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番外編07.救いようのない者たち5(最終話)


「なんで……こんな、酷いことするのよぉ。あんたがあの老いぼれに会わせなかったら、こんなことにならなかったのにぃ」


始めから、適当な老人を探して騙すつもりでいたくせに、いつの間にか全てアイリスのせいにしている。他人ばかりを責め、自分は何一つ責任を持とうとしない、フローラはそういう人間だった。


老人たちとの関わりの中で、少しでも、人を思いやる気持ちを、自らを省みる心を持ってくれたら……。


アイリスのそんな密かな願いは、露ほども届いていなかった。知ったところで、偉そうに説教するなと逆上するだけだろうが。



「貴女には、修道院に入っていただきます」


泣き喚くフローラとは対照的な、静かな声。


「……え?」


「修道女として生涯、あなたが騙した人々のために祈ってください。それが、貴女の受けるべき罰です」


「そんな、いや、いやよぉ!!」


神に全てを捧げる一生など、フローラにとっては生きながら死んでいるようなものだ。


「このあたしに、お堅い尼さんたちに囲まれて、祈りを捧げるだけのつまらない暮らしをしろっていうのぉ?!そんなのぜったいイヤ!」


無様に、アイリスの足元にすがりつく。


「ねぇ、あたし、監獄に入ってもいいから。労役でも奉仕でもなんでもするから、修道院だけはやめてぇ……」


アイリスは何も答えない。もう、言うべきことはない。フローラとは生涯分かり合えないだろう。


「……連れて行きなさい」


「いや、いや、いやあぁぁぁぁ!!」


フローラは、アイリスの護衛たちに両脇を抱えられ、連行されていった。捨て台詞もアイリスを呪う言葉も吐く気力は残っておらず、ただ駄々をこねる子供のように泣きじゃくりながら。



騎士の一人から、あの男にもお会いになりますか、と尋ねられたが、アイリスは首を横に振った。ロイにはもう、1度引導を渡してある。今さら話すことなど何もない。


後で聞いたことだが、ロイは再びフローラに裏切られたショックで、呆けたようになってしまったという。もはや意思の疎通もままならず、人里離れた病院で療養という名の軟禁生活を送ることになったのだった。




ーーーーーー


誰一人いなくなった離れの長椅子で、アイリスは長いこと、ぼんやりと座り込んでいた。


“私は王太子妃だから”。


自分らしくもないその言葉を、何度も思い返す。


あの言葉は、覚悟の現れだった。フローラの恨みも、いつか巻き起こるかもしれない批判も、すべて自分自身が引き受ける、という。


それでも、自分のしたことが正しかったのか、今でもわからない。権力を使って、二人の人生をめちゃくちゃにしただけではないのか?



「ルシフェル……」


無性に、ルシフェルに会いたい。


フローラにはひとりで対峙したい、というアイリスの意思を汲んで、ここには同行していない。そのことには感謝しているが、そんな事情など全て取り払って、彼のぬくもりを感じたいと思った。



「呼んだかい?」


「………えっ?」


入り口の扉が開いて、入ってきたのは間違いなくルシフェルだった。


「あなた?いらっしゃったの?」


「ああ。君が呼んでる気がしてね」


この人は本当に、どうしてこう、いつだって欲しい物をくれるのだろう。


「……ええ。よびましたわ。あなたに会いたくて」


「え?どうしたんだ?急に……」


今度はルシフェルが驚く番だった。アイリスは照れ屋で、ふだんどんなにルシフェルが愛を囁いても、直球で返してくれることなどないのだ。


「あなたは本当にすごいお方だと、あらためて実感しておりましたの」


「………」


アイリスの震える声で、ルシフェルは全てを察した。


「そうだね…。王族として僕は、何度も決断を迫られてきた。多くの者の人生を変えてしまうような、大きな決断をね。そしてそれは、君も同じだ」


「ええ……」


自ら王族になることを選んだ以上、逃げるつもりはかけらもない。ただ、恐れを感じていることも事実だった。私は本当に、多くの民のために正しい道を歩めるのだろうか…と。


「だけどね」


言葉を切り、ふっ、と緩んだ笑みを浮かべる。


「何であろうと、僕は君のすることが好きだよ」


「ええ……ええ、あなた」


この人と出会えたことは、本当に人生最大の幸福だと、あらためて思った。


これから先も、己の持つ影響力の大きさに恐れ慄くこともあるだろう。けれどどんなときも、自分の思う最善の決断をして行こう。


そう心に決めたアイリスだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ここまで読んでくださってありがとうございます。思ったより長くなってしまったのですが、フローラ逃亡編はここまで、そして本作も完結です。

またいつか、新作を投稿できたら、読んでいただけると嬉しいです。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。


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