 だから公爵家の偽物は、どこにいようとも忌み嫌われるのだ。

 だけど自分の口からは、そんなこと言いたくなかった。



「さすがにそういうわけには……」


「困らせてしまったかな?」


「い、いえ。とんでもございません」



 やはり皇子殿下は優しい。

 困っている私を不憫に思い、気を遣ってくれたのだろう。



「ミレイア嬢と呼んでも?」


「こ、光栄でございます」



 それに名前まで呼んでくれた。

 明日には呼ばれなくなるかもしれない。

 でもそれでもいい。

 このたった一回で、私はまだ私でいられる。



「あのさミレイア嬢さえよければ、このあと学園を案内してくれないか?」


「えっ!私がですか?」


「そう。ダメかな?」



 どう返事をしたらいいのか。

 皇子殿下の頼みだ。断るなんて失礼だろう。

 けれどもうすぐここに王太子殿下がやって来る。

 そうなればとてもじゃないが、学園の案内どころではない。

 どう返事をしようか。

 そんなことを考えていると、やはり来てしまった。



「おい、お前!」


「……はい、なんでしょうか」



 どうやら時間切れだ。

 結局自分の口からなにも言えぬまま、情けない姿を見せる羽目になってしまった。



「こんなところで何をボサッとしているんだ?」


「……申し訳ありません」



 ここで待っていろと言ったのは王太子殿下だ。

 だけどそれをわざわざ指摘するなんて愚かな真似はしない。

 私はいつもどおり頭を下げた。



「はぁ、こんな愚鈍な女が俺の婚約者だなんてな。そうは思いませんか、テオハルト皇子」


「……」



 恥ずかしい。

 こんなのはいつものこと。

 それなのに皇子殿下に見られていると思うと、恥ずかしくて仕方がなかった。

 きっと皇子殿下は、この姿を見て呆れているに決まっている。



「ほらお前はさっさと婚約者としての勤めを果たしてこい!」


「……かしこまりました。皇子殿下、申し訳ございません。学園の案内はぜひ他の方に」


「ああ、それなら私が!」



 学園の案内と聞いて王太子殿下が名乗りを上げる。

 朝のやり取りを見ている私は不安になったが、そう思ったとしてもどうすることもできない。

 私が今やるべきことは、王太子殿下の婚約者として仕事をこなすこと。

 だから先にこの場を離れようとしたのだが、



「待ってくれ」


「えっ」



 皇子殿下が私の手を掴む。

 突然のことに言葉を失った私をよそに、皇子殿下が口を開いた。



「私は彼女に案内をお願いしたのだが?」


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