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13.地に堕ちた家名 ※ロイ視点

(くそっ、何でこの俺が、こんな旧時代の遺物どもにヘコヘコしないといけないんだよ)


パーティ会場の一角で、ロイは今宵も顔を引きつらせながら愛想を振りまいていた。だが、懸命に客たちの間を泳ぎ回っても、冷ややかな視線を向けられるばかり。


すぐにでも脱け出したいが、仕入れの読みが外れるわ、アイリスびいきの大口客に逃げられるわで、赤字続きなのだ。客の機嫌は取っておかなければいけない。


(アイリスめ!俺をほったらかして何やってるんだよ。あいつが帰ってこないからフローラもしつこいし、俺にこんな苦労させやがって!)


未だに現実を見られない男だった。




「まあ、それではもうすぐ、ドマーニ産のワインが手に入りますのね?」


「そうです、マダム。来月にはお届けできると思いますよ」


ようやく相手を見つけて会話していると、何やら会場の一角が騒がしい。せっかくいい調子なんだから邪魔するなよ……と思った瞬間、とんでもないものが目に飛び込んで来た。


「……っ?!」


胸元が大胆に開き、ゆったりとしていながら脚線美を強調したドレスに、金髪を派手に結い上げた女……紛れもなくフローラだった。


(なっ、なんでこんなところにいるんだよ?!それにあの服装、場違いにもほどがあるだろっ?!)


ロイは、得意客との会話もそこそこに、そそくさとその場を立ち去ろうと背を向けたのだが。


「ロイーっ!!」


(ひっ、やめろよ!!)


目ざとくロイを見つけ、大声を出しながら駆け寄ってくるフローラ。招待客たちは突然現れた派手な女に視線を向け、一様に眉を顰める。


“なんですの、あの方。大声を出して走り出すなんて、淑女のすることではありませんわ”


“あの品のないドレス、娼館と勘違いしてるのか?“


来賓たちのヒソヒソ声が耳に入って、身体中から冷や汗が吹き出るロイ。


「んもう、ロイったらぁ。ぜーんぜん連れてきてくれないから、来ちゃったぁ」


(はっ、話しかけるなよ!逃げようとしてんのがわかんないのか?)


「おや、アバンドール君、知り合いかね?」


「えっ、いや、あの、その…はは」


笑ってごまかすロイだったが、フローラは甘くなかった。


「初めましてぇ。あたし、ロイの妻のフローラですぅ」


「っ、おいっ」


止めようとしたが遅かった。招待客たちからどよめきが起きる。



「アバンドール君の奥方はレディ・アイリスではないのかね?」


「あら、ロイとアイリス様は離婚したんですわよぉ」


招待客たちのどよめきが一気に大きくなった。


「何ですと?」


「ちっ、ちがうんです!妻は田舎で療養してるだけですから!!」


居ても立っても居られなくなり、ロイはフローラの手を引っ張ると、無理やり外に連れ出した。


「ちょっと、ロイ、痛いってば!」


「うるさいっ!もう話すなっ!!」 


「えっ、何で?あたしの話、みんな興味津々だったじゃ……」


「頭おかしいのか!?俺の商売を無茶苦茶にする気か?!」


ロイはそう言うと、暴れるフローラを馬車に押し込み、屋敷へと送り返す。


その頃、パーティ会場では、ロイとその愛人の話で持ちきりだった。


そして次の日には、『ロイ・アバンドールは愚かで品のない女に手を出し、完璧な妻に捨てられた』という噂が社交界中に広まったのだった。


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