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03.屈辱の記憶

薄暗い自室の寝台に顔をうずめながら、アイリスは5年前のあの日…屈辱の日々の始まりとなった、あの悪夢の日を思い出していた。


幸せいっぱいで旅立った新婚旅行の馬車に、フローラが乗り込んできた時の衝撃を、アイリスは生涯忘れないだろう。


「はじめまして、あたし、フローラよ。ロイとは生まれた時からの付き合いなの!すっごく仲がいいのよ」


満面の笑みでそう言われて、まだ若かったアイリスはどうしたらいいのか分からなかった。


新婚夫妻の馬車に他人が乗り込んで来るのは、ふつうのことなのだろうか?戸惑うばかりで言葉が出ないアイリスだったが、フローラの次の言葉に耳を疑う。


「ね、あたしもいっしょに行っていいでしょう、ロイ?」


……なんですって?!


どう考えても非常識だけれど、アイリスから断るのも角が立つ。ロイがうまくかわしてくれるだろう、と視線を送ったが、夫の答えは信じられないものだった。


「もちろんだよ!一緒に行こう」


……嘘でしょう?!


新婚旅行に、幼馴染とはいえ他人を同行させるの?アイリスは目眩を起こしそうだった。


「えっ?ろ、ロイ……?」


「君だって、歳の近い女の子がいた方が楽しいだろ?」


「えっと、でも…」


だって、新婚旅行なのに。ふたりの初めてがたくさん詰まった、生涯の思い出となるはずの……。


言葉に詰まるアイリスを見て、突然フローラが泣き出した。


「いいの、ロイ!あたしがいけなかったの…でも、でもっ」


泣きじゃくるフローラの背をさすりながら、ロイは悲しげに訴える。


「フローラは身体が弱いんだ。だから今まで旅行なんてできなくて、でも、アイリスと僕がいれば大丈夫だろうって」


「無理を言っちゃダメよ、ロイ!あたしが我慢すれば…」


「そんな辛そうな顔しないで、フローラ。アイリスはきっとわかってくれるから。ね、そうだろう?」


「ほんと?!ほんとに?!いいの、アイリス様?」


もうアイリスには、歓迎するわ、と答えることしかできなかった。



馬車の中でフローラは大はしゃぎし、ロイはそんな幼馴染に大満足。作り笑いをしながら、アイリスはいたたまれなかった。


(本当なら、今ごろロイとふたりでロマンチックな旅を楽しんでいるはずだったのに…)


そんなふうに思ってしまう自分がいやだった。この子は身体が弱いのよ、健康な私は譲らなくっちゃ。


目的地に着くまでのことだもの、と耐えたアイリスだったが、その我慢は報われることはなかった。なんと、滞在先ではフローラも同室だったのだ。



「フローラの体調が悪くなった時、誰かそばにいないと心配だろう?」


当たり前のように答えるロイ。


「で、でも、だからって…」


「フローラに何かあってもいいって言うのか?君はそんなに冷たい女なのか?」


結局アイリスは、受け入れるしかなかった。

そして全ての日程を終え、帰路に着くまで、フローラは彼女たち夫婦から離れることはなかったのだった。


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